Crazy Clock 〜おかしな時計〜

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 ピーピーピー 
 病室には騒がしく、機械音が鳴り響く。
 医者たちの怒声やため息も聞こえてくる。
「もう、この子は……」 
 誰の声だろうか。そう声が漏れ、声はたくさんの管につながれた少女に向けられる。
「わかっているな」 
 白衣を着ていない中年の男性が言う。
「はい」 
 少年は力強く答える。
「では始めます――精神結合!!」 
 少年はベッドに横たわる。
 ――病室には一つの写真が置いてあった。
「貴方、ねえ貴方! 貴方、起きてよ!!」 
 少年は明るい少女の声で目を覚ます。
 視界がぼやけてよく見えない。
「やっと起きたわね!」 
 声の主であると思われる少女が声を上げる。
「ここはどこ?」 
 少年は少女に聞く。
「ここ? ここはね夢の国!!」
「夢の……国?」
「私はここの王様、ショコラよ! 貴方の名前は?」
「え、えっと……」
 ようやくぼやけた視界が戻ってきた。
 なるほど、ショコラは少々おかしな服を着ている。 
 水色と白の縦じまのシャツにはかわいらしく胸元で青いリボンがあしらわれていて、黒いスカートの下はやはり水色と白の横じまのタイツで黒いブーツ。ふわふわとしたまっすぐな金色の髪の毛を引き立てる黒い帽子、街中で見かけたら少し驚いてしまうような格好だ。
 だが、ここが夢の国だと説明されればそれも納得がいく気がする。
 いまいち頭が回らない。 
 少年がそんなことを考えていたせいもあったせいか、言葉に間ができてしまった。
 心配するようにショコラが少年の顔を覗き込んでくる。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ」 
 先に挙げた理由もあるが、少年が口ごもっていたのには別に理由があった。
 少年は勇気を出して言葉を出した。
「分からないんだ。自分が誰なのか」
「まあ!」 
 ショコラはすっとんきょうな声を上げた。だが彼女自身特段驚いた様子はない。
 理由は少女の口から述べられた。
「なぜだかここに来る人は自分のことを覚えていないとか、わからない人が多いから、気にすることはないわ!」 
 そう笑った。
「『貴方』じゃ呼びづらいし、名前が必要よね!!」
 さきほどからショコラが一人でしゃべっているような気がする。
 しかし、そのほうが少年は幾分か気が楽だった。
 少年は自分のことがまるで分らない。
 混乱しているかと問われれば、そうではないのだが。
 やはり、会話を振られてまともに話ができるかと聞かれればそうではない。
「私が考えてあげる!」 
 そういうとショコラは長いまつげを伏せて、何やら考え込む。 
 ―――少年はふと、周りを見回した。
 なぜ気づかなかったのだろう。景色に圧倒された。 
 お城に遊園地に噴水はジュース? 空は―今は夜なのか―暗い紫。星たちはよく見れば天井からぶら下がっている。
 雨ではなく飴? そうだ空は球状になっている。
「決めたわ! この国の人はね、みんなお菓子の名前なの!!」 
 ショコラの明るい声にはっと我に返る。
「貴方は今日から『ラスク』よ!」 
 ショコラは満足げだ。
 その名前は、自分のふわふわとした薄い茶色の髪の毛からきたのだろうかとラスクは考えていた。 
「ラスクにたくさん見せたい場所があるの!!」 
 ショコラはそう笑う。
 連れて行かれたのはジュースの滝にわたあめの雲の上、食べても食べても美味しくて飽きないお菓子の山。見渡す限りそれが続いている。
 遠くにはレンガでできた時計塔がある。なぜかラスクは時計塔が気にかかった。だがお菓子でできたたくさんのものを見つめているうちに、そんなことも忘れてしまった。
 ラスクは素直に感激した。
「すごい! 本当に何でもあるし、夢みたい」
「でしょう!?」 
 ショコラがはじけるように振り向いた。
「楽しいでしょう! ね?」 
 そういわれて、ラスクも微笑んだ。
「ラスクに見てほしかったの。どう? 気に入った?」
「うん!」
「うふふ! 良かったわ! まだまだあるのよ!」 
 ショコラは楽しそうに見せてまる。
 “国”は広く何日もかけてまわったが、それでもまだ“国”は広いのだという。
「どのくらい広いの?」
 と、ラスクはショコラに聞いてみたのだがショコラにもわからないという。
「そうだ! ラスクに会わせたい人がいるの! きっとラスクなら仲良くなれるわ。それにあれのこともラスクなら分かるかも!」
「分かっているだろうな?」
「分かっているわ……このミッションを成功させなければ」
「そうだ、そうでなくては」
「次は私たちの番」 
 そう、少年はまだ知らない。 
 ――思えば世界はそうやってできていた。 
ショコラに連れられて“国”を歩く。
「着いたわ!」 
 大きな樹の中央部分に丸い扉がある。まるで小さい頃に読んだ絵本の中のようだ。
 その扉を開けられておかっぱ頭の女性が出てきた。
「ああ、ショコラでしたか。外から声がしたので驚きました」
「あっ! 久しぶりアンコ!」 
 ショコラはアンコに握手を求める。アンコも微笑んで快くそれに応じた。
 アンコは背丈こそ子供のようだが小柄な女性だ。口調に落ち着きがある、彼女の大人びている様子から歳を考えてしまった。
 女性に歳を聞くのは悪いと誰かが言っていたのを思い出した。
 アンコが着物を着ていることから彼女が東洋の出であることが分かった。
「アンコ、最近はどう?」
「どうとも。あまり変わらず楽しく過ごしておりますわ」
「それならいいわ!」 
 とショコラの顔色が変わる。
「あのことについて何か分かった?」
「ごめんなさい。何とも」 
 アンコが扇子で少し口元を隠してうつむいた。
 ショコラがいつもの様子からは考えられないような神妙そうな顔をして、ラスクに向き直った。
「ラスク、今日は話したいことがあるの」 
 ショコラのこぶしがぎゅっと握られる。
「この国の異常事態についてよ」
「もともとこの国にはたくさんの人がいて……そうね、三十人はいたわ」 
 そこで区切った。
「でも、なぜだか人が突然いなくなってしまったの」 
 ショコラの声は変わらず低く、何より重い。
「消えてしまったのは一人や二人じゃないの。今、この国には私、ラスク、アンコ……あともう一人の四人だけになってしまったわ。なぜか次々と人が消えていってしまっているの」 
 震えだすショコラを見かねてアンコが口を開く。
「どこに消えたのか、なぜ消えたのか、どうなってしまったのか……」 
 背筋が凍りつく。
「分からないのです」


