首を振る雪に銀時は笑って見せたが、雪はおずおずと銀時を見た。
「その…銀さんは、嫌じゃ、ないですか?」
「なにが?」
「す、好きな人がそんな…店に、いたの…」
「どうして?」
「どうしてって…だって…吉原ですよ?」
「うん、そうだね」
「………あの…銀さん…銀さんの女性関係って…」
「いや、あの…雪ちゃん…あのね、反応薄いからって俺童貞でもモテないわけでもないからね?ちゃんと人並みに女性関係はあるからね?あ!でもだからって心配いらないから!!雪ちゃんと出会って恋してからはクリーンだらか!!童貞じゃないけど、クリーンだから!!」
銀時も男である。
吉原という場所ではないが戦争中遊郭に行った事だってある。
その遊郭で高杉と指名した遊女が被った挙句にその遊郭は高杉を選んだという苦い思い出があるが、それ以外でも人並みに関係を持った女性はいた。
その殆どが銀時のだらしなさに耐えきれず別れを切り出したか自然消滅で、時折ダメンズウォーカーがいたが、それでも上手くは行かずすぐに別れた。
それから付き合う事自体面倒になって付き合う事自体しなくなり、溜まればそういう店に行くなどしてある程度は発散させてはいた。
だから完全なるクリーンではないが、雪が疑っている『童貞疑惑』だけは晴らさなければならないと思った。
とりあえず雪には『そうですか』と貰い何とか納得はしてもらえたようでホッと胸を撫で下ろす。
雪的に銀時が童貞なら童貞で『可愛い』と思えるのだが、男のプライドで銀時本人はそれを許さなかったのだろう。
「あー…その、な…俺は別に吉原とか遊女とか偏見はないから安心しろ」
「そう、ですか…」
銀時は雪が何に不安を感じているかを察し安心させる。
雪は自分が売られたとはいえ遊女をしていた事を銀時達に知られるのが嫌らしく、だからこそ銀時の言葉に心から安堵していた。
銀時は『逆に何で遊女していた時に会わなかったのかなって思ってる』と言いかけたが、ホッとした笑みを受けベル雪を見てそんな空気の読めない事を言うのをやめた。
銀時がそんな下ネタを思っているとは想像できないであろう雪は『続けていいですか』と銀時に問えば、銀時が頷き、話を続ける。
「晋さまとは、そこで会いました」
「あいつ吉原に来てたのか?」
「はい…あの頃は謎めいた人って感じでしたが、晋さまは遊郭に女性を送って情報を得ていたと言っていました」
「まあ、あそこは警察も関与できねえからなぁ…でも一歩間違えればやばいんじゃねえの?」
銀時も吉原の事情くらいは知っている。
まあ知っていると言っても吉原を知っている者が得ている情報のみではあるが、それでも吉原という場所がどういう所かは分かっているつもりだ。
それは正しいのか銀時の言葉に雪はコクリと頷いた。
雪も様々な理由で殺されてきた客や遊女たちを目にして生きてきたのだ。
雪は目を瞑っても非道な人間達の顔が今でも思い出す事が出来、雪は肌蹴て丸見えの傷へ目を落とす。
その視線に釣られて銀時もその傷痕を見た。
「この傷痕はその一歩間違えた時につけられました」
「それって…お前も高杉の関係者だったってことか?」
それを聞き銀時は怪訝とさせた。
あの夏祭りの時も思ったが、高杉と雪は全く結びつかない。
何となく関係は疑ってはいたが、まさか…という気持ちが勝ってそう疑いはしなかった。
だが今、雪の口から出た言葉では高杉と何かしら関係があって斬られたとしか聞こえようがなく銀時は思わず眉間にしわを寄せる。
あの夏祭りの時、『高杉』と言っても雪はなんの反応もしなかったから余計に分からなかった。
だが、それは高杉が正体を隠すために『晋』と名乗っていたから雪は高杉の名前を知らなかっただけである。
その銀時の問いに雪は何とも言えない表情を浮かべ首を傾げた。
「どう、なんでしょう…私のこの傷は巻き沿いを食らったようなものですから…」
そっと肩にある傷痕に触れる。
この傷は雪にとって辛い思いでばかり思い出させる。
この傷のせいで高杉と離れ離れになったし、大切な人を失った。
たまに夢に出てくるのだ…自分を助けようとしてくれた姐遊女の顔が。
「私を教育してくれた人がいたんです…その人は"千早"って言って私に"清花"と名付けてくれた姐遊女でした」
『清花』という名前に銀時の雪の腰に回されている手がピクリと跳ねた。
その反応を見てみぬふりをしながら雪は続ける。
