「みんなにはキャッチボールをしてもらいます。」
あの後、雪達はイチゴと牛乳で目覚めた狛子によって定春の足止めに成功した。
狛子の覚醒した姿は定春と同じなのだが、小さな体が大きくなるわけでもなく…小さな体のまま角やら顔がごついやらとあまり変わらず、正直に言って頼りない。
しかし狛子は守りを司っている事もあり、小さいながらも定春と対峙し先への侵入を防ぐように結界を張った。
そのおかげで雪達は逃げれたのだ。
だが、その守りもずっと続くわけではない。
狛子が引き留めていてくれる間に次の手を打たなければ、定春からの標的が自分達に向けられなくなったとしてもその代り街へと向けられる。
そうなれば、その被害額は飼い主である雪達の負担となるのだ。
お互いに金欠というのもありそれだけは避けたい気持ちは一緒である。
そして、巫女である阿音が出た次の対処法に阿音と百音以外の全員が首を傾げた。
「そう。ここに私が験力をこめた球があるわ…これを投げあって五芒星を描ければこの球場に巨大な呪法陣を敷けるのよ…五芒星は陰陽五行の相生相克をあらわす宇宙万物の除災清浄となるいわば強力な魔除け。」
阿音が取り出したのは一つの野球のボールだった。
そのボールには五芒星と呼ばれる星型の図が描かれており、そのボールを使い定春の封印を行おうという物だった。
長々と話しているが、要約すればこのボールを今ここにいる5人で五芒星を描くようにキャッチボールをするというものだった。
更には成功するにはただ描くだけではなく、その中に定春がいなければならないという。
正直に言って、素人には全く理解できない。
五芒星やら陰陽五行やら相生相克やら除災清浄やら聞き慣れない言葉ばかりで、聞いたことあると言えば宇宙万物、魔除けのみ。
銀時はやることは理解し、雪も頭を悩ませながらもなんとなくすることを理解はしたが…案の定、某大食い娘がついていけず眠りの森へと誘われていた。
それも含め、今の暴走した定春を囲いながらキャッチボールするという無茶振りに雪が『無茶ですよ!』と訴えた。
しかしその訴えを先ほどまで寝ていた神楽が『無茶でもやるネ!』と起き上がった。
「定春助けるには無茶でもやるしかないヨ!」
「神楽ちゃん…」
「―――で、キャッチボールって何?」
「……やっぱり無茶だよ…」
神楽の言葉に雪はハッとさせ神楽へ振り返る。
確かに今のままの定春を放置すれば被害はどんどん大きくなるだろう。
それよりも、ペットとしてもう定春は坂田家の一員なのだ。
なんだかんだ言って家族として受け入れている銀時も雪も、やっぱり無茶だから放っておくことはできなかった。
そう思い神楽へ振り返ったのだが……神楽は地球のモノに疎かった。
雪は無茶なものは無茶だと心の底から諦めかけた。
―――その時、狛子の結界を破った定春がグラウンドに現れた。
「四の五の言ってる暇はないわ!みんな!位置について!」
言い争い相談し合っている場合ではなくなり、阿音の声によって5人は散り散りになり位置に着いた。
タイミングよく、こちらに走ってきた定春が滑るように5人の中心に止まった。
それを見た阿音が結界を張る儀式を開始する。
「よっしゃア!!プレイボーイ!!」
阿音は意味の分からない事を叫びながら腕を回しボールを雪へと飛ばす。
しかし勢いが良すぎたのか、ボールは雪のところとはずれた場所へと飛んで行く。
「オイイイイ!!!どこ投げてんだアアア!!!」
「球を落としたら込めた験力がパーよ!!絶対に落としちゃダメ!!」
「それを先に言えエエエエ!!!オラアアアア!!!―――ッ、取った!ってギャアアア!!!」
勢いが良すぎて別方向へ向かうボールを雪は慌てて追いかけた。
ボールを追いかける雪に向かって先に言わなければならない忠告を阿音は今更雪に伝えた。
自分が取りこぼしたら失敗するという衝撃発言に雪の足は早まり必死にボールを追いかける。
結果としては、ボールは取れた。
女の子らしからぬ声を出しながらボールを取った。
が、雪はベンチに突っ込んでしまう。
それでもボールを放さない雪は、飼った当時世話をするといいながらも世話をしない神楽に変わり渋々世話をしていても定春を愛しているという事だろう。
「雪−!!おめえはやれば出来る子だと思ってたぞー!!」
