高遠の言葉に左近寺達は目を丸くし言葉を失っていたが、すぐに我に返り高遠に噛みつく。
「でたらめを言うな!近宮先生に子供がいたなんて聞いた事ないぞ!!」
近宮玲子の事を知っているのは生き残っている団員の中でもう左近寺と桜庭しかいない。
残間は近宮玲子が亡くなった後に見習いとして入団した。
とは言え近宮玲子が子供がいたという話は近い人間でなくても聞いたことはなかった。
「皆さんがご存知ないのも無理はありません…僕だって母は僕が小さい頃に死んだと父から聞かされていましたから」
有名になればなるほど遺産目当てでその有名人の子供だと出てくる輩は存外どんな時代であれ多い。
それが家族がいると公表されていない者や隠している者ならば特に。
普通ならば高遠が嘘を言っていると思うだろう。
左近寺のように疑ってかかるだろう。
だが…彩羽には何故かすんなりと受け入れられた。
彩羽は否定する左近寺の声を聞きながら『ああ、そうなんだな』と思っていた。
「僕自身彼女に会ったのはほんの二回しかありません…物心ついた頃…僕はすでに父子家庭としてイギリスに住んでいました…」
高遠は母との思い出を語る。
イギリスに住んでいたと述べながら高遠はチラリと彩羽を見た。
ここで初めて高遠と目と目が合い彩羽はドキリとさせ、何故か傍にいた明智の服を掴む。
何故かは分からない。
ただ何故か分からない事が怖かった。
彩羽に向けた目線は一瞬だったため、すでに目線も金田一達に向けられ明智はこの緊迫した空気に怖がっていると思い、彩羽の手を握った。
擦れ違いではあるが、彩羽は従兄の手に安心した。
「――そう、あれは僕が7歳の時でした…ある日父がロンドン公演中のマジックショーに連れて行ってくれたんです」
近宮マジック団はとても有名で、海外でも評価は高かった。
そんなマジシャンをなぜか高遠の父は連れて行ったのだという。
高遠の父は家族サービスをするような人間ではなく、自分にも他人にも常に『完璧』を求める人間だった。
だから母の事だけではなく、父が珍しくマジックなどという娯楽に高遠を連れて行ってくれたという驚きもあってあの時の記憶はハッキリと残っていた。
そして…―――高遠は母と出会った。
「その華やかさに見せられて僕はいつの間にかマジックの練習をするようになったんです」
「血は争えないってわけか…」
「君と同じですよ、金田一君…」
あの時の母は輝いて見えた。
自分に気付いていない母は全ての観客に素晴らしいマジックを見せ楽しませていた。
そんな彼女もまた楽しそうに笑っており、高遠はすぐに魅了される。
呟く金田一の言葉に高遠は目を細め笑う。
「ただ僕は人を欺く事に"快感"を覚え…――君はそれを見抜くことに"使命感"を感じているようですがね」
「………」
高遠の言葉に金田一は何も言わなかった。
高遠も黙り込む金田一に気にすることなく、二回目の母との再会を語る。
しかし高遠は一瞬不快感を表すように顔を顰め、そしてある方へ目を滑らせる。
「次に彼女に会ったのはそれから三年後…私が10歳の誕生日でした…」
だがそれも一瞬ですぐに顰めた顔も元の薄ら笑いへと変えた。
あの初めての再会から三年後…10歳となった高遠はマジックの練習を公園でしていた。
気分転換というのもあったが、何より父にバレると面倒臭いのだ。
正直高遠は父をあまり好いておらず家ではいつも息苦しい思いをさせられている。
そのため家でいつバレるか怯えながらやるより公園などで練習した方が身になった。
公園で練習していた時、近宮が声をかけてきた。
一見すると小さなマジシャンを見かけたからマジシャンの先輩として気になって声をかけたという具合だろう。
しかし、母は息子だと知っていた。
高遠に会いに来ていたのだ。
なぜ離れ離れになったかは分からないが、自分を捨てたと思われても仕方ない。
だから母は母親だと名乗る事はできなかったのだろうか。
それとも父とそういう約束でもしていたのだろうか。
高遠には分からなかったが、息子が同じマジシャンを目指していると聞きあの頃は気づかなかったが今になって母は泣きそうな顔をしていたと気付く。
それからマジックを一つ教えてくれた。
高遠が先ほど言った『客にトリックを見破られたら自分から幕を下ろすもの』というのは母から教わった言葉だった。
楽しい時間はすぐに終わる。
去り際…母とはこう約束を交わす。
― もし坊やがマジックの練習をずっと続けていたら…とっておきのマジックのトリックを君にだけ教えてあげちゃおう ―
と。
「それ以後、僕は彼女に会っていません…」
その後、高遠はずっとマジックへの熱が冷めることなく熱中し、17歳の頃父が死んだのを機に本格的にマジックの修行に出ようと決意した。
死んだ父の遺品を整理していると、偶然父の若い頃の日記を見つけた。
そこには昔の父と近宮玲子との思い出が書かれており、その中には遙一という息子を生んだという事も書かれていた。
正直、高遠は驚きはなかった。
『ああ、やっぱりね』と思った。
それでも会いに行かなかったのは感動ものが苦手というのもあったが、何より彼女との約束を守りたかったからだ。
― 18歳になったら誕生日プレゼントとしてをあげるわ!それまでちゃんとマジックの勉強し続けなきゃだめよ? ―
という約束を高遠は覚えていた。
