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「なんやあの噂デマだったんかー!いやー!よかったよかった!」


ヘンリエッタの説得の元、やっと納得したマリエールはニコニコ顔だった。
『てへぺろ☆』も追加するマリエールにエマは何度目かの苦笑いを浮かべる。
そして食事だが、《三日月同盟》の戦闘班長である小竜が持ってきてくれた。
二人の前に置いた小竜だったが、離れる際二人に『がっかりしないでくださいね』と告げ、エマはまだ食事したこともなかったため小竜の言葉が全く理解できていなかった。
しかし並べられた美味しそうな食べ物を口に入れた瞬間に二人は理解する。
一言で片づければ美味しくないのだ。
直継曰く『塩味のしない煎餅をふやけさせたみたいだぜ』、らしい。
確かにエマもそれは同意する。
とにかく、どれを食べても同じ味でさらには美味しくないのだ。
ピザ、ハンバーガー、スパゲッティ、焼き魚…どれを食べても美味しくない上に同じ味。
更にはどんなジュースを飲んでも水の味しかしなかった。
料理は目で食べる、とも言うが…今は目で食べれる気がしない。
所詮食べ物は味覚で味わう物なのだとエマは実感した。
『うぅ…味しない…美味しくない…』と泣く泣く食べる二人を小竜もマリエールもヘンリエッタも『頑張れ!』と応援しながら見守っていた。


「それで、三日月同盟のメンバーは?」

「うち含めて19名がオンライン。その内18名はアキバの街におる。」

「19名中18名…」


美味しくない食事も終え、気を取り直して本来の目的である情報交換を行う。
マリエールとヘンリエッタの他にも食事を持ってきてくれた小竜も参加し、直継とエマを含めた5人の水の味しかしない紅茶をリリアナが持ってきてくれた。
リリアナはすぐに退室し、エマはマリエールに《三日月同盟》のメンバーがどれくらいログインしているか問いかけた。
《三日月同盟》のメンバーは今19人いるらしいが、一人だけはアキバの街にはおらず違う街にいる事が判明した。


「アキバの他、シブヤ・ミナミ・ススキノ・ナカス…日本サーバーの五大都市はどこも同じ状況だという話です…しかも都市間トランスポート・ゲートは現在機能を停止している…つまり、他の都市へ瞬間移動するのは不可能です。」


エルダー・テイルはファンタジージャンルだが、その地理は地球と同じである。
つまり、エルダー・テイルは現実世界を題材に作られている、という事である。
当然アメリカやイギリス、中国、インド等のサーバーもあり、その中に日本サーバーもある。
海外サーバーの行き来もでき、言語は自動で翻訳されいるためエルダー・テイル内では不自由はない。
日本がこの状態だとすれば世界のサーバーも同じ状況なのだろうというのは簡単に考え付く。
日本だけでも何万もの人がゲーム内に取り残されているのだから、世界を合わせて考えるととてつもない人がこのゲーム内にいるのだろう。
それも都市間トランスポート・ゲートという離れた都市と都市を繋ぎ一瞬で行きたい別の都市へ行くことができる装置は使えないという。
それだけでも不便であり、言いしえぬ不安もあった。
そのため他の街へ行くためにはモンスターがいつ出現するか分からないエリアを何日も…最悪何か月もかけて渡らなくてはならない、という事となる。


「アキバの冒険者ですが私達同様同じギルドの者同士で集まりつつあります。早速、新たな構成員を介入しているギルドもあるようです…」

「こんな時や…仲間は一人でも多い方が心強いっちゅーこっちゃな。」

「でもさ、異世界って言ったって勝手知ったるエルダー・テイルだろ?」

「――そうとは限らないよ?」

「え…?」


冒険者…つまりエマのようなリアルの人達はそれぞれ集まっているという。
ギルドに入っている者達は己のギルドへ集まり、そうでなくエマのようにフリーの者や初心者達はギルドの勧誘に声をかけられ入る者も多いという。
エマはその説明に何か考えこんでいたが、ふと直継の言葉に首を振った。
エマの否定的な言葉にその場にいた4人はエマを見る。
エマは難しい表情を浮かべ、考えていたことを口にする。