ベンチに突っ込みながらもボールを放さない雪に銀時は褒め称えた。
『やっぱおめえは万事屋の母ちゃんだー!』とも続け、雪からは『最後が余計ですーー!!』と返しながらこちらに向かって来る定春に慌てて次ぎの繋ぎである百音へとボールを投げた。
雪はそれで定春もボールを追いかけてくれると思っていた。
しかし…
「イィィヤアアアア!!なんで私を追いかけるの定春ーー!!あっち!ボールはあっちでしょーがーーっ!!!」
「てめ…ッ!定春!!めーっ!!それ銀さんのだから!!雪ちゃん銀さんの可愛いお嫁さんだから!!それおめえのじゃねえからアアア!!」
「お前のでもねえよ!!」
何故か定春はそのままボールを追いかけるでもなくベンチでぐったりとしている雪にまっすぐ向かって来ていた。
雪はそれに気づき顔を真っ青にし、慌てて突っ込まれる前にベンチから離れた。
やはりそれでも定春は雪を追いかけ、銀時は銀時で切羽詰まっていたらしく見当違いの事を叫んでいた。
雪の突っ込みと共にボールを取ろうとした百音がボールを顔面で受け止めてしまった。
「何やってんだてめエエエ!!」
定春を叱っていた銀時だったが、顔面で受け止めた百音に気づき慌てて百音のもとへと駆け寄る。
百音は顔面に思いっきり受け止めたせいか仰向けに倒れ鼻血を出していた。
当然痛みでボールを取る暇もなく、百音が取るはずのボールは宙に浮き、重力に従って落ちていく。
銀時が手を伸ばし受け止めてくれたおかげでボールに込められた力は失うことなく継続している。
「神楽ー!行くぞー!!」
「おうヨ!!」
グローブに納まっているボールを銀時は神楽へ向かって投げた。
ボールは綺麗にまっすぐ神楽の方へ向かっていき、神楽も来るであろう銀時からのボールに備え構えた。
しかし…丁度真ん中あたりに達した時、定春に追われていた雪が現れボールは神楽の手ではなく、雪の横顔で受け止めてしまった。
百音再来である。
「雪−−!?なんでお前そんなところにいんだアアア!!?」
「駄目だ!!カバー間に合わねーーッ!!」
「ホァァアチャアアア!!!」
銀時はまさかの雪の登場に思わず頭を抱えた。
しかし銀時の叫びなど今の雪には届かず、雪は鼻血を出しているにもかかわらず追ってくる定春から逃げるのに必死だった。
途中で邪魔され再び宙に浮き落下していくボールに銀時も阿音も駆けつけようとした。
しかし前回は何とか銀時が間に合ったが、今はどう見ても間に合わない。
ここで終わりかと思われたその時、阿音の横を赤い何かが走った。
それは神楽だった。
坂田家の中で一番神楽が定春を助けたい気持ちが強く、その気持ちが力に変わったのだろう…定春のため、落ちていくボールを神楽は蹴って次ぎのポイントへと飛ばした。
「蹴ったアアア!!?――でもようやく五人目!!…って…あれ?五人目ってあんたじゃなかったっけ?」
「そうだっけ?」
方法はともかく、ボールさえ落ちなければ力も落ちない。
阿音はこれでようやく定春の暴走を抑えることができると思った。
…が、隣に銀時がいることに不意に気づく。
銀時もドタバタで忘れていたのか首を傾げていたが、ハッとさせ思い出した阿音は顔を引き攣らせ銀時の位置を見る。
やっぱりそこはがら空きだった。
「げっ!うそ!―――誰もいねエエエ!!!」
今から行こうにもボールの勢いがよく今は知っても間に合わない。
また一からやり直しだと阿音が頭を抱えたその時―――、
「百音!?」
銀時がいるはずの場所に百音が立った。
ボールを顔面で受けた時に口に嵌っていた笛も取れたらしい百音に阿音は目を丸くさせた。
「無理よ!どん臭いあんたがそんな豪速球…!逃げて!!」
鼻血を止めるためティッシュを詰めている百音の姿に阿音は逃げるように言った。
昔から妹は何をやらしてもどん臭かったから、豪速球なんて受け止めれるはずがないのだ。
だから逃げろと言った。
しかし百音は姉の言葉に首を振った。
「姉上…もうやめましょう…途中で放り出すのは……あの子をあんな化け物にしてしまったのは私達です…どんな事情があったにせよ、一つの命を捨てるような事をしてしまったのだから…でも彼らはあの子がどんな姿になろうと決して手放そうとはしなかった…ただ一人の家族としてあの子を必死に護ろうとしていた…――今からでは遅いかもしれませんが私もあの子の家族になりたい!だからもう逃げない!全てこの手で受け止めます!!あの子もこの手で受け止めぶふォ!!」
