(16 / 16) 紅桜篇 (16)
銀時は増えていく天人を斬って倒していく。
いつの間にか甲板に出ていたが、銀時が行きたい場所はそんな場所ではない。
退け、と言って神楽が消えた船内に入りたかったが、それを許すほどどうやら敵も甘くはなかったようだ。


「銀ちゃーん!!」


桂とも合流し、桂一派で鉄子を囲み守りながら刀を構える。
桂の髪がバッサリ切られているのを見て岡田が銀時に見せた桂の髪を思い出す。
『どうしたその頭、失恋でもしたか?』と揶揄してやれば桂からも『黙れイメチェンだ…貴様こそどうしたそのなりは…爆撃でもされたか?』と揶揄を返されたので『黙っとけや、イメチェンだ』とボケれば『どんなイメチェンだ!』と突っ込まれた。
桂の突っ込みを聞きながら銀時は『やっぱ雪の突っ込みが一番しっくりくるなァ〜』と思いながら神楽と雪が早く帰ってくることを願う。
するとその願いが叶ったのか、煙が上がる船内から神楽が出て来た。
神楽の声に銀時が振り返れば神楽と、神楽の腕に抱かれお姫様抱っこされているあられもなく色っぽい雪の姿があった。
それを見て銀時は刀をグッと握り、神楽へ駆け寄る。
雪は刀を手にし睨むようにこちらに駆け付ける銀時に立ち止まり斬られると思った。
しかし銀時が斬ったのは神楽達を襲い掛かろうとしていた天人だった。
神楽は天人に追われているのに気づいてはいたが雪を抱えて逃げているため反撃が出来なかったのだ。
神楽は銀時が天人を斬る事を予測していたのか『ナイスネ!銀ちゃん!』と褒めたたえる。
が、その瞬間ゴン、と神楽の頭に痛みが走った。
どうやら銀時に殴られたようである。


「ナイスネ!じゃ、ねえだろ!!おめェは人の忠告無視して敵陣に乗り込みやがって!!俺がどれだけ心配したか分かってんのか!?この不良娘が!!」

「んだよー!!雪を取り返しに来てやったっていうのにその態度はないヨ!雪〜!銀ちゃんに苛められたアル〜!」

「あっ!てめっ!!きったねェ!!そうやって何でもかんでも雪に泣きついて味方につけんじゃねーよ!!そのせいでいっつも俺だけハブにされてんだぞ!?俺くらいの年頃はな!一人にされると寂しくて死ぬんだぞゴラァ!!」

「なにウサギみたいなこと言ってるアルか!!そんなわけないヨ!!絶対一人だったらパチンコ行き放題飲み放題で大喜びする年頃アル!!それに雪を味方につけてるんじゃありません〜!雪が常に私の味方なんですぅ〜!!銀ちゃんなんてぼっちがお似合いネ!!将来孤独死決定ネ!!」

「んだとこのクソガキャアアア!!」

「おい!銀時!!じゃれ合ってる場合じゃないだろ!!」


いつもの言い合いに雪は苦笑いを浮かべたが、まだ一日二日しか離れていなかったのに久々のやり取りな気がした。
銀時と神楽がじゃれ合いを始めたため、三人を斬ろうとする天人を桂達が守っていた。
桂の言葉に銀時と神楽が『じゃれ合ってねェよ!!』と口を揃えたが、どう見てもじゃれ合いにしか見えない。
桂はチラリと雪を見て、雪に怪我がない事にホッとしたものの雪の乱れた着物から肩か腹にかけて見えるその古い刀傷に目を細めた。
しかしすぐに雪から目を逸らし、銀時も落ち着き鉄子と神楽と神楽に抱き上げられ拘束されている雪を守りながら囲む。


「桂さん!ご指示を!!」


味方も敵もお互い数を減らしていく。
しかしどんなに減らしても敵の船から天人が沸いて出てくるので一方的にやられているようなものである。
残った桂一派も少なく、女子供を囲っていた部下の一人が桂に指示を仰ぐ。
桂の命令一つで部下は死ぬ気に戦うつもりだった。
だが、桂が出した指示は…


「退くぞ」


撤退の指示だった。
その指示に銀時以外が桂を見る。
意外だったのだろう。
この状況で撤退など誰が想像するだろうか。
だが、撤退の指示を出した理由はちゃんとあった。


「紅桜は殲滅した…もうこの船に用はない―――後方に船が来ている…急げ!」


桂の指示に誰も反論はなかった。
桂は一人乗り込みながらも味方の動きを熟知し信頼していた。
桂の言う通り後方に船が一隻現れ傍に寄せる。
桂の指示に従おうとした雪達を見て周りにいた天人達が『させるか!』と叫び襲い掛かって来た。


