11私は退院して1週間ぶりに高校に登校していた。
父に車で校門まで送ってもらい、そこからは松葉杖でゆっくり歩く。
時間がかかるだろうからといつもよりかなり早い時間に登校したので、生徒もまばらだ。
なんとか下駄箱までたどり着くとそこにはいつも仲良くしてる友人が2人、こちらに手を振っていた。
「尚美おはよー!」
「尚美〜!大丈夫??入院してたって」
「おはよう!どうしたの2人して。いつもこんなに早く無いよね……?」
特に朝に待ち合わせするようなことはしていない。
「尚美が今日から登校するって聞いたから待ってたよ!」
「足怪我してるんでしょ?大変かと思って。お見舞いも行かずにごめんね!」
友人の思わぬ優しさに驚いたが、嬉しかった。
たしかに昨夜、友人2人には明日から学校に行くとは伝えていた。その後2人で話し合ってくれたのだろう。
「ううん。ありがと。嬉しいや」
「もう、この間の大規模侵攻で怪我したんじゃないかと思ったよ〜」
「私は大丈夫だよ。終わって安心したのか、階段で転んじゃって」
本部で忍田さん達上層部が話し合った結果、私の怪我は隠されることとなった。
少しでも一般人に不安を与えないようにするためだそうだ。
「蔵内君に教えてもらったんだよー、尚美が入院しててしばらく休むって」
「犬飼君お見舞いにきた?尚美のプリントとか渡したんだけどさ」
「うん、みんなで来てくれたよ」
「やっばり、ボーダーはみんな仲良いんだね」
「うん、まぁね」
この私の言う「みんな」と言うのは部隊の「みんな」だが、意外な事に同い年のボーダー隊員はそれぞれ入院中に来てくれていた。
「宮木おはよう。今日から復帰なんだな」
なんとか上履きを友人の助けを借りて履いて、いざ3階にあるクラスまで登ろうと思っていたところに同じクラスの会長が通りかかった。
ちなみに会長は王子君と一緒に入院中お見舞いに来てくれている。
王子君は「これでも読んだら良いよ」とチェスの入門編の本をくれた。ちなみにまだ読めていない。
「会長おはよう。この間はお見舞いきてくれてありがとうね」
「蔵内君おはよ!」
「会長おはよう!」
友人2人も揃って挨拶をする。
「その足で階段登るのか……俺が背負って連れて行こうか?」
「いや、いいよ悪いし!ノートのコピーまで貰って、その上……」
私の足を見た会長の提案に慌てて断る。
「しかし、片足で登って万が一踏み外したりしたら……」
「大丈夫!友達ついてるし!ほんと、気持ちだけもらっとくね、ありがとう」
生徒会長をしていただけあって、会長はとても面倒見が良い。有難い申し出だが、再度断る。
友人とゆっくり登ればなんとかなるだろう。そう思って友人を振り返ると友人2人がまさかのノリノリだった。
「尚美、お願いしなよ!」
「そうだよ、せっかくなんだし」
「え?!」
突然の友人の裏切りだ。
「たしかに、私たちじゃなんかあった時に支えきれないし、甘えちゃいなよ!」
ニヤニヤしているところを見るに、少し面白がってるようだ。
「いや……でも……」
人目もだいぶ増えてきたし、ここで全校生徒に知られている会長に背負ってもらったとなると、注目を浴びてしまう。
どうしようかと焦っていると急に体が後ろへ引っ張られた。
片足なので踏ん張りが利かず、体勢を崩す。
「……!!」
驚いて声が出なかった。
「尚美チャン、退院おめでとー」
犬飼くんに横抱きにされていたのだ。そのまま固まってしまう。
「え、あ、や、」
「犬飼、おはよう」
「うん、会長おはよ」
犬飼くんが私を抱えたまま会長と挨拶を交わす。会長も何故ノーリアクションなのだ。
「犬飼がいるなら俺はいなくても大丈夫だな」
「私たちも先に行ってるね。荷物持って行くよ」
「じゃ、お先に〜」
「え!ちょっと!」
慌てて引き止めるが、3人とも行ってしまった。
「嘘でしょ……」
絶望した。この状態で置いていかれるとは。
2人きりにはしないで欲しかった。
「気を遣ってもらっちゃったね。じゃ、行きますか〜」
犬飼くんがしっかりした足取りで階段を登り始めた。
同じように登校してきた学生達がちらちらこちらを見ている事に気がついて、恥ずかしさのあまり顔が赤くなる。
まだ朝早い時間だから人数も少ないが、なんと言う仕打ちだ。これなら会長に背負ってもらった方が良かった!と思った。
「……恥ずかしいなら腕回して、顔隠したら?」
犬飼くんは私を抱きながら階段を登っているにも関わらず、余裕がありそうだ。
「ほら」
促されて、言われるがままに胸の前で固く握っていた手を犬飼くんの首に回して、顔を彼の胸に当てる。
「……」
これ顔は隠れるけど、すごいくっついてるし、余計に恥ずかしいのでは?