「結局顔面かァァい!!」
百音はテレビに映っていた銀時達を見てずっと思っていたのだ。
自分達はお金に困ったからと定春を捨てたが、彼らはお金どころか定春が化け物になっても見捨てることはしなかった。
ずっと、ずっと、それを見て、百音はもう逃げたくないと思った。
ずっと、百音は定春を捨てたことに対して罪悪感を持っていたのだ。
もうやり直すには遅すぎるかもしれない…定春が自分たちを拒絶するかもしれない。
でも、彼らを見て自分達の行いを見て、もう逃げたくはないと思った。
だから百音はキッと睨むようにボールを見つめ受け止めようとした。
―――が、お約束なのか百音はやっぱり顔面で受け止めた。
シリアスが台無しになりながらも顔面で受け止めた百音のボールは三度目の宙に浮き落ちていく。
「―――ッキャアアア!!」
「!――雪っ!!」
それと同時に雪の体力も尽きたのか襲い掛かってくる定春に声を上げた。
上げられた定春の大きな手に雪は頭を守るよう抱え体を縮ませる。
それを見た神楽が慌ててボールへと走るが、やはり間に合いそうにはない。
だが…
「よくやったよ、お前――」
「…!」
「後は俺に任せな」
二度も豪速球を顔面に受けた百音は痛みで倒れた。
その視界に黒いブーツが見え、百音は顔を上げる。
そこにいたのは…銀時だった。
銀時は唖然としている間にも移動していたようで、木刀を抜いて落ちてくるボールに構える。
「定春ーー!!目を覚ませエエエエ!!!」
丁度落ちてきたボールに向かって銀時は木刀を振った。
カキンといい音をさせながら木刀はボールに当たり、ボールは押されるように勢いよくまっすぐ向かっていく。
銀時が百音の隣へと立ち、銀時が何をしようとしているのか察した阿音と神楽は来るであろうボールに構え、真っ直ぐ向かってくるボールを受け止めた。
何度か危機を迎えたが、ボールは無事に五芒星を描き、そして―――
定春は元の姿へと戻る事が出来た。
ようやく、坂田家の平和が戻った瞬間だった。
あの後、雪達はイチゴと牛乳で目覚めた狛子によって定春の足止めに成功した。
狛子の覚醒した姿は定春と同じなのだが、小さな体が大きくなるわけでもなく…小さな体のまま角やら顔がごついやらとあまり変わらず、正直に言って頼りない。
しかし狛子は守りを司っている事もあり、小さいながらも定春と対峙し先への侵入を防ぐように結界を張った。
そのおかげで雪達は逃げれたのだ。
だが、その守りもずっと続くわけではない。
狛子が引き留めていてくれる間に次の手を打たなければ、定春からの標的が自分達に向けられなくなったとしてもその代り街へと向けられる。
そうなれば、その被害額は飼い主である雪達の負担となるのだ。
お互いに金欠というのもありそれだけは避けたい気持ちは一緒である。
そして、巫女である阿音が出た次の対処法に阿音と百音以外の全員が首を傾げた。
「そう。ここに私が験力をこめた球があるわ…これを投げあって五芒星を描ければこの球場に巨大な呪法陣を敷けるのよ…五芒星は陰陽五行の相生相克をあらわす宇宙万物の除災清浄となるいわば強力な魔除け。」
阿音が取り出したのは一つの野球のボールだった。
そのボールには五芒星と呼ばれる星型の図が描かれており、そのボールを使い定春の封印を行おうという物だった。
長々と話しているが、要約すればこのボールを今ここにいる5人で五芒星を描くようにキャッチボールをするというものだった。
更には成功するにはただ描くだけではなく、その中に定春がいなければならないという。
正直に言って、素人には全く理解できない。
五芒星やら陰陽五行やら相生相克やら除災清浄やら聞き慣れない言葉ばかりで、聞いたことあると言えば宇宙万物、魔除けのみ。
銀時はやることは理解し、雪も頭を悩ませながらもなんとなくすることを理解はしたが…案の定、某大食い娘がついていけず眠りの森へと誘われていた。
それも含め、今の暴走した定春を囲いながらキャッチボールするという無茶振りに雪が『無茶ですよ!』と訴えた。
しかしその訴えを先ほどまで寝ていた神楽が『無茶でもやるネ!』と起き上がった。
「定春助けるには無茶でもやるしかないヨ!」
「神楽ちゃん…」
