(21 / 22) 魔術列車殺人事件 (21)

高遠が逮捕され、彩羽達も同じ列車で帰る事になっていた。


「さーて!東京までひと眠り!」


人を殺した高遠は手錠をかけられ逮捕された。
しかし同じ人を殺した左近寺は逮捕されず堂々と自由を謳歌していた。
高笑いをあげ列車に乗り込む左近寺を美雪や佐木は悔し気に見送った。


「なんだか悔しいわね!こんなのって…」

「こんなにハッキリいてるのに証拠がないなんて!」


彼らの言葉に彩羽は無言だった。
証拠がない殺人事件…それは彩羽に最も身近な殺人なのだ。
明智が頑張って証拠を見つけるため動いてくれてはいるが…相手が相手だからか手出しするのが中々難しい。
今の法律はそれほどまでに誤認逮捕というものがどれだけ重い物なのかが分かる一方で、結局は世の中金と権力なのだというのも分かってしまう。
だからまだ若い母が自分からうんと年上である義父の後妻となったのも理解してしまう。


「高遠さん!あんた一体…」

「僕のやるべき事は全て終わったんですよ、金田一君…」


金田一が高遠を呼ぶ声で彩羽は我に返った。
金田一と高遠の方へ目をやれば何か話しており、高遠は金田一が何を問いたかったのか気づいているようで、先を遮る様に高遠がポツリと呟く。


「左近寺には近宮玲子『本人』が裁きを下すでしょう…―――燃え盛る『炎の鉄槌』をもってね」


高遠は『Good Luck!名探偵君!またいつか何処かで会いましょう!』とまるでいつか再会できるかのような言葉を金田一に向け、去っていった。
金田一は最後の…『炎の鉄槌』という言葉が引っかかるも、彼が何を言いたいのか結局は分からなかった。
高遠が列車に乗り込んだ後も金田一は暫く考えこんでいたが、いつまでたっても戻ってこない幼馴染に美雪が声をかけ、やっと現実世界に戻ってきた。


「なあ、彩羽…ちょっといいか?」


いつもの調子を装いながら美雪と佐木に謝る金田一の視界に彩羽も映る。
美雪と佐木はすでに車内に移り、それに続いて彩羽も列車に乗り込もうとしていた。
明智の姿はない。
恐らく警視としての仕事で彩羽の傍についてやれないのだろう。
ただ美雪や佐木、金田一達が一緒ならと明智は仕事に行ったらしいが、イヤミ警視とお互いライバル視している手前…その信頼は少々くすぐったくもあった。
金田一は彩羽が乗り込む前に聞きたい事があり、丁度誰もいないこの時を狙って彩羽に問う。
ギャラリーがいる前で言うべきことではないと金田一は思ったからだ。


「なに?はじめちゃん」


彩羽は乗ろうとしたが金田一に声をかけられ、振り返って小首をかしげる。
キョトンとさせる彩羽に金田一は少し言いにくそうにしながらも時間もないので単刀直入に問う。


「お前さ、高遠と知り合いだったりする?」


金田一の言葉に彩羽は目を瞬かせた。
高遠と知り合いかと問われた彩羽は考える素振りを見せるも…


「知らないよ…初めて会った人だよ」


そう答えた。
じっと彩羽を見るも、彩羽に不審な動きや隠そうとする素振りはなく…首を振る彩羽に金田一は『そっか』と答えた。


「はじめちゃん!彩羽ちゃん!なにしてるの?早くおいでよー」


ついて来ていない二人に気付いた美雪と佐木が迎えに来た。
それと同時にこの話は終了となり、金田一はいつものお茶らけた様子に戻り彩羽の背中を押して列車に乗り込んだ。


「………」


列車の予約は来る前からすでに行き帰り共に予約しているため、彩羽は明智と個室を予約しており、金田一達は行き同様一番安い予約も指定もない寝台。
なんとも世の中の不条理が垣間見える格差である。
美雪と楽しそうに話す彩羽の後ろを金田一はじっと見つめる。


(あれは嘘を言っているような目じゃなかった…じゃあ、本当に彩羽は高遠とは何の関わりのない他人って事か?……だけど…それにしては…)


金田一は彩羽が高遠とは知り合いではないという言葉を信じている。
だけどどこか引っかかりもあった。


(高遠が彩羽を見る目…あれはどう見ても他人を見る目じゃなかった…)


気付いたのは高遠が過去を語っていた時。
10歳の誕生日だと語った時の彼の表情は…怒り、恨み、腹立たしさを見せていた。
それと同時に高遠が目線を滑らせた先―――彩羽を見つめる目とても優しく穏やかで…愛し気だった。
しかしどこか悲しみも感じた。
周りを見ると誰も反応していない事から、あの高遠は金田一しか気づいていないのだろう。
だからこそ気になってしまう。
彩羽は高遠を他人とはっきりと言ったが、あの高遠の様子からしてどうしてもそうは思えなかった。
とは言えあの舞台裏や先ほどの表情と視線を除けば、高遠も特別彩羽を意識しているようには見えなかったから特別気にすることもなかったのだが。
しかし考えられる事が一つだけあった。


(…記憶喪失とか言ってたっけ……でも3歳までの記憶なんて記憶喪失じゃなくても誰も覚えてないだろうし…)


彩羽は3歳までの記憶がないと言った。
記憶喪失だと彩羽が言うから皆そうなのかと納得はしていたが…よくよく考えれば3歳までの記憶なんで持ってる人間は少ない。
確実にないと言いきれないのは、この世の中幼い頃の記憶がある人間も少なからずいるからだ。
高遠の様子からして他人とは思えないその様子に、金田一は記憶を失う前に知り合ったのだろうかと考えたが…


(でもなー…小さい子供と17歳の少女って…分かるか?普通…)


人間の成長は早い。
特に女の子の変わりようは男を凌ぐ。
だから高遠と彩羽がもし幼い頃に出会っていたとして、高遠が3歳だった彩羽と今の彩羽を見て気づくものなのかと疑問に思う。


(……でも待てよ…高遠はあの時…)


ふと、記憶がよみがえった。
しかし、確信もなければ、確かめたくても彩羽には記憶がない。
金田一は頭を悩ませていたが…


「ま、いっか…考えてもしょうがない」


結局思考を投げてしまう。
高遠も捕まり、彩羽との関わりは完全になくなってしまったのだ。
考えても仕方ないし、彩羽も気にしている様子もないんだから無駄に彩羽を困らせ悩ませる事もないだろうと金田一は結論付けた。
まあ、彩羽関係では舅な明智にグチグチ嫌味を言われるのが嫌だというのが本音ではあったが。
金田一は考えるのをやめ、楽し気に話す彩羽達の輪に入っていった。

あとがき→

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