 この心拍数は正常なのだと専属医師が説明してくれた。
 それでも心配は晴れなかった。
「この件、こいつで何人目ですか?」 
 できるだけ、平常心でいなければ。
 そう思えば思うほどこぶしは強く握られていく。
「三十……四人目です」 
 現実はあまりに残酷だった。 
 ドンッ 大きい音であたりは一度静かになった。だがまた騒ぎ始めた。
 叩かれたのはその男性自身の膝だった。
 駄目だった、抑えきれなかった。
 医師の言葉に思考がついて行かなかった。
(自分がここで平常心を保てなくてどうする!)
 祈ることしかできない、己が無力で我慢できない。
「お前は……帰ってくるよな?」 
 声はかき消されてすぐに消えてしまった。

ラスクは動けなかった。
 呼吸すらも意識して行わなくてはいけない。
 ショコラは小さく肩をうずめて泣いている。
 アンコはショコラの背中をさすっている。
(どういう意味だろう)
 理解することを頭が拒否した。
「ラスク、ラスクは大丈夫だよね?」 
 ショコラの声は今にも消え入りそうだ。 そんなことを聞かれたって、正直分からない。分かりたくもない。
 でも
(ショコラを安心させてあげなくちゃ)
 そう思った。
 言葉は自然と溢れてきた。
「大丈夫、ショコラ泣かないで」
「う、うん」 
 アンコがいつの間にかお茶と和菓子を持ってきてくれた。
「抹茶を飲むとほっとしませんか?」 
 そう微笑んだ。
 抹茶を飲んだことのなかったラスクは一杯目で非常に苦い思いをした。
 アンコにお菓子を先に食べてから抹茶を飲むのだとあとで説明された。
 遅いと呪った。
 二杯目は断ったのだが、アンコに説明された通りの順序で抹茶を飲むと、非常に美味しくて体の芯から暖まる感覚に包まれた。ショコラはお菓子ばかり食べていた。

「そうよ、センベイにも会わせなくちゃ、忘れていたわ!」 
 センベイというのが人名であると理解するのに少し時間がかかった。
「あら、そうでしたか。ではまた」
「うん! 楽しい時間をありがとう! また来るわね」
「ええ、いつでも待っていますよ」 
 ショコラに連れられてやってきたのは、大きなレンガ造りの時計塔だった。
 時計塔はちょうど“国”の中央部分にある建物で一番高く、どこにいてもこの時計塔を見ることができる。 
 時計塔にもアンコの住んでいた樹のように扉があった。
 ショコラがベルを鳴らすと身長百九十p位の中年の男性が出てきた。
「おおう、嬢ちゃんか、久しいな」
「ええ、久しぶり! センベイ!」 
 センベイの風貌はどこかみすぼらしかった。
 アンコは着物をきちっと着ていたのに対して、センベイは工事現場にでもずっといるような服装だ。
「そっちの小僧はなんだ」
「あっ、はい! ラスクと言います」 
 いきなり自分に話が飛んできたラスクは驚いた。
「ほう、ラスクというのか」
「いい名前でしょう! 私が考えたの!」 
 その言葉を聞いた瞬間、センベイが少し目が鋭くなった。
 ラスクは背筋がこわばった。
「はっはっは! そうかそうか。まあ立ち話もなんだ。どうだ、少し上がって話すか」 
 豪傑のように笑う彼を見て、さっきの鋭い目は何か勘違いだったのだろう、とラスクは思った。
「あー、それもいいけど、私ね、ラスクにここのてっぺんからの景色を見せたいのよ!」
「よかろう! ついてこい!」 
 一行はセンベイの後に続いて時計塔のらせん階段を上って行った。
 階段を上がっていて、疲れを感じないのもやはりショコラの言っていたような“夢の国”だからなのだろう。 
 らせん階段の先、時計塔の最上階は非常に眺めがよかった。
 最上階は時計の真横にあたるはずなのに針の大きな音がしない、中には鐘の音なども響きにくい作りになっているらしい。
「素敵でしょう!」 
 ショコラが自慢げに言ってきた。
 薄い蒼の目をキラキラに輝かせている。
「うん、すごく綺麗だね。びっくりした」
「どう? ずっといろいろ見せてまわったけどラスクもここが気に入ってくれた?」
「もちろん」 
 二人は楽しそうにやり取りしている。
 センベイは若い男女の間に入るまいと少し距離を取った。 

