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それから何日かが経った。
寝泊りをマリエールがギルマスをしている三日月同盟で借り、 エマと直継は情報を探しに外に出ていた。
得た情報は三日月同盟とも共有し、お互い気づいたことや新しいことを再確認させた。
相変わらず食事が美味しくなくてある意味食欲は減っている。
元々後衛が職業なため前衛や中衛より運動しない事もあってエマの『付与術師』というキャラクターはそれほどお腹は減らない。
直継は『守護戦士』ということもあって体力を使いそれに沿ってお腹も減る。
正直エマ同様食べたくないという気持ちで食欲がないに等しいのだが…エマ溺愛マリエールから『まずいから食欲がないやて!?そんなんでうちのエマを守れると思ってんのか!?それでも守護戦士か!?食うんや!お腹いっぱい食うんやああ!!』と料理人ではないマリエールが作った料理と言えない何かを口いっぱいに入れられた苦すぎる思い出が蘇り、あんな食わされ続けるのなら、と塩味のしないふやかした煎餅を食べた方がましだと思ったのだ。
それにやり方はどうあれ、確かにマリエールの言う通りなのだ。
エマももちろん食べなければならないが、体力勝負の前衛は更に力をつけていなければならない。
貧弱では中衛と後衛の仲間を守れないのだ。
お金はもちろんあるし、マリエールと三日月同盟のギルメンの好意がありたまに一緒に食事も共にする事もあった。
正直エマはギルドの誘いを断ったこともあり気まずくなるのを予想していたが、マリエールは気にも留めていないと言わんばかりにいつものように接してくれる。
本当は気にしているのかもしれないが、マリエールがいつものように接してくれるのならエマも同じくいつものように答えるのが礼儀である。
「今日はこの辺にしようか…」
「だな。もう暗くなるし。」
マリエールは束縛を嫌うエマに何も言わない。
きっと心配性のマリエールは門限とかいろいろつけたいだろうが、エマには直継がいるからと何も言わないでおいてくれる。
エマは調べるのに夢中で夜遅くなってしまいそうになるが、そうなる前に直継が止めてくれる。
最初こそ直継が声をかけなければ夜中…最悪夜通し調べていただろう。
最近はようやく夜になったら帰るという癖がついたのか薄暗くなったのに気付くことも増えてきた。
変わるところがあるのと同時に、変わらないこともある。
それは…
「今日の夕飯はなんじゃろなー……まあ、味は同じなんだろうけどな」
「仕方ないよ…――わっ!」
「エマ…!」
体が馴染まない事だった。
エマは躓き転んでしまいそうになるも、直継が慣れたように腕でエマの体を支えてやる。
もうこのやりとりも何度目になるか数えるのも面倒になってきた。
「ご、ごめん…ありがとう直継…」
「別にいいけどよ…そろそろ本気で『外観再決定ポーション』を考えたらどうだ?」
「うーん…でもなぁ…」
ゲームの中くらい現実のあれこれを忘れてもいいじゃないか…!と思い作成した見栄を張ってできたキャラクター…"エマ"。
身長は170cm程度にしてあり、バストサイズはゲーム内ではAほどで設定している。
しかしリアルではそんなに高くないし、バストは元カレに『詐欺ですね、詐欺』と言われるほどの大きさの差がある。
ゲームに夢中と言っても生きている大半は現実世界で動き、生きている。
違和感がないと言う方が可笑しいのだ。
まだ身長が数センチの差なら…バストが…というかバストは関係ないであろうため横に置いておくとして…身長が大きく差があるのだから違和感が生まれるのは当たり前である。
冗談ではない直継の忠告にエマはやはり色よい返事は出せなかった。
「見栄とか、プライドとかじゃなくてさ…やっぱ今の状況から女性ってだけで危険だと思うんだよね…」