「みんな覚えてるよね…新拡張パック。ノウアスフィアの開墾。」

「…!」


ずっと考えていたことがあった。
ずっと、引っかかっていたことがあった。
それが、新拡張パックである《ノウアスフィアの開墾》。
今まで最高だった90のレベルを100まで上げることができ、他にもモンスターやダンジョン等、様々なものが変更され今までのエルダー・テイルの情報が通じない場合もある。
エマのその説明に直継は『なるほど』と呟いた。


「あれが導入されているとすればモンスターやアイテム、クエストも…依然と違うものになってるってことか…」

「うん…だからこの世界は私達が知ってるエルダー・テイルの世界ではないのかも…」


その言葉は、とても重く5人に落ちてくる。
今までゲームの中にいるという感覚が、エマの言葉で急に現実みを増したのだ。
エルダー・テイルの世界…今まではそれをパソコンの前でプレイするゲームだと前提で呼んでいた。
しかし…今はそれは通じない。
だってパソコンの前にいる自分の目の前にはパソコンなんてないし、機械すらない。
周りは自然ばかりで見たことのない建物に、味のしない食糧に水…風が吹けば作り物のはずの髪の毛が揺れ、肌を風が撫でる。
身長も高く設定している者や低く設定している者は歩くのに苦労しており、色々な種族がいるため猫人族など人間の姿ではない者達は結構苦労しているらしい。
エマだって身長を高くしているせいで何度もこけそうになりその度に直継に助けられているのだ。
ちょっぴり『外観再決定ポーションを飲もうかな』とかも考えてたりもする。
だがなけなしのプライドで何とか防いでもいた。
静まり返り重い空気の中、エマは『だから』と続け、マリエール達は俯いていた顔を上げエマを見た。


「だから、まずマリ姐達は身を守るのが先決だと思う。」

「身を守る…?」

「ああ、確かにそうだな…三日月同盟は見た限り女の子が多いみたいだし、戦闘系ギルドじゃないんだし、その方がいいかもな…」


最悪の結果がエマの脳裏によぎっていた。
これは今思いついたことではなく、この世界がゲームではないかもしれないと考え始めたときから懸念していたことだ。
直継もそれを察してか賛同し、ヘンリエッタも最初は分からなかったがエマと直継が何が言いたいのかすぐに察し『その辺は今度メンバーで話し合いますわ』と頷いた。
相変わらずな天然記念物のマリエールは『?』ばかり浮かべていたし、しっかり者とは言えまだ高校生らしい小竜も今一分かっていなかった。
多分マリエールは天然だからだろうし、小竜は言葉を濁らせなければすぐに理解するだろう。
そこはこのギルドを指揮しているヘンリエッタに任せるしかない。
協力しているとはいえ、そしてエマが三日月同盟と仲がいいからとはいえ…エマは所詮ギルドメンバーではないのだ。
正直どこまで踏み込んで関わったらいいのかまだエマには分からなかった。
とりあえずは辺り障りのない『何かあれば私達も協力をしますので』とは伝えておく。


「後はマーケットかな…」

「マーケット?」

「うん、マーケットのアイテムを引き上げた方がいいかもね。」

「えー?なんでなん?」


三人だけが分かっている中、次に出したのは『マーケット』だった。
何故マーケットが出てくるのか不思議でならないという顔をするマリエールと小竜が同時に同じ方向へ小首を傾げたのをよそに、ヘンリエッタだけは『ああ、なるほど』と納得していた。


「三日月同盟は確か結構な資材持ってたはずだし、ギルドメンバーも個別でマーケットに出品してたりしてるはず…だけど今がこういう状況だし、ノウアスフィアの開墾で何がどう変動するか分からない。品物も今まで通りの価格とは限らないし、今まで使っていたり古いアイテムでも何か新しい使い道とか効果とか発見されるかもしれない…とりあえずは今お金が手元にそこそこあるならマーケットにあるアイテムの販売は一旦様子を見た方がいいと思う」