 ―――顎に手を当てて考えていた。
(はたして大丈夫なのか)
 ラスクという少年を見極めようとしていた。

 アンコやセンベイはそれぞれに大樹と時計塔と住む場所を決めていたのだが、ラスクはショコラと二人きりでいることが多く、二人で城に住んでした。
 城はすべてお菓子でできている。わたあめのベッドが心地よかった。
 ラスクが日付を数えていたわけではないがおよそ三か月ぐらいこの“国”に来て経っただろうか。
 ある日、センベイに時計塔に来てほしいとラスクだけ呼び出され、センベイの部屋に招かれた。
 想像通りの汚い部屋だったが、それなりに片付いていた。
 アンコもいた、アンコもどうやら呼び出されたらしい。ラスクはなぜいきなり呼び出されたのか分からずおどおどとしていた。
「すまんな小僧。どこから話せばいいのか迷っておるのだ」
「些か難儀としか言いようがございませんからね」
 そのアンコの言葉を聞いて、ラスクはもしかしたらあの人が消えていくという事件に関してではないかと思った。
 ショコラに耐えられるかわからないような話だから、自分とアンコが呼び出されたのかもしれないと考えていた。
 重そうに、センベイが口を開いた。
「察しているようだが……そうだ、その話だ。実はすでに嬢ちゃんに言っていないだけで分かっていることがある」
 なんなのだろうと、ラスクは息をのんだ。
「人が消えるのには、周期がある」
 周期? 頭が回らなかった。
「俺が一番この中ではここにいる。だからこそわかった」
「じゃあ…次いつ消えるかも予想できるんですか?」
「おおかたの予想はもうついておる」
 ラスクの背筋が凍った。
 扇子で口元を隠していたアンコが扇子を閉じた。
「そんな怖い顔しないでくださいませ。次に消えるのはわたくしですわ」
 センベイが苦そうに目を閉じた。ラスクは状況が呑み込めないでいた。それでも言葉を振り絞った。
「なんで…なんで次に消えるのがアンコさんだって、分かるんですか?」
「時間だよ」
 センベイが低い声で吐き出した。
「ここにいる時間が長いものから消えていく」
 質問しておきながら、ラスクは答えを聞かなければよかったと思った。
「じゃあ……え、センベイさんは?」
「俺か……俺は一度外に出ている。だから時間がリセットされている」
「は?」
 ラスクは耳を疑った。ここが現実の世界じゃないなんてことラスクだってわかっていた。
 だが、ここが現実の世界ではないということは現実の世界へ帰れるということなのか。その可能性を忘れていた。
「どうしたら…外に出られるんですか?」
「その説明は難しいなあ」
「説明して差し上げてよ」
 アンコの言葉にセンベイは蹴落とされたようだ。
「タイミングがある。そのタイミングというのは……誰かが消えるときだ」
 センベイが説明をしたがらない理由がわかった気がした。
「俺がここに呼びだしたのはしっかりと理由がある」
 そういうとセンベイは椅子から立ち上がりレンガの壁に近寄っていきコンコンと叩いて見せた。
「初めてここに来たとき、おかしいと思わなかったか?」
 センベイの言葉にラスクの中の靄が晴れた。
 そうだ、あの違和感の正体は
「ほかの建物はすべてお菓子でできているのに、この時計塔だけはレンガでできている」
 ラスクがつぶやくとセンベイが首を縦に振った。
「そうだ、この時計塔だけは現実に近い。そしてこの“国”の中心に立っている」
「つまり、この時計塔は特別なのです」
 アンコが口を挟んだ。
 言いたかったことを取られたセンベイは少し嫌そうな顔をしていたが、すぐに元に戻った。
「人が消えるとき、この時計塔が光り輝き鐘が鳴る。針がまかれる。その瞬間にうまくいけば帰ることができる」
 なんだか、うまくいけばという神頼みが少し腑に落ちない。
「わたくしはもうすぐ消えますわ。あと数時間といったところでございましょう」
「苦労をかけた、何もしてやれなかった」
「まず、貴方を頼りにしたことはございませんわよ?」
 アンコはセンベイにだけ口が悪い気がする。
「わたくし自身の責任ですわ。お構いなく」
 ラスクは何も言えず、立ち尽くしていた。よく見ればアンコの足が半透明になっている。
 そこから三人一緒にお城で一人お茶をしていたショコラの元へ行き、四人で茶会を楽しんだ。
「あら、もう時間が来てしまいましたわ」
 アンコがそう微笑むとアンコの体が徐々に消えていく。
「アンコ? 嘘、どうして、ねぇ! アンコ!!」
 ショコラは受け入れられないでいる。
 暴れだそうとするショコラを必死にセンベイがとめる。ショコラは獣のように泣き叫んでいる。
 ラスクは目の前のものが信じられずにいた。
 あまりの衝撃に頭がついて行かない。
「彼女を救ってくださいね、鬼長官殿」
「分かっている、東洋の魔女」
 二人のそんな会話はラスクやショコラには聞こえなかった。
 


 アンコが消えてしまった後、ショコラが落ち着くまでに時間がかかった。
 ショコラのきいていないところでセンベイがラスクに耳打ちした。
「俺が消えるのは2週間後だ、小僧」

