(1 / 17) 学園七不思議殺人事件 (1)

彩羽は買い物に出かけていた。
あの葬儀の後母の部屋を片付け、自分の荷造りして彩羽は東京に戻ってきた。
籍は巴川のままだが、住居は東京にある明智の自宅に厄介になることになった。
彩羽はすでに母も父も亡くなり、頼れる親戚と言えば明智家しかいない。
彩羽は全く明智を意識していないが、明智の方は嬉しさ半分、理性との戦い半分と覚悟している。
更にありがたい事に千里(せんり)と明日香(あすか)達はいつでも来ていいからと彩羽の部屋をそのまま取っておいてくれるらしい。
母の私物を全て売り、懐も潤っているため明智の家に厄介になる際の家具などは全て自腹で――――と言いたいところだが、巴川家と明智が出してくれた。
彩羽は自分の使う物だからと断ったのだが、明智も巴川も『そのお金(初音の私物を売って出来たお金)は将来のためにとっておくといい』と言い、『少し早い入学祝い』とも言われ彩羽が何かを言う前に両家半々にすでに支払いが終えていたのだ。
どうやら明智と巴川家のわだかまりが消えたが、まだお互い彩羽争奪戦は続いているようである。

彩羽はすでに引っ越しも終えており、転入も決まりあと数日の休暇を満喫していた。
明智も忙しい身なのに最初くらいはとちゃんと定期で帰ってきてくれる。
先ほど夕飯の買い出しを終えて、マンションのエレベーターの前にたどり着いたばかりだった。


「今日はちょっと買いすぎたかなぁ…でも兄さんの冷蔵庫、ほとんどなくなっちゃったし…」


今日は安かったためか、少し買いすぎてしまい両手が塞がっていた。
それもキャベツやら白菜やらニンジンやら重たいものばかりだった。
流石に二人暮らしなためキャベツや白菜は丸々一個買うと逆に腐ってしまうため半分に切られているものを購入。
それでも多いとは思うが…これから自分と従兄の弁当も作らなきゃいけないので腐る事はないだろうと思いたい。
大量に買うほど冷蔵庫に何も入っていないというわけではない。
明智も自炊はしているらしく卵や野菜や肉など入ってはいたが、疲れて帰ってきて作る気が起きずほとんど外食で済ます事が多いのか二人分となるとあっという間に使い切ってしまったのだ。
周りに誰もいないので助けも求めれず仕方ないと利き手に握られている買い物袋を降ろしてエレベーターの呼び出しボタンを押した。
安全面などを考えると仕方ないとは言え、こういう時上の階に住んでいるのは不便ではある。
エレベーターは上の方に止まっていたらしく、中々来ない。
早く来ないかなー、と思っているとやっと一階に到着したのだが、ガラス越しに見えるエレベーター内に1人の男性が乗っているのが見え、彩羽は出てくる人のためにと入り口脇に移動した。


「ボタンを押しますよ…何階ですか?」

「あ、すみません…」


扉が開かれ出てきたのは宅配の人だった。
帽子で顔までは分からなかったが、20代ほどの若い男性だった。
彩羽の手が荷物で塞がれているのを見たのか、男性は彩羽に代わって彩羽と明智の住む階のボタンを押した後、閉まるボタンまで押してくれた。
閉まる前にそれにお礼を言えばニコリと笑い頭を下げて返す。
彩羽に背を向けて仕事に戻る男性を見て彩羽は『ああいう何気ない気配り出来る人がモテるんだろうなぁ』と思いながら見送った。


「あれ…荷物きてる…」


1人のエレベーターは静かなものだが、一人しかいない階エリアの廊下もまた静かなものである。
それも外から見えないようになっているため、廊下も壁に囲まれ足音しか響かない。
自分と従兄の自宅まで歩いていると、玄関脇にダンボールが置かれているのが見えた。


「兄さんが何か頼んでたのかな…でも何も言われなかったし…それに普通留守だったら不在連絡票がポストに入ってるはずなんだけど…」


歩み寄って見てみれば綺麗にテープに止められていた。
しかし先ほどまで彩羽は買い物に、そして明智は仕事で家は誰一人おらず留守だったはず。
留守の場合、宅配便の人はそれぞれの会社の不在連絡票という紙をポストに入れて連絡があるまで荷物は預かるはず。
だが、宛先にはちゃんと巴川彩羽と自分の名前が書かれていた。


