「I have a bad feeling about this.」
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翌日面会時間開始の朝8:00に来たのは兄だった。


「尚美お前無茶しすぎだよ」
椅子に座り込んでハァ〜と長くため息をつかれた。

「う、うん、ごめん」
だが、やってきた兄の顔を見たら言い返してやりたくもなる。

「お兄ちゃんも無茶してるのでは?」
まず顔色がひどい。我が家は色白な家系だと思うが、兄はさらに青白かった。

出血多量になっていた私より酷かったのだ。
「いや、いろんな解析がな。早くしないと。とりあえず諏訪はなんとか元に戻せたけど、あれをもう少し……」
といろんな言い訳をしている。

「研究室に泊まってるの?」
私が倒れて寝ている間、この人は本部にずっと篭っていたのだろう。

「まぁ、それはいつものことだから」
「そう……」
この人そのうち倒れるんじゃないか。

「まぁ、意識が戻ったんならよかった。安心したよ」
そうは言っているが、研究の事に頭がいっぱいで私の事は忘れてたんじゃ無いのかと怪しんだ。
けど、こうしてお見舞いに来てくれた。きっと、鬼怒田室長に研究室から追い出されたんだろうけど。

「あれ、アンタも来てたの?」
今度は母が病室に入ってきた。
兄がいることに驚いている。

母は私の着替えが入ってると思われるカバンを持っていた。
「まぁね」
「アンタ、ご飯食べてる?食堂に全然顔出さないじゃ無い」
「食堂行ってる暇ねーんだよ。じゃ、母さん来た事だし、俺もう戻るわ」
さっき来たというのに、兄はもう戻ると言う。きっと母に小言を言われるのが嫌なのだろう。気持ちはわかる。
「うん。来てくれてありがとう」
兄に手を振って見送った。


「もう、あの子は……」
「お母さん、お兄ちゃんももういい年だから……」
母はぶつぶつ何やら文句を言っていた。
「尚美、体調はどう?」
母が話しながらソファーにおいた鞄から着替えやら色々出しては備え付けのクローゼットに入れて行く。

「どれくらい入院になるかわからないから、とりあえず持ってきたわ。今日も検査とかあるんでしょ?」
「うん、朝来てくれた看護師さんに言われたよ」
「顔色、昨日より良くなっているわね」
心配性の母だ。けど、こんな怪我をしても、ボーダーを辞めろとは言わない。家族みんなボーダーで働くとあの時決めたのだ。

「宮木さーん、検査行きましょう」
看護師さんに呼ばれる。
「じゃあ、お母さんこのまま仕事行くわね。仕事終わりにお父さんが行くって言ってたわ」
「うん、ありがとう。じゃあね」
看護師さんが持ってきた車椅子に座らせて貰い、病室を出た。



検査と診察で2時間ほどかかり、ようやく自分の病室に戻ってきた。
看護師さんにベッドに移動させてもらって、一息つく。

三雲くんは大丈夫だろうかと心配になる。できれば様子を見に行きたかった。
同じフロアであることはわかっているが、移動は1人ではできないため、誰かが来た時にお願いしてみることにする。
いつも持っているトリガーもここにはない。誰かが持っているのだろう。


一人で考えているとカーテン越しに声をかけられる。

「風間だ、入るぞ」
「……はい!どうぞ!」

風間さん、木崎さん、諏訪さんが入ってきた。
成人男性3人がくると部屋が一気に狭く感じる。

「宮木、これ暇な時に読め」
諏訪さんに数冊の本を渡された。おそらく諏訪さんの好きな推理小説だろう。

「ありがとうございます!本、欲しかったんです!」
元々本を読むのが好きだ。
今晩様子を見に来ると言っていた父に頼もうと思っていたくらいだが、おかげで頼まなくて良くなった。

風間さんと木崎さんからもそれぞれ日持ちするお菓子を渡された。気遣いが出来る。さすが大人だ。

「体調はどうだ」
「はい、だいぶ良いです。」
「そうか、真野に意識が戻ったと聞いてな……確かに顔色が良くなったな」
風間さんの表情がふっと和らいだ。

「真野がかなり心配していたんだ。あれでも責任を感じている」
風間さんに言われて初めて知った。昨日会った時はそんなこと微塵も感じなかった。

「知らなかったです」
「あいつも隊長だからな。迅に言われたからとは言え、自分の采配で起こった事には責任を感じるんだろう」

3人はそれぞれが隊長だ。依織さんもそうだが、普段から隊員の事で苦労することや心配することもあるだろう。
その度に同い年の仲間に相談したりしているのかもしれないし、言わなくても察してるのかもしれない。
今ここにお見舞いに来てくれているのも真野隊の隊員だからだろう。

