(1 / 10) ベルトコンベアには気をつけろ (1)
「お金がありません!!」


バン、と雪は机を叩いた。
朝ごはんを待っていたはずの銀時と神楽は今か今かと待っていたが来たのはご飯ではなく雪の叫びだった。
食べる気でいた2人はそれぞれの指定の席に座りご飯が出てこない不満を雪に向ける。


「そんな事どうでもいいアル!いいから早く飯寄越せヨ!メガネは家事しか能力発揮できないんだからナ!!」

「どうでもよくねえしメガネは家事が能力じゃないから!メガネは目が悪い人を助けるのが仕事だから!!ってそんなことどうでもいいんですよ!よくないけどどうでもいいんです!!あのですね!もうほんとにお金がないんです!」

「んなこと言っていっつもそれ言ってるけどなんだかんだ言ってやりくりして何とか食ってるじゃねえか…」

「ギリギリだからやばいんでしょうが!!これじゃ飢え死にしますよ!?」

「あーあ、やだやだ。これだからメガネをかけるだけの柱はやだねえ……いいか、雪。人は贅沢したら終わりだと銀さん思うんだよ。贅沢を覚えたらアレだよ?人間腐るよ?」

「マジでか!?人間って贅沢すると腐るアルか!?」

「おーおー腐る腐る。腐りっぱなしで好きな子に『やだぁ〜あの子くさーい!』って言われる!」

「それはまずいアルな…思春期が黒歴史になるネ……で、贅沢って大体どんな事が贅沢アルか」

「そりゃあ、お前…アレよ……もし万事屋が儲かってたとするだろ?お金が有り余ってたりするだろ?するとだな、給料がきっちり払われるわけよ。ババアからの家賃請求もなくなりそれでも金は有り余ってるから給料とは別に雪からのお小遣いが出るわけよ。そしたらお前毎日何買う?」

「酢昆布!」

「そ!酢昆布を毎日一年分を一日で食っても金が有り余ってるから誰も文句言わねえの!俺も小遣いがあったら毎日今まで以上に糖分を摂取するね!」

「…お金があったら文句言わないけど健康には文句言うよ」

「そんでだな、毎日そんだけ好きなモン食べたらどうなる?」

「無視か、無視なのか」

「飽きるアル」

「ちょっと神楽ちゃんも無視?」

「そう!飽きるわけよ!じゃあ酢昆布に飽きたら別の食べればいいと思うだろ?でもお金はまだまだあるわけよ。銀さん出来る人間だからまだまだ稼ぐわけよ。そしたら別の食べ物も飽きるっつーわけ…で、長々と言っといてまとめるとだな、贅沢もいいがそれはたまに味わうから贅沢っつーわけ。毎日贅沢してたら贅沢っていわねーわけ。だから今の生活が一番いいわけよ。手が届きそうで手が届かないくらいの距離がいいわけよ。まさに銀さんが雪ちゃんに桃色片思いしているようにな!」

「へー、そうアルか……じゃあ酢昆布が美味しいのはたまの贅沢だからアルね…」

「でもその贅沢もできなくなるよ」

「え?あれ?銀さん無視?ねえ雪ちゃん、銀さんの一世一代の告白無視?」

「どういうことネ!」

「ちょっと神楽ちゃんも無視?」

「これ見てよ」


長々と続いた銀時の説明と告白を無視し雪の言葉に神楽はガタリと立ち上がって雪に迫る。
2人に無視された(特に告白した雪)銀時はソファにしくしくと倒れる。
しかし図ったように雪の膝の上に頭を乗せる膝枕的に倒れたので誰の同情も誘わないし、図ったようにではなく図ったのだろう。
雪も銀時に好きなようにさせ(相手するのが面倒だった)通帳を開いて神楽に見せる。


「……落書き帳か何かアルか?」

「違うわ!通帳だわ!通帳!!!真っ白なほど今月お金ないっていう意味!!」

「…ハム子の依頼はどうした?あれ結構入ってたってお前喜んでたじゃねえか」

「あれは…電気代、ガス代、水道代、溜まった家賃代でほぼ全部消えました。」

「…………そりゃあ…文句言えねえ…」


復活した銀時は膝から頭を退かないまま雪に問うと、雪の回答にポリポリと頭をかいた。
難しい話は大人たちに任せるアル、と神楽は会話に入らずにいたが、取り残されているようで面白くなくムスーッとしながら膝を抱え体を揺らして2人の会話を聞く。
そんな神楽の機嫌が悪いのに気付いた銀時が神楽と目と目が合うと小さく手招きする。
その手招きに神楽の機嫌悪そうな眉間の皺も伸び、ととと、と通帳とにらめっこする雪の横へと座り、銀時がずらして空けた雪の片膝の上に頭を乗せた。


