救急車と共に、パトカーも同時に到着した。
暗闇にパトカーと救急車の点灯が酷く明るく感じた。
「おっさん、俺と彩羽の乗るパトカーがないんだけど…」
真壁と鷹島と佐木は同じパトカーで送ってもらう事になった。
しかし、パトカーは二台しか到着しておらず、一台は真壁達で金田一と彩羽が乗るスペースはなく、そしてもう一台は立花が乗るため流石に事件を解決したとはいえ殺人犯と金田一達を乗るわけにはいかない。
剣持も警部として立花を連行しなければならないため金田一と彩羽を送っていく事はできない。
真壁達が乗るパトカーを見送りながら『俺らは歩いて帰れって事かよ』と愚痴る金田一に剣持は困ったように頬をかき『それがな』と事情を話そうとしたその時―――
「彩羽!」
「兄さん!?」
彩羽は不貞腐れる金田一に苦笑いを浮かべていると今一番聞きたい声が耳に届き、弾かれたように振り返る。
そこには見慣れた高級車から降りた従兄――明智がいた。
整った顔を心配そうに染めながら彩羽に速足で駆け寄り、彩羽に怪我がない事を確認すると安堵の息を吐いた。
「なんで兄さんがここにいるの?」
「剣持君から聞いていたから終わった頃だろうと思って迎えに来たんだ…ついでに金田一君を送ってあげようと思ってね」
「ついでってなんだよついでって…」
「おや、これでも労わっているんですよ…へこたれていた君が七瀬さんに尻を叩かれて事件を解決してくれたわけですし」
「へこたれてないし美雪に尻を叩かれたわけでもないわ!!なんであんたは嫌味でしか人を慰められないのかねー!ホントーに彩羽の従兄かよ!!」
「ええ、彩羽の従兄ですがなにか?」
「きぃー!開き直った顔ムカツクわー!」
「もう!二人ともやめてよ!近所迷惑だよ!」
明智の姿に彩羽はやっと安心することが出来た。
明智は仕事を終わらせたが、剣持から金田一がまたやる気になり、これから犯人を追いつめると聞いて頃合いを見て迎えに来た。
ついでに金田一も送っていこうと、三台の予定だったパトカーを一台減らした。
明智曰く『ただの経費削減ですよ』と言うが、彩羽には『ああ、心配だったんだね(はじめちゃんが)』と気づかれていた。
あえて言わなかったのは、彩羽もこの二人には二人の空気があるのを知っているからだ。
とりあえず騒ぐ二人を彩羽は叱るが、内心落ち込んでいた金田一がいつもの様子に戻った事に安堵した。
「では剣持君、後はよろしくお願いします」
「はい、警視もお疲れさまでした」
事件が重なり、剣持班と明智班と別れて捜査していた。
偶然にも両班の事件が同時に片付き、徹夜漬けだった明智やその班の刑事達には明日は休日となっていた。
いつも通りキラキラを背負いつつもその顔色は悪い上司に心からの労わりの言葉をかけ、立花を乗せたパトカーに乗り込み剣持は警視庁へと帰っていった。
「そういえば…夕食、まだでしたよね…どこかに食べに行きますか」
「え゙」
時計を見ればすでに夕食の時間を疾うに過ぎていた。
元々彩羽が作る約束をしていたが、すでに時間が時間だったため彩羽のためにその約束は別の日にとなった。
だから"ついで"に金田一も誘えば、金田一は明智の誘いに顔を青ざめて一歩後ろへ下がる。
それはまるでこの世の終わりだと言わんばかりで、金田一の反応に明智は目を細める。
「…なんですか、その反応」
「いや、だって…まさか明智さんからお食事のお誘いがあるとは思いもしなかったし…あんた大丈夫?彩羽から連日泊まり込みだって聞いたし…仕事のし過ぎで死ぬの?明日が命日なの?」
「そうですか、よほど君はここから一人で帰りたいようですね…君がそこまで言うのであれば仕方ありません…彩羽、帰るぞ」
「ああああ!うそうそ!嘘だって!冗談だよ!冗談!わー!うしいなー!何食べさせていただけるのかなー!回らないお寿司かなー!」
「何気なく高い店をリクエストするのやめてください…今は君を寿司屋に連れていくほど持ち合わせがないのでファミリーレストランで済ませますよ」
時折剣持からおごってもらう事はあるが、明智からは一度もない。
何度か要求して奢ってもらう事はあったが、明智からの食事の誘いは初めてだった。
『槍でも降るのかな?』と夜空を見上げる金田一に、明智は彩羽の背を押して二人で車に乗り込み金田一を置いて行こうとした。