「―――で、キャッチボールって何?」
「……やっぱり無茶だよ…」
神楽の言葉に雪はハッとさせ神楽へ振り返る。
確かに今のままの定春を放置すれば被害はどんどん大きくなるだろう。
それよりも、ペットとしてもう定春は坂田家の一員なのだ。
なんだかんだ言って家族として受け入れている銀時も雪も、やっぱり無茶だから放っておくことはできなかった。
そう思い神楽へ振り返ったのだが……神楽は地球のモノに疎かった。
雪は無茶なものは無茶だと心の底から諦めかけた。
―――その時、狛子の結界を破った定春がグラウンドに現れた。
「四の五の言ってる暇はないわ!みんな!位置について!」
言い争い相談し合っている場合ではなくなり、阿音の声によって5人は散り散りになり位置に着いた。
タイミングよく、こちらに走ってきた定春が滑るように5人の中心に止まった。
それを見た阿音が結界を張る儀式を開始する。
「よっしゃア!!プレイボーイ!!」
阿音は意味の分からない事を叫びながら腕を回しボールを雪へと飛ばす。
しかし勢いが良すぎたのか、ボールは雪のところとはずれた場所へと飛んで行く。
「オイイイイ!!!どこ投げてんだアアア!!!」
「球を落としたら込めた験力がパーよ!!絶対に落としちゃダメ!!」
「それを先に言えエエエエ!!!オラアアアア!!!―――ッ、取った!ってギャアアア!!!」
勢いが良すぎて別方向へ向かうボールを雪は慌てて追いかけた。
ボールを追いかける雪に向かって先に言わなければならない忠告を阿音は今更雪に伝えた。
自分が取りこぼしたら失敗するという衝撃発言に雪の足は早まり必死にボールを追いかける。
結果としては、ボールは取れた。
女の子らしからぬ声を出しながらボールを取った。
が、雪はベンチに突っ込んでしまう。
それでもボールを放さない雪は、飼った当時世話をするといいながらも世話をしない神楽に変わり渋々世話をしていても定春を愛しているという事だろう。
「雪−!!おめえはやれば出来る子だと思ってたぞー!!」
ベンチに突っ込みながらもボールを放さない雪に銀時は褒め称えた。
『やっぱおめえは万事屋の母ちゃんだー!』とも続け、雪からは『最後が余計ですーー!!』と返しながらこちらに向かって来る定春に慌てて次ぎの繋ぎである百音へとボールを投げた。
雪はそれで定春もボールを追いかけてくれると思っていた。
しかし…
「イィィヤアアアア!!なんで私を追いかけるの定春ーー!!あっち!ボールはあっちでしょーがーーっ!!!」
「てめ…ッ!定春!!めーっ!!それ銀さんのだから!!雪ちゃん銀さんの可愛いお嫁さんだから!!それおめえのじゃねえからアアア!!」
「お前のでもねえよ!!」
何故か定春はそのままボールを追いかけるでもなくベンチでぐったりとしている雪にまっすぐ向かって来ていた。
雪はそれに気づき顔を真っ青にし、慌てて突っ込まれる前にベンチから離れた。
やはりそれでも定春は雪を追いかけ、銀時は銀時で切羽詰まっていたらしく見当違いの事を叫んでいた。
雪の突っ込みと共にボールを取ろうとした百音がボールを顔面で受け止めてしまった。
「何やってんだてめエエエ!!」
定春を叱っていた銀時だったが、顔面で受け止めた百音に気づき慌てて百音のもとへと駆け寄る。
百音は顔面に思いっきり受け止めたせいか仰向けに倒れ鼻血を出していた。
当然痛みでボールを取る暇もなく、百音が取るはずのボールは宙に浮き、重力に従って落ちていく。
銀時が手を伸ばし受け止めてくれたおかげでボールに込められた力は失うことなく継続している。
「神楽ー!行くぞー!!」
「おうヨ!!」
グローブに納まっているボールを銀時は神楽へ向かって投げた。
ボールは綺麗にまっすぐ神楽の方へ向かっていき、神楽も来るであろう銀時からのボールに備え構えた。
しかし…丁度真ん中あたりに達した時、定春に追われていた雪が現れボールは神楽の手ではなく、雪の横顔で受け止めてしまった。
百音再来である。
「雪−−!?なんでお前そんなところにいんだアアア!!?」
「駄目だ!!カバー間に合わねーーッ!!」
「ホァァアチャアアア!!!」
銀時はまさかの雪の登場に思わず頭を抱えた。
しかし銀時の叫びなど今の雪には届かず、雪は鼻血を出しているにもかかわらず追ってくる定春から逃げるのに必死だった。
