(2 / 20) 蝋人形城殺人事件 (2)

「―――?―――……彩羽?」

「――っ!」


彩羽は深い眠りについていたが、体を揺らされハッとさせて目を覚ました。
目を瞬かせた後目線を横へずらせば、銀髪に眼鏡が特徴の顔の整った男がいた。
その男の手にはハンドルが握られており、彩羽は今横にいる男の車に乗っているのを思い出す。
車には彩羽と男の二人しか乗っておらず、男が運転をし、助手席には彩羽が座っていた。
男は心配そうに彩羽をチラリと見た後前へ目線を戻す。
理由は簡単…男は運転しているからである。
男はもう一度彩羽をチラリと見た後ハンドルから片手を離し彩羽の頬に触れる。


「魘されてるようだったから起こしたが……顔色が悪いな…もしかして無理してないか?」

「ううん…ちょっと、寝不足で…」


頬を指の背で撫でるその手はとても優しかった。
その手は女の人のように華奢で柔らかくはなかったが、その大きな手は安心できる手だった。
彩羽は安心させたかったが、しかし逆に不安にさせたみたいで更に心配そうな表情に顔を曇らせた。


「寝不足…?やはり無理に誘ってしまったから無理がたたってしまったのだろうか…今からでも帰ろうか?」

「ち、違うの!健悟兄さん!その…兄さんと出掛けるのが楽しみで…」


『夜中々眠れなくって…』と少しずつ小声になっていく彩羽に健悟と呼ばれた男は目を瞬いた後笑った。
その笑みは嬉しそうな笑みで、兄と呼んだ男の笑みに彩羽も嬉しくなって釣られたように笑みを浮かべた。


「まだ目的地に着くまで時間がかかるから少し仮眠をしているといい…着いたら起こしてあげるから」

「うん、お願い」


兄と呼んだ男の言葉に甘え、少し座席の背もたれを少し後ろに下げゆっくりと瞼を閉じる。
会話も途切れた車内の中では微かなエンジン音だけが響いていた。


――暫くして、彩羽は再び兄の声と体を揺すられ目を覚ます。


「おはよう…着いたよ」

「おはよう」


肩を揺らされ目を覚ました彩羽の視界には兄の顔が映った。
端麗な顔が目覚めて最初に見た光景というなんとも贅沢な目覚めだが、残念ながら彩羽もまた端麗な顔の持ち主で、家族も端麗な顔に囲まれているので慣れていた。
彩羽としてはあっという間だった。
つい数分眠りに入り、すぐに起こされたと思ったが、車に備え付けられている時計を見てどうやらあれから数十分は経っているのが分かった。
欠伸をしながら返事を返す彩羽に兄は笑みを浮かべ頭を撫でた。
欠伸をするという行為を彩羽は家族の前では絶対にしない。
それを簡単に見せてくれるというのは、それほど彩羽が自分に心を許してくれていると言う事。
それが嬉しく思った。


「わぁ…立派なお城…健悟兄さん、ここが会場?」

「そう…バルト城と呼ばれるドイツの古城…そこでミステリーナイトというゲームが始まる」


車は中庭に停めさせてもらった。
他にも様々な車が停まっていた。
何となく車を見渡した後歩き出した兄に続く。
すると暫く歩くと立派な城が見えた。
その城は日本の歴史に建てられたものではなく、ドイツから丸ごと運ばれたらしい。
ドイツのテーマパークを作ろうとしたが、会社が倒産し計画が中止となり、引き取り手のない城は放置され、今日まで残ったということである。
その城を会場に、ミステリーナイトという謎解きイベントが行われる予定である。
ツアー形式のそのイベントには恐らく参加者が続々と集まっているころだろう。
彩羽は兄と呼んだこの男について来た。
…が、成績がいいとは思っているが兄のように推理が得意というわけではないので、彩羽はただ付き添いである。
それでも旅行は久々で楽しみなのは間違いではない。


「あれ…」


城へ続く一本の道を進んでいると、前方に歩く三人に気付く。
遠目だからハッキリとは分からないが、右側にいる男性が一番背も高くガタイもいい。
と言うことは成人している人間なのだろう。
ならその隣を歩く二人は自分と同い年か、近いのだろう。
何故かその二人が気になり、何かが引っかかった彩羽はじっと二人の背を見ていた。
つい声が漏れてしまったようで、隣で歩く兄に聞こえてしまい兄がこちらに振り返った。


「どうした?」

「その…前を歩く男の子と女の子…どこかで見た事があるような…」


兄に問われ言葉にすると更に釈然としない気持ちを感じる。
首を傾げてジッと目を凝らして見ても既視感は拭えず、『まあ、いつか思い出すか忘れるだろう』と自己完結させた。
兄が何か言いかけた時、少年少女が鉢合った新たな金髪の少女と城に入り、それを一人の男性が見送っていた。


「剣持警部」


兄はその男性に声をかけ、剣持と呼ばれた男は兄に呼ばれて振り返る。


「これは…明智警視……と…えっと…」

「この子は私の従妹の巴川彩羽と言います…彩羽、私の部下の剣持警部だ、ご挨拶を」

「はい…初めまして剣持さん、私は巴川彩羽と言います…いつも従兄あにがお世話になっております」


紹介されて剣持が兄と同業者というのが分かった。
しかし剣持は兄に頭を軽く下げた後隣にいた彩羽を見て怪訝とした目で見た。
それに彩羽は首を傾げたが、剣持に問いかけるよりも前に兄が彩羽を紹介した。
紹介され、兄からも挨拶をと言われ彩羽は一歩前に出て頭を下げる。


「い…従妹ォ!?明智警視の従妹!?」

「えっ…は、はい…従妹です…」


下げた頭を上げてニコリと笑みを浮かべた彩羽の耳には大きな声が届く。
驚きながら彩羽は剣持の反応に目を瞬かせ首を傾げた。
剣持は明智と彩羽を指を交互に差し目を見開き口をポカーンと開けて呆気に取られていた。


「…剣持くん…何か言いたいのなら言ってくださっても構いませんよ?」

「ファ!?い…いいい、いいえ!何も思ってません!!い、いやー!流石明智警視!従妹さんもお美しいですな〜!」


隣から静かな…更には重く地を這うような声に彩羽は上目で隣を見た。
その隣には勿論、兄…従兄の明智健悟がいた。
明智は眼鏡をクイッとブリッジを上げた。
ただそれだけだが、日の光が反射して光らせているのだから余計に恐ろしく見える。
静かな怒りを感じたのか剣持はビシッと背筋を伸ばした。
あからさまなご機嫌取りだが、明智は肩をすくめただけで返し小さく笑った。
それらを見ると、剣持と従兄の関係はそう悪くはないのだと彩羽は感じた。
明智は剣持の言葉に『当たり前です』と答え、相変わらず余裕たっぷりキザ男の明智に剣持は引きつった顔を浮かべる。
まるでコントのようなやりとりに彩羽はクスクスと笑った。

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