(1 / 24) 露西亜人形殺人事件 (1)

その日、彩羽は金田一と美雪と佐木と共にいつきにある会社に呼ばれ、社員に応接室に通され待たされていた。
美雪と佐木、彩羽はまだ高校生という事で会社の応接室を興味深そうに見渡していたが、彩羽と美雪の間に座っている金田一は腕を組み怪訝とした顔を見せていた。


「何だろうな、いつきさんの用事って」

「きっとすごい事件が起こったんですよ!なんたってわざわざ金田一一探偵事務所に依頼してきたんですから!」


佐木からいつきが金田一に用事があるから来てほしいというのを聞き、金田一は指定された会社に訪れていた。
なぜいつきが自分ではなく佐木に連絡をするのか分からなかったが、『絶対面倒ごとだって!』と行きたがらない佐木と美雪に押されるようにここまで来てしまったのである。
『ほら!先輩!』と金田一とは反対にご機嫌な佐木が先ほどから弄っていたノートパソコンを金田一に見せる。
そこには『金田一はじめ探偵事務所― 俺に解けない謎はない!ジッチャンの名にかけて!! ―』とデカデカと題名が書かれていた。
それを金田一の影から顔を覗かさせた美雪が『なあに、それ』と問えば佐木は『ホームページですよ』と何でもないように答える。


「この間僕が立ち上げまして!今流行りの『バーチャルカンパニー』って奴です!で、第一の依頼者がいつきさんで…」


彩羽は興味深そうに見つつも、金田一を横目で恐る恐る見る。
金田一のこめかみがひくひくと痙攣するように動いているのを見て後ろへ身を引かせた。
その瞬間、金田一は佐木の開いているノートパソコンを押し付けるように閉じる。


「バァチャンだがジィチャンだが知らんが勝手に人の名を使うな!!」

「やめなさいよはじめちゃん!そんな大きな声出して!」

「うるせーーっ!―――って…なんでお前らがここにいんだ?」


自分の知らぬ間に探偵にされ、更には勝手にホームページまで立ち上げられ、勝手に自分を抜きで依頼主と交渉をしていた佐木に腹を立て声を荒げるが、それを美雪に咎められ怒鳴る様に八つ当たりをする。
だが、佐木はいつきと連絡を取り合っていたのでここにいるのは分かるが、なぜ誘ってもいない美雪と彩羽がいるのか金田一はやっと気づいた。


「ミス研部長なんだから当然でしょう?」

「私は今日お稽古もお休みだし、暇してたからついてきちゃった」


問われた美雪は(悪い虫がつくかもという)心配だからついてきたとは言えずそっぽを向き、彩羽は素直に答える。
あの桜樹の死後、ミス研は暫く休止となっていたが新たに美雪がミス研の部長となって再開した。
その中に金田一もいるのだが、彩羽は舞踊の稽古などで忙しく一応部員にはなっているが稽古がない日しか参加できていなかった。
いわば幽霊部員のようなものである。
その稽古が暇な日であるのが今日である。
それに今日は明智も絶賛仕事中なため一人でいてもつまらないと困っていたところに佐木達の会話を聞いて着いて来たのだ。
そんな2人に金田一は『こいつらそうとう暇なんだな』と失礼な事を思っていた。
その時、やっと待ち人が現れる。


「悪いな〜!わざわざ編集部まで来てもらってさ!おお〜!佐木君久しぶり!ホームページ見たよ!やるねえ!」

「いや〜!先輩の助手として少しは役に立とうかと思いまして!」


佐木といつきの会話を聞きながら金田一は『助手にした覚えねえけどな』と続けて零す。
ホームページは後々消させるとして…この場ではもう追及はしないのか金田一は何も言わなかった。


「早速だが紹介させてくれよ!『文芸常談』で副編やってる宝田光二さんだ」


いつきに続き入ってきたのは一人の男性だった。
いつきの言う『副編』、というのは副編集長の事で、その副編集長である宝田光二(たからだ こうじ)と紹介された男性は金田一達に笑みを向けた。


「いつきさんからお噂は伺っております、有名な探偵のお孫さんだそうで」

「はあ…」

「実はですね…個人的に極秘のお願いがありまして…」


正しくは、いつきが依頼主ではなく、宝田が本来の依頼主だったらしい。
宝田に相談を受けたいつきが、推理が得意な金田一を紹介したという物だった。
早速話をしようとしていた時、ノックが聞こえ、一人の男性職員が扉から顔を出し宝田に声をかける。
小声だが、宝田にどこかの証券から電話が入ったようで、それを聞いた宝田はチラリと金田一達を見た後、慌てた様子の口調で『後でかけ直すって言っておいて』と伝えた。
その様子に金田一は何か引っ掛かりを覚えたが、振り返る宝田に問うタイミグを失った。