数日も経てば周りの状況は変わっていく。
混乱もある程度みんな諦めたり察したりと落ち着き始めた。
幸いにも現実世界でも起こる略奪等はあまりない。
お金はある程度銀行に預けているし、素材があれば味はしないが料理もある。
空腹になる事はなく、宿泊だってお金さえ渡せば宿に泊まれるし、ギルドホールがある。
正直何不自由はないのだ……ログアウトができないこと以外は。
ただ、危険は多い。
戦士など異世界設定ならではの職業ゆえに、そしてプレイしている者の多くが精神的に大人ではない事が多い故に…鬱憤は弱い者に向けられる。
その多くが初心者だ。
ギルドに所属しているしていない関係なく何も知らない初心者は恰好の八つ当たり対象である。
全てのギルドがそうではないだろう。
だが、下手なギルドに入るとまるで奴隷のような扱いを受けることもある。
言い方は大げさだが人間というものは愚かな生き物なのだ。
そして、その弱い者には――女性も含まれる。
目撃したことはなく予想でしかなく、正直この世界にいる者達を信じたいが……――強姦があるのではないか、とエマは予想している。
あるのではないか、または、起こりうる可能性の一つ。
だからあの時戦闘ギルドでもなければ大手ギルドでもなく女性が多く所属している三日月同盟にそれとなく警告したのだ。
ヘンリエッタが分かってくれなかったら言葉を濁らせずそのまま言うつもりだった。
正直エマはそれが一番恐ろしいことだと思う。
直継もそれを理解しているからこそ、無理やりエマに外観再決定ポーションを飲ませることはしない。
本当はもしもの時にリアルの自分と同じ条件の方が反応速度もいいのだが…本人の気持ちを尊重しているのだろう。
まあ、気持ちも変わるかもしれないという理由でたまに勧めるが。
それでも本人が嫌だと言ったら強制はしない。
直継はそう決めている。
首を振るエマに『そっか』と呟いたとき、背後にカランと石が転がる音がした。
しかし周りは湖で石が上から落ちてくることなどありえない。
直継はすぐに周りを警戒した。
「…直継、帰ろう。いくら私たちがレベル90だからと言って危険がないわけじゃない」
「ああ。」
また、カラン、と音がした。
今度はエマと直継の間に石が落ちる。
エマも気づいているのか眼鏡を上げながらここから去ろうと告げ、直継が頷いた。
しかし――今度は先ほどとは比べ物にならない石…いや、岩が追ってきた。
「なんだよ!!さっきから!!あぶねえだろ!!」
幸いにも落ちてきたのが水の上だったため水しぶきがかかる程度の被害しかなかった。
が、攻撃されたと言われても文句が言えないその行動に思わず直継は大声を張り上げる。
びしっと指さすそこには一人の男性が立っていた。
「!――あなたは…アカツキさん!?」
その人物は苔で覆われた建物に上っており、遠目だがよく見れば見たことのある顔をしていた。
というよりは顔半分は布で覆われているため目元だけだが、その姿や恰好で以前一緒にパーティーを組んだことがある人物なのだというのが分かった。
目を丸くするエマにムキーッとさせていた直継は振り返る。
直継に前に一緒に行動をしていたと説明すればむっとさせながらも警戒を解いた。
アカツキという人物の情報をエマは記憶の中から掘り起こす。
アカツキは種族が直継と同じくヒューマンで、職業は《暗殺者》。
無口で会話のやり取りもエマはボイスチャットだが、アカツキは一切しない徹底したキャラ作りをしていた。
それに異論はない。
キャラになりきるのも楽しい要素の一つだし、会話は何もボイスチャットだけではないのだ。
それにアカツキは自分が請け負った仕事はきちんとこなしてくれるため文句の言いようがない。
だからエマは覚えていたのだろう。
もしアカツキが喋っていたのなら『ああなんかそんな腕のいい人いたな』くらいしか思わなかっただろう。