「ど、どうしたの?」


左右ずつ頭に膝を乗せる2人にびっくりとした顔を浮かべる雪の問いに2人は目で見合った後『なんでも(ねえよ)(ないアル!)』と答えて笑った。
何が楽しいか分からないが2人の楽しげで嬉しそうな笑みに雪も毒気を抜かれたのか『何それ』と笑う。


「私別に贅沢したくないネ!」

「急にどうしたの」

「だって銀ちゃんがいる!雪がいる!姐御もいる!ついでにストーカーだけど生意気な警察達もいる!町の下僕どももババア達もいる!これだけで満足ネ!貧乏でも私は毎日が幸せネ!!」

「神楽ちゃん…」


何が楽しいのかと聞けば返ってきた答えに雪はほんわかした。
可愛い答えに雪は感激して涙が溢れそうになった。
銀時も一瞬目を丸くさせたが神楽の言葉にふ、と笑う。
そうだ、私達はいくら貧乏していてもみんながいる。
三人一緒ならなんだって出来そうなくらい心強い。
だから雪は自分以上の力を持った人を目の前にしても2人を守りたいからと強くなれる。
雪は春雨の時の事を思い出しにこりと笑った。
雪が笑えば神楽も、銀時も嬉しそうに笑う。
雪が笑うと神楽も銀時も嬉しかった。


「―――って言えば許してくれるとでも思った?」


雪の言葉に2人は笑顔のまま固まる。
雪の膝の上に頭を乗せたままニッコリと笑う雪を見て汗をダラダラと垂らした。
雪は神楽の言葉に感激したふりをして乗っていたらしく、そうではなかったらしい。
2人は雪の薄ら笑いに一瞬妙の影を見たのと同時に春雨の時のマジ切れした雪を思い出し一瞬にして雪の膝から起き上がり向かいのソファに座り『すいやせんっしたあああ!!』と土下座した。
土下座する2人に雪は薄ら笑いを消しため息をついた後苦笑いを浮かべる。


「冗談はここまでにしますけど…ちょっと本当にこれだけは冗談では済まされないんですよ…今までなんとかやりくりしたり家から持ってきて何とか持ってたんですけど……今回はちょっとやばいです。」

「お前…家からも持ってきてくれたのか…」

「ええ…あ、もちろん姉上に許可を得てますけど」


『じゃないと今頃姉上が乗り込んで銀さん殺されてますよ』、と笑顔で言われ銀時は顔を引きつらせた。
マジ切れした雪も逆らえないが、それを更に上をいっているのが妙である。
銀時はあれはきっと宇宙最凶生物だと思う、と長谷川に零していたとかいないとか…
雪は銀時に通帳を見せ、銀時は通帳を見て『あーらら』と零した。
通帳は相変わらず真っ白白助である。(某黒助的な)


「しっかしなぁ…熱いしやる気でねえし…」

「神楽ちゃんを飢え死にさせるつもりですか?」

「ちょっとちょっと雪ちゃん?銀さんは?銀さんも生き物だからお腹すくし餓死するよ?」

「…もちろん銀さんも心配してます…でも神楽ちゃん成長期だし女の子だし…銀さんは放っておいてもなんだかんだ言って食にありつけるでしょう?でも神楽ちゃんはまだ子供だから誰かが作ってあげないと…」

「そうアル!私まだ子供ネ!だから銀ちゃん仕事見つけて来てヨ!!」

「てめえこのやろう…こういう時だけ子供になりやがって…」


『女の子で成長期でもこの子夜兎族…傭兵部族…』、と言いたかったが雪が怒るのを知っているため言えなかった。
雪の言葉に乗っかった神楽はギュッとテーブルを跨いで雪に抱き付く。
相変わらず豊満な雪のおっぱいに顔を埋め頬ずりもしやがりやがり羨ましいことこの上ないが、今は銀時の方が分が悪い。
それに雪は否定するがお母さんは常に子供の味方なのだ。
おとーさんは所詮仲間はずれにされる役目なのが世の理なのだ。


「へいへい…仕事探しに行くか……よし、お前らも着替えろ」

「「…へ?」」


重い腰を銀時は上げ、着替えに向かう。
だが雪と神楽にも着替えるように言うと2人はキョトンとさせた。
それがまた親子のようで、銀時は噴き出してしまう。


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