犬飼くんに言われるがままにしてみたが、
あまりの距離の近さにパニックになり何が何だかわからなくなっていた。
「そうやってしてくれてる方が安定しておれも楽だからさ」
耳元でそう言われて、楽ならこうしておこうかとそのままじっとしておく事にした。もうやけくそである。
その後なんとか教室にたどり着き、友人からのからかいに耐えて、1日の授業を終えた。
久しぶりの学校で少し疲れたが、後は帰るだけだ。ボーダーもしばらく休む事になっている。
カバンを持って友人達と帰ろうと歩き出した時に隣のクラスの荒船君が扉から顔を出した。
「宮木、行くぞ」
「え、荒船君、今日私ボーダー行かないよ?」
慌てて声をかける。
それに車で迎えにきてくれた兄が校門で待っているはずなのだ。
いつもボーダーに行く時なら、荒船君や会長、犬飼くんと一緒に行くのだが、それと間違えたのだろうか。
「わかってるよ、お前その足じゃ階段降りるのしんどいだろ、校門まで送ってやる」
「え、いや、悪いよ」
「こっちは頼まれてんだよ。俺、この後ボーダー行かないとなんないからさっさとしろ」
そう言って荒船君はしゃがみ込んだ。
背中に乗れと言うことか。
「え……」
「ほら」
私が断ろうとしても荒船君は聞かず、そのままの体勢だった。ここまでさせておいて、みんなの前で断ってしまったら荒船君に悪いんじゃないか。好意を無駄にして何調子乗ってるんだと周りに思われるかもしれない。
恐る恐る背中に乗る事にした。
「じゃあ、失礼します……」
「おう」
私が背中に乗ったのを確認すると、荒船君は軽い動作で立ち上がった。
ちなみに荒船君と私の荷物は気の利く友人2人がそれぞれ持ってくれている。
「お前、揺れると危ない。首に手、回せ」
荒船君に言われて慌てて背中に置いていた手を首に回した。
これ、朝も言われた気がする。
視線が高くなったことで周りがよく見えた。そこで周囲の視線が集まっている事に気づいて、顔が赤くなってくる。
「……」
荒船君はそんな事気にもしていないのだろう。ずんずん廊下を進んでいく。
「ごめんね、荒船君にもこんな事させちゃって」
「別に構わねーよ。犬飼と会長は防衛任務でもう帰ってるしな」
そうなのだ。あの2人は夕方からの防衛任務で早退している。犬飼くんには朝連れて行ってもらっている時に聞いたし、会長は先生に早退する事を伝えているのを聞いた。
「トリガーあったら、トリオン体で行けるから楽なのに……」
トリオン体を健常状態に設定すれば、問題なく歩ける筈だ。
「だよな、お前今持ってねーの?」
「うん、きっと依織さんが持ってると思う」
「あーなるほど」
トリガーを渡すと無茶をすると思っていてあえて私に依織さんは渡さなかったのだろう。
それにしたって、こんな生活がしばらく続くのだろうか。早く松葉杖生活からおさらばしたい。家に帰ったらリハビリを頑張ろうと心に誓った。
「……お前意外と」
「え?!重たいよね!?!ごめん!降りる!」
「お前!暴れんな!落ちる!」
荒船君がぽつりと言った言葉に大きく動揺する。最近上手く歩けないからと、運動不足で太ったのだ。
2人は騒がしくしながら階段を降りていくのだった。
読んでも読まなくてもいいおまけ↓
出来れば初回は読まない方がいいかも。
10.55