それに慌てて金田一はご機嫌取りしつつ自分のリクエストを入れる。
そんな金田一に呆れつつも明智はきっぱりと断った。
連日泊まり込みで碌に銀行に行っておらず、サイフにはそれほど持ち合わせがあるわけではない。
彩羽ならまだしも大食いの金田一を連れて行って奢れるほど今は持っておらず、『次なら構いませんが』と何気なく次の約束も交わす。
何だかんだ言って明智も金田一を気に入っており、今回立ち直った事は素直に嬉しく思っていた。
高級店ではないものの奢ってもらえるならと金田一は文句もなく、彩羽も異論もなく、その場は満場一致で24時間営業のファミリーレストランに行くことに決まった。
そうと決まればと金田一は明智から携帯を借り家に電話をした。
――ファミリーレストランは夜のピークもとっくに過ぎているというのもあって待たずにすぐに案内された。
人の奢りという事で金田一は明智の予想通り食べ盛りの男の子を超えた量を頼み、そしてそれを全て平らげて見せた。
何度見てもその大量の料理を全て胃の中に入れる様は見ていて気持ちがいいと彩羽は自分のペースでゆっくりと食べながらそう思う。
明智もマナーのない食べ方に文句を言いながらも集りの誘いを断らないところを見ると金田一との食事は嫌いではないようだった。
楽しい食事であるものの、『やっぱり美雪ちゃんがいないと寂しいな』という言葉を彩羽は口の中の食べ物と一緒に呑み込んだ。
食事も終わり、明智は金田一を家に無事届け、大人として、そして警察として未成年を遅くに連れまわしたという事で明智は金田一の両親に謝罪をするため挨拶をするため玄関先ではあるがお邪魔した。
相変わらずイケメンな明智と美少女の彩羽に弱い母親は謝る明智に『明智さんのお役に立てるなら遠慮なくどんどん使ってやってください!』と怒らずむしろ馬車馬の如く使ってもいいという許可を出す始末。
明智が来ると母親の機嫌は良くなるので嫌ではないのだが、こういう所だけは勘弁してほしいと思っていた。
このままいけば『このまま泊ります?』と言いかねないため金田一は母親を押しのけ主に明智を追い払う。
「彩羽」
「ん?」
当たり障りのない挨拶を終え、明智は彩羽と共に帰ろうと玄関を出て車の鍵を開ける。
彩羽は定位置である助手席のドアを開けようとした時、見送る金田一に呼び止められた。
金田一の方へ振り返れば、金田一は照れたように頬をかき彩羽から目線を逸らしていた。
「あの、さ…………ありがとな…その、嬉しかった」
そう呟く金田一に彩羽は『え?』と小首を傾げた。
聞き返そうとする前に金田一は慌てたように『じゃあまた学校でな!』と言って挨拶もそこそこに家に入って…いや、逃げ込む。
彩羽は目を瞬かせた後、金田一が何に対してお礼を言ったのかすぐに分かりくすくすと笑みを浮かべながら車に乗り込んだ。
「さっきの、何だったんだ?」
車のエンジンを掛け家に帰るためアクセルを踏む。
心地のいい低音に耳を傾ていると、明智に問われ彩羽は窓からの風景から明智へと振り向く。
運転中だったため明智は前を見ており、相変わらず涼しい顔をしていたが、長い付き合いの彩羽には金田一との会話が気になって仕方ないと言わんばかりの表情にしか見えなかった。
金田一が彩羽に惚れる危険性はないと知っていながらも嫉妬する従兄に彩羽は内心『可愛い』と思った。
「気になる?」
「勿論…彩羽を愛しているからね…小さな事でも気になるな」
彩羽はちょっとした意地悪をしたくなった。
従兄の問いに答えずコテンと小首をかしげて上目で見てみる。
運転しているから見えないかもしれないと思ったが、心底自分に惚れているらしい従兄が気づかないわけがないという無駄な自信もあった。
それは当たっており、嫉妬していた明智はその愛らしい小悪魔な態度に機嫌もなおっていくのを自分でも感じた。
金田一には美雪がいるので心配はないが、やはり気になる事は気になる。
イケメンエリートも恋の前ではただの男であった。
何だか気分がいい彩羽は口元に人差し指を持っていき、
「内緒」
そう微笑みを浮かべた。
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