「清花、清花、ってとても可愛がってくれて…姐さまはとても美しい人でした…その人の客が、晋さまだったんです…千早姐さまは…いいえ…姐さま達は鬼兵隊の人達で、遊女になって得た情報を晋さまたちに流していたんです…」
「じゃあ、お前は高杉とは…」
「はい、なんの関係もありませんでした」
雪が高杉の仲間ではなかった事に銀時はホッとさせる。
しかし『でもお客さんでしたけど』と続けられた雪の言葉に銀時は顔を強張らせた。
いや、雪の体にある痕で何となく察しはついていたが、やはり本人から聞くのは結構なショックがあるらしい。
その顔を見て銀時がショックを受けていると気づいた雪は追い撃ちをかけるような『私の初めてを買ったのは晋さまです』という言葉は言えなかった。
「晋さまは私が遊女となってからよく買ってくださった常連さんでした…でも晋さまは私には仕事の話は一切しませんでしたね…私を買ってくださるようになってからは情報収集を他の人に任せているようでしたし…」
「……で、その傷は?」
銀時の低い声が雪の耳に届く。
銀時の顔を見ればブスッとしており、嫉妬している事が目に見えて分かった。
その顔すら雪は可愛く見えてしまいくすりと笑みを浮かべ銀時の頬へ手を伸ばし、雪の手に銀時はそっぽを向いていた目線を雪に戻した。
目線を戻した時に見る雪の顔は嬉しそうな顔をしており、銀時は怪訝とさせる。
「銀さん、嫉妬してるでしょ?」
「んなもん当たり前だろ…好いた女が愛し気に『晋さま』『晋さま』と他の男の名前を連呼するんだ…いい気分にゃいられねえよ」
雪に関して、銀時は心が狭い。
それは雪が自覚する前にも分かっており、いい歳して年下の恋人に対して嫉妬しているのが可愛くて、そして愛おしくてたまらなかった。
可愛くてたまらず、雪は思わず尖ってる銀時の唇を奪う。
顔を離せばきょとんとした銀時の顔があり雪は吹き出したように笑った。
「雪!」
「ふふ、ごめんなさい…銀さんが可愛くてつい…」
「…お前ねぇ…ほんと…今えっちが出来ないんだから煽るのやめてくんない?」
『可愛いのはお前だ!!』と銀時は心の底から言いたい。
が、言えない。
銀時を可愛いと思う雪だが、銀時だって負けないくらい雪を可愛いと思っているのだ。
だから自覚があるのかないのかは分からないが、煽るのは止めていただきたい。
それを拗ねた口調で言えば『はいはい』と返事が返ってきた。
その返事はいつも雪が銀時に返す返事で、適当に聞こえるが銀時は何だか『家族』のようで好きだった。
『話を戻しても?』と呟く雪に銀時は『どうぞ』と返しながら『あれ、このやりとりした気がする』と思った。
そんな銀時をよそに雪は銀時の頬に触れていたその手を傷へと移す。
「この傷は…千早姐さまじゃない姐さま達がちょっと失敗しちゃいまして…斬り殺されたんです…その相手は名のあるお侍様でした…その人から情報を貰おうとしていたらしいんですが姐さま達は…紫姐さまも朝霧姐さまも失敗して切り殺されてしまったんです……そして…紫姐さまに駆け寄った私も切ろうとしたお侍様を庇った千早姐さまや揚羽姐さまも…私は庇う人がいなくなったから斬られたんです…でも、すぐにそのお侍様は処罰され私だけは助かったんですけどね…」
雪は傷に触れながら目を瞑る。
瞼の裏には紫や朝霧、千早や揚羽の顔が浮かぶ。
3年も経つのに彼女達の顔は全く変わらなかった。
死んだのだから当たり前だが、彼女達の夢を見た後朝起きて鏡に映る成長した自分を見ると時間の経過を痛いほど感じる。
「紫姐さまも、朝霧姐さまも…揚羽姐さまも……千早姐さまも…いい人達、だったんですよ…内緒ねって、お客さんからのお菓子をみんな私にくれたり…吉原で売られたとき怖くて寂しくて泣いていた私を姐さま達は『大丈夫よ』って慰めてくれたんです…あの人達は確かに情報を晋さま達に流していたけど…でも…いい人たちだったんですよ…なのに…どうしてあんないい人達が殺されなきゃならなかったんでしょうか…どうして…私だけ、生き残ってしまったんでしょうか…」
ポツリと雪の瞳から涙が溢れる。
本当に彼女達はいい人達だったのだ。
妹のように可愛がってくれたし、変な客からも守ってくれた。
特に教育をしてくれた千早とは本当の姉妹のように過ごしてきた。
今も彼女のあの死んでいく虚ろな目が忘れられない。
我慢できず顔を手で覆って泣く雪の小さな体を銀時は何も言わず、ただ包み込むように抱きしめてやった。
雪は銀時の胸で涙を流した。