 理解できない目の前の状況に、ラスクはただ立ち尽くすしかなかった自分の愚かさを痛感した。
 人が消えて何処へ行くのかがわからない。
 消えて、死んでしまったのだろうか。
 ラスクはその可能性を信じたくなかった。
 時間は流れる水のようだ、自分の思っていることとは関係なくただ残酷に流れていく。
 2週間という期限は近づいてくる、何度もよどんだ水が近づいてくるような感覚におそわれた。
 ラスクはセンベイに呼び出されまた時計塔に来ていた。
 期限が近いからだろうとラスクは一人で結論づけた。
 センベイは消えてしまう前になにかまだラスクに言いたいことがあるのかもしれない。
「おう小僧、聞いておいて欲しい話がある」
「どんな話ですか?」
「俺がこの世界にやってきた時の話だ」
 すっと空気が冷えていくような気がした。
「俺がこの世界に初めて来たとき、けっこう住民はいたな……二十といったところか? 最初はみんな仲良く暮らしていたんだ。だがある日、事件は起こった。男が一人数名の住人たちの前で消えた」
 この話をセンベイは自分が消える前にしておくべき最後の話として選んだのか。とラスクは悟った。
「アンコのように時間が来て消えてしまう場合もあるが、その男は違った。明らかに消されたとしか思えなかった」
「何があったんですか?」
「その男はショコラと大喧嘩をした。」
「え」
 ショコラと大喧嘩をした? それがなんだというのだろう。
「内容が……内容だったな。俺もその場にいたがあの男はショコラにこういったのさ『お前なんて、必要とされない人間のくせに!』とな。きっかけは些細なことだったんだがなあ。男がそう言ったあと時計塔が光って、あまりのまぶしさに目を閉じてしまった。次に目を開けた時には男が消えていて、ショコラが倒れていた」
 何を言おうとしているのか。
「そう、この世界の王様はショコラなんだよ」
 ―――つまり、ショコラが全てである。センベイはそう言おうとしているのだ。
「お前は幸運だった。ショコラに気に入られているからな」
 その言われようにラスクは嫌悪を覚えた。
 ラスクもショコラもお互いが好きで仲良くしているのに。
「俺の消える時間も近づいてきたな。広場に出よう。この時間はショコラがひとりで遊んでいる時間だ」
 ショコラはラスクと共にいることが多いがひとりでいる時間もある。
 二人は広場に出た。ラスクは一人どうすればいいのかわからないでいた。
 目の前でまた誰か人が消えるのだ。自分に何ができるんだろう、そう考えていた。
「センベイ! どうしたの?」
「よう、嬢ちゃん元気か?」
「ええ、元気よ。珍しいわね、なんだか二人共顔が暗いわよ?」
 ショコラがラスクのもとに駆け寄ってきて顔色をうかがった。
「大丈夫だよ」
「本当? ならいいの」
 ショコラが笑った。笑うと本当に明るく子供らしい。センベイは微笑んだ。
「嬢ちゃん、お別れの時間だ」
 ショコラが顔を上げた。
「なに? 何の話?」
「お別れだ、運がよければまた会えるかもしれん」
「待って、意味がわからないわ」
 ショコラは今にもヒステリックを起こしそうだ。
 ラスクの頭の中は真っ白だ。
 センベイの体が半透明に光を放っていく。時計塔が光りだす。
「嘘でしょう? また前みたいに戻ってくるわよね?」
「今回はそういうわけにはいかんだろう」
「そんなことないわよ、ね。あなたまで……あなたまで、私を一人にするの?」
 光は強さを増していく。
 状況を理解してしまったショコラが大声で泣き出した。周りの様子はもう目にも入っていないようだ。
 ラスクは無理だと分かっていながらセンベイが消えるのを止めたい一心でセンベイのもとに近づく。
「小僧、俺の本当の名前はゲンゾウだ。お前は?」
「え? 僕の本当の名前?」
 センベイが目を見開いた。
「お前、合わせていたんじゃないのか? ショコラに合わせることで適応していたのではないのか?」
「なんのことかよくわからないですけど、僕は自分の名前がわからなくて……」
「じゃあお前はあの重要な使命すら忘れているのか!!」
 今までとは明らかにセンベイの顔つき違う。
「今すぐ時計塔へ走れ!! 今なら間に合う、現実の世界へ戻れ!!」
「え?」
「戻って確認して来い、お前自身を! 時計塔の針に触れろ!!」
 ラスクはわけがわからないまま時計塔へ走り始めた。
 時計塔の針へ触れろということは、一番上まであのらせん階段を駆け上がれということだろうか。わけがわからない、だがアンコの時ほどセンベイが消える速度は早くなかった。
 ゆっくりゆっくりと消えていっている。大声で泣き叫ぶショコラの声が聞こえる。
「嫌よ嫌よ嫌よ嫌よー―――!! 行かないでよ!!」
 らせん階段の一番上へ着いた、あとは針に触れるだけだ。
「だめー――――――――!!」
 その声と同時にラスクは時計塔の大きな針に手が触れた。


 病室では奇跡の生還者だとその場にいた誰もが涙を流して喜んでいる。
 ラスクは重たいまぶたをあけた。
 自分は呼吸器をつけているらしい。
(ここはどこ? 病院のベッド? すぐ横には数多くの点滴。つながれているのは僕……?)
「よかった!! お前がいなくなったら俺は死んでしまうところだった!!」 
 白衣を着た中年の男性が涙を流している。頭にもやがかかったままだ。
「何か欲しいものはあるか? フィル」 
(フィル? 誰のことだろう)
 そう考えていると首から聴診器をかけた男性が近づいてきてこういった。
「まだ反動で意識が混濁しているのではないかと思われます」
「そ、そうなのかフィル?」
(ああ、そうだ。どうして忘れていたのだろう。こんな大切なことを。僕の名前はラスクじゃない)
 意識にかかった靄が少しずつ晴れてきた。
(僕の名前はフィル・マークリン、フィル・マークリンだ。そしてここに居るのは僕の恩師ジェームズ・マークリン)
 目頭が熱くなった。
(僕の育ての親であり、僕に魔法を教えてくれた人だ)
「先生、大丈夫だから……」 
 ラスク――フィルが必死の思いで絞り出した声は、実に細かった。
「本当か? 無理はするな。絶対だぞ? ずっと心配していたんだからな」
「先生、僕どうしてこんなところに?」
「覚えていないのか? お前は重要な任務でここにいるんだよ」
「じゅうような……任務?」
「横を見ろ」 
 フィルがやっとの思いで横を見るとひとりの少女が白いベッドの上に横たわっていた。
 フィルよりもずっとたくさんの点滴につながれている。
 本来は美しいであろうよどんでしまった金髪。あおすぎる肌。そうだ、僕はこの子を知っている。
 この子は―――
「横にいるのはショコラ・ガーランド。強大な魔力を持つこの国のお偉いさんの一人娘だよ」 
 だいぶ頭の靄が取れてきた。
「私はこの子の医師をやっておりますが、あなたほど若い方が、よくあれほどの術から戻ってきましたね!」 
 聴診器をかけた男性が言った。
 記憶が戻ってこない。
「情報の整理がてら、もう一度説明し直しましょうか」
「おねがいします」 
 フィルは寝たまま話を聞いた。
「ショコラ、この少女は非常に強大な魔力を持っています。それはあなたが体験したような擬似世界を創り出すほどの」

