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もうエマは開き直ることにした。
開き直り、早速外のゾーンへ向かおうとする。
外のゾーン…いわばモンスターが出てくるまだ未知なゾーン。
未知と言ってもゲーム時代は飽きるほど回ったが、現実世界と変わらない世界になってからは初めて足を踏み入れる。
外に出る冒険者や大地人達を何度か見たことはあるが、その時はまだ外に行くよりも中で出来る限り情報を収集した方がいいとそちらの方を優先したために見送るだけだった。
勿論、事前に二人には相談していた。
お互いレベルが90であるため大怪我は避けられるだろうが、ゲームだったころとは違うのだ。
何が起こるか分からないのが現実である。
二人はエマの提案に二つ返事で頷き、それにエマは目を丸くしキョトンとさせ意外そうに二人を見る。
だが、それは決して意外ではない。
直継は言わずとも参謀であり仲間であるエマを心から信頼しているからエマの作戦にも詳しいことを聞かされなかったとしても何かあるのだろうと従うし、茶会の頃からエマの本領発揮を見てきた分異論はなかった。
アカツキも短い間の付き合いだが、以前エマとパーティーを組んだことがあったこともあってエマの正確さを知っているからこそそれなりの信頼を持っている。
それに主君と煽っているのだから従うのが彼女の中では当たり前だった。
自分を低く評価しているエマはそんな二人の信頼に何だか気恥ずかしくなり頬をほんのりと赤く染めて照れながら頬をかいたのはいい思い出である。
「………」
「どうした?」
いざ橋の前へと立つとエマは突然止まりじっと先を見る。
そんなエマに気づいた直継はエマの顔を覗き込むと、覗き込まれたエマは直継を見上げた。
そして続いてアカツキを見下ろす。
「なんか…高かった背での視点は直継との距離が縮んで直継に近づいた気がして嬉しかったけど……リアルに近づけた身長はアカツキさんを近くに感じられてどっちも捨てがたいな、って思って…」
ポツリとエマは何気ない言葉を言うように呟いた。
そのぽつりとつぶやかれた言葉に直継は笑みを浮かべ、アカツキは固まった。
「俺としたらこっちの方が慣れてるけどな!」
「ま、リアルのままだもんね」
「おう!」
身長が10も違うのは結構な差がある。
視界的に以前の身長では180もある直継に少し近づき、今は150ギリギリのアカツキより高いが彼女に近い。
エマ的にどちらも捨てがたい視界だった。
直継は嬉しそうに笑ったが、アカツキは固まり、そして顔を真っ赤に染める。
(エマの主君は…たまに爆弾発言をする…心臓が持たない…)
アカツキはリアルでは身長が低くよく子供と間違えられる。
150もないとも等しい己の身長と、エマの今の身長には見栄を張っても10ほどの差はあるが、そんな事人生の中で言われたことがなかった。
だからこそ突拍子もないエマの言葉が余計に新鮮で嬉しくなってしまう。
二人から顔をそらすようにそっぽを向き、アカツキは胸元を握る。
そして深呼吸して落ち着かせた。
「じゃあ、行こうか」
エマの声でハッと我に返り、アカツキは前を向く。
ここから先はいつ戦闘が起こってもなんら不思議ではない…それが三人の緊張を高まらせた。
****************
《書庫塔の林》はアキバと隣接しており、初心者がスタート地点にするためモンスターのレベルはそう高くは設定されていない。
しかし初心者はそんな低レベルでも油断は出来ず、レベル上げやシステムの確認などには丁度良かった。
一方、エマ達高レベル者達は一言で片づければ『鬱陶しい』『面倒くさい』の一言である。
低レベル故に攻撃を与えるとすぐに消える…まだ50ほどのレベルがあるのなら多少なりとも歯ごたえもあっただろうが、歯ごたえも何もない低レベルのモンスターを相手にするのは案外面倒くさいのだ。
本来なら低レベルモンスターは自分よりもはるかにレベルが高い冒険者に対して襲う事はない。
レベルの差をいわば野生の勘で見抜いているのだろう。
だからレベルが90のエマ達が低レベルモンスターに襲われることはないのだ。
しかし、やはりその知識はゲームが前提の話で、今は分からない。
だが、ゲームの時、書庫塔の林のモンスターは自分よりもレベルの高い冒険者でも襲いにくることがあったとエマは記憶している。
アキバに近く低レベルばかりなのも含め、だからこそエマはここを選んだのだ。
(モンスターと戦うにあたっておかしなことはない、か…コマンドを見ないで体に慣れさせるのも慣れてきたけど……使うのと使い分けるのじゃ全然違うし…こればっかりは慣れかなぁ…)
林の中は少し薄暗く、日の光も弱い。
最初歩いていてもモンスターは現れなかったが、奥へ行くにつれモンスターの数も増えていった。
最初はコマンド画面などのステータス画面が邪魔で技が出せず苦戦を強いられたが、エマがモンスターに襲われた時にアカツキが咄嗟に助けモンスターを倒したのを切っ掛けにコツをつかみ始めた。
