部屋割りは当選者に配られたパンフに書かれていた。
客室は東の塔と西の塔と別れており、塔から塔には小暖炉の間と大暖炉の間を通って遠回りして行くしかない。
一番端に明智、その隣には彩羽、金田一、七瀬、多岐川…とどうやら明智と離れなくて済むと彩羽は胸を撫で下ろす。
「はあ…なんか疲れた…」
彩羽は宛がわれた部屋に入る。
部屋は古城の雰囲気に合っている石造りの部屋だった。
居心地がよさそう…と問われれば疑問に思う程何か出そうな雰囲気の部屋だが、三日間寝起きするといずれは慣れるだろう。
荷物を適当に置き、彩羽は早速ベッドに腰を降ろす。
個室、ベッド…という事で緊張感が一気に抜けたのかどっと疲れを感じた気がした。
「ここに来てからなんか落ち着かないんだよね…古城っていう雰囲気だからかな」
靴を脱いでベットに横になれば、当たり前だが流石に布団は洗って干しているからかカビ臭いわけではなかった。
とは言えふかふかというわけでもなかったが、疲れた身体には丁度よかった。
うとうととしかけたが、7時前には準備しなければならないので瞑りそうになるのを我慢し、横になった体を起こした。
「しかし…まさかはじめちゃんと美雪ちゃんに再会できるなんて…世間って本当に狭いんだなぁ…」
彩羽はポツリと呟きながら目を覚まそうと洗面台へ向かう。
何度か水で洗った後、備品のタオルで顔を拭く。
すると扉が叩かれた音と共に美雪の声が部屋に響いた。
「彩羽ちゃん、いる?」
「ちょっと待って」
美雪の訪問に彩羽はタオルを元にあった場所に戻して慌てて扉を開けに向かった。
昔から出入り関係なく鍵を閉めるようよく明智に言われているので、かけていた鍵を開けて扉を開く。
声通り美雪が立っていたが、その傍には幼馴染の金田一もいた。
「どうしたの?」
「うん、まだ7時まで時間あるし…話がしたいなって思って…ほら、久々に再会したし色々話したい事とか沢山あるし…駄目、かな?」
美雪と金田一が来た理由としては一緒に食堂へ…と考えたが、指定された7時まではまだ時間がある。
暇を持て余すほど時間があるわけではないが、すぐ準備しなければいけないほど切羽詰まってはいない。
話す時間くらいは余裕にあり、彩羽は不安そうな美雪の言葉に慌てて首を振り、部屋ではなんだからと暖かい大暖炉の間で話すことになった。
「あ、ちょっと待って…」
携帯を持っていくため探したが、そう言えば没収されたんだったなと思い出した。
忘れたというよりは携帯を持っているのが当たり前で癖になっていた。
大暖炉の間へ向かおうとした時、ふと何かを思い出し足を止めた。
「どうしたの?」
「忘れ物か?」
「ううん…健悟兄さんに一言言わなきゃいけないから」
そう言って彩羽は来た道を戻り、明智の部屋へ向かった。
その後ろ姿を金田一は半目で見送った
「一々報告させてるのかよあの警視」
「彩羽ちゃん、綺麗になったもの…明智さんも心配なのよ」
「そういうもんかぁ?」
半目で呆れたような目線を向けたのは彩羽ではなく明智へだった。
明智が何かしたというわけではなく、ただ金田一がキザな男が嫌いだというだけである。
とは言え明智という男を心底嫌っているわけでなく、ただ単に気が合わないというだけである。
美雪の言葉に肩をすくめて金田一は返したが、内心納得はしていた。
彩羽は綺麗になった。
否…正確に言えば成長し更に磨きがかかったと言うべきか。
小さい頃も彩羽は美雪と同じく美少女だった。
それが成長し、成長途中の魅力が加わりさぞモテているのだろうと一目でも分かるほど綺麗になった。
美雪と二人で街を歩けばナンパ男は黙っていられないだろう。
だから明智が過保護になるのも分かる。
いくら平和ボケしている日本とはいえ、ストーカー被害は少なくはないのだ。
――彩羽は従兄の部屋の前に立ち、コンコンと扉を叩く。
中から従兄の声がし、従兄は彩羽だと分かるとすぐに扉を開けてくれた。
「どうした?」
明智もくつろいでいたのか上着は抜いてシャツだけだった。
用もなく来たと言うことは何かあったのかと心配そうな表情を浮かべる従兄に彩羽は慌てて首を振る。
「何があった?」
「違うの…美雪ちゃん達と大暖炉の間で話をしようって事になってそれを伝えにきたの」
「大暖炉の間?…話すだけなら部屋でいいんじゃないか?」
「だって、この部屋暗いし寒いもの……駄目、かな?」
「………」
『ね?ね?』と強請る様に上目で見つめる。
これは明智の従妹をして数年で得た必殺技である。
明智は彩羽に甘い。
それは彩羽も気づいており、上目遣いでお願いすれば無理難題以外は大概通った。
無理難題って言っても、断られた事は一度もなかった。
だからきっと大丈夫なのだろうと考える素振りを見せる明智を見ても彩羽は思った。
それでも待つ時間は長く感じるし、ドキドキ感はある。
恐る恐る見上げる彩羽に明智は、ふと困ったように笑った。
「仕方ない…着替えもあるし少なくとも一時間前には戻る事…いいね?」
「!、う、うん!ありがとう!」
予想通り、許可が降り、彩羽は嬉しくて顔がほころんだ。
その笑みを見て明智は本当に彼らとの再会が嬉しいのだと分かり、明智も釣られたように笑みを浮かべた。
『時間厳守だから、分かったね』と再度言われ頷いた彩羽の頭を撫でた後、明智は金田一達の待つ方へ向かって駆けていくのを黙って見送っていた。
その目はとても優しかった。
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