(7 / 208) 王家の紋章(旧) (7)

熱も下がり、ベッド住民というレッテルから解放されたハヅキはある部屋に移動する事となった。


「なんで移動するんですか?」

「姫様を心配なされたメンフィス様が近くに、と…姫様にもしもの事があれば真っ先にメンフィス様が駆けつけてくださいますゆえにご安心ください」

「………」


姫様、姫様…と姫になった覚えがないのに女の人や兵の格好をした男達に守られ着替えさせられる日々のハヅキはちょっとうんざりしていた。
しかし外に出ようものなら女達は悲鳴をあげ、兵達が駆けつけてハヅキを部屋に戻す。
それの繰り返しでハヅキは寝台を外の見える場所に移動させてそれで我慢してくださいと寝かされてしまった。
それ以上にここに来て自分の足で歩いた事はあまりないこの窮屈感に我慢ならなかった。
しかもメンフィスに溺愛されているため権力も姉だというアイシスを凌ぐとも言われている…
そんなストレス生活だと言わんばかりの生活もハヅキの体調の悪さの原因でもある。


(お引越しするって事で少しは過保護さも治ると思ったのに…なんか酷くなってる気がする…)

「どうした、そんな不機嫌そうな顔をして…」


頬を膨らませて不機嫌です、と言わんばかりの表情を見せるハヅキを見て、来ていたメンフィスは近づきながら笑っていた。
メンフィスの登場に周りの女や兵達は頭を下げ、ハヅキはそんな周りに慣れたようでメンフィスを見上げる。


「メンフィスさん、私外に出たいです。」

「それは駄目だ。いくら私の部屋に1番近いからと言って完全にお前を守れん…それにお前は体が弱いんだ…倒れてしまうぞ?」

「私そんなに弱くないんだけど…」

「いいや。お前は小さい頃からよく貧血で倒れていたからな…覚えていないだろうがどんなに父上や私達を冷や冷やさせたか…」

「………」


この部屋は以前メンフィスが使っていた部屋。
今日からその部屋をハヅキが使う事となり警備も万全になっている。
周りを見れば兵兵兵。
横を見れば女女女。
ハヅキは周りを見渡す度に重い溜息をつく。
自分を記憶喪失だと思っている周りはどんなに人違いだと言っても聞いてくれないうえに悲しげな表情をするのでもう人違いですとは言えなかった。
黙ってしまったハヅキを見てメンフィスは少し悲しげな目を見せる。


(少しずつでいい…少しずつこの国のこと、私のことを思い出せばいい……ハヅキは私を忘れても私が教えて思い出させてやる…)


あれからメンフィスはハヅキに記憶を失う前のことを教えることにした。
黙って見守るのでは思い出すのも思い出せないのではとミヌーエに言われメンフィスは即行動し、今に至る。


「ハヅキ、お前は私と姉上の妹だというのを話したな…」

「あ…はい…」

「ではお前の母の事を教えてやろう」

「母…」


寝台の傍に座りメンフィスは横になっているハヅキの髪を撫でながら優しく口を開く。


「お前の母はエジプトの人間ではない…外国の人間だった」

「外国の…」

「私がまだ子供の頃…あの方はこの国に身一つで嫁いで参られた…そう、あの時はまだ私は子供だった…だから外国の人間に興味を持ちよく周りの者を撒いてお前の母…ヤエ様の所に遊びに行っていたんだ…」


メンフィスは懐かしそうに目を閉じる。
そんなメンフィスにハヅキも興味深そうに聞き入る。


「倭の国の出身だというヤエ様に勿論反対していた家臣達だったが父との子がいると知ると渋々受け入れた」

「その子供って…」

「お前だ、ハヅキ…お前はエジプトの血と倭の国の血…2つの血を受け継いでいるのだ」

「倭…」


『倭と言えば確か日本…だったっけ?』、とハヅキは頭の中の情報を掘り起こす。
エジプトの王族に日本の血など聞いていないしそれより日本はエジプトより長い国ではないため少し混乱していた。
そんなハヅキに気付かずメンフィスは続ける。


「ヤエ様は素晴らしい方だったぞ。優しく、暖かく…私と姉上を本当の子供のように可愛がってくださったのだ…私達もヤエ様に懐き妹であるお前を可愛がった…だがお前は体が弱くてな…エジプトで生まれここに来る前は普通の子供だったらしいがどうやら環境の変化についていけなかったからではと医師が言っていた…」

(だから私って病弱設定にされてたのね…)


メンフィスの話を聞きながら大袈裟にする原因が分かった。
しかし、こちらに来る前は元気一杯な健康な人間だった為どうもジッとしてるのは辛い。
眠気も昔より多くて眠っている事が多いのだ。


「しかし…まだ私達が子供だった時…ヤエ様は亡くなられたんだ…」

「え…」

「………お前は反対派によって殺されそうになったのを父によって救われたんだぞ…」

「…………」

「安心しろ。これからは私がお前を…ハヅキを守ってやる。ハヅキは私の妹なのだからな。」

「…メンフィスさん……」


不安そうな顔をしていたのだろう。
メンフィスは安心させるような表情を見せハヅキの頭を撫でる。
自分の過去を聞かされ混乱しているハヅキはその後、眠りにつきメンフィスは時間が許す限り妹の寝顔を見つめていた。

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その時代に日本は生まれてねーしエジプト行けねーだろ、という突っ込みはなしの方向で…

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