どうやら物事を深く考えるよりも直感を、そしてなんとなくな感覚で動いた方が自然と技も使えるようだった。
そこは慣れるしか解決方法はない。
(直継やアカツキさんがいなかったら、多分死んでたな…私…)
最後の一匹になったモンスターを刀で倒すアカツキを見ながらエマはそう心の中で呟いた。
最初の戦いの時、エマはモンスターに臆したのだ。
画面ではなく、本物のモンスターが目の前にいて最初は作戦やシュミレーションもしたがやはりコマンドの壁で連携は崩れ、何度もエマのところにもモンスターが来たこともあった。
付与術師の技の中には強烈な精神攻撃を行う精神属性を持つ『ブレインバイス』や、攻撃性が高い異色の技である『スプリンクラー』等もあるのだが、どれも頑張っても妖術師の普通攻撃程度しか出ない。
しかしその普通の妖術師の攻撃程度でも今は大いに助かっていた。
エマは襲ってくるモンスターを倒したことは倒したのだが、思わず腰を抜かしてしまった。
かっこ悪いことにその時は取りこぼした獲物だったために二人に腰を抜かしたところを見られてしまい恥ずかしい思いもしてしまう。
結局その後はエマが落ち着くまで休憩となり、更に言えば腰を抜かしレベル90の暗殺者からしたら痒いところに届く程度のエマの攻撃力を見たためかアカツキから『エマの主君は私が守る』と何度目になるか分からない守る宣言をもらってしまった。
どうやら彼女の中でエマの貧弱設定が確定したらしい。
…いや、うん…貧弱は貧弱なんだけどね…、とエマは乾いた笑いを零しながら思ったとか。
「今日はこのくらいにしておこうか。」
「だな。そろそろ戻るか」
「うん…私見張ってるから二人はアイテムの回収お願いできる?」
「おう!いいぜ!」
「承知した」
丁度アカツキが最後の一匹を倒しシャボン玉のような物と共にモンスターは息絶えた。
同時にアイテムとお金が落ちてきてエマはちゃらちゃらとした音を聞きながら辺りを見渡す。
エマはまだ朝だったような気がしたが、いつの間にか夜となっており薄暗かった周りは真っ暗闇となっていた。
向こう側が見えないほど深い暗闇にエマは《マジックライト》を使って明かりを灯し、二人の足元を明るくする。
モンスターもいなくなり、しかし周りの警戒を弱めずにいるエマだが、垂れて落ちる前髪を鬱陶しそうにかき上げる。
「……エマの主君はリアルでも"ああ"なのか?」
指の間に前髪をひっかけ後ろへ流すが、しばらくするとまた容赦なく髪の毛は落ちてくる。
鬱陶しそうにしながらもそれを繰り返すエマをアカツキはふと目に写しアイテムを回収するために伸ばした手を引っ込めた。
拾ったアイテムは魔法の鞄へしまう為どんなにあっても拾いきれないという事はない。
高いところで周りを警戒しているエマを見上げながらのアカツキの独り言のような問いに直継も手をとめアカツキを振り返る。
アカツキの目線はまっすぐエマに向けられ、直継も釣られたようにエマを見た。
またエマは垂れる前髪をかき上げている時で、それを見て直継はアカツキが何か言いたいのかわかった気がした。
「"ああ"、だな。ま、リアルの時は後に結んでたりしてたけど、今はアキバに戻って店で購入しねえとゴムなんてないしなぁ…」
「ゴム…」
エマと直継がリアルで知り合いだというのは知っている。
だからアカツキは直継に聞いたのだろう。
外観再決定ポーションを飲んだエマはアカツキ同様リアルとほぼ同じ姿になっている。
それは髪の毛も例外ではない。
ただ違うのはやはりハーフ・アルヴの証だという舌の紋章だけだろう。
後は全冒険者に言えることだが体力などの強弱の差だ。
12職中一番最弱と謳われる付与術師なのだからそれは仕方ないが。
アカツキの問いによってリアルの時のエマを思い出し、不意に直継は何か考え事をしているアカツキに一つお願いをした。
「あ、そうだ…ちみっこ、ヘアゴム持ってるか?持ってたら譲ってほしいんだ…勿論お礼はするからさ。」
「別にそれは構わない。私も丁度同じことを思っていたところだ…だが、礼はいらない。」
「いや、礼はするって。だって、これってあれだろ?ちみっこが言ってた"忘恩の誹りなんとか"だろ?」
「それぐらいで恩を着せるほど困っていないしケチでもない!っていうか一々蒸し返すな!バカ継!」
「えー?なんでだよ!かっこいいと俺は思うんだけどなー」
「お前に言われるとその言葉が軽くなる気がするのだ!エマの主君ならばいざ知らず!」
「あっ!お前それ差別だ!差別祭りだ!!」
「差別ではない!区別だ!」
「一緒だろそれ!!」
お願い、とはエマにヘアゴムを譲ってほしいという事だった。
それはアカツキも直継と同じことを思っていたため二つ返事で返したが、昨日の自分の言葉を使う直継にアカツキは疲れているのもありイラッと来ていた。
2人は恒例の言い合いが始まり、言い合いをし始めてから二人の言い争いに気づいたエマは『またか…なんだかんだ言って仲良いんだよね、あの二人』と苦笑いを浮かべる。
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