「それを隊員に感じ取られたら、隊長失格だろーよ。だから宮木が気にすることじゃねーぜ?」
諏訪さんに頭をぽんっと撫でられる。
当たり前だが、病院なのでタバコを吸ってない。いつものタバコの臭いもしない。
気にして今日は吸ってないのだろうか。

「俺は、宮木のおかげで後輩と弟子が助かったと聞いている。ありがとう」
木崎さんに深々と頭を下げられた。
「そんな……そうだ、三雲君はどうですか?千佳ちゃんも体調は?」
「修はまだ意識が戻ってないが、迅が言うには問題ないらしい。千佳は元気だ。よく修の病室に来ている。またこっちにも来るだろう」
木崎さんの言葉に少し安心する。
「本当は真野も雷蔵も一緒にここにくる予定だったんだが、仕事が溜まりすぎて抜けれなかったようだ」
風間さんの言葉に驚く。依織さんが仕事を溜めるなんて珍しい。

昨日、目が覚めた時にいてくれたのはたまたまじゃなくて、結構な時間そばにいてくれたのかもしれない。それも毎日。
寺島さんは自分の兄を見るに忙しいのは容易に想像できた。

「宮木はどのくらい入院するんだ?」
3人でソファーには座れないので、木崎さんがパイプ椅子をひとつ持ってきて座る。
風間さんと諏訪さんがソファーだ。

「さっき、先生に4-5日で退院できるだろうって」
「そうか、ならB級ランク戦には間に合うな」
木崎さんが急に話を出してきて、頭にハテナが飛ぶ。

「ランク戦……??そうですね、もうそんな時期ですね……?」
「嵐山隊の佐鳥とお前で初日の夜の部の解説をやって欲しいと武富から依頼がきている」
「え?!解説?!」
急にとんでもないことを言われて慌てる。

「そうだ。今日本部で武富に会ったら宮木に体調がどうか聞いてきてくれ、と頼まれた。
それじゃ、しばらく防衛任務は無理だろう?だからこう言う仕事が回ってくる」
木崎さんに足を指さされる。

「トリオン体なら防衛任務も問題ないと思いますが?」
「そんな事をお前の周りが許すと思うか?」
風間さんがズバッと言う。

「……私、解説は向いてないと思います」
「そうか?前の時は好評だったと聞いたぞ?」
木崎さんはそう言うが、私はあまり以前のことを思い出したくなかった。

「わかりました。ちなみにどこの解説ですか?」
まぁ、佐鳥君と一緒なら大丈夫かと腹を括る。
佐鳥君は嵐山隊に所属してるだけあって人前に出て喋ったりする事に慣れている。

「B級下位だ」
木崎さんに言われて前回のランク戦の結果を頭に浮かべた。

「下位……少し自信ないから退院したら記録見ないと……」
「そんなやる気を出した宮木に真野からの伝言だ」
「……なんでしょうか?」
木崎さんが真面目な声で伝言を伝える。

「心配かけた分、今シーズンの真野隊の解説、依頼された分尚美に任せるね〜!だそうだ」
依織さんの言い方を真似て言う木崎さんにも衝撃的だが、内容にも衝撃を受けた。

「……え?今シーズン全部……?」
「そうだな、真野隊はほぼ全日程解説をしてるからな」


真野隊は本部所属ながらランク戦には参加していない。
その為、実況にはまことが毎回駆り出されるし、解説にはほぼ毎回隊員の誰かが参加するのだ。
いつもなら、大学生で時間にゆとりのある依織さんと頼さんが担当することが多く、
人前で話すことが苦手な私はシーズンで一回するかどうか程度である。

「これでお前も知名度が多少上がって、この間みたいな事も起こらないだろう」
風間さんが含みを持たせた言い方をする。

「……」
何も言えなくなった。

「この間……なんだ?」
諏訪さんが風間さんに訊ねる。

「隊員指導の日に来ていた新人に、宮木が新人だと間違えられていた」
「ぶっ……」
諏訪さんが吹き出す。隣の風間さんは嫌な顔をした。

「お前、何年ボーダーやってんだよ」
「もう3年?やってます」
「なんで間違えられるんだよ」
「知りませんよ、その人達に聞いてください!」
恥ずかしさでやけくそになる。


3人との会話はしばらく止まらなかったが、
本部に用事があるからと3人とも1時間ほどで帰って行った。



診察で飲食可と言われたので、お昼に病院食を食べて、良い天気だったので、ベッドでうとうとして過ごした。 
そのあと諏訪さんに貰った本をゆっくり読んで過ごしていると、カーテン越しに声がかかる。