 ショコラは数年前より自分の精神世界、そこに擬似世界を創り出し、もう何年も意識が戻らない植物状態に陥っている。
 このままでは彼女ショコラは死んでしまうだろう。
 しかし、あまりに強大な魔力のため並みの人間ではその世界に入ることができない。
「我々は彼女を植物状態から救い、意識を回復させるため、様々な魔導士に彼女の精神世界に入り彼女を救い出して欲しいと依頼しました。…あなたでちょうど三十四人目です」 
 フィルは息を飲んだ。
「なぜ、ショコラは自分の精神世界に、閉じこもっているんですか?」
「強大な魔力の持ち主が精神世界に閉じこもる理由は、大きすぎる精神的なショックでしょう」
「それは、ショコラの場合、どんな?」 
 医師が大きく息を吐いた。空気が固まった。
「彼女が精神世界に入る三週間前、彼女は実の母親を病気で亡くしています。我々はそのことが原因なのではないかと考えています」 
 現実とはどこまでも現実だ。

 
 ショコラは国の中でも高い地位にある父親のおかげで幼少時より非常に裕福な家庭で育った。
 だが、ショコラの母親は体が弱く、病気がちだった。
 父親が仕事で家を留守にすることが多かったショコラにとって実の母親の存在は非常に大きいものだった。
 使用人の話によれば、本当に仲の良い親子だったという。
 ショコラは絵本を読んでもらうのが大好きで、寝る前にはいつも母親にねだっていたのだとか。 
 ――暖かい繭に守られていたような日々は、突如終わりを告げた。 
 もともとか弱かったショコラの母が病気亡くなったのだ。
 苦しみながら逝ったのではない、安らかな死だった。
 亡骸は微笑んでいた。 
 葬儀は親族だけでしめやかに行われた。
 亡骸にはたくさんの花がたむけられ、火葬された。
 ショコラは十をやっとこえたというほどのまだ幼子だった。
 本当はまだ甘えたいことがたくさんあったはずだ。
「奥様は亡くなられたんです、最後のお別れなんですよ」 
 そう乳母に言われてもショコラはどこかぼうっとしていたらしい。 
 ショコラはそれから1年ほど経ってから、精神世界に入った。
 なぜ、そんな幼子に擬似世界を創り出すということができたのか。 
 ―――世界はショコラに素直だった。
 繰り返してしまうが、ショコラは強大な魔力の持ち主だ。
 幼い頃より力のコントロールを覚え、魔導に対する知識も秀でていた。環境も整っていた。
 それでもショコラにそんな芸当ができたのはやはり運が悪かったとしか言い様がないのか。 
 植物状態のまま精神世界から出てこないというのは命に関わることだった。
 高い地位にある父親は一人娘のために手を尽くした。
 実力者の中で一人だけ軍の上層部、鬼長官と恐れられるゲンゾウだけがショコラの精神世界から現実へと帰ってきた。
 彼のもたらしたショコラとその世界の状況は非常に有力な内容で、その話から
「同じ年頃の人間にショコラが心を開きやすい」ということが分かった。 
 ほかにも、世界の状況としては一定時間が経つとショコラの魔力がもたなくなりその人間の意識が消えてしまうこと。
 またショコラの耐え難い状況(ショコラと喧嘩するなど)もそうなるということ。 
 そこで国王直属魔導士団の最年少の新入り――フィルに依頼がまわってきたのだ。
 ちょうどフィルとショコラは同い年だ。
「でもな……フィル、もう任務には戻らなくていいんだよ」
「え…?」 
(一体どういうことだろう?)
 ジェームズの言葉にフィルは耳を疑った。


