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今日はモンスターが出るエリアに行くのだが、まずその前に必要なアイテムの整理や店での必要な物の購入だった。
今までは低レベルのモンスターとの戦闘の場合、瀕死には至らない自信から『まあ大体あるだろ』という軽い気持ちでいたが、今はそうはいかない。
エマと直継はまず街での情報収集を優先していたため、まだ戦闘に関しては無知に等しい。
幸い顔の広い三日月同盟と共同で情報を集めているからか、全くの無知とは言い難かったが、それでも聞くのと体験するのは違うとエマは思っていた。
アイテムを確認し、エマは外につながる門の前に立つ。
門と言っても立派なものではない。
重々しいものでもなく、ダンジョンでよくある境界線の目印のような物だった。
それが今のエマには重々しく見えてしまうのだから本物というものはすごい。


「書庫塔の林はアキバから距離もそんなに遠くないしモンスターも低レベルばかり……だけど、無理は禁物だよ。ここはゲームの世界じゃないから何が起こるか分からないし、死んでも生き返ると言ってもいい気分でもないしね…ましてやノウアスフィアの開墾が導入されている可能性だってある…いくら平気そうでも私が無理だと判断したら即引き返すから…いいね?」

「おう!分かってるって!」

「承知した。」


ここから一歩足を踏み入れればモンスターだらけの森や林や草原が広がっている。
それはゲームの時にも分かっていたことで、アキバは日本サーバーの五大都市に数えられ初心者はその5つの都市からスタート時点を決めることができるため、アキバを含めた五大都市の周りのモンスターは大抵レベルが低い。
それに関してはエマ達にとって好都合だった。
正直に言って、紙装甲と揶揄される付与術師であるエマは戦闘が少し怖かった。
チラリと見た直継やアカツキは平気そうな顔をしているが、内心ではエマと同じ気持ちかもしれない。
しかしエマは自分だけが怖がっているような気がしてならず、内心自分に向けて嘲笑を向けた。


「じゃあいこ…うわっ!」

「!エマの主君!?」

「またかよ、エマ」


しかし、怖いというのは嘘ではないが、少しだけ、楽しみにも思っていた。
ゲームの時にしかできなかった魔法などを使えるなど現実世界ではありえないからだ。
そう思い怖さを何とか押し殺し『じゃあ行くよ』と一歩足を踏み出した…が、エマは躓いてしまう。
倒れそうになったのを直継に支えてもらったため何とか怪我は免れたが、アカツキには目を見張って驚かれ、直継からは呆れた言葉を頂いた。


「…エマ」

「やだ」

「……エマ。」

「やだ…」

「……………」

「……………」

「エマ、飲みなさい。」

「うぅ…はい…」


直継はため息をつきエマを立たせた後名前を呼ぶ。
ただ、エマの名を呼んだだけである。
だがエマにはその名前を呼んだのがどういう意味なのか分かっており、尚且つそれを拒否した。
名前を呼ぶ直継。
そしてそっぽを向くエマ。
新顔のアカツキには全く分からないやり取りだった。
しかし、アカツキからも直継はエマに甘いと見て取れる。
そんな直継がエマを咎めるようにキッと睨んでいるため間に入っていけず様子を見ていた。
結局、折れたのはエマだった。
『ちょっと逝ってくる…』、と漢字変換を間違えながら(しかしエマ的には合ってる)直継から何かを受け取ったエマがしょんぼりとさせながら二人の前から姿を消し、エマを主君と仰ぎ守ると誓ったアカツキは慌てて追いかけようとした。
しかし、それを直継にとめられてしまう。


「なぜ止める!」

「いいから。お前はここで俺と待ってろ祭りだ」

「だからなぜ…っというか、エマの主君が持っていたのは外観再決定ポーションではないか?なぜエマの主君が…?―――!、もしやエマの主君は私と同じく中身とキャラクターの性別が違ってて本当は男なのか…!?MPを重視する付与術師だから男性よりMP数が高い女性を選んだのか!?」