「なるほど…うん、分かった。その通りにするわ」

「うん…それと私たちはもうパソコンなどのWebが使えない事も頭に入れておいてね。…今までダンジョンに挑戦するときにネットで調べていたことができなくなった、という事だけでも情報網が狭まっているんで。」

「はいよ!分かったで!…ところでエマ、な…」

「はい?何か質問?どこか分からないところあった?」


とりあえず一通りは話し合いを終えた。
食糧は仕方ないとはいえ材料さえあればサブ職業が『料理人』の人が料理を作ることができるらしいことが先ほど分かった。
サブ職業、とは直継の『守護戦士』、マリエールの『施療神官』、エマの『付与術師』等のメイン職の他にも一つ別の職業のスキルを会得できるシステムである。
主にそれは『家政婦』、『木工職人』、『料理人』、『会計士』など戦闘とは関係のないスキルを得ることができるのだが、中にはゾーン内にいる人の数を把握できる『辺境巡視』や、『軍師』、『科学者』など戦闘を補助するものや名称など様々なものもある。
因みにエマのサブ職は生産系の一つで素材アイテムで紙やインクを作り原本があるか作りさえすれば模写もできる『筆写師』である。
リアルでも似たようなこともしていたため得意と言えば得意である。
一旦話は終えるとマリエールがエマに声をかけてきた。
おずおずと言った具合から何か分からないことがあったのかもしれないとエマは思い何気なく返事をする。
しかしそんなエマにマリエールは首を振った。


「ち、ちゃうねん…ちゃうんだけどな…その………な、なあ、エマ…うちのギルドに入らへん?」

「…!」


マリーエルはただ聞きずらいのだとばかり思っていた。
返事を返しておきながら中身が分からないのだと今言うのはとても気まずい。
マリエールが全て理解しているとは思っていないし、分からなかったら分かるまで何度も教えることも実はいうと苦ではない。
だから『そんなにビクビクしなくてもいいのにな』と思っていた。
しかし…マリエールからの言葉にその場は一瞬にして凍り付いた。
否、凍り付いたように思えた…小竜がそう思うほど、空気が張りつめたのだ。
表情をこわばらせ固まるエマにマリエールは上目づかいで言いにくそうにしながらも続ける。


「エマがギルドいうんに、なんや居心地悪い気持ちを持っとるんは知っとるんよ?」

「…………」

「せやけどな…せやけど、エマ…こんな状況なんだからギルドに入った方がええと思うんよ…《放蕩者の茶会》はもうないんやろ?うちもエマが心配だし――」

「――ごめん、マリ姐…」

「…!」

「ちょっと…まだ、無理みたい…」


マリエールはヘンリエッタの止める声も聞かずエマを、そして直継をギルドに誘った。
それがどれだけエマにとって負担なのかも分かってる。
エマがどれだけギルドというものを苦手だと思っているのも。
もしこんな状況じゃなかったらエマの気持ちを重視して誘う事もなかっただろう。
今まで通りの関係性で十分やっていけたのだから。
しかしマリエールだって深刻な状況だというのは分かっている。
今だって手一杯で、エマと直継を受け入れる事も少しだけ難しいことも。
だけど放っておけるほど人情を捨てているわけではない。
『守護戦士』の直継がいるからと言ってフリーであるエマ達が安全とは言い難いのだ。
特に攻撃力に関したらどの職業の中で最下位である付与術師のエマをマリエールは心配していた。
それはエマも察した。
察せられた。
だが、やはりダメだという結論に至ってしまう。
震える手を誤魔化すようにエマはぐっと拳を握る。
そんなエマにマリエールは向かいに座っていたが立ちあがってエマの隣に移動し、


「じゃあ…せめて寝泊りはここにしてくれへんかな…やっぱ、うち、エマが心配なんよ…」


震えるエマの手の上に己の手を重ねて置く。
本当に心配そうに見るマリエールの瞳に、エマは何も言わず…何も言えずただ頷いた。

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