そんなアカツキが『こちらに来い』と言わんばかり顎をくいっとさせ暗闇に姿を消し、エマ達はアカツキに呼ばれ建物の中に入っていった。
「アカツキさんもこの世界に来てたんですね」
「…………」
「俺は直継!《守護戦士》だ!オープンだろうがムッツリだろうがよろしくな!」
「って…初対面でそれ?」
「これ!大事!すっごく!!」
「……―――エマ殿…探していた…」
「「…!」」
「ポーションを…外観再決定ポーションを…売ってほしい…」
アカツキとは一度しかパーティーを組んだことはないし、一匹狼をポリシーにしているからかフレンドリストには載っていない。
そのためこの世界にいることすら知らなかった。
だから再会できたと喜び、相変わらずの直継節に呆れもしていたのだが…
「その声…!」
「え…えええ!?アカツキさん……―――女だったの!?」
アカツキから発せられた声は女性の物だった。
それに驚きエマの驚きの声が建物に響く。
驚かれたアカツキは照れているのか恥ずかしいのか…多分両方だろうが、ほんのりと頬を赤くしそっとエマと直継から目をそらす。
「通りで無口な人だと思ったら…」
「す、すまない…」
「あっ!いや!別に責めてるわけじゃないから!あの…ポ、ポーション、だよね!」
「ああ…以前エマ殿が持っているのを思い出してな…」
「そ、そっか…」
素直に謝られエマは慌てだす。
ここでも自分の人付き合いの悪さが分かってしまいそんな自分が嫌になる。
アカツキを見ればなんだか辛そうな顔をしており、エマは慌てて魔法の鞄から外観再決定ポーションを取り出しアカツキにあげた。
アカツキは物陰に隠れエマ達とは少し離れた場所でポーションを飲む。
やはりゲームと違い味は感じられる。
苦いとも言えるし甘いとも言える…どんな美味しそうなジュースだが中身はただの水、な物とは違い水ではないのは確かである。
だが嬉しくもない。
「―――ッぐ、ぁああっ!!」
体が変化する、という事はそれ相応の痛みや苦痛が伴うという事。
ポーションすべてを飲んだアカツキは体が変化するのを待った。
暫くして突然の痛みが体中を走る。
声をあげたくないというプライドはあるが、そうは言っていられず思わず叫んでしまう。
その叫びにエマも直継もびくりと肩を揺らし驚いた。
「ア、アカツキ、さん…?大丈夫、ですか?」
「だ、大丈夫、だ…問題な…い…」
「大丈夫そうには聞こえな、…―――!!」
その声は尋常ではなく、思わずエマはアカツキの隠れている物陰に駆け寄る。
流石に直継は行けないが心配はしているようで、気にしている様子が見られた。
同じ女の子だけど覗いちゃってもいいのかな…でも一度パーティー組んだと言っても赤の他人だし……、とぐるぐると思考を回していたのだが、結局心配が思考を上回り物陰から顔だけを覗き込む。
声を切れ切れに答える『大丈夫だ』に更に心配になったエマだったが、なぜか言葉を切らした。
男の直継はエマの背を見送るしかできず、途中で言葉を切るエマに怪訝とさせる。
「エマ?どうした?」
「〜〜〜〜ッッ」
動きを停止したエマを直継は怪訝とさせ声をかける。
その瞬間エマが一瞬で自分のところに戻ってきたのだ。
それはまるで瞬間移動だった。
突然の事に直継は驚き『お、おい!どうした!?』と口をパクパクさせ何かを訴えるエマの肩を掴んで落ち着かせる。
するとアカツキが物陰からひょこりと出てくる。
そして直継はすぐに察した。
「美少女だ!」
アカツキは女性は女性でも頭に『美』がつくほど可愛らしい少女だったのだ。
可愛い物好きのエマには少し刺激が強すぎたようである。
ここでの突っ込みは、――ポッチ、どんだけだよ――である。
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