(10 / 13) (10)
直継とエマとアカツキはお互いフレンドリストに登録し、晴れてアカツキはエマと直継のパーティーに入った。
その頃にはもう良い子は寝る時間となり、空はとっくに真っ暗闇と化していた。
「そういえば、アカツキさん今まで寝泊りどうしてたの?」
「うむ…お金等はこちらに来る前のままだったからな…少し安い宿で泊まったり、その辺で野宿などしていた」
「えっ…野宿って…大丈夫だったの?」
「ああ、あの頃は男の恰好だったし、私は暗殺者だからな…気配を消すのは得意だ」
「あ、そっか…」
もう帰らないと心配になって我慢しすぎて精神崩壊しはじめるであろうマリエールの帰れコールが始まる、とエマは足を三日月同盟へと向ける。
しかし、ふ、とエマはアカツキへ振り返った。
直継はすでにエマと行動していたため三日月同盟に帰るのはおかしなことではない。
ずっと三日月同盟に世話になるわけにもいかないため情報をある程度収集して周りももう少し落ち着いたらどこか寝泊りできる場所を探すつもりではいた。
直継ともそれを相談して二人で決めている。
ただ三日月同盟には、ヘンリエッタ以外には誰も言っていない。
それを言ったときヘンリエッタですら渋い顔をしていたのだからエマを妹として溺愛しているマリエールに言ったら大反対どころか暴走して拉致監禁もあり得ない話ではないから黙っておいた方がいい、と直継から言われたのだ。
エマは考えすぎだと思ったのだが、その時の直継の顔があまりにも真剣だったために笑って済ます空気ではなかったのだ。
そこで、エマが気になったのはアカツキの存在だった。
一度連絡した時はまだアカツキが仲間になると考えていなかったためマリエールにはそのことを伝えてはいない。
もう一人増えて迷惑じゃないだろうか、とエマは不安がよぎった。
今までどうしていたかと聞いてみれば返ってきた答えに納得する。
暗殺者は戦士型とは違い、まさに《アサシン》という呼び方のイメージ通り闇に溶け込み気配を消し敵を排除するのを得意とする職業である。
エマが付与術師としてか弱い女の腕にも負けるほどの紙装甲なのと同じように、エルダー・テイルの設定はそのまま反映されているようで暗殺者が気配を消すことなど造作もないことなのだろう。
だから今まで調子が悪くても生き延びていたのだ。
「…………」
「大丈夫じゃないか、エマ。」
「え…」
「マリエさん、きっとエマのお願いを二つ返事で受け入れてくれると思うぞ。」
三日月同盟は大手ギルドではない。
小規模でもないが、だからと言って甘えてばかりでは申し訳ない。
こちらは情報という利益を出しているとはいえ、マリエールの人の好さに付け入るようなことは出来るだけしたくなかった。
顎に手を当て考えていたエマだったが、直継に突然声をかけられハッとさせる。
小首を傾げるエマの頭を、直継は乱暴にかき混ぜるように撫でてやり、背中を押してやる。
直継は小難しい顔をしながら考えているその内容が分かっていた。
先ほどの会話もあって、それは外れてはいない。
エマは『どうして分かったの』と言わんばかりに目を丸くする。
長年付き合っていれば、簡単な事限定だがエマが何を考えているかは読める。
今はアカツキを連れて行って迷惑じゃないだろうか、この機にどこか寝泊りできるところを探した方がいいのではないか、と考えているのだろう。
エマは直継の言葉に『でも』やら『だけど』やら言葉にならない唸りを零す。
そんなエマに直継の『妹はただお兄さんお姉さんに甘えればいいんだよ』と再度背を押してやる。
エマは昔から人に甘えるのが苦手だと直継は知っていたのだ。
そんなエマの背を押してやり支えてやるのが、自分の役目だとも思っていた。
直継の言葉にエマは少しだけ悩んでいたが、『そう、だね…』とふにゃりと笑って見せる。
その笑みに直継は『おう!そうだ!』とニカッと笑って返した。
「アカツキさん、私達どこにもギルドには入ってないんだけどお世話になってるギルドの人達がいるんだ…私たちはそこのギルドホールで部屋を貸してもらっているんだけど……もし、アカツキさんが良ければ一緒に来てくれるかな…でもこれは強制じゃないよ。嫌なら気にせず言ってほしい。」
「…私は……私は、エマの主君の忍びだ…エマの主君が決めたのなら、それに従おう。」
「そ、そうですか…」
改めてアカツキに振り返り事情を説明する。