「尚美さ〜ん!出水です」
「米屋です!」
「緑川もいまーす!」
賑やかな3人組だ。

「どうぞ〜!」
3人は制服姿だった。学校が終わってそのまま来たようだ。

「お!宮木先輩顔色良いね!良かったじゃん!」
米屋君が顔をみて安心したように言う。

「そんなにひどかった……?」
「三輪とオレで運んだんでね、途中まで」
「そうなの?!ありがとう!知らなかった!」
三輪君にも後日お礼を言わなければ。

「尚美先輩無茶したよね、ほんと」
駿君がベッドに腰掛ける。

「心配かけてごめんね」
年下に言われると堪える。
「まぁ、今元気そうならそれでいいじゃん!」
「尚美さんに良い知らせと悪い知らせがあります!」
いきなり出水君が楽しそうに言う。

「えっと、それは……?」
「どっちが先がいい?」
「……出水君に任せる」
「じゃー良い方から!今日、論功行賞がありました!」

大規模侵攻の際の論功行賞か。それで午前中、あの3人は本部に用事があると言っていたのか。
きっとあの3人は何かしら報償をもらっているのであろう。

「尚美さんは俺らと同じ一級戦功です!」
「一級?!」
驚いて目を見開く。一級なんて初めてだ。

「ちなみに尚美先輩個人にだよ。真野隊には本部防衛で二級」
駿君が補足する。そうなると私は一級と二級をもらった事になる。

「悪い知らせは……東さんとの焼肉は昨日行きました」
米屋君がにやにやしながら教えてくれた。
予想より悪くないが、悪い知らせだ。

「……私結局誘われてないから……」
でも私も東さんとの焼き肉行きたかったな。少し落ち込んだ。

「いや、尚美さんが昨日意識が戻ったって聞いたから、行ったようなもんなんですよ!」
落ち込んだ私を見て、出水君がよくわからないフォローをする。

「まぁ良いけど。どうせしばらく入院だし」
「じゃあ、今度俺らと焼肉行きましょう!報償金も入ったし!」
「そうそう!尚美さんの退院祝いに!」
米屋君と出水君の提案にこの3人と焼肉に行くとなると自分が1番年上の為、結局奢らないといけなくなりそうだと思った。
しかし3人にはだいぶ助けてもらったので、それもいいのかもしれないとも思う。

「わかった。焼き肉行こうね」
「やった!」
「尚美さん約束ですよ!」
「忘れないでよ!」

3人とも嬉しそうに笑う。この3人はなかなかいい組み合わせだ。
自分がよく先輩方に焼肉に連れて行ってもらったように、自分が連れて行く事になろうとは、少しくすぐったい気持ちになる。

「そういえば、さっき三雲先輩のところにも行ってきたんだよ」
駿君が話を変える。

「三雲君、まだ意識戻らない?」
「うん、まだ戻ってないけど、迅さんが大丈夫って言うんだから大丈夫だよ!」
私の暗い表情を見たのか、駿君が慌てて言う。

「あいつのお母さんがすっげー若くて!」
「そうそう!お姉さんかと思ったもんな!」
米屋君と出水君も話しに入る。

「そうなんだ、綺麗な人なんだね」
一度会ってみたいな、と思う。謝らないといけないことが沢山ある。

「そうだ、これ東さんから預かってきたんだ」
出水君が気を取り直して私に紙袋を渡す。

「何かな?」
「尚美さんが好きだろうからって」
「わ!嬉しい!」

紙袋に入っていたのは私の好きな作家の文庫本だ。それも5冊。

「流石東さん〜!もう好き〜!」
「そんなに好きなんだ」
駿君は若干私のテンションに引いている。

「うん!昔から好きで、追っかけてる!」
ハードカバーで持っているので、文庫本は持っていなかった。読
んだことのある話だが何回でも読みたい。
先ほど諏訪さんにもらった本と合わせてこれだけあれば入院中は退屈しないだろう。



「誰が好きなの?」
そこに聞こえるはずの無い声が聞こえて、4人は驚いて声のした方を向く。

「「犬飼先輩?!」」
出水君と米屋君の声が揃う。どことなく顔がこわばっていて、2人は犬飼くんと仲が良くなかったのか?と思った。
犬飼くんがカーテンからこちらを覗いていて、顔はいつもの笑顔なのに威圧感があった。

