ミクリって、もしかして、ずっと私のことが好きだったの?

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※これは「旧メイデーア」としてウェブで公開されている、メイデーアシリーズの「100年の恋」というお話のパロディです。メイデーアのネタバレしかないです。
※詳しくは旧メイデーアを読んでね!!頼むので!!と言うお話です。
※ネームレスミクリ夢小説、ハッピーエンドですが冒頭から失恋しています。
※この話単独で読めますが、メイデーアのネタバレです





 悲しいことがあったときは、空を見あげると良い。なんていうけれど、見あげた丸い空を見てあっと気がついた。
 空もまた、泪と同じ色をしているじゃないか。
 空の果ても、海の果ても、世界の果てまで泪と同じ色だ。
 だから神話で、この世界は女神様の泪から生まれただなんてものがあるのかなと、思考を散らして。
 目の前の現実から目を背けようとした。

 世界はどこまでも空と海で、泪の色で繋がっている。
 ああ、じゃあ、私は、どうしたら良いんだろう。


◇◇◇


 それはあまりにも突然もたらされた、彼女の言葉だった。
「ねえ、ミクリ」
「なんだい、どうかしたの?」


「ミクリって、もしかして、ずっと私のことが好きだったの?」

 その言葉に固まってしまった私は、悪くないと思う。


「……それを、今更知って、君は、どうしようっていうの?」

 振り絞った言葉に、彼女はまたうつむいた。


◇◇◇


 彼女は昔からの知り合いで、子どもの頃はよく遊んでいた。というよりは、彼女が少し年上なので、私は遊んで貰っていたのだ。
 彼女は明るくて優しくて、色々なことを知っていた。ルネの外から来た人間だったということもあったのだろうが、ルネの中から修行のために殆ど出られなかった私にとって、彼女との会話はとても新鮮なものだった。
「ミクリの瞳の色は素敵だね。太陽の光をきらきら反射する、水面みたい」
 そんな彼女の言葉に笑みが止まらなくなってしまうくらい。何度も自分の目を鏡で覗き込んでしまうくらい。私は昔から彼女に惹かれていた。
 彼女に何かひとつ褒められると、そうなのかな、と訳もなくはしゃいで、浮かれて、彼女の一言で天国にいける恋は、彼女の一言で地獄にもいけるのだと言うことを分かっていなかった。

 彼女はルネの人間ではなく、近くから出る交易船の船長の娘だった。だから、彼女と会える日はそう多くはなくて、天候によってはまる二週間会えないということもザラだった。そんな日が続くと私は窓の外を見ながら、はやく会えないかな、なんていじらしく待っていた。
 海が開けて交易船がきた。ルネに必要な日用品や食品を載せた船に皆喜び、そして私は彼女に出会えることを何よりも喜んだ。
「ねえねえ、今日は船が帰るまで遊んでくれるんだよね?」
「もちろん!」
「やったあ」
 なんて、目をとびきり輝かせて喜んで。


 そんな薄ら氷の喜びは、雪が溶けると春が来るように、パリンと割れて、あとは暗くて冷たい海に落ちていくだけだったのに。


◇◇◇


 コンテストで勝ちあがり、ついにコンテストマスターの名を得たとき。私は真っ先に彼女にその喜びを報告しに行った。
 そしてその時に、応援に駆けつけてくれた彼女が頬を赤らめて男と話しているのを見かけた。その男はコンテストの出場者で、確か私とは違うブロックで、そして負けてしまったはずだ。
 私が触れることもかなわない頬は色づいて、彼女はどことなく恥ずかしそうにおどおどとしながら話していて、私は声をかけられるわけもなく、ただ呆然とその様子を見ていた。
「あっ、ミクリ優勝おめでとう! ごめん、気がつかなくて」
 ようやく彼女に声をかけようとしている私に男が気がついて、彼女に知らせた。
「ありがとう、ポケモンたちが努力してくれたおかげだよ」
 そうなんとか笑みを貼り付けたまま答えてから、男を見て、わざとらしく「知らない」という顔をしてみせた。
「ミクリ、彼もコーディネーターさんで、ちょっと話し込んでいたの」
「そうだったんだ。はじめまして、ミクリです。貴方の演技、とても素敵でした」
「そんな、コンテストマスターにそういって貰えるなんて、本当に嬉しいです」

