(1 / 5) コスプレするなら心まで飾れ (1)
今日、万事屋には珍しくも仕事が来た。
しかも大きな仕事が。
雪は押入れに寝ている神楽と二日酔いの銀時の尻を叩いて起こし、朝食の準備をして2人が食べ終わるまで洗濯などして待って依頼人の元へと向かった。


「雪ちゃ〜ん…銀さんもうダメっぽい…おうちに帰っていい?」

「だめに決まってるでしょ!?もう家に余分なお金なんてないんですからね!!ちゃっちゃと働いてください!!」


二日酔いの銀時が途中逃げ出さないのと倒れないようにと雪が銀時の腕を掴んで連れており、雪の言葉に『えー』と愚痴る銀時の尻を雪はもう一度思いっきり叩いた。


「い゙っ!ちょ、ちょっと!雪ちゃん!今のセクハラじゃない!?銀さんほんと今気持ち悪いんだよ!頭痛いんだよ!!誘うのはまた今度で…」

「違うわ!!誘っとらんわ!!しゃきっとしろっていう意味だボケ!!」

「…なんか…最近雪ちゃん…お姉さんに似てきたね…」

「そりゃあ、姉妹ですから!」


姉があんなんだから雪が控えめの性格になるのはわかる。
しかしなんだかんだ言ってキレ方が妙に似ており、銀時は青い顔を更に青くさせた。
『まだ籍も入れてないのに尻に敷かれてるよ銀さん…』、零した銀時に雪はにっこり笑い『まだもなにも付き合ってもいませんよね?』と返す。
にっこりと笑う雪はとても可愛いが、背後に姉という名の鬼の影がチラチラと見え銀時は別の意味で直視できなかった。
立ち止まった銀時に雪はため息をつき『時間に遅れますから行きますよ』と足取りの重い社長の腕を掴んで無理やり歩かせる。


「…………」


『雪ちゃんに万事屋を任せたから俺はそろそろ引退するわー』やら『うっさい!きりきり働け!』やらどこからどう見ても夫婦にしか見えない言い合いを神楽は立ち止まって見ていた。
一瞬両親を見ているかのようで…少し……少し、人恋しくなった。


「神楽ちゃん?どうしたの?」

「え…あ…ううん、なんでもない、アル…」


神楽はジッと雪に腕を掴まれている銀時の腕と、銀時の腕を掴んでいる雪の手を見つめていた。
銀時は二日酔いが相当ひどいのか珍しく神楽の視線に気づいていなかったが、雪はついてこない神楽に気づき振り返る。
雪に声を掛けられびっくりした表情を浮かべながらも慌てて首を振って何でもない様子を装い雪達に追いつく。
雪は傘を差しながら笑う神楽がどこか寂しげに見え首を傾げた。
しかし、ふと神楽が自分の手と銀時の腕を見ていたことを思い出し、『ああ、なるほど』と何かを納得する。


「神楽ちゃん」

「何アルか」


雪が声を掛ければどこか落ち込んでいるような低い声が返ってきた。
雪はその声色に苦笑いを浮かべる。


「神楽ちゃん」

「だから何アルか!」


もう一度名前を呼べば苛立った神楽が振り返る。
神楽が振り返れば雪が笑みを浮かべながら手を差し出していた。


「…………」

「神楽ちゃん」


神楽は雪に手を差し出され目を見張ったまま固まった。
雪が何が言いたいのか、分からなかった。
でも…また雪に名前を呼ばれ神楽は雪の手から雪へと視線を上げる。
雪と目と目が合えば雪はにっこりと笑ってくれた。
次に銀時を見れば銀時も雪が何が言いたいのか分かったのか二日酔いの顔でニヤリと無理に笑う。
その笑みはとてつもなく不気味だが、神楽は『し、仕方ないネ』とぶつぶつ言いながら雪の差し出された手を握った。
照れくさくて雪から顔を背けていた神楽だったが、神楽が手を握った瞬間雪の笑みが深まった気配を感じ、背けていた顔を俯かせた。
神楽の胸がぽっと暖かくなった。





依頼主の家はとてつもなく立派な家だった。
広い部屋がいくつもあり、お手伝いさんもおり、さらには鹿威し付きの広い庭。
まさに豪邸だった。
雪は内心ガッツポーズを浮かべた。
案内された部屋にはテーブルひとつ座布団4つ。
内三つは万事屋。
最後の一つは依頼主だろう。
少し待っている間、神楽はすでに飽きたのか庭の鹿威しに興味を示しており、銀時は二日酔いがまた襲っているようでどうもシャキッとしない。
それを雪が注意しようとしたその時、依頼主が現れ、銀時や神楽をチラリと見た後何も言わず話が通じるであろう雪を見抜き依頼内容を話した。
咎められ怒られ仕事がパーにならなくなったことにはほっと胸を撫で下ろすも不躾な態度をとっても嫌な顔一つしない依頼主を見て雪はよほど切羽詰まっているのだろうと思った。