「その…銀さんは、嫌じゃ、ないですか?」
「なにが?」
「す、好きな人がそんな…店に、いたの…」
「どうして?」
「どうしてって…だって…吉原ですよ?」
「うん、そうだね」
「………あの…銀さん…銀さんの女性関係って…」
「いや、あの…雪ちゃん…あのね、反応薄いからって俺童貞でもモテないわけでもないからね?ちゃんと人並みに女性関係はあるからね?あ!でもだからって心配いらないから!!雪ちゃんと出会って恋してからはクリーンだらか!!童貞じゃないけど、クリーンだから!!」
銀時も男である。
吉原という場所ではないが戦争中遊郭に行った事だってある。
その遊郭で高杉と指名した遊女が被った挙句にその遊郭は高杉を選んだという苦い思い出があるが、それ以外でも人並みに関係を持った女性はいた。
その殆どが銀時のだらしなさに耐えきれず別れを切り出したか自然消滅で、時折ダメンズウォーカーがいたが、それでも上手くは行かずすぐに別れた。
それから付き合う事自体面倒になって付き合う事自体しなくなり、溜まればそういう店に行くなどしてある程度は発散させてはいた。
だから完全なるクリーンではないが、雪が疑っている『童貞疑惑』だけは晴らさなければならないと思った。
とりあえず雪には『そうですか』と貰い何とか納得はしてもらえたようでホッと胸を撫で下ろす。
雪的に銀時が童貞なら童貞で『可愛い』と思えるのだが、男のプライドで銀時本人はそれを許さなかったのだろう。
「あー…その、な…俺は別に吉原とか遊女とか偏見はないから安心しろ」
「そう、ですか…」
銀時は雪が何に不安を感じているかを察し安心させる。
雪は自分が売られたとはいえ遊女をしていた事を銀時達に知られるのが嫌らしく、だからこそ銀時の言葉に心から安堵していた。
銀時は『逆に何で遊女していた時に会わなかったのかなって思ってる』と言いかけたが、ホッとした笑みを受けベル雪を見てそんな空気の読めない事を言うのをやめた。
銀時がそんな下ネタを思っているとは想像できないであろう雪は『続けていいですか』と銀時に問えば、銀時が頷き、話を続ける。
「晋さまとは、そこで会いました」
「あいつ吉原に来てたのか?」
「はい…あの頃は謎めいた人って感じでしたが、晋さまは遊郭に女性を送って情報を得ていたと言っていました」
「まあ、あそこは警察も関与できねえからなぁ…でも一歩間違えればやばいんじゃねえの?」
銀時も吉原の事情くらいは知っている。
まあ知っていると言っても吉原を知っている者が得ている情報のみではあるが、それでも吉原という場所がどういう所かは分かっているつもりだ。
それは正しいのか銀時の言葉に雪はコクリと頷いた。
雪も様々な理由で殺されてきた客や遊女たちを目にして生きてきたのだ。
雪は目を瞑っても非道な人間達の顔が今でも思い出す事が出来、雪は肌蹴て丸見えの傷へ目を落とす。
その視線に釣られて銀時もその傷痕を見た。
「この傷痕はその一歩間違えた時につけられました」
「それって…お前も高杉の関係者だったってことか?」
それを聞き銀時は怪訝とさせた。
あの夏祭りの時も思ったが、高杉と雪は全く結びつかない。
何となく関係は疑ってはいたが、まさか…という気持ちが勝ってそう疑いはしなかった。
だが今、雪の口から出た言葉では高杉と何かしら関係があって斬られたとしか聞こえようがなく銀時は思わず眉間にしわを寄せる。
あの夏祭りの時、『高杉』と言っても雪はなんの反応もしなかったから余計に分からなかった。
だが、それは高杉が正体を隠すために『晋』と名乗っていたから雪は高杉の名前を知らなかっただけである。
その銀時の問いに雪は何とも言えない表情を浮かべ首を傾げた。
「どう、なんでしょう…私のこの傷は巻き沿いを食らったようなものですから…」
そっと肩にある傷痕に触れる。
この傷は雪にとって辛い思いでばかり思い出させる。
この傷のせいで高杉と離れ離れになったし、大切な人を失った。
たまに夢に出てくるのだ…自分を助けようとしてくれた姐遊女の顔が。
「私を教育してくれた人がいたんです…その人は"千早"って言って私に"清花"と名付けてくれた姐遊女でした」
『清花』という名前に銀時の雪の腰に回されている手がピクリと跳ねた。
その反応を見てみぬふりをしながら雪は続ける。