だからどうせ彼女に会いに行くのなら、同じマジシャンとして…一流になった自分を母に認めてもらいたかったからだった。
だが、そのプライドが後に悲劇を生むことになる。
「彼女の死を知ったのはそれから一年後…イタリアで修行していた時です…正直言ってかなりショックでしたよ…僕が一流マジシャンになる前に彼女に死なれてしまったんですからね…」
そう語る高遠は悲し気に見えた。
――しかし悲しみを乗り越えながら修行を終えて3年ぶりにイギリスに帰国し実家に帰った時。
溜まりに溜まった郵便物の山に…"それ"は埋もれていた。
消印を見れば"それ"が届いたのは2年前…高遠が18歳の誕生日の日付だった。
「これがその時送られていた――『トリックノート』です」
"それ"とは近宮玲子が書き溜めていたトリックノートだった。
近宮玲子が明智に語っていた『あの人』とは、息子である高遠遙一の事をさしていた。
「彼女のトリックノートは2冊あったのか…!」
「ええ…左近寺達が奪ったのは彼女が自分用に書き写した物でしょう」
左近寺は高遠の言葉に何も言い返さない。
高遠はチラリとも左近寺を見ることなくじっと母から送られたトリックノートを見下ろしていた。
「そして僕は日本へ向かいました…近宮玲子の弟子たちが作ったという幻想魔術団の舞台へ足を運んだのです…ところが…そこで見たものは…」
高遠はその後日本に向かい、母の弟子だという4人が立ち上げた幻影魔術団を見に向かった。
そのマジックを見た瞬間、高遠は衝撃を受ける。
なぜなら…
「驚きましたよ…幻想魔術団のオリジナルとしてのマジックのほとんどは近宮玲子の『トリックノート』に記されたマジックと全く同じなんですから!!」
母から届いたトリックノートと同じ内容のマジックがそのまま舞台で披露されていたからだ。
それを見た時周りの客のように高遠は笑えなかった。
高遠は母の死が転落死だという記事を思い出す。
そして、すぐに疑問視した。
記事は表面的な部分しか書かれていないため、高遠は明智のように疑うことはなかった。
しかし母と自分しか知らないマジックを彼らは舞台で披露していた。
それはつまり…―――母は彼らに殺されたということ。
「僕はその事実を確かめるためにマネージャーとして『幻影魔術団』に入りました…」
証拠を掴むため、幻想魔術団に入った高遠は時間がかかると思っていた。
だが、相手は意外と早くボロを出してくれた。
夕海、由良間、山神が楽屋で話しているところを偶然聞いてしまったのだ。
話からして母を追いつめたのは確かだが、3人は殺すつもりはなかった。
だが、夕海が桜庭から左近寺が天井裏にこっそり入っていくのを見たと二人に話しているのも聞いてしまった。
その瞬間、高遠は誰に復讐するかが決まった。
夕海、由良間、山神…そして母を転落死に見せかける細工をしっという左近寺。
高遠は彼らが母を殺したのだと知ると後はじっくりと考え4人を殺す計画を立てた。
誰もが高遠の話を聞き黙り込んでいたその時――
「おいおい!いつまでそんな殺人鬼に好き勝手喋らせとく訳?早くしょっぴいちゃってくださいよ!刑事さん!」
割り込んできたのは左近寺だった。
近くにいた残間と桜庭は左近寺の声にビクリと肩を揺らし、高遠の話に入り込んでしまっていた彩羽もハッと我に返る。
「ほらよ!あんたが言っていたトリックノートだ!」
左近寺は懐から捨てる様にトリックノートを出した。
トリックノートは床に放り投げられ、そのノートを見た剣持が険しい表情で左近寺の胸ぐらをつかむ。
「貴様!!やはり…」
「貰ったんですよ!近宮先生から!大体僕が天井裏に行ったからってそれだけでどうして僕が近宮先生を殺したことになるんですか?それだけじゃ証拠になんないでしょ〜?」
「貴様ァ…!」
左近寺の開き直った態度に剣持は腹を立てた。
しかし左近寺の言う通り高遠の言葉は証拠にはならない。
所詮憶測にしかすぎないし、開き直ってしまえば誤魔化しも利く。
だから強気だったのだろう。
彩羽も高遠の言葉を信じ、左近寺を睨むように見ていた。
彩羽も腹を立てていたのだ。
地位と名誉のためだけに人を殺して平然といられる左近寺が。
見ていて腹立たしく感じた。
「もういいですよ刑事さん」
「何!?」
「それより左近寺さん、このノートいただけませんか?母の形見ですし」
落ちている母のノートを高遠はペラペラと捲って見ていた。
最後まで見たからは分からないが、ある程度見終わった高遠は胸倉をつかむ剣持を止める。
納得がいかない剣持をよそに、高遠は左近寺にノートを譲ってくれと言い出す。
そんな高遠に左近寺はニヤリと笑った。
「ああ!持っていくがいいさ!そいつはもう用済みだ!中身は全部頭に叩き込んであるんでね!」
トントン、と己の頭を叩く左近寺に高遠は…
「そうですか」
とだけ返した。
彩羽は一瞬高遠が笑ったのが気になった。
「たかと…」
「さ、行きましょう刑事さん…私はノートを取り返しただけで満足です」
それは彩羽だけではなく、金田一と明智も気付いた。
しかし金田一が聞こうとしたが高遠は剣持に声をかけ金田一の声を遮り…高遠の手首に手錠がかけられた。
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