ツェッドはそのままライブラに帰る気にならず、HLの街をブラブラしていた。
つい目で追ってしまうのは男女のカップル。
女性が幸せそうに彼氏と腕を組み歩いている姿をつい目で追ってしまう。
それに『自分で振っておいてなに傷心しているんだろう』と自分で自分を嘲笑した。
ツェッドは適当な公園に入り適当なベンチに座って空を見上げた。
相変わらず太陽が顔を覗かない空だが、それでも日の光は差しており日が昇っている明るさくらいは感じられる。
ツェッドはリィリンの傍にいたいだろうからとクラウス達が気を使い連休だった。
勿論連休には限界はあるが、クラウス達はリィリンの傍にいてやるといいと言って休日にしてくれた。
クラウス達の気遣いは嬉しいが、正直すでに別れる事を選択していたツェッドには有難迷惑でもあった。
それでもツェッドは眠っているリィリンの傍にいた。
リィリンはライブラではなく、もしもの時にと病院の一室に入れられていた。
その病院には人魚がいるなど広めておらず厳重に警備し、情報が漏れないよう口の堅い医者を選んでリィリンを診てもらっていた。
人魚は架空の生き物だと思っていたから専門医はおらず、もしもの時に備えて人間の医者と海の医者、動物の医者を揃えていた。
結局一度も使わずリィリンは自身の力で治癒したが…目も覚めたのですぐに退院となり海に帰るだろう。
(海へ帰る…リィリンさんとはもう会えなくなるわけか…)
自分で突き放しておいていざ会えないと思うと寂しく思う。
いつかこの気持ちも落ち着くのだろうか、とも思い、それもまた寂しいなとも思う。
結局別れると決めても、ツェッドの心にはリィリンが住み着いているのだ。
リィリンの涙がまだ脳裏に残っており、悲しませたのは自分だと思うと胸がいたい。
(帰る気がしない…帰ってルゥルゥさんになんて言えばいいんだ…)
ツェッドは家を持っていない。
寝泊りするという意味ではライブラの中にある一室がそうなるが、人間で言う『家』はない。
どちらかと言えば『寮』と言った方が正しいだろうか。
家、の事を考えるとすぐに脳裏に浮かんだのが、ライブラでは少数である家庭持ちのK・Kとスティーブンだった。
今日はスティーブンは前日で4徹していたので今日は休みで、ライブラにはいないはず。
K・Kも仕事がない場合は夕方にはすでに家に帰っているはず。
同じ独身であるレオナルドやザップ、チェイン、クラウスもそれぞれ帰る場所がある。
だけど自分には部屋はあるが家はない。
この時ばかりは家がない事に後悔していた。
―――pipipi
空を見上げているとポケットにある携帯が鳴る。
取る気が起きなかったが、仕事かと思い携帯の表示を見た。
そこにはクラウスと書かれており、上司の電話に慌てて出た。
「は、はい!」
≪ツェッド、今どこにいる?≫
「今、ですか…えっと……○○公園ですが…」
電話に出たのは急の仕事かと思ったからだ。
居場所を聞かれ今いる公園の名前を言えば『そうか』と呟かれた。
それに首をかしげていると、信じられない言葉を聞くことになる。
≪…ツェッド、落ち着いて聞いてくれ…≫
「え、は、はい…」
クラウスの声色は固く、ツェッドはその声色につられて背筋を伸ばし真剣な表情に返る。
頷いたツェッドにクラウスは少し間をあけ…―――
≪二人の姿が消えた≫
ツェッドはクラウスのその言葉に息を呑んだ。
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