(10 / 11) その後 (10)
鷹臣はその日、休みだった。
というかやる気がなくて休ませてもらったのだ。
片栗虎に『休ませてくれないと奥さんにこの間スマイルで豪遊したことバラしちゃうぞ(ハート)』と脅してもぎ取った休みを鷹臣は公園のベンチで煙草を吸い何となく空を見上げて過ごしている。
あのスマイルで金をばら撒いた事件は片栗虎が鷹臣に泣きついて何とか誤魔化すことが出来たため片栗虎は泣く泣くその脅しに屈するしかなかったという。


「珍しいな、お主が煙草とは」

「おや、コーちゃん」


煙草を咥え空をぼーっと見上げていた鷹臣に誰かが声を掛けて来た。
その声へ目線だけ向ければ僧の姿をして正体を隠している桂がいた。
その後ろにはエリザベスがおり、桂は鷹臣が自分を見たのを見て鷹臣の隣に座る。
隣に座る桂に『怪我もういいの?』と聞けば『ああ』と返ってきた。
エリザベスから冷たい目線を貰いながら鷹臣は桂から空へ目線を戻し吸った煙を吐き出す。


「お主、煙草なんか吸っておったか?」

「これが初めて」

「美味いか?」

「不味いよ…『なんで十四郎さんはこれを好んで吸ってるんだろう…ああ、そうか、マヨネーズばかり食べてるから舌が馬鹿になってるからか』、って思うくらい不味い」

「…だったら吸うのをやめたらどうだ?」


桂は鷹臣が煙草や煙管などのものを吸っていた記憶がなく、問うが、やはり今まで吸っていなかったことが分かった。
美味しいか聞けば不味いと返され桂は呆れたように鷹臣を見た。
その目線を感じながら鷹臣は『んー』と曖昧な返事を返すだけだった。
そんな鷹臣に桂は溜息をつく。


「で、なんの用?」


鷹臣は桂の溜息に空を見上げながらそう問う。
鷹臣は休日とはいえ今は警察の幹部に席を置いている。
桂のような人間と平和に話し合うなどどこかの誰かに見られれば責められるだろう。
だが、鷹臣にはそんな事関係なく、用がないのに会いに来る人間ではないためそう聞いただけだった。
その問いに桂はまた溜息をつく。


「お主…銀時を煽ったそうだな」

「煽ったって何それ、全く身に覚えがないんだけど」

「しかし銀時を怒らせたのだろう?」

「あー…ぽいね…あの白髪相変わらず短気だわ…あれでよく自営業できるよね」


煽ったと言われ鷹臣は首を傾げた。
しかし銀時を怒らせた、と言われれば『そんな事もあったわ』程度の返事が返ってきた。
『あんな短気をお雪さんはよく好きなったなぁ』とも思う。
それに桂は『相変わらずだな』と零しながら幼馴染から聞いた話を思い出す。


「俺は一度忠告はしたはずだぞ…銀時と高杉の前では言動を注意しておけ、とな」

「そんな事言ったってしょうがないでしょ…あいつらがなんで怒ってるのかも俺知らないし」

「お主は人の気持ちというものを理解できるようにしろ…でないとあいつらはお主を本当に殺しにかかってくるぞ」

「へぇ…俺を殺せるほど強くなったんだ…笑えるわ」


銀時は我慢して見てみぬふりをしているようだが、それも我慢の限界もある。
高杉は…あいつは三人の中で一番鷹臣を憎んでいる。
恐らく鷹臣と出会えば斬り合いになるほどに。
桂の言葉に鷹臣は鼻で笑った。
鼻で笑う鷹臣を横目で見る。
彼は相変わらず男から見ても美しい作りの顔を持っていた。
まるで整形したように整いすぎているが、その顔は正真正銘生まれ持ったものだ。
そしてその実力も…
桂を含めた三人は一度として鷹臣に勝てた試しがない。
鷹臣が唯一負けたところを見たのは、皆に先生と呼ばれ慕われていた吉田松陽のみ。
彼が亡くなった今、鷹臣は桂達が知る強者だろう。
だから馬鹿にするような鷹臣のその言葉に桂は怒れもしない。
むしろ納得のいく態度でもあった。
しかしその言葉は銀時や高杉の逆鱗に触れる言葉でもある。


「銀時から聞いたぞ?お主の兄の事」

「ふーん…それで、それがなに?」

「本当に血の繋がりがあるのか?」


銀時から近藤との血の繋がりがあると聞き桂は信じられなかった。
銀時は桂と近藤が話す間柄だと知っていたから本当か聞いたのだが、桂もそれは初耳だった。
銀時同様桂も鷹臣は孤児だとばかり思っていたし、当時本人からもそう聞いていたのだ。
それが実の兄がいました…家族がいました、と聞かされ疑念が出てしまうのは仕方ない事である。
鷹臣は疑いの目を向ける桂に不快そうに眉間にシワをよせる。


「本当だけど…ねえ、白髪もコーちゃんも何なの?なんでそんなに疑うわけ?そりゃ兄上と俺の見た目は排泄物と神様みたいに似てないけどさぁ」


兄を普通にディスる鷹臣に桂は『そこまで言っていないし思っていないぞ』と心の中で突っ込む。


「仕方なかろう…お主はおれ達に孤児だと言っておったからかな」

「そうだっけ?……あー…そんな事言ったような言ってないような…」

「どっちなのだ……しかし…解せぬな…なぜ家族がありながら孤児だと答えた?なぜ家族の元から通う事はせなんだ」


鷹臣は首を傾げ、昔を思い出そうとするが思い出せない。
それは彼が桂達の思い出などどうでもいいと思っているからだろう。
過去は友として共に暮らし学んだ仲だった事を思い出し、桂はそんな鷹臣の態度にズキリと心を痛める。


