(1 / 3) カワイイを連発する自分自身をカワイイと思ってんだろお前ら (1)
相変わらず万事屋は仕事がない。
家長であり社長である銀時が全く仕事をする気も探す気もないため仕事が来ないのだ。
今日も今日とて雪は通帳と睨めっこし、食費をどう浮かせ、どう家賃収集から逃れどう光熱費を払おうかと考えていた。


「おーい飯できたぞ〜」


今日は銀時が食事当番の日なため、銀時の言葉に雪は持っていた通帳や机に広げられている金額が書かれている紙数枚、そして家計簿を片付ける。
通帳をいつもの場所にしまって戻り席につけば雪は目の前に広がる光景に唖然とした。


「……銀さん…何ですか、これ…」

「あ?何って…昼飯だろうが」

「………」


向かえに座る銀時と神楽は『いただきまーす』と言って食事を開始する。
今まで銀時も神楽もこの作法は全くやらず知らなかった。
そのため、手を合わせるのも含めたこの作法は雪が教え込んだ努力と根性の賜物だろう。
それはいい。
食べ方はどうであれひとまずこの『いただきます』の作法を守っているのだから文句はない。
…が、雪が文句を言いたいのは作法ではなく、目の前の敵である。
雪の問いに当然のように銀時は返すが雪はひくりと口角を引きつらせながら机に広がる光景から銀時へ顔を上げる。


「いや…そうじゃなくて…どう見てもパンとライスですよね、これ…」

「ありのままを見ろ。これのどこがフィッシュ&チップスに見えるよ」

「パンとライスを一緒に食べるほうがおかしいわ!!どんだけ炭水化物好きなんだよ!!」


顔をあげ銀時を見れば、銀時の手には箸が…そしてその箸でつかんでいるのはパンだった。
丁度いい焼き加減のパンを銀時は齧る。
そして箸を持っていない方の手には日本の主食でもあるお米。
雪の目の前にはサラダも味噌汁もなく、ただ炭水化物であるパンと、炭水化物であるごはんが置かれていた。
当然のように炭水化物&炭水化物を昼飯と評する銀時に雪は我慢ならずドンと机を叩く。


「あのなァ〜…炭水化物は人を幸せにしてくれんだぞ?ラーメンライス然り、力うどん然り…先人たちは炭水化物を組み合わせるという暴挙を見事この国の伝統として残したんだよ!」


銀時の意味の分からない言い訳に雪はもはや反論をする気力すらなく、力んでいた力を抜き、ソファに座りなおしてため息をつく。
その頭には真っ白な通帳と、使った分だけ請求される光熱費の請求書でいっぱいだった。


「まあ…最近仕事の依頼少ないですし冷蔵庫も空同然ですから仕方ないですけど…何とかしないとこんな食事が続いちゃいますよ…神楽ちゃん、育ち盛りなのに…こんなんじゃ栄養偏っちゃいます…」

「何とかって言ってもなァ…仕事ねェもんは仕方ねェだろうが…っていうか俺の心配は?雪ちゃん、銀さんも育ち盛りよ?」

「銀さん、そういうのは自分の年齢を考えて言ってください」

「雪ちゃん…なんか冷たい…」


そうぶつぶつ言いながら雪は空腹に負け、炭水化物のパンへ手を伸ばす。
ちゃんと箸ではなく手で持って一口齧る。
基本雪は和食中心の食事をしており、パンはたまに食べるが嫌いではない。
久々のパンの味にまた一口食べる。
それを見送りながら相変わらず娘贔屓の母ちゃんに銀時はぶすっと膨れるが、雪の冷たい返しに涙した。


「あまり言いたくないんですけど…ちょっと本気でやばいですよ…通帳がまた落書き帳になってます」

「マジでか〜」

「マジです…なので今日の夜、西郷さんのところで金稼いでくださいね」

「は…?」

「あ、もう西郷さんには連絡してあるので」

「いや…え?待って、雪ちゃん…ちょっと待ってよ…え…なに…今不吉な言葉が聞こえたんだけど…え?」


あまりパンとごはんを交互に食べたくはないのか、先ほどから雪はパンばかり齧っていた。
銀時目線でもそもそと小さなお口でパンを食べる雪は可愛い。
めっちゃ可愛い。
もうパンとごはんじゃなくてお前を食べてやろうかと寒いことを考えるほど、可愛い。
これは惚れた欲目であり、中々進展のないため積りに積もった欲でもあった。
が、そんな狼心を一撃粉砕する威力を持つ言葉を雪の可愛いと評す口から出て銀時は固まった。
さらに雪はすでに連絡積みだと告げられ顔を真っ青にする銀時に『溜まった家賃代、今月とついでに来月の光熱費、食費…はまあ少しでも稼いでくれればいいので…西郷さんには二か月働かせてくださいと言ってありますので頑張ってくださいね』という死刑宣告を言い放ち…銀時の食欲、そして性欲は一気に萎んでいく。


「待ってよ!雪ちゃん!!そりゃないんじゃない!?銀さん頑張ってるじゃん!!超頑張ってるじゃん!!それなのになんでオカマスナック!?銀さん生まれてこの方女になりたいとか思った事一度もないんだけど!?」

「でも桂さんとかまっ娘倶楽部で働いてたじゃないですか」

「それ不可抗力だから!!あれ化けもん達が勝手に仕立てただけだから!!!っていうかお前あの時いたの!?だったら助けてくれたっていいんじゃない!?」


西郷、とは異名、『鬼神マドマーゼル西郷』と周りで呼ばれ、本名は西郷特盛という……オカマである。
が、ただのオカマと侮るなかれ…彼…いや、彼女?は元攘夷浪士であり、銀時や桂達の先輩でもある。
色々事情がありオカマとなっているのだが、銀時はその西郷が営む店で働いたことがある。
と、言っても臨時というか自業自得というか…
とにかく、それ以来お金が底をついたときに幾度も助けられている(と銀時以外思っている)恩人である。
雪からしたら頭が上がらない人を頼って朝、漂白剤を使った以上に真っ白な通帳を握りしめながら勝手に銀時を派遣した。
それも銀時の許可なく。
それには流石に銀時も反論を述べるが肝心の雪はケロッとしており、にっこりと笑みを浮かべコテンと小さく小首をかしげた。


「銀さん、私と神楽ちゃんのために頑張ってくださいね」

「おっしゃ!!銀さん雪ちゃんと神楽ちゃんのために頑張りまーす!」


にっこりと笑顔を浮かべる雪は今の状況からしてわざとらしく銀時を丸め込もうとしているのがもろ分かりだった。
雪に惚れ込んでいる銀時でもそれくらい冷静に分析してはいたが、やはり惚れこんだ女の子の笑顔は特別で理性では『罠だ!気を付けろ!』と言っているが本能は『可愛い!めっちゃ可愛い!めっさ可愛い!超可愛い!!よっしゃ!銀さん妻と娘のために頑張るぜー!!』と言って聞かなかった。
結果、理性は本能に負けたのである。
コテンと小首をかしげおねだりするような雪に負けた銀時に『きゃー!銀さんかっこいー(棒)』と返し、棒読みなど気づかず頼りにしてます感を出す雪にまんまと丸め込まれ騙されていた。
そのせいで銀時は雪が『よっしゃ!これで当分悩まなくて済む!』と内心ガッツポーズをしているのに気づかず舞い上がっていた。
するとタイミングよく家で唯一の連絡手段である黒電話が鳴り、雪は手に持っていたパンを皿に戻し手についたパン屑を払うように手を払い電話に向かう。


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