「すみませんね、ここは落ち着かなくて…あまり人に聞かれたくない事でもあるし…場所を変えようかいつきくん」


問われたいつきは『そうっすね』と返し、こちらを見つめる高校生4人に宝田は誤魔化すような笑みを浮かべた。

――場所を会社から喫茶店に移し、案内されたテーブルにつきそれぞれ好きな物を頼んだ後宝田は話しを進めた。


「遺産相続?」


その話に金田一は怪訝とした声を零す。
遺産相続なんて金持ちの彩羽ならいざ知らず、一般家庭の金田一達にはドラマや小説などの世界でしかなく、あまり金田一はピンと来なかった。


「ええ、実は私にとっても降って湧いたような話で…とにかくこれをご覧ください」


遺産相続と言っても宝田が金持ちというわけではないようで、宝田自身も突然の事に驚いていた。
宝田に渡されたのは一冊の雑誌だった。
その開かれたページを金田一の左右にいる美雪と佐木が覗き込むように見る。
彩羽は人数の問題で金田一達の向かいの席であるいつきの隣に座っていた。


「あ、この人…最近亡くなったミステリー作家の山之内恒聖さんだわ」


美雪は金田一の隣から覗き込めば、見てほしいと言った記事の写真と名に見覚えがあり呟いた。
三人見た後、蚊帳の外になっていた彩羽に雑誌を渡し、彩羽も見ることが出来た。
記事には『山之内恒聖(やまのうち こうせい)』という名前と一人の男性の顔写真が写っており、その男性は作家であり、彩羽も名前くらいは知っている有名な作者だった。


「実はその山之内先生の遺産の相続人の1人に私が選ばれたんです」

「「ええ!?」」

「や、山之内恒聖の財産って言えば何十億っていう世界じゃないですか!!」

「うえ!?何十億!?」


山之内恒聖、と言われても金田一は全くもって推理小説などは読まないため男性の名も顔も知らなかった。
だから最初こそ鼻をほじって興味がなさげだったが、佐木の『何十億という遺産相続』という言葉に三人とは遅れて驚いた反応を見せた。


「宝田さんは長い事山之内版の編集者としてほとんど家族同然の付き合いを続けてきたんだよ…山之内は身寄りもいないし、そういう意味じゃ最も親しくしていた宝田さんに財産をってのもなんかいい話だろ?」


いつきの言葉に彩羽も『まあ、確かに…』と素直に頷く。
身内ならその話は当然だが、いくら身内がいないとはいえ他人に数十億という財産を与えようとするのは素直にすごいと思う。
しかしそれが親しい間柄なら納得いくかもしれない。
だが、現実はそう甘くはなく、やはり問題があった。


「ところが…ちょっと難しい条件がありましてね…それで金田一さんのお力を拝借したいと…」

「条件?」

「ええ…実は、その…相続人には私を含めて5人いるんです…全員先生と親しい友人や恩人で…ちょっとした素人楽団のようなものを組んでお付き合いしていた仲間なんです…事前に届いた案内状によるとまだ相続人は決まったわけではなく、我々はあくまで相続候補者にすぎないようなんです」


山之内が宝田だけに相続させるのではなく、どうやら宝田の他に付き合いがあった宝田を含めた5人の人間が遺産を相続できる権利があるらしい。
ではどうやって一人に絞るのか…それもちゃんと考えているらしく、山之内は相続資格を得るためのゲームを用意していたらしい。


「そのゲームっていうのは?」

「候補者達は亡き先生の指示に従って北海道の先生の別荘に行かなければなりません…そこで決められた時間の中で用意された暗号を解き隠された遺書を見つけた者だけに遺産を与えるっていうんです」

「要するにその暗号を解けと…」

「頼むよ金田一!俺のつまらん原稿をたまに拾ってもらってるんだよ、この人にはさ!」


金田一はあまり乗り気ではなかった。
というよりは興味がなかった。
自分がその対象でもないし、そもそもここに来たのだって佐木と美雪が無理矢理連れてきたから不貞腐れているのもあった。
とは言え、金田一もいつきに世話になっているのも確かだ。
『そのセリフ、巴川家の時も聞いた事あるようなないような』と頼むいつきの言葉を聞きながらそう思いつつ、とりあえずその暗号というのを見る。


「その暗号ってどんなものなんですか?」

「案内状の中に先生が作られた歌のようなものが同封されていました」


そう言って金田一に差し出したのは一枚の封筒。
その中に山之内が作った問題の紙を金田一は抜き取って広げる。


「『楽団は朝礼で前から順に首を刈られた さぁお次は数合わせ 2番の子の首を5番目の子の首の右に並べてみてごらん 楽しいリズムの始まり始まり』」

「何の事かしら…全然わかんない…彩羽ちゃん、分かる?」

「私も全然…」


佐木が金田一の手にある手紙をビデオに収め、美雪も手紙を覗き見る。
彩羽も興味があって席を立って後ろから覗き、美雪に問われるも秀央高校に並ぶ高校に通っていた頭脳をもってしてもさっぱりすっぱり分からない。


「どうでしょう…お手伝いいただけないでしょうか?」

「面白そうじゃないですか」


先ほどまでの金田一の反応に不安げだった宝田だったが、金田一が乗り気になったと知るとホッと安堵の息を吐いた。
金田一は興味がなかった依頼ではあったが、山之内が作ったという暗号に興味を持ち、そして北海道に行くことが決まった。

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