「これ以上あなたの年齢で精神結合――精神世界へ行く魔導の術――はリスクが高すぎます。彼女のことはもう……、ご家族には納得していただきましたし、他の方に依頼をまわします」
(どういう意味? もしかして、ショコラが死んでも仕方がないという賛同を得た? 次に依頼を頼んでそれが最後?) 
 フィルは怒りがこみ上げてきた。
「僕はいきます」
「はっ……フィル、何を言って」
「彼女を絶対に助け出します」
 有無を言わせない言い方に周りの人間は一歩下がった。
 だがジェームズは食い下がらなかった。
「いいか、もうお前にどうにかできる問題じゃないんだよ。彼女の世界に行くことは危険だ。次はお前の命がなくなるかもしれない」
 ジェームズは少し悲しそうな顔をして、他のベッドを見つめた。
「命がなくならなくても、そこにいるゲンゾウさんたちのように植物状態のままだぞ、一生そうなるんだぞ?」
「僕の気持ちは変わらないよ、先生」
「いいかげんにしろ! 冷静になれ、お前にはどうにもできない!!」
「だって彼女は僕なんだ!!」
 フィルは自分にこんな大きな声が出せるのかと内心驚いた。
「だって、僕もそうだったから。ずっと一人ぼっちだったから」
「フィル……」
 フィルは悲しそうに笑って、そして言った。
「このままじゃショコラは一生ひとりぼっちのままだ!! 誰かがあの子を助けてあげないと――もうそれに誰かじゃダメなんだ!! 先生、僕は大丈夫。絶対に元気に帰ってくるから」
 ジェームズは泣き出したが小さく頷いてこういった。
「お前はいつもそうだ。あまり自分の意見は言わないくせに、こうときめたら二度と聞かない頑固者だ。もう、俺がどんなに説得したって無理だろう。絶対に元気に帰って来い」
「はい!」
(ありがとうお義父さん)
 そう心の中で付け足した。
 医師たちも説得を諦めたようで、精神結合の準備をしている。
「本当に、大丈夫なんですね?」
「はい」
「いきます―――精神結合!!」
(待っていてね、ショコラ)

 
 予想以上に状況はひどかった。
 二度目に訪れたショコラの精神世界はほとんど原型をとどめていなかった。
 お菓子の城は見るも無残に壊れ果て、空はぼろぼろにヒビが入っていた。道路の石畳ははげてしまっている。
 時計塔は大きく傾いていた。フィル――ラスクは必死にショコラを探した。
 キィイイィイイイイン
 なにか耳をつんざくような音が聞こえる。その音のする方へラスクは走っていった。
 崩壊する広場、後ろには傾いた時計塔。中心には光り輝く大きく複雑な魔法陣―――中心にショコラはいた。
「ショコラ! ショコラぁああ!」
 叫びが届いたのか、ショコラがすたれた目をしてこちらを見た。
「ラスク? ラスクなの……?」
「そうだよショコラ!」
「こっちへ来て、助けて……!」
「うん、今そっちに行くよ!」
 そうは言っても状況は良くならない。進もうとする先にはチョコで出来ていた石畳がはげて行く手を阻む。
 前がよく見えない。
 やっとの思いで進んでいくものの距離が遠すぎる!
「ねえ……ラスク、帰ってきてくれてありがとう。もう、どこにもいかないわよね?」
 ショコラの辛そうな声は普段の姿からは想像もできない。
 それでもラスクは言うと決めた。
「ショコラ、僕と一緒に現実に帰ろう?」
「現実? 何の話? ここは十分現実じゃない」
「違う! ここは君の夢の中だ!!」
 キュィィイイイィィィイィイイィイィイイイイイイン
 音が大きくなる、耳を塞ぐ。世界が壊れる音がする。
「嘘よ、嘘よ……」
「嘘じゃないんだ」
(届け)
「僕と帰ろう」
「嫌っ!!」
 ショコラの瞳から大粒の涙がこぼれた。
「無理よ、無理よ……」
 やっとショコラの顔がしっかりと見える距離まで近づいた。ラスクは秘めていた思いを言った。
「僕の名前はね、フィルっていうんだ。両親が付けてくれた名前なんだって」
「……? だって?」
「うん」
 フィルの思いの枷が外れた。
「僕ね、両親を小さい時に魔導の研究事故で亡くしているんだ」
 ショコラの顔が一気に青ざめた。
「物心ついて気づいたら僕は孤児院で育ててもらっていた。親族がいなかったから。でもある日、僕の魔導の才能を見込んで引き取ってくれた人がいた」
 フィルは涙をためて、それでも微笑んだ。
「それがジェームズ・マークリン、僕の義父であり魔導の恩師だ」
 孤児院は愛情にあふれていた。
 身寄りのないフィル達を孤児院の先生たちは大切に、まるで我が子のように接してくれた。
 たくさんの家族がいた。

 ――それでもフィルは寂しかった。
 ふと自分は誰からも必要とされてないように感じた。
 いつかまた一人になってしまうような、漠然とした不安に襲われることがあった。
 心にぽっかりと穴があいていた。
 ジェームズはフィルを引き取り息子として愛してくれた。
 ジェームズは非常に優秀で極少数の人間しか入れない国王直属魔導士団の団員だった。彼は妻を病気で亡くしており、子供がいなかった。
 そこで彼は孤児院の優秀な魔導士の卵――フィルを引き取ることに決めた。
 それからは、二人の生活は一転した。パンにのせるチーズを取り合ったこともあった、水切りをして遊んだ。
 そしてジェームズは熱心にフィルに魔導を教えてくれた。
 フィルはジェームズの背中を見て育った。
 そして魔導士団の入団テストが受けられる十二になる頃には自分から入団を希望した。
 フィルはジェームズが見込んだ通りだった。史上最年少の魔導士団団員となったのだから。
「周りは僕を『天才だ』って言ったけど、僕は違うと思うんだ。覚えの悪い僕に熱心に教えてくれた先生のおかげだよ。僕もよく両親の事故に懲りず魔導を続けたよね、本当に笑っちゃう。本当に、先生のおかげなんだ」
 魔法陣がより一層光り輝く、ショコラの後ろの空に複雑な数式が現れては消えていく。
「無理なの――私には、無理なの! お母様がいないから……! 私にはお母様しかいなかったのに、お母様さえいてくださればよかったのに。私の周りには誰もいない、何もない! 私はひとりぼっちなんだわ」
 魔法陣の光が失われつつある。ショコラはか細い声でぽつぽつと話し始めた。
「お母様が私を必要としてくださったから、私は生きていくことができた。でも今は違うの、誰も私のことなんて必要ではないんだわ。お父様には数えるほどしか会ったことがない、使用人達が優しくしてくれるのは『仕事』だからなんだわ。この国の人達が私に優しくしてくれたのはここが『夢の国』で私が『王様』だからなんだわ」
 ショコラの涙は止まらない。
「ここを出てしまったら、私には何もない。私は誰からも必要とされていないの――誰からも愛されていないの!!」
「君は本当にそう思うの? 本当に自分が必要とされていないと思うの? どうして君は周りの人間を信じようとしないの?」
「だって」
 フィルは笑った。
「ショコラ……僕を信じて!! ショコラは僕と、君自身を信じて!!」
(君は一人ぼっちじゃないんだよ)
 時計塔は崩れ落ちた。光が瞬いてはその度に強さを増していく――
 世界は壊れた。