 このたった一日出会っただけの男は、いつの間にか彼女の隣に居着いていて。私の場所はなくなってしまって。そうしてその内に分かったのだ。彼は彼女の特別な人になる、と。誰でもない、たったひとりの人なのだ、と。

 何年も何年も、私が彼女に抱いていた気持ちはもうここで、捨ててしまうしかないかな、と。


 元々、彼女はよく私のことを「可愛い弟」だなんて茶化していた。「可愛い弟」であって、「ひとりの特別な男」ではなかったのだ。
 いつか、諦めずにこの思いを抱き続けたら、神様が私を見つけてくれて、何かが起こって、そして彼女と結ばれるかもしれない、なんて夢を見ていたけれど。本当に全て夢に過ぎなかった。

 私は、せいぜいそんなものだったのだ、と知ったときに。この恋を諦めようと、諦めるしかないと思ったのだ。

 だってこの男は、私が費やした何年もの時間を簡単に塗り替えてしまうような、そんな恋を彼女に抱かせたのだから。

 だからこの思いはしまい込んで、上手に蓋をしてわらって、せめて彼女と対等の関係でいようと思った。


◇◇◇


 彼女はあの男と婚約の一歩手前というところまで行ったのだが、男はどうしても他地方に行きたいと言い、彼女はホウエンから出たくないと言ったので別れたらしい。
 でも、もう私に彼女へ思いを告げる気力はなかった。彼女の昔なじみで友人、良き相談相手というこのポジションは、私が彼女に恋さえ抱かなければ、崩れ去ることはない安定した船だったから。


「答えて、何か意味があるの? 今更、今更過ぎるよ。なんで……どうして、今更」

 私が忘れようとした恋に。

「なんで、気がついてしまうんだ。どうして、せっかくずっと、上手に隠してきたのに。なんでそんなことに気がついてしまうんだ! 私がどれだけ……何のために、ずっと隠してきたと思っているんだ」

「……ミクリ」

「君が…………君が気がつかなければ、私はこれからも、ずっと、君の近くにいられるのに。どうして、どうして気がついてしまったんだ。今更、今更……」

 君があの男と婚約を考えていることも知っていた。苦しそうに、故郷を思って涙を流す君を見ていた。君が苦しそうに男の話をするたびに薄暗く喜んだこともあった。でもそんな自分がイヤだった。
 君に幸せで居てほしかった、君に笑ってほしかった、君がどこかにいるなら、私はそれで良かった。せめて、君の幸せを遠くから知ることが出来れば良かった、君の幸せを願うために、私は。諦めることにしたのに。

「……そうだよ、君のことが好きだった。でも、君の特別になれないことも知っていた。……それでも私は頑張ってみたんだよ。君に愛されないなら、せめて君に対等でありたいと思った。……少しでも君と話がしたくて、君の近くに居たくて、心から君の幸せを願いたくて」

 だから、育ちすぎた恋心に鍵をかけて、その鍵は海に沈めた。

 君が鍵を深海から見つけなければ、見つけなければ、私は。

「……何年も君の傍に居たつもりだった、君のことは誰よりも想っているつもりだった。でもあの日、彼に微笑む君を見て悟ってしまったんだ。私が子どもの頃から抱き続けた想いは、私は、この男には敵わないのだと。……そうしたらもう、諦めることしか、できなかった!」