「あー……まあ、戻ってきたら分かるさ…色々とな。」

「…?」


エマが持っていたもの、とは《外観再決定ポーション》だった。
ポーションは直継の物だが、直継は躓いたエマにリアルの自分に近い姿になるよう言い聞かせたのだ。
それはこれから戦闘になるからというのもある。
戦闘システムがどこまでゲーム時と同じか…全く予測ができない。
守護戦士は守るのが役目である。
特に後方の仲間を守るのが重要である。
彼らの魔法があるから大型レイドで勝利できる事も多い。
勿論前衛・中衛の仲間もいなければ勝てない。
レイドというものはどんな職業でも一人ではできないものである。
だから直継はエマにポーションを飲むように言い聞かせた。
もしもの時、こけたエマを守らなければならないのは直継なのだから。
別にエマを守るのが嫌だとか面倒ではない。
だが何度もこけられれば守るものも守れない。
更に言えば下手したらうまく戦闘ができず全滅というのもある。
だからそれを避けるためには《フリップゲート》というパーティー全員をスタート時点に戻せる魔法を持っているエマが必要なのだ。
周りは低レベルのモンスターばかり。
そして自分たちのレベルが90だから全滅などそうそうありはないが、今は全てが現実と同じなため油断は禁物である。
アカツキは今のエマの姿が見栄と願望を込められて作られたモノだとは知らないため、エマが持っていたアイテムに首ばかりひねってしまう。


「………だたいま…」

「おかえり」

「エマの主君!もどられたか……―――…?」


エマを待っている間、アカツキはイライラしていた。
エマに待たされるのが嫌だというわけではなく、ただ単に心配なのだろう。
守ると決めた主君を置いてその場にただ待っているだけというのは暗殺者を極める彼女にとって辛い事だった。
ようやく戻ってきた主の声にアカツキはホッとし振り返った。
だが、アカツキはエマを見て首を傾げる。


「うう…憧れのスレンダー体系が…」

「今のエマも素敵だぜ☆」

「……そんな慰めいりません。」

「あれま…拗ねた祭り。」


アカツキはエマを見て何か違和感を感じ、首を傾げていた。
じっと睨むようにエマを凝視しているとその違和感の正体に気づく。
エマはポーションを飲んだためリアルと同じ身長になり、スラリと高かった身長が低くなったのだ。
そして一番分かったのは短かった髪が伸びたというところだろう。
前髪が長くなり鬱陶しそうにかき上げるエマに不覚にもアカツキはドキリとさせた。
それは恋愛の好意ではなく、年上の女性のしぐさに反応したのだろう。
そんなアカツキをよそに肩を落とすエマを直継は励ますようにウィンクを送るのだが、そんな直継のウィンクで飛んできた星をエマはぺちりと叩いて落とした。


「エマの…主君…これは、一体…」

「あ…そっか、ごめん…アカツキさんには話してなかったっけ……私もアカツキさんと同じでリアルとゲームの自分をちょっと偽ってたんだ」


むすっとさせるエマに直継は愉快そうに笑った。
他人事だから笑っていられるんだ!、とエマは直継をキッと睨もうとしたがアカツキの戸惑った声色にハッと我に返った。
エマはアカツキに話していなかった事への罪悪感もあり困ったように笑う。
そんなエマにアカツキは『なるほど』と納得する。


「ではエマの主君もリアルに近づかせたという事か…」

「そう…アカツキさんみたいに大きな異変は体にはなかったんだけど…身長も高くしてたからよく躓いちゃって…」

「情報収集だけなら別にいいけど、戦闘だとそうはいかないからなぁ」

「……うん…そういうこと…」


エマが変更していたのは身長と胸のみ。
聞き込みを重視する情報収集なら別に躓くくらいどうってことないが、それが戦闘ではそうはいかない。
レベルが周りのモンスターよりも高くてHPもMPも満タンだとしても戦闘での逆転で全滅することはよくあることだ。
いくらレベルが低いからと言って油断は禁物だ……そう言ったのは自分である。
だから仕方ないとは思うのだが…エマはぽつりと心の中で呟きながら自分の胸を見下ろす。
そこにはリアルでは散々見慣れたお胸さまがいらっしゃった。
ただし、ローブでうまく隠れており、身長以外の体系は外から見ればあまり変わっていないように見える。


「……結局…この世界でもこの胸と付き合わなきゃいけないのか…」

「大丈夫だって!胸板の時だってモテたんだ!今のエマなら更にモテる祭りだぜ!」

「いや、その心配はしてないから。っていうかどんなフォロー?それ…」

「俺もマリエさんと頑張ってエマを守らなきゃな!」

「……もういいや…好きにして…」


ゲームの時くらいスレンダーなモデル体型を楽しみたかったのに…と口を尖らせながら愚痴るエマに直継は苦笑いを浮かべ、ポーションを飲んで髪が伸びた頭に手を乗せ優しく撫でる。
その手があまりにも優しくて暖かかったからエマは拗ねた気持ちもだんだんと静まり、気持ちよさげに目を細めた。

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