「全員狩り取れエエエ!!」


そう叫び数人の天人が斬りかかってくる。
その天人を桂と銀時が素早い動きで切り倒していく。


「退路は俺達が守る!行け!!」


桂の言葉に浪士たちは何か言いたげだったが、グッと呑み込みその言葉に従って撤退を始めた。
雪と神楽は銀時の背を心配そうに、そして不安そうに見つめる。
その視線に気づいている銀時は襲い掛かってきた天人を斬り倒した後、2人へ振り返った。


「雪、神楽…お前らも行け」

「銀ちゃん…」

「銀さん…」


こちらを振り返った銀時は笑っていた。
不敵な笑みでも、敵を切り殺して興奮した笑みでも、傷の痛みに耐え無理矢理笑った笑みでもなく……優しい、温かい…いつもの、2人が知っている笑みだった。
その笑みに神楽は言いたい事を呑み込み頷いた。
そんな神楽に笑みを深めていた銀時は雪を見る。
神楽の腕にいる雪の姿はあからさまに高杉と何かありましたよ的な格好を醸し出していたが、それを問い質す場所ではないと銀時も神楽同様言いたい事を呑み込む。
雪が『銀さん』と呟きまだ拘束されていた手を伸ばすと銀時はその手を握ろうとした。
しかし自分の手が血で汚れているのに気づき、握るのを止めて引っ込めようとした。
だが、引っ込めようとしたその手を雪がグッと握ってきたのだ。
銀時は小さな両手で包み込むように血で汚れた自分の手を握る雪に目を丸くして驚く。
目を見張り雪を見れば雪は不安そうに見上げていた。


「ちゃんと帰ってきてくれますよね?」

「当たり前だろ?俺が帰ってくる場所なんざ、お前らの隣以外どこにあるよ?」


雪の言葉に銀時は即答した。
その言葉に雪も神楽もホッと安堵した表情を浮かべる。
納得してくれたのを見て銀時は雪達を急かそうとする。
だが、血だらけの銀時の手を握っていた雪の手がそっと銀時の頬へ伸ばされる。
人を殺したことのない雪の手が頬に触れたことに銀時は不思議に思ったその瞬間、雪が近づいてくるのに気づいた。
そしてそれに気づいた瞬間―――雪は銀時にキスをした。


「――――、」


銀時は雪からのキスに先ほどよりも目を丸くして驚愕した。
今まで雪から何かをしてきたことはなく、ずっと銀時からアタックし続けたのだ。
それでも雪の反応からして何の脈もないといつも落ち込んでいたのだが……それが、いま…雪から、キスをされたではないか。
銀時は今、目の前の雪しか目に写っていなかった。
目を丸くする銀時に雪は『帰ってきたらご褒美あげます…でも…約束、破ったら浮気しますから』と小声を零す。
『え?』、と"浮気"という部分でハッと我に帰った銀時は雪を見る。
雪は呆けている銀時にくすりと笑い『行こう、神楽ちゃん』と言って神楽と共に避難する。
去っていく神楽の背をぼーっと見送っていた銀時に天人が襲い掛かった。
しかしその天人を桂が斬り倒す。


「銀時!!貴様いつまでぼうっと突っ立っているつもりだ!?庇ってやってる俺の身にもなれ!!」

「ヅラァ…これってさ……それだよな…そうなんだよな…」

「それがどれでなにがなんなんのだ!!色ボケするのは構わんが今は敵に集中しろ!!」


雪達との別れをする幼馴染に気を使ってずっと桂は空気を呼ばない天人を一人相手にしていた。
だが、雪との別れが済んだのなら話は別だ。
雪の避難が完了したのならとっとと働け、と言いたい桂に銀時は呆けるばかりで殺しにかかる天人に反撃もしない。


「ご褒美って…あれだよな!!あんなことやこんなことだよな!!これ、夢じゃないよなァ!?ヅラアアア!!」

「ご褒美っていったらそれしかないだろ!!あとヅラじゃない!!桂だ!!!」

「いよっしゃアアアア!!!ヅラアア!!俺、生きて帰れたら雪と結婚するわアアア!!」


雪のご褒美という言葉に今まで感じたことのない力が沸いてくる気がした。
銀時は先ほどまでぼうっと突っ立っていたが叫んだと同時に襲い掛かってきた天人を切って捨てる。
桂はやっと庇わずに済んだとホッとしながらもどこかで聞いたことのある危ないセリフを吐く銀時に『それ死亡フラグだぞ銀時ィィィ!!』と突っ込んだ。
その桂の突っ込みを聞きながら銀時は雪が待っているため死ねないという気持ちで目の前の敵を斬り倒していく。
その途中、春雨の艦隊の上でこちらを高みの見物をしている高杉を視界に収める。
遠目でもあいつの片目しかないその目に宿っている感情が見てわかった。
――その目を見て銀時はニッと笑って返してやった。


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