(1 / 3) その後の土方君 (1)
買い物を済ませ雪は自動ドアからスーパーを出る。
特売日という事でいつも以上の買い物をしてしまったためか荷物がすこぶる重い。


「…重い…やっぱり銀さんについてきてもらえばよかった。」


ここのスーパーの特売日は不定期で、決まった日ではない上に予告も何もない。
せめてチラシでお知らせがあれば銀時についてきてもうのに…、とずっしりと重たい買い物袋を手にとぼとぼと万事屋へと帰ろうとした。


「雪」

「あ、土方さん…」


スーパーから出て少し経った頃、土方が雪の背を見つけ、声を掛けてきた。
雪は土方の声掛けに立ち止まり振り返る。
いつも沖田がいるのに今日は土方1人で、それを見た雪は『あの人、今日もサボリか』と思う。
土方は少し不機嫌そうに煙草を咥えており雪は土方の不機嫌な理由を沖田だと思い苦笑いを浮かべる。


「沖田さんは今日もサボリですか?」

「ああ…あいつ見かけたら電話くれねえか?」

「はい、構いませんよ」


雪の苦笑いを浮かべた言葉に土方は不機嫌をそのままに頷く。
雪は土方に携帯を貰っており、それで連絡してくれという土方に雪は二つ返事で頷いた。
最初こそ携帯など高額な物は貰えないと雪も断ったが、度重なる姉へのストーカー行為を行うゴリラに嫌気がさし、雪は快く携帯を引き受けることにした。
どうやらなんやかんや理由を付けて経費で落としているため雪は料金や携帯のお金は一銭も出していない。
人から貰い自分の支払いではないため、雪は機会が苦手なこともあり近藤を引き取りに来てもらう時以外は使っていない。
しかし最近はもう一人ゴリラの弟も追加されていた。
土方は頷いた雪に不機嫌な表情も少しは緩和させるもふとまた眉間にしわを寄せ雪をジッと見つめた。


「?、何ですか?」

「…いや……」

「…?」


何も言わず無言で見つめてくる土方に雪は首を傾げた。
慣れていない最初の頃なら土方の鋭い目や雰囲気に押されてしまっていたが、ストーカー繋がりで仲が良くなった今では普通にしていられる。
そんな自分に『成長したなぁ』と思いながらも何も言わない土方に不思議に思いながらも土方が首を振ったため深くは追及しないことにする。
深く追及して碌な事はないのだ。


「…なあ、お前…ちょっと聞きたいことがあるんだが…」

「はあ…何でしょう?」


しかし、時として追求しなくても碌な事にならない事もある。
それが本人の口から暴かれる事だった。
それに関してはもう抗うのも無駄というもので、聞きたいことがある、という土方に雪は嫌な予感しかしなかった。
土方は目を瞬かせ小首を傾げる雪に咥えていた煙草を口からは放しフッと白い煙を吐き出した。
白い煙を吐き出し土方は気まずそうにそっと雪から目線を外す。



「お前…アイツと寝てるって…本当か?」



土方はカブトムシの時に聞いた話を思い出したのだ。
いや、思い出したというよりは聞きたかったが聞くタイミングがなくずっと言えずに心の中でしまわれていた、と言った方が正しいだろうか。
銀時が常に雪の傍を離れず、銀時がいないと思えば神楽がいる。
雪はあまり一人でいることは少ないため土方はどうしても気になっていたそれを聞くことはできなかった。
内心緊張で心臓が激しく動き痛いほどだった土方の問いに雪は…



「まあ…はい、そうですね」



なんとも素っ気ない口調だった。
しかしそれは雪が受け入れているからとも捉えられ、土方は雪の答えにショックを覚えながらも『…そうか』とギリギリ答えることが出来た。
しかし『邪魔したな』と恋が失恋となり悲しみを仕事へと向けようと雪に背を向けようとしたその時…


「でも…土方さんも私が万事屋に泊まってるの知ってるのに…今更なんでそんなこと聞くんですか?」

「…は?今更…?」


土方は『失恋なんて何年ぶりだ?』と涙がちょちょきれそうだったが、雪の続けられた言葉に足を止めた。
雪へ目を向ければ雪はキョトンとさせており土方もまたその雪の反応を見てキョトンとさせてた。


「い、今更って…みんな知ってんのか?お前とあいつが…その…寝てること…」

「はい、姉上も」

「あ、姉上も!?」

「はい、そうですけど…」

(あいつ…もうそんなところまで進んでたのか…)

「まあ寝てるって言っても部屋は別々ですけどね…あの時は布団は一組しかなかったし、ソファで寝るにも限界がありましたし、流石に家主の銀さんをソファに追い出すこともできませんし…最初は姉上も反対してたんですよ?嫁入り前の女が他人の男と1つ屋根の下で眠る事…でも説得したら何とか承諾してくれました!」

「へ、へえ…そうなん、……………え?」

「ん?」


『言うな!これ以上言うな!!お前が俺以外の男に女にされていくところなんて聞きたくない!!』、と嫉妬に狂いそうなのを必死に我慢しながら雪の話を(嫌々)聞いていると土方は続けられた雪の言葉にピタリと止まった。
何か雪の言葉に引っかかったのだ。
『えっ』、と土方が呆気にとられた表情を見せる中、雪は困ったように笑った。
雪は嫌な予感がしていた。
何を言われるのかと。
もしかしたら銀時の愚痴や神楽への苦情かもしれないと思った。
苦情を言われてもおかしくない事を2人はしているのだから雪は拒否権はない。
しかし土方の聞きたい事とは何でもない普通の問いだった。
否、恋人でもない男女が一つ屋根の下で一緒に眠っているというのは普通じゃないのかもしれない。
何だかんだ言って江戸はまだ昔の面影を残しているのだから。
雪は勘違いしていた。
カブトムシ捕りの時に土方が勘違いしたように…雪も勘違いしていた。
土方は銀時の『寝る』を『情事』と勝手に勘違いし、雪は土方の『情事』を『寝る』と勝手に勘違いしていた。
今、2人は食い違っている。


「あー…その…なんだ、寝るって……その寝るか?」

「その寝るって?」

「夢の中的な」

「ゆ、夢の…?ま、まあ…夢の中ですね…」


土方は食い違っている事に気づいた。
自分の思う『寝る』が雪の思う『寝る』が違う事に気づいた。
そして更に気づいたのだ…銀時が嘘を言っていたことを。
否、銀時は嘘をついていない。
勝手に自分が勘違いしているだけである。
全て察した土方は『……そうか』と呟くだけだった。


「……?」


くるりと背を向ける土方に雪は首を傾げた。
『寝る』に他に言い方があるのか、雪は不思議に思った。
だが雪は土方と銀時のやり取りは知らないため下ネタとは思いもしないだろう。


(あの野郎…いつか殺す…!!)


雪に背を向け土方は咥えていた煙草を手にぐしゃりと潰した。
その際煙草の火が指に火傷を負わせていたが、そんな痛みなど怒りで頭に血が上っている土方にはない。


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