(12 / 13) その後 (12)
――――今日……万事屋に、ついに魔王が降臨する。





妙はその日、昼過ぎになっても妹とその他のいるであろう家に向かっていた。
隣には機嫌のいい神楽がおり、神楽はスキップをしていた。
そんな神楽を妙は微笑ましそうに見つめる。


「でもどうしたのかしら…雪ちゃんの事だから昼前には来ると思ってたんだけど…」

「きっと銀ちゃんが駄々を捏ねてるアル…昨日までラブラブしてたアルから私を迎えに行きたくないとか抜かしてるに決まってるネ…姑は所詮邪魔者ヨ」

「あの人なら言いかねないわね…大丈夫よ、神楽ちゃん…そんな事になってたら私があの人を塵に変えてあげるから」


神楽が泊る事自体初めてで前例がないが、雪の性格上昼前には迎えに来ているはずである。
だが昼過ぎまで待っても迎えには来ず、用もあったため妙は神楽を見送るため万事屋に向かっていた。
にっこりと笑い拳をグッと握る妙に神楽は『流石は姉御!頼りにしてるヨ!』と言って笑った。
妙は本気だが、神楽はそれはないだろうという冗談でいた。
神楽は雪と銀時の交際を妙が許してくれたのもそうだが、何よりこうして妙と並んで笑って話せる事も嬉しかった。
ルンルン気分で万事屋に帰り、階段を上りいつもの扉を開ける。


「やっぱりまだいるアル」

「あら本当だわ…どうしたのかしら…銀さんがハリキリ過ぎて死んだのかしら?」


玄関を開ければ雪と銀時の靴があり、まだ二人が家にいる事を知らせてくれる。
昼はとっくに過ぎているのにのんびりと家にいる二人に妙は首を傾げながら願望を呟き『雪ちゃん、あがるわよ〜』と一応声を掛けてから草履を脱いで上がり、それに神楽も続いた。


「雪ちゃん?いるの?遅いからきちゃった」


ガラリと居間に続く扉を開ければ…そこには――――可愛い妹をソファに押し倒している白髪男の光景が妙の目に入った。
しかも白髪の下にいる可愛い可愛い妹の姿は寝間着。
更に言えば着崩れしていた。
その姿を見た妙は一瞬にして妹が無理矢理襲われるストーリーを描き…



「なァにさらしてくれとんじゃてめエエエエエエ!!!!」

「ッ―――――ヒギャアアアアアアアアアア!!!」



白髪を塵どころかミンチにした。





あれから何とか姉を説得し、銀時は死ぬ寸前に回収が出来た。
が、体中包帯だらけとなっておりミイラ男を隣に座る神楽は呆れたような目で見つめていた。
雪は着替え終え、妙の隣に座る。


「もう、銀さんったら滑ったのならそう言ってくれればよかったのに」

「っていうか言う言わない以前にてめえが俺を殴り殺す勢いで拳を叩きつけてただろうが…てめえが言わせないようにしてただろうが」

「あら、やだ…銀さんったら侍なのに人の、それも女のせいにするの?やだわぁ、やっぱり刀を取られれば所詮侍も男なのねぇ……ねえ、雪ちゃん、今からでも遅くはないわ、別れちゃいなさい」

「あ、あはは…」


雪は流石にありのままを言えば銀時は半殺しではなく本殺しにされると思い捏造した。
滑った銀時を雪は支えきれなかったのだと必死に訴えれば信じたかは分からないが、姉の手を止めることは出来た。
姉の手が血だらけなのと、返り血を浴びているのを見て見ぬふりをしながら雪は姉の言葉に乾いた笑いを浮かべて曖昧に終わらせる。


「で?神楽はいいとして…お前なんでうち来たの?なに、恋人探し?あー、無駄無駄!お前みたいなゴリラ女、ストーカーゴリラ以外の誰が相手する―――ぶふォッ!」

「雪ちゃん、やっぱり別れなさい」


銀時の余計な言葉に妙は向かえに座る銀時の顔面に拳をめり込ませた。
笑顔を浮かべながら横に座る妹にもう一度別れるよう言うが、雪は何も言わず乾いた笑いを浮かべ続けるだけにした。
どっちつかずを突き通すようである。


「大体神楽ちゃんを放って何をしてたんですか?」


鼻血を流すその鼻を抑える銀時を妙は呆れたように見る。
雪は姉に言われてチラリと時計を見れば、昼なんてとっくに過ぎていた。
朝起きた時間もいつも起きる時間より過ぎていたので、その後更に布団やお風呂で事に雪崩れ込んだのを考えると当たり前ではある。
お互い気に入らないと思っている妙と銀時ではまた同じことの繰り返しだと思い、流れを変えるために雪は妙と神楽に謝る。