 たった数日話しただけで、彼と付き合い始めた君を見て、そうするしかなかった。そうしなくては、君の傍にいることができなくなってしまうから。

「……でも安心してくれ。君に謝ったり、なにかして欲しいわけじゃないんだ」
「ミクリ、それは」
「気がつかないで欲しかった。君の重荷にはなりたくないから……。重い男だと、笑ってくれても構わない。これはもう昔の気持ちで、今の私の気持ちじゃない。……もう上手に諦めたんだ。だから、どうかこのままでいてくれ」

 何事もないように、どちらからかワインを持ち寄って晩酌するような。愚痴があったらお互いに言い合えるような。気軽に男女として意識もせず軽口をたたけるような。

「このままでいよう」
「でもわたし、ずっと、ミクリの気持ちを踏みにじって」
「そんなことはない、きにしなくていい。だからどうか、昔の私の気持ちに結論を出そうとしないで。頼むから」

 そう、そこまでわたしはいいきって。

「君が後悔するところを、見たくないんだ」


◇◇◇


「彼と付き合うことになったの」
「…………彼って?」
「ほら、コンテスト会場で出会った」
「ああ。あの」
「そうそう。とっても趣味が合ってね、試しに付き合ってみようかって!」

「そう、だったんだ」


「おめでとう」がきちんと言えたのだろうか。それほど記憶は曖昧で、あの日はから数日は泪ばかりを流していた。
 
 悲しいことがあったときは、空を見あげると良い。なんていうけれど、見あげた丸い空を見てあっと気がついた。
 空もまた、泪と同じ色をしているじゃないか。
 空の果ても、海の果ても、世界の果てまで泪と同じ色だ。
 だから神話で、この世界は女神様の泪から生まれただなんてものがあるのかなと、思考を散らして。
 目の前の現実から目を背けようとした。

 世界はどこまでも空と海で、泪の色で繋がっている。
 ああ、じゃあ、私は、どうしたら良いんだろう。


 たった数日話しただけで、彼と付き合うことになったときいて、じゃあ私はなんていえなくて。私の方がもっと君を想っている、なんて口に出せなかった愚かしさもそうだけれど、彼女を困らせるようなことはしたくなかった。
 焼け付くような恋の終わりは、あまりにもあっけなくて、線香花火のように風に煽られたら簡単に消える関係だと、どうして気がつけなかったのだろうか。


◇◇◇


「何年もかけて君を諦めた……」
「うん、諦めるには十分な時間を私は」
 そう、諦めるのに十分すぎるほど時間が合った。その間に幸せそうな君を見た。
「だから、もう、頼むから……」


「だから今度は、何年もかけて、私がミクリを振り向かせるよ」
「えっ?」
 彼女の明るい声に、素っ頓狂な声を上げて振り返った。
「そして必ず、ミクリを幸せにするよ……なんて都合が良いだけだから。私は、今度こそ貴方を大切にする」
「……」

「貴方を幸せにする!」

 彼女らしい、どこか飛んだような答えに、呆れるよりも先に笑みがこぼれてしまって。変わらないな、と思った。
 都合が良い言葉なのに、それをどこかで待ち望んでいた自分がいた。

「ミクリ大好きだよ」

 そう笑う彼女を見て、鮮やかに脳裏をよみがえるのは爽やかな青色。空の色、海の色。

 そんなことをいう彼女を嫌いになれるはずもなくて、気持ちは鍵穴から簡単にあふれ出してしまった。


 気がつけば、私は彼女を固く抱きしめて口づけていた。

 別に、口づけをしたからといって、何かが大きく変わるわけではない。これはただ、最初の一歩でしかないのだから。

 結局私は諦められないのだから。


【fin.】


追記


あまりにも大好きな「100年の恋」のパロディですが、そもそも私の小説が肌に合う方はメイデーア好きだと思います。というか、メイデーアが私の性癖です。ありがとうございます。性癖と性癖を掛け合わせたら最強の性癖になると思いませんか!!!?バニラとチョコ単独でも美味しいけどチョコミックスはおいしい!!みたいな話です。






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