途中で邪魔され再び宙に浮き落下していくボールに銀時も阿音も駆けつけようとした。
しかし前回は何とか銀時が間に合ったが、今はどう見ても間に合わない。
ここで終わりかと思われたその時、阿音の横を赤い何かが走った。
それは神楽だった。
坂田家の中で一番神楽が定春を助けたい気持ちが強く、その気持ちが力に変わったのだろう…定春のため、落ちていくボールを神楽は蹴って次ぎのポイントへと飛ばした。
「蹴ったアアア!!?――でもようやく五人目!!…って…あれ?五人目ってあんたじゃなかったっけ?」
「そうだっけ?」
方法はともかく、ボールさえ落ちなければ力も落ちない。
阿音はこれでようやく定春の暴走を抑えることができると思った。
…が、隣に銀時がいることに不意に気づく。
銀時もドタバタで忘れていたのか首を傾げていたが、ハッとさせ思い出した阿音は顔を引き攣らせ銀時の位置を見る。
やっぱりそこはがら空きだった。
「げっ!うそ!―――誰もいねエエエ!!!」
今から行こうにもボールの勢いがよく今は知っても間に合わない。
また一からやり直しだと阿音が頭を抱えたその時―――、
「百音!?」
銀時がいるはずの場所に百音が立った。
ボールを顔面で受けた時に口に嵌っていた笛も取れたらしい百音に阿音は目を丸くさせた。
「無理よ!どん臭いあんたがそんな豪速球…!逃げて!!」
鼻血を止めるためティッシュを詰めている百音の姿に阿音は逃げるように言った。
昔から妹は何をやらしてもどん臭かったから、豪速球なんて受け止めれるはずがないのだ。
だから逃げろと言った。
しかし百音は姉の言葉に首を振った。
「姉上…もうやめましょう…途中で放り出すのは……あの子をあんな化け物にしてしまったのは私達です…どんな事情があったにせよ、一つの命を捨てるような事をしてしまったのだから…でも彼らはあの子がどんな姿になろうと決して手放そうとはしなかった…ただ一人の家族としてあの子を必死に護ろうとしていた…――今からでは遅いかもしれませんが私もあの子の家族になりたい!だからもう逃げない!全てこの手で受け止めます!!あの子もこの手で受け止めぶふォ!!」
「結局顔面かァァい!!」
百音はテレビに映っていた銀時達を見てずっと思っていたのだ。
自分達はお金に困ったからと定春を捨てたが、彼らはお金どころか定春が化け物になっても見捨てることはしなかった。
ずっと、ずっと、それを見て、百音はもう逃げたくないと思った。
ずっと、百音は定春を捨てたことに対して罪悪感を持っていたのだ。
もうやり直すには遅すぎるかもしれない…定春が自分たちを拒絶するかもしれない。
でも、彼らを見て自分達の行いを見て、もう逃げたくはないと思った。
だから百音はキッと睨むようにボールを見つめ受け止めようとした。
―――が、お約束なのか百音はやっぱり顔面で受け止めた。
シリアスが台無しになりながらも顔面で受け止めた百音のボールは三度目の宙に浮き落ちていく。
「―――ッキャアアア!!」
「!――雪っ!!」
それと同時に雪の体力も尽きたのか襲い掛かってくる定春に声を上げた。
上げられた定春の大きな手に雪は頭を守るよう抱え体を縮ませる。
それを見た神楽が慌ててボールへと走るが、やはり間に合いそうにはない。
だが…
「よくやったよ、お前――」
「…!」
「後は俺に任せな」
二度も豪速球を顔面に受けた百音は痛みで倒れた。
その視界に黒いブーツが見え、百音は顔を上げる。
そこにいたのは…銀時だった。
銀時は唖然としている間にも移動していたようで、木刀を抜いて落ちてくるボールに構える。
「定春ーー!!目を覚ませエエエエ!!!」
丁度落ちてきたボールに向かって銀時は木刀を振った。
カキンといい音をさせながら木刀はボールに当たり、ボールは押されるように勢いよくまっすぐ向かっていく。
銀時が百音の隣へと立ち、銀時が何をしようとしているのか察した阿音と神楽は来るであろうボールに構え、真っ直ぐ向かってくるボールを受け止めた。
何度か危機を迎えたが、ボールは無事に五芒星を描き、そして―――
定春は元の姿へと戻る事が出来た。
ようやく、坂田家の平和が戻った瞬間だった。
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