「姉上…神楽ちゃん…ごめんなさい…銀さんと今後の事で話し合っていたので…」

「雪ちゃん……ううん、いいのよ…雪ちゃんが謝る事はないわ…どうせあそこの白髪が駄々を捏ねたんでしょうしね」


ある意味合ってはいる。
銀時が朝どころかお風呂場で発情しなければ恐らくは間に合ったはずである。
まあそこで強く拒否しなかった雪にも責任があるだろう。
深く掘り下げられる前に話題を変えた。


「そ、それで…どうしたんですか?」


何度も脱線した話を戻そうと雪が聞けば妙は持ってきていた紙袋から巻かれた紙のようなものを取り出し、万事屋の机にバッとその巻かれている紙を開く。
コロコロと転がり机に落ちてそのまま壁に当たったそれには『交際規則』と書かれており一からずらーっと書かれていた。
その紙を雪、銀時、神楽は覗き込むように見る。


「……姉上…何ですか…これ…」

「私ね、色々考えてみたの…どうやったら雪ちゃんを魔の手から守れるんだろうって」


『魔の手っつーのは俺かよ』と銀時は思ったが、確実に『それ以外に誰がいるんです?』と言われるのでやめた。
妙は交際は認めたが、銀時を認めたという事にはならない。
彼の人柄も強さも知ってはいるがそれとこれとは別だ。
可愛い妹を簡単に上げれるほど妙はシスコンを拗らせてはいない。
雪はにっこりと笑う姉を見た後再び紙へ目を落とす。


「一・清い関係を保つこと」

「二・接吻、性行為は一切禁ずる」

「三・手を繋ぐ、腕を組むはギリOK」

「四・仕事以外での外泊は一切禁ずる」

「五・過度な接触は禁じる」

「六・必ず誰かを挟んで歩く事………っておい…ちょっと待てやコラ」

「あら、何か不備があったかしら?」


まるで某公僕の規律のように長々と続くその規則…というよりは決まり事に銀時は顔を引きつらせながら妙へ顔を上げる。
口端をヒクリとさせる銀時に妙は首を傾げておどけてみせ、それに銀時は我慢できなかったのかバンと机を叩く。


「不備もなにもねえだろ!なんだよ!この不平等条約!!」

「私なりに真面目に考えたんだけど…何が不満なんです?」

「全部だ!全部!!俺と雪は付き合ってんのに何でセックスどころかキスも触れることも出来ねえんだよ!!大体手を繋ぐのも腕を組むのも隣に歩くこともお前に配慮して遠慮しなきゃいけねえんだよ!!」

「あら、雪ちゃんは嫁入り前よ?そんな事当たり前でしょう?そもそも嫁入り前なのにあなたなんかのところで働かせてあげてるってだけでも感謝していただきたいわ…嫁入り前の子が未婚の男性と同じ屋根の下で仕事とはいえ一緒にいるなんて…世間体が悪いもの…雪ちゃんに嫁の貰い手がなくなったらどうしてくれるんです?」

「んなもん俺が雪を貰うから問題ねえだろうが!」

「ねえ銀さん知ってるかしら?付き合う男の理想と、結婚する男の理想って…違うのよ?」

「てめ…ッ!別れさせる気満々じゃねえか!!全然分かってねえし反省してねえだろお前…!!」


『ちなみにそれらを一つでも犯せば介錯なしの切腹だから』と零す姉に雪は銀時の結婚を前提とした告白に気付かず『姉上…悪化してる…』と頭を抱えた。
雪も姉のように硬派な考えで付き合いたいとは思う。
『セックス』と『キス』を妹に関しては潔癖な姉が嫌うのはまあまあ分かる。
だが手を繋ぐことや隣を歩くのにも色々決まり事があるのは正直やりすぎだと雪は思った。
だけど姉はこれでも色々と目を瞑ったのだろう。
恐らく雪と銀時が体を重ねた事はお見通しで、だけどそれを許してくれた。
でなければ神楽を一人泊らせ、雪と銀時を二人っきりにはしない。
多分、だが…神楽が突然泊ると言ったのは妙がそう言うように言ったのだろう。
雪は銀時と言い合いをする妙を見て、彼女が以前とは違い銀時と向き合うその表情が少し晴れているのに気づく。
銀時のお陰で雪に縛り付けられていた鎖が何個か取れたのだろう。
まだ銀時と仲がいいとは言い難いが、以前に比べると彼への印象は良くなったのだと雪は思う。
姉の生き生きとした婿虐め(?)を見つめながら雪はふと笑みを浮かべる。

→あとがき


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