「いや、ニ三日家を空けることはあったんだが、一週間ともなると…連絡も一切ないし友達に聞いても誰も知らんときた…」


依頼主の依頼は家出をした娘を探し出してほしいという事だった。
簡単であってもそう簡単ではないこの依頼に雪は断然やる気を出す。
探し出すのは案外簡単である。
物や猫など見分けがつかない物ならまだしも人間は写真さえあれば大抵探し出せる。
しかしここからが大変なのだ。
誘拐なら誘拐犯をとっちめてストーカー警察もとい真選組やら警察に突き出して誘拐された子を親元に返せばそれで仕事は終わる。
しかし家出娘はそうはいかない。
家出するほど我慢していた子ならば連れ戻すにも説得するにも時間がかかるし、まだ写真は見てないがギャルやらなんやらだったらそもそも日本語が通じないレベルである。
世のギャルさんごめんなさい、だが…家出するというのはそう簡単なことではない。
だから入るお金もそれなりに大きい。
特にこういうお金持ちは。
だから雪は社長でありオーナーでもある銀時にしっかりしてもらわなければならないのだ。
そう思いチラリと銀時を見れば銀時はお茶を飲もうとするも二日酔いのため口に到着する前にお茶がこぼれ、服を濡らしていく。


「ああもう!だからあまり飲むなって言ったのに…ほら、これで拭いてください」

「ういー…」

「どこ拭いてんですか…口はまだ何も飲んでないでしょ……ちょっと貸してください…もう、本当に大丈夫なんですか?」

「おう…」

「心配だなぁ…その返事…」



お茶を全部零した銀時に雪は慌てて持っていたハンカチを銀時に渡した。
2人のやり取りに気づいた神楽は鹿威しを見ていたが振り返り雪と銀時をジッと見つめていた。
ハンカチを渡された銀時は何故か口を拭きはじめ、見てられなくなった雪はハンカチを取り上げて代わりに服を拭いてやる。
そのやり取りが終わったころ、蚊帳の外だった依頼人が一枚の写真を取り出す。


「親の私が言うのもなんだが…綺麗な娘だから何かよからぬことに巻き込まれてるんじゃないかと…」

「そっすねー…何かこう…巨大な…ハムを作る機械とかに巻き込まれている可能性がありますね…」

「いやそういうんじゃなくて!何か事件とかに巻き込まれてるんじゃないかと…!」


渡された写真を見て銀時はぽつりとつぶやいた。
雪は銀時の発言に焦ったが、雪が突っ込む前に親の依頼主が銀時にツッコミを入れた。


「事件?ああ、ハム事件とか?」

「おい大概にしろよ。せっかくきた仕事パーにする気か?」


銀時が何気なく雪に写真を渡し、それを見た雪も思わず『あ、ハムだ』と思ったとか。
そこは銀時だけを責めるつもりはない。
しかし…ハムハムとハムにこだわって無理やりハムにつなげようとしつつ依頼人を怒らせようとする銀時に雪は静かに突っ込んだ。


「でも本当…これ、私達でいいんですかね…警察に相談した方がいいんじゃないですか?私警察と顔見知りというかコネというか弱み握ってるのでそれなりに対応してくれると思いますが…」


顔見知りは土方や沖田など、コネは近藤、弱みはストーカーの近藤と鷹臣である。
コネは使う気はないし、顔見知り程度であの二人が動いてくれるとは思っておらず、弱みならいやいや動いてくれるだろうと踏んでいた。
むしろそうしてくれると面白い。
まだ鷹臣ストーカー事件の時の『胸しかない地味女』と土方に言われたことを根に持っているらしい。
最近は近藤と鷹臣のストーカー通報も土方ではなく沖田に連絡を入れているほどの恨みだった。
しかし雪の気遣いも依頼人はいらない世話だったようで、首を振られてしまった。


「そんな大事にはできん!…我が家は幕府開府以来徳川家に仕えてきた由緒正しき家柄!娘が夜な夜な遊び歩いているなどと知られたら一族の恥だ!なんとか内密のうちに連れ帰ってほしい…!」


よっぽど連れ戻してほしいらしい依頼人の言葉に雪と銀時は思わず顔を見合した。


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