「だって俺誘拐されてたからね」


桂の問いに鷹臣は何でもないように答え、桂は目を瞬き鷹臣を見た。
鷹臣の顔に変化はない。
だから少しそれが違和感を覚えた。


「誘拐?誰に…」

「……さあ…気づいたら知らない人に連れられて知らないところに連れてこられて人をばっさばっさ斬って気づいたら先生に引き取られたからわかんない」


『あの時金魚の糞たちと遊んでたんだけどなぁ』となんでもないように答える鷹臣に桂は言葉を失った。
あの時、鷹臣は銀時と同じく吉田松陽の家で引き取られていた。
だから4人の中で一番仲が良かったのは銀時と鷹臣だった。
あの頃の鷹臣を思い浮かべるとそんな暗い設定を背負っているとは思えなかったから桂は余計に驚いたのだろう。


「…家族を探そうとは思わなかったのか?」


桂の言葉に鷹臣は『?』と首を傾げる。


「なんで?」

「なんでって…お主の家族であろう…」

「そうだけど…なんでこっちから探さなきゃいけないの?あいつらはどうせ俺の外見しか見てない奴らだよ?まあ、兄上は別だったけど…そんなつまらない奴らのもとに戻ってまたつまらない世界で生きてけと?なに、コーちゃん、馬鹿にしてる?それともウケ狙い?」

「………」


鷹臣の言葉に桂はますます混乱する。
普通、家族という物は掛け替えのないものである。
誘拐されたのなら家族のもとに帰りたいと思うのは当たり前で、鷹臣が異常なのだ。
桂は『昔からこんな奴だったか?』と考えたが、昔の思い出は美化されており全く身に覚えがない。
そんな桂をよそに鷹臣は『大体さぁ』と零し、桂は考えるのを止めて鷹臣を見る。


「正直、俺あいつらのあの先生に対しての感情が理解できないんだけど」

「だろうな…人の気持ちを理解しようともしないお主には理解できまい」

「人の気持ちを理解して何になんの?何に役立つの?どうせ俺の前に立てばそいつらは死ぬだけなのになんでそんな面倒臭い事考えなきゃいけないわけ?」

「それでも殺さない者の事は考えてもいいと俺は思うが?」

「周りの奴なんてどうでもいいよ…俺にとってみんな同じ顔に見えるし」

「では俺もか?」

「うん、みんなジャガイモに見えるっていうじゃん?それと同じ」

「…使い道違っているぞ」


鷹臣は銀時のあの怒りも、高杉の恨みも、宥めようとする桂も、全て理解できなかった。
鷹臣の世界は殺す者と殺さない者と二つに別けられており、それ以外にない。
昔から感情が欠けているところがあると思っていた桂はここまでとは思っておらず少々呆れてしまう。


「ではお主はジャガイモに恋をしているというのか?」

「なにそれ」

「お主、お雪くんに恋慕しておるではないか」

「………」


みんな同じに見えるということは、鷹臣がストーカーしてまで恋しているあの少女もジャガイモに見えるという事になる。
それを指摘すれば鷹臣はむっとさせた。


「やだなぁ、俺のお雪さんをその辺のモブと一緒にしないでくれない?」

「誰がモブだ、誰が」

「お雪さんは人間じゃないよ…――天使だよ?」

「……は?」

「だから、お雪さんは天使なの!お雪さんは神様に試練を与えられ大天使になるために地上に降り立った新米天使なんだよ?だから俺はそんな天使が穢されないように見守ってるわけ…まあ白髪とか片目とかに穢されたけど…でもこれでお雪さんが天界に帰らなくて済むし万々歳かな?白髪も片目もたまにはいい仕事してくれるよね…でもさ、いくらコーちゃんが天然だからってさ、天使と人間を一緒にするのやめてくれない?」

「…………」


こいつは何を言っているのだろうか…桂小太郎はそう思った。
雪が天使と断言する鷹臣に桂は突っ込みも出来ず遠い目をするだけに留める。
彼も所詮はボケだということである。


「その天使とやらのお雪くんを銀時に取られているがいいのか?」


この際雪を天使に思おうがジャガイモに思おうが置いておくとして…桂はあまりに鷹臣が銀時に嫉妬もしないため疑問に思った。


「俺ってさ…美形じゃん?腕もピカイチで隙のない完璧人間じゃん?」

「………まあ、そういう事にしてやろう」

「だから周りから愛されて来て結構献上物とか多かったんだよね」

「……」

「でもさ…昔から俺って一番欲しい物は手に入らなかったんだよ…だから諦めが早いんだよね、俺。」


鷹臣から美形やら腕もピカイチやか完璧という言葉が出てきて桂はイラッとした。
確かに鷹臣は隙の無い美形である。
腕も桂達が一度も勝てたことのないほど強い。
だがそれを本人から言われると腹が立つというものである。
適当に頷いていると鷹臣の言葉に桂は鷹臣を見る。
鷹臣は空を見上げており、空を見るその目はどこか遠い目をしているように見えた。
それは本当に諦めたような脱力感のある目だったのだ。


「お主が一番欲しい物とはなんだ?」


だから気になった。
昔らか愛されて来た鷹臣はあれこれほしいと言えば誰もが贈り物として持って来た。
だがそんな鷹臣でも欲しいが手に入らない物があるという。
それが気になったのだ。


「兄上が欲しい」


鷹臣は桂の問いに空を見上げたまま、上を飛ぶ鳥を目で追いながら何でもないようにぽつりとつぶやいた。

→あとがき


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