 点滴や少女の体にまとわりついていた吸盤は外された。
 軽い貧血だろう、起き上がって立とうとすると目眩がした。
 体をささえてくれたのは、まだ骨格もきちんとしていないような少年だった。
「ダメね、私ってば」
「大丈夫だよ、心配しなくても」
 少女は微笑んだ。
「そうね、でも少し手を退けて欲しいわ」
「……分かった」
 少年――フィルはささえていた手を退けた。
 少女――ショコラは立ち上がった。
 数年間動かされていなかった筋肉は完全に衰えてしまっている、立っただけで足が震える。
「でも、立たなくちゃ。一人で」
「ショコラ」
「大丈夫、フィル」
 だがやはりベッドに座ってしまう、数秒立つのがやっとだった。
「大きな一歩だわ」
 数秒でも、一人で立てたのだから。
 ――ショコラは自分に言い聞かせてから、くっくっと笑った。
 医師たちは顔を真っ青にしている。ショコラがいつ倒れてもいいように準備を進めている。
「あの、ゲンゾウさんたちは?」
「じきに目を覚まされると思いますよ」
 フィルの問いに専属医師は得意げに答えた。
「これから世界は大きく変わるわ」
「そうだね」
「退院したら、お母様に会いにいくの。たくさんお花を持って、たくさんお話をするの」
 フィルは心配になってショコラに
「平気なの?」
 と尋ねた。
 次の瞬間見せたショコラの笑顔はフィルの不安を吹き飛ばした。
「当たり前よ! お母様にくよくよした顔なんて見せられないわ!」


 吹き抜ける冷たい夜風。老人は孫と思われる小さな男の子に手を焼いていた。
「はい、おかしな世界のお話はこれでもうおしまい。君はもう寝なさい。ウィル・マークリン」
「えぇ! やだよう! おじいちゃまのおはなしのつづきは?」
「ないよ」
「そんなあ!」
 舌足らずだが懸命にしゃべろうとする頭をそっと撫でた。撫でてやると、本当は眠かったのだろう。おとなしく自分の部屋に帰っていった。
「物語の続きかあ……」
 老人のつぶやきはそっと部屋の中に消えていった。
 部屋は豪華すぎない装飾の施された古い家具が大切に置いてある。手入れの行き届いた漆喰の壁、その壁の傍に置いてあるテーブルの上にはたくさんの写真が並んでいる。
 写真は家族の歴史だ。
 結婚式や初めての誕生日、初めて空を飛ぶ術を使えた日。
 その中にひとつだけ目立つほどとても古いものがある。
 今にも壊れてしまいそうな額に入れられた小さな写真――それには大きな屋敷のお庭、金色の髪を輝かせ明るく笑う少女とそばで優しく微笑む少女の母親が映っていた。
【Fin.】

あとがき・解説
2014/02/02/19:00
加筆修正終了いたしました。
【あとがき】※ネタバレなし
光り輝く魔法陣、崩れ去る塔と泣き叫ぶ少女。
その少女に向かって必死に叫び続ける少年――彼らは何をしているんだろう?
そんなイメージから膨らんだ小説になります。
特に理由はなくってもなんだか「寂しいなあ」って思っちゃうことありませんか?
実は物語に登場するショコラは寂しくて寂しくてたまらない……そんな女の子です。
だからどうやったら楽しいかがわからなくって、楽しいことをいっぱいいっぱい詰めて夢の国を作り上げました。
それでもショコラは……
沢山の人に意見を頂いて本当に幸せな限りです。
靄(もや)なんて難しい漢字もところどころありますね……校正が足りなかったようです。
いろんな方にちょっとこの話はわかりにくい! とのご指摘を頂きました。
それもそのはず
このお話「ハッピー☆ライン」のパラレルワールドなので
原作のほうを知らないと世界観がさっぱり、というわけなんですね。

【解説】※ネタバレあり
「ハッピー☆ライン」の作品あらすじから
普通の人間の女の子であるソラは突然現れた謎の男性に連れて行かれて魔界で魔女修業をすることに!? はたしてソラの運命やいかに〜……
違う? えっ違う?
まあ、「ハッピー☆ライン」の冒頭部分はこれなんですが、あの話は読めば読むほど謎のキーワードが出てきます。そして本編の更新が遅すぎて何がなんだかわかりませんね!(ブーメラン
「ハッピー☆ライン」のネタバレにもなってしまいますので、此処から先は閲覧注意です!