「清花、清花、ってとても可愛がってくれて…姐さまはとても美しい人でした…その人の客が、晋さまだったんです…千早姐さまは…いいえ…姐さま達は鬼兵隊の人達で、遊女になって得た情報を晋さまたちに流していたんです…」
「じゃあ、お前は高杉とは…」
「はい、なんの関係もありませんでした」
雪が高杉の仲間ではなかった事に銀時はホッとさせる。
しかし『でもお客さんでしたけど』と続けられた雪の言葉に銀時は顔を強張らせた。
いや、雪の体にある痕で何となく察しはついていたが、やはり本人から聞くのは結構なショックがあるらしい。
その顔を見て銀時がショックを受けていると気づいた雪は追い撃ちをかけるような『私の初めてを買ったのは晋さまです』という言葉は言えなかった。
「晋さまは私が遊女となってからよく買ってくださった常連さんでした…でも晋さまは私には仕事の話は一切しませんでしたね…私を買ってくださるようになってからは情報収集を他の人に任せているようでしたし…」
「……で、その傷は?」
銀時の低い声が雪の耳に届く。
銀時の顔を見ればブスッとしており、嫉妬している事が目に見えて分かった。
その顔すら雪は可愛く見えてしまいくすりと笑みを浮かべ銀時の頬へ手を伸ばし、雪の手に銀時はそっぽを向いていた目線を雪に戻した。
目線を戻した時に見る雪の顔は嬉しそうな顔をしており、銀時は怪訝とさせる。
「銀さん、嫉妬してるでしょ?」
「んなもん当たり前だろ…好いた女が愛し気に『晋さま』『晋さま』と他の男の名前を連呼するんだ…いい気分にゃいられねえよ」
雪に関して、銀時は心が狭い。
それは雪が自覚する前にも分かっており、いい歳して年下の恋人に対して嫉妬しているのが可愛くて、そして愛おしくてたまらなかった。
可愛くてたまらず、雪は思わず尖ってる銀時の唇を奪う。
顔を離せばきょとんとした銀時の顔があり雪は吹き出したように笑った。
「雪!」
「ふふ、ごめんなさい…銀さんが可愛くてつい…」
「…お前ねぇ…ほんと…今えっちが出来ないんだから煽るのやめてくんない?」
『可愛いのはお前だ!!』と銀時は心の底から言いたい。
が、言えない。
銀時を可愛いと思う雪だが、銀時だって負けないくらい雪を可愛いと思っているのだ。
だから自覚があるのかないのかは分からないが、煽るのは止めていただきたい。
それを拗ねた口調で言えば『はいはい』と返事が返ってきた。
その返事はいつも雪が銀時に返す返事で、適当に聞こえるが銀時は何だか『家族』のようで好きだった。
『話を戻しても?』と呟く雪に銀時は『どうぞ』と返しながら『あれ、このやりとりした気がする』と思った。
そんな銀時をよそに雪は銀時の頬に触れていたその手を傷へと移す。
「この傷は…千早姐さまじゃない姐さま達がちょっと失敗しちゃいまして…斬り殺されたんです…その相手は名のあるお侍様でした…その人から情報を貰おうとしていたらしいんですが姐さま達は…紫姐さまも朝霧姐さまも失敗して切り殺されてしまったんです……そして…紫姐さまに駆け寄った私も切ろうとしたお侍様を庇った千早姐さまや揚羽姐さまも…私は庇う人がいなくなったから斬られたんです…でも、すぐにそのお侍様は処罰され私だけは助かったんですけどね…」
雪は傷に触れながら目を瞑る。
瞼の裏には紫や朝霧、千早や揚羽の顔が浮かぶ。
3年も経つのに彼女達の顔は全く変わらなかった。
死んだのだから当たり前だが、彼女達の夢を見た後朝起きて鏡に映る成長した自分を見ると時間の経過を痛いほど感じる。
「紫姐さまも、朝霧姐さまも…揚羽姐さまも……千早姐さまも…いい人達、だったんですよ…内緒ねって、お客さんからのお菓子をみんな私にくれたり…吉原で売られたとき怖くて寂しくて泣いていた私を姐さま達は『大丈夫よ』って慰めてくれたんです…あの人達は確かに情報を晋さま達に流していたけど…でも…いい人たちだったんですよ…なのに…どうしてあんないい人達が殺されなきゃならなかったんでしょうか…どうして…私だけ、生き残ってしまったんでしょうか…」
ポツリと雪の瞳から涙が溢れる。
本当に彼女達はいい人達だったのだ。
妹のように可愛がってくれたし、変な客からも守ってくれた。
特に教育をしてくれた千早とは本当の姉妹のように過ごしてきた。
今も彼女のあの死んでいく虚ろな目が忘れられない。
我慢できず顔を手で覆って泣く雪の小さな体を銀時は何も言わず、ただ包み込むように抱きしめてやった。
雪は銀時の胸で涙を流した。
← | back | →
しおりを挟む