「尚美チャン、体調どう?」
抱きしめていた紙袋を布団の上に置いて、答える。

「うん、昨日よりずっといいよ」
「そりゃ、良かった」
犬飼くんは柔らかい笑顔になった。

「で、おれたちも入っていいかな?」
犬飼くんは私には聞かず、出水君と米屋君の方を向いて聞いた。

「どうぞどうぞ!」
米屋君はソファーから立ち上がり、自分の荷物を持つ
「俺ら、そろそろ帰ります!」
出水君も米屋君と同じく立ち上がった。

「え〜俺まだ尚美先輩と話したかったのに〜」
駿君だけは文句を言っていたが、出水君と米屋君が引っ張る。

「ばっか!お前!空気読め!行くぞ!」
「二宮隊が来てるんだよ!」
「は〜い。尚美先輩!約束忘れないでね」
3人は慌ただしく病室を出て行った。


カーテンの先、病室の外で待っていたらしい二宮隊のメンバーと何やら話している声が聞こえる。

「約束……?」

2人きりになった犬飼くんが、駿君が言った約束について尋ねてくる。

「うん、報償金入ったからみんなで焼き肉行こうって」
「ふーん……」

犬飼くんは面白くなさそうな顔だ。
「……だめだった?」
様子を伺う。

「だめじゃないよ?」
にっこり笑ってはいるが、何か言いたそうだ。
「すみ、」
「入るぞ」
そこに二宮さん達が入ってくる。

「二宮さん!」
私は大好きな二宮さんが来てくれて、犬飼くんの事が頭から抜けおちてしまった。

「元気そうだな」
「はい!おかげさまで!」
「宮木先輩、これ」
辻くんから紙袋を受け取る。

「ありがと〜!あ、ケーキだ!」
「今はなんでも食べれるって聞いたので」
「うん!みんなのもあるのかな?一緒に食べよう!」
「おれからはこれね」

犬飼くんからはクリアファイルに入ったものを受け取る。

「尚美チャンのクラスのプリントと会長のノートのコピー」
「わっ!助かる〜!」

ノートのコピーなんて!なんて気の利く男!流石生徒会長!
しばらく会えてないクラスメイトの会長を思い浮かべた。

「勘違いしてると思うから言うけど、許可取ってコピーしたの、おれだからね」
「え?そうなの?それはありがとう」

意外と犬飼くんはマメらしい。笑顔でお礼を言う。今手元に自分のノートがないから助かった。
プリントを布団の上に置く。

「片付けとくよ、ここでいい?」
私が歩けないため、片付けられない事に気づいた犬飼くんがテーブルの上にさっと片付ける。
先程の東さんにもらった文庫本もだ。

「……」
「何?」
「いや、別に……」
察しが良すぎる。

「宮木先輩!これお花です」
「わ!可愛い〜!私の好きなお花ばっかりだ!」
氷見ちゃんから渡された花束はピンク系統のバラやガーベラ、白のかすみ草等どれも好きな花だ。

「今飾ってあるお花綺麗にして、一緒に生けちゃいますね!」
「うん、ありがとう。なかなか自分で出来なくって」

氷見ちゃんに花束を渡すと、花瓶を持って病室から出て行った。
気配りがすごい。


「辻、犬飼」
二宮さんがさっと財布からお札を出す
「全員分、飲み物買ってこい」
「わかりました」
「了解です」
辻君が二宮さんからお金を受け取ると2人で病室から出て行く。


病室には二宮さんと私、2人になった。
少し沈黙が続く。何を話したらいいかわからなかった。

「宮木、傷はどうだ?」
「はい、今日検査してもらったんですけど、神経にも問題なくて、傷が塞がったら問題なく動けるだろうって。
傷口もすごく小さいんですよ」

二宮さんを安心させるように包帯が巻かれた腕を上げて見せる。
「傷は残るのか?」
「残るかもしれないとは言われましたけど、そんなに目立つ場所でもないし、気にしません」
「そうか……」

二宮さんは黙り込んでしまった。
「……二宮さん?」
二宮さんの様子を伺う。何やら様子が変だ。

「悪かったな、助けにいけなくて」
「え……?なんで二宮さんが謝るんですか?」
「不可抗力とは言え、俺がいなかったせいでうちは今回の戦闘に関われなかった。犬飼も辻も歯痒い思いをしたはずだ」
「……」
「お前が怪我をしたと聞いて、俺も自分が近くにいてやれなかったのを悔やんでる。……師匠だからな」


二宮さんの言葉に眼を見開く。そんなこと言われると思っていなかったからだ。
「そんな……私正直他の人ならもっと上手くやれてたんじゃないかな、って思ってました。選択を間違えたと思うこともありました。失敗ばかりで二宮さんの弟子として、恥ずかしいです」
「そんなことはない、お前は……自慢の弟子だ」