魔法界――通称:魔界は「元素」によって構成されています。
人間界は化学の時間でおなじみの「原素」と魔界を構成している「元素」の2つからできています。
「原素」に関しては皆さんがご存知のとおりですので説明は省略。
「元素」
それはあらゆる生物を構成する「命の成分」とでも言えばいいんでしょうか。
光、闇、空間、風、炎、土、水、木、氷この9つがあります。
・光と闇は相反する、世界で最も多い元素。
・風、炎、土、水は皆さんおなじみ4大元素と言われるものです。
・そして風の元素から派生するように誕生したのが空間と氷の元素。
これらの元素のいずれかが必ず生命には含まれています。
そしてどれかひとつの元素が突出して多い人間が「魔法」を使うことができるのです。
元素が突出して多い人間を「魔法使い」と呼びます。
魔法使いにも才能がありまして
その才能の大きさは「元素濃度」によって左右されます。
例えば、ショコラは非常に元素濃度の濃く魔力の器も大きい天才。
フィルは元素濃度がそこそこ高いけれど魔力の器はあんまり大きくない秀才とでも呼びましょうか。
また、元素同士では相性というのがあり
光と闇は相性が悪い、炎と水の元素も相性が悪いですね。
あたまがぐつぐつしてきましたか? 私の頭はぐつぐつしています(笑)
「魔法」
「おかしな時計」の中ではフィルが「魔導」と呼んでいたものです。
自分の中にある元素と自然界に存在している元素を共鳴させることによって人工的に「奇跡」を起こすことを魔法と呼びます。
「魔法」を使うことには代償が伴い、使える人間は限られています。

さて!下準備は整いました。
「ハッピー☆ライン」と「おかしな時計」の分岐点に着眼します。

「ハッピー☆ライン」と「おかしな時計」の最大の違いは「おかしな時計」の世界には「魔界」が存在しません。なぜならば「おかしな時計」ではアイリスリアリ(「ハッピー☆ライン」で魔界を作った人)が誕生していないからです。
逆に言えば「おかしな時計」の世界では「アイリスリアリが存在する必要がなかった」わけです。
「おかしな時計」の世界では魔法使い>>Not魔法使いなので、魔法使いが虐げられるということがありません(「ハッピー☆ライン」ではNot魔法使い>>>魔法使いなので虐げられた歴史があります)。
だからこそ「おかしな時計」の舞台は化学と魔法が同時に発達した未来なんです。
そして、「おかしな時計」の舞台は「人間界」なのです。
「人間界」では先程も書きましたが「原素」と「元素」によって世界が支えられています。
「ハッピー☆ライン」作中でところどころ登場しますが、元素バランスが崩れると自然にダイレクトで影響が出ます。
しかし「おかしな時計」では元素バランスが崩れて起きる災害は「ハッピー☆ライン」のおよそ半分と考えてください。
それでも、やはり人間界では「元素バランス」の乱れが大問題であることを覚えておいてください。
ショコラは生まれながらにして非常に稀有で世界でも数人しか持たない「空間の元素」をもって生まれてきます(しかもとてもとても強い)。
「空間の元素」
それは空間世界の広がりを保ち、時間をも制御することができる能力。
……ん?「空間世界の広がりを保ち」? はてはてどういう意味なのか……少しずつ説明しましょう。
「世界」というのはたくさんの空間からできています。
「悪魔界」「妖精界」「天界」「人間界」
そしてどの空間も他の空間をぎゅうぎゅうと押しています。
例えば、人間界に「空間の元素」の保持者がいなかったら「悪魔界」にぎゅうぎゅう通された挙句、消えてしまいます。
そう、だからショコラがいなくなったら困るのです。
ショコラは「人間界」という空間そのものを支える人物。
彼女が一人欠けただけで、他の空間からぎゅうぎゅうと押されてしまい、空間が狭く(=大災害などが形として起こる) なってしまうわけです。
しかもショコラは自らの「精神世界(=擬似世界)」という新たな「空間」を作ってしまったではありませんか!
もうこれは満員電車なのにさらに人が入ってきてとってもきつい状態なわけです。
そして、空間を一人で保持し続けることには大変な体力を使います。
ショコラがこのままでは死んでしまう……というのはそういう意味です。
「人間界」を守るため、ショコラの命を救うため――「精神結合」
つまり、ショコラの精神世界に無理やりダイブする魔法を使って大人たちはショコラを助けようとします。
そしてたくさんの高名な魔法使いが続々投下されていきます。
国家に仕える鬼将軍のゲンゾウや東洋の魔女と呼ばれるアンコもその一人です。
ですが誰もショコラを救い出すことができません。
長い時間精神世界に留まると、魔法の反動で精神世界と人間界を間をうろついてしまいます。
ショコラと喧嘩をすると精神世界から強制的に追い出され、やっぱりうろうろ。
しかしゲンゾウは希望の光を見つけました。
それは……作中で登場できなかった「モンブラン」という少女です。
木の元素を持つモンブランはショコラととても歳が近く、仲良くなりました。
ショコラとモンブランが仲よさげに話す様子を見たゲンゾウは
「ショコラのトラウマの開放こそが彼女を精神世界から離脱させる方法だ」
と確信します。
モンブランが時間の経過で消えるときに偶然針に触れたゲンゾウは現実世界に戻ってきて、このことを報告します。
「ショコラと歳の近い有能な魔導師(魔法使い)ならば、ショコラを救い出すことができるかもしれない」
そうして選ばれたのが、空間の元素ととても相性の良い、稀有な「風の元素」を持つ少年フィルでした。

すこしスッキリしましたか? それともわけがわからなくなったでしょうか?
余談というかこれまた追加説明ですが
「風の元素」の宿命は「同調」と「変化」だといえば更に納得できますかね(宿命というのはその元素の持ち主が起こす行動や元素の性質のようなものです)。
とても支離滅裂な内容ですみません。
閲覧有難うございました!
昔書いた作品を、消すのもなあ、ということで載せておきます。




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