自分たちの寝泊りを他のギルドから借りていると言えば一瞬アカツキは怪訝とさせた。
まあ、どこのギルドにも入っていないとエマ達が言っていたのだからギルドという存在との繋がりがないと思っていたのだろう。
アカツキの考えは間違ってはいない。
アカツキもどちらかと言えば一匹狼を貫いてたためギルドとの関係を最小限避けていたのだろうから。
しかしギルド自体に嫌悪はないようで、エマを主君と仰ぐアカツキは頷いた。
エマはどこまでも忍びと主君設定にまだ慣れず引き攣った笑みを浮かべた。
****************
エマは寝泊りをさせてもらっている三日月同盟にやっと帰ることができた。
その時はすでに子供たちは眠っているのか中身が大人の冒険者たちしかおらず、賑やかなホールは静まり返っていた。
マリエールとヘンリエッタは起きているため、遅くなった謝罪と帰ってきたと一声かけるためにギルマスの部屋へと向かう。
「いややわー!なんなん!?この可愛い子ーっ!!」
部屋に入ると真っ先にマリエールの電光石火抱擁を受ける。
頬ずり攻撃も相変わらずで、エマはマリエールの豊満な胸を感じながら息苦しさと葛藤していた。
しかしふとアカツキと目と目が合うとマリエールは標的をエマからアカツキへと変えた。
…と言いつつもエマからは手を離さず右にエマを、左にアカツキを侍らせ二人を思いっきり堪能していた。
「なんやのこの子!直継やんの恋人なん!?」
「いや、俺だったらこんなちみっこは遠慮す――ぐはっ!」
「それはこっちのセリフだ!バカ継!!」
アカツキは笑顔でスパッと切る直継にマリエールの腕から一瞬で抜け出し何度目になるか分からない蹴りを食らわす。
マリエールにはまだアカツキの事を話していなかったため一瞬で姿を消したアカツキにマリエールは驚いたように目を瞬かせた。
しかしすぐにアカツキの職業に気づき『なんや、暗殺者かいな!可愛い暗殺者さんやなー』とマリエ節を発揮した。
「ま、まあ!!なんて可愛らしい…っ!!」
「んな…ッ!?」
逃げられたマリエールだが、残念に思いながらも気にも留めていないようでエマの腕に抱き付きニコニコ笑っていた。
『全く…』、と腕を組みムスッとさせ鼻を押さえる直継に背を向けたアカツキは目の前の女性と目と目があった。
その女性とは、三日月同盟の会計を務め実質このギルドを仕切っているヘンリエッタである。
ヘンリエッタと目と目があったアカツキはキョトンとさせてこちらを見ているヘンリエッタに何かしら嫌な予感がよぎった。
何気なくヘンリエッタの視線から避けようとしたその時…ヘンリエッタの電光石火を食らった。
しかしそこは腐っても暗殺者…伊達に『忍者!忍者!!』と海外でちやほやされていない。
マリエールの腕から消えたのと同じくアカツキは一瞬のうちにヘンリエッタの腕からも消えた。
そう…アカツキはヘンリエッタの腕から逃れたのだ……逃れた…逃れた、つもりだったのだ…だが、暗殺者のアカツキの動きを呼んでいたかのように《吟遊詩人》であるヘンリエッタはすぐさまアカツキを捕まえたのだ。
それには驚愕を通り越しアカツキは唖然としてしまう。
そんなアカツキをよそにヘンリエッタはマリエール同様アカツキに頬ずりせんばかりに抱き付いていた。
「しゅ、主君…!エマの主君!!」
「あー…あはは…ごめんね、アカツキさん…ヘンリエッタさん、重度の可愛いもの好きで…」
「か、可愛い!?私が可愛い!?」
「うん、可愛いよ」
「かっ…―――っ可愛い、か…エマの主君は私を可愛いと思ってくれるのか…そうか…」
頭を撫でられ、アカツキはげんなりとさせる。
アカツキは身長こそ低いが、中身は立派な大人なりたてなのだ。
そんな自分が頭を撫でられ更には『可愛いですわ!すっごく可愛いですわ!!明日私がコーディネートしたお洋服を着てくださいね!』と思いっきり愛でられ、正直戸惑うばかりだった。
とりあえず『そうだ!エマ様もご一緒にいかがです!?エマ様のようなスレンダーな方に似合いそうなお洋服、この間購入しておいたのです!!』という言葉に主君ともども『『遠慮しておきます』』と断っておいた。
ただ、エマに可愛いと言ってもらえたことに心がポカポカし、アカツキの表情は少しだけ締まりがなかった。
そして、アカツキの気難しい表情がエマの一言でコロッと変わったことに気づいたのは、ここにポツーンと仲間外れになっている直継だけだったという。
10 / 13
← | back | →