滅多に褒めない二宮さんに言われたせいで、思わず涙が出た。
戦闘の緊張がようやく解けたのかもしれない。
迷惑をかけてばっかりの元弟子の私にそんなこと思ってくれていたなんて。
あれからずっともう二宮さんの弟子としてはいられないと思っていた。けど、二宮さんは私の事をずっと弟子だと思っていてくれているようだ。

「なんで今日はそんなに優しいんですか?」
「……病人に厳しくするやつがあるか。おまけに、嫁入り前に傷を作らせてしまった」
何やら言い方がもはや父親だと思ったが、口には出さない。

「それは……」
「あれ?尚美チャン泣いてるの?」

気がつけば犬飼くんと辻君が飲み物を持って戻ってきていたし、氷見ちゃんも花瓶に花を生けて戻ってきていた。

「うん、ちょっとね」
「まぁ、それを気にするタイプじゃないな」
二宮さんがふっと笑う。
「そうですね」
涙を拭いて私も笑う。


「しかし宮木、お前は相変わらず無茶しすぎだ」
「……はい」
「お前、緊急脱出ベイルアウトって機能知ってるか?」
「……はい」
「敵の前でトリガーオフする奴がいるか?」
「……はい」
「まぁ、依織に無茶したペナルティーはもらったんだろう?」
「……はい」
いつもの二宮さんに戻った事に安心したが、容赦なく言われて言い返せなかった。
二宮隊の3人は見守るだけで助けてくれそうもなかった。

「何ですか?真野隊長からのペナルティーって」
氷見ちゃんが二宮さんに訊ねる。
「……」

私が答えずにいると、ため息をついて二宮さんが言ってしまう。
「今シーズンのランク戦の解説を真野隊の分全部宮木が受け持つそうだ」
「……」
「……」
「……」
氷見ちゃん、辻君、犬飼くんが一気に黙り込んで私の方を見た。

「なっ、何?!わかってるよ!解説下手くそな事くらい!」
黙り込むほど酷かったのかと嘆く。

「いや、そんな事ないですよ、ね、辻くん」
「はい、前回の解説評判良かったって聞きましたよ」
氷見ちゃんと辻君が慌ててフォローしてくれる。

「あ〜うちと影浦隊、生駒隊のやつね」
犬飼くんは遠慮なくケラケラ笑う。
「おれも後で聞いたけど面白かったよね〜!で、最初はいつやるの?」
犬飼くんの態度に少しイラついたが、答える。
「初日の夜。B級下位」
「これは残念。防衛任務入ってる」
それを聞いて、良かったと心から思った。

「お前らふざけてないで食うぞ」
二宮さんがケーキの箱を開く。
「ほら、宮木好きなの選べ」
いつもこうやって二宮隊とケーキを食べる時は一番先に選ばせてくれる。
遠慮してもお客さまなのだからと、みんな譲らないのだ。なので遠慮なく選ぶようにしている。

「ありがとうございます!わ!いちごのタルト、チーズケーキ、チョコムース、アップルパイ……私の好きなのばっかりだ!」
どれだけ私を甘やかすんだ、この隊は。
嬉しさを感じながらいちごのタルトを選ぶのであった。






入院して1週間経った1月28日。三雲君の意識が昨日戻ったと、見舞いにきていた依織さんに聞いた。
今日、私は退院が決まっており、昼過ぎに母が来てくれる事になっている。そのまま家に帰る予定だ。
入院中のリハビリの甲斐あって、足は松葉杖を突きながらであれば歩けるし、手もゆっくりと動かせるようになった。

三雲君の意識が戻ったんなら、お見舞いにと依織さんと一緒に三雲君の病室へ向かう。
その途中で栞ちゃんに出会った。三雲君の見舞いに来てたのであろう。

「あれ、宇佐美。きてたんだね」
「あ〜真野さんと宮木先輩」
栞ちゃんは何故か非常に眠そうな顔をしている。

「栞ちゃん、すごい眠そうだけど大丈夫?」
「少し調べ物してて……大丈夫です」
栞ちゃんはよろよろになって答える。

「あ、修くんなら今は遊真君と病室を出てて、いないですよ」
「そっか、ならまた今度の機会だね」

二人は栞ちゃんと別れ、病室に戻ることにする。
三雲君には会えずに退院することになりそうだ。

「そうだ、尚美。トリガーは私が持ってるから復帰初日に返すね」
「?はい、わかりました……」
依織さんが持っていることは不思議だが、無くしてはいなかったようなので安心した。

結局、三雲君に謝れなかったな
三雲君の頬を叩いてしまった事を少し後悔していたのだ。

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