「まさかブラック会社?―――っていうか私荷物頼んだ覚えないんだけど…」


恐らく届けてくれたのはあのエレベーターで会った男性だろう。
違うかもしれないが、つい宅配便の人の制服を着ていたためそう思ってしまうのも仕方ない。
気が回れるけど仕事は出来ない人なのだろうかと思う彩羽だったが、そもそもだ…そもそも彩羽は荷物を頼んだ覚えはない。
しかしつい最近引っ越したばかりなのでもしかしたら巴川家から何か送られて来たのかと思い送り主を見たが、何も書かれていなかった。
その時点で怪しさ倍増である。
倍増というか…留守なのに荷物を置いていく時点で怪しすぎる。


「どうしよう…兄さんに連絡…したら絶対にすぐに来るからなぁ…仕事中でも犯人を追跡中でも駆け付けて来そう…」


兄が自分に惚れているのは気づいていた。
それでなくても兄は自分に対して過保護だ。
怪しいのだから警察に連絡するのは当たり前だが、何を前にしても自分を優先にする兄の性格を知っているためかつい尻込みしてしまう。
耳を傾けてみてもカチカチと時計の音もしないので、とりあえずよくドラマなどで見る爆弾ではないのは分かった。


「……まあ、いっか…」


宛先は自分だし、と彩羽は考えるのを放棄し持って入る事にした。
鍵を開け玄関先に買い物袋を置いてダンボールを持って入る。
明智にセキュリティー性が高いマンションでも危ないからと鍵をかけるよう言われているのでそれを律儀に守り鍵をかける。
ダイニングルームのテーブルにダンボールを乗せた後、玄関先で置いていた買い物袋を取りに向かった。
ダンボールを開けるより前に買い物袋の中身を冷蔵庫に入れて、何も入っていない買い物袋を畳んで小さくしてキッチンの棚に入れる。
家の物は自由にしていいと言われているが、特に仕事で帰りが遅く料理する暇がない明智に代わって彩羽は料理を任されており、キッチンはすでに彩羽の城と化している。
巴川家では使用人が作ってくれていたので彩羽は恥ずかしながら料理は素人である。
むしろまだ明智の方が上手い。
明智も彩羽には苦労をさせたくはないと思い、家政婦を雇うまで考えていたが、居候をさせてもらうんだから何かさせてという彩羽に家事を任せることにした。
掃除などは得意ではないが不得意でもないのでそれなりに出来ているが、やはりまだ料理はレシピを見ないと作れないし、洗濯物の分類もまだ意味が分からず、洗濯機も説明書を見ないとスイッチ一つ押せない。
まだ洗濯はマシだが、料理はまだまだ課題が多い。
時折どろこか頻繁に失敗するが、それでも明智は美味しいと言ってくれる。
しかし自分で作った物を食べてみてもまだ自分でも合格点が出ないほど美味しくはない。
きっと明智は彩羽が傷つかないよう気を使ってくれたのだろう。
だがそれでも美味しいと言ってくれるのは嬉しかった。
最近の目標は、気を使った『美味しい』ではなく、本当の『美味しい』を聞くのを目指して料理の勉強中である。
おかげで最近になってやっとレシピや使い方を見ずに炊飯器でご飯を炊けるようになり、(まだ味の薄い濃いはあるが)味噌汁もレシピを見ずに作れるようになったし、目玉焼きやおにぎりやサンドイッチなど簡単なものならレシピを見ずに作れるようになり自分の好みに具材を替えたりと柔軟となっていた。


「さて…開けようかな…」


夕食までまだ時間があり、兄の帰宅もまだ時間が余っている。
まだ学校に行っていないので午前中で家事を終えたので後回しにしていたダンボールを開けることにした。
カッターで透明のテープを切って開けて中を覗き込んだ彩羽は目を丸くし驚愕の表情を浮かべた。
ダンボールの中に入っていたのは…―――

1 / 17
× | back |
しおりを挟む