「I have a bad feeling about this.」
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2月16日、狙撃手の合同訓練に頼さんと共に参加していた。

今日の訓練は「捕捉&掩蔽訓練」
参加者それぞれが仮想マップのランダムな位置に転送され、レーダーの情報なしで90分間隠れながら他の隊員を見つけて撃つ。


私はこの訓練が比較的得意であった。
勘を働かせて相手の位置がなんとなくわかるし、狙われてるのもなんとなくわかる。

だが、このなんとなくと言うのが曲者だ。
あ、あっちにいそうな気がする〜という頼りないものだし、
あ、なんか見られてる気がする!というわかっていても避けれるかはわからないものだ。

それでも自分の狙撃の助けにはなる。
現に今回は6位だった。

「ほんと尚美これ得意だね」
「ありがとうございます。まぁこれはズルしてるようなもんですから」
頼さんに言われて、そう答える。
奈良坂君や佐鳥君なんかは私よりずっと上位だ。


「お前の実力だろ。ズルじゃなく」
「穂刈君」
後ろから声をかけられた。

「避けられたし、俺の弾」
「偶然だよ」
「実力がなけりゃ避けれはしないだろ。俺なんて頼さんと鉢合わせしたぞ」
「荒船、お互い驚いたね」

穂刈君と荒船君だ。認めてくれたことに嬉しくなった。
レーダーがないからこうしてお互いが鉢合わせする事もある。打った後に走って場所を変えるのは基本だ。
頼さんの今日の結果は8位。穂刈君が5位で荒船君が7位だ。ここら辺は点数もほぼ変わらず1-2点の差で順位が変わってくる。
4人でしばらく話した後、荒船君と穂刈君はこの後防衛任務があるといって、半崎君も合流し、作戦室に帰っていった。


飲み物を持って頼さんと話していると、2人が可愛く思っている3人組が目に入った。

「ユズル、千佳、出穂」
頼さんが声をかける。

「あ、頼さんに尚美先輩!」
出穂ちゃんが元気よく走ってくる。


「出穂、撃ったらすぐ動かないと、相手にすぐ撃ち返されるよ」
頼さんが先程の訓練での出穂ちゃんについてアドバイスする。出穂ちゃんにはたくさんマークが付いていた。

「はい!了解っす!」
出穂ちゃんは嬉しそうに返事をする。自分のことを気にかけてもらえて嬉しいようだ。


「3人仲良しだね」
普段一人で行動することの多いユズル君に友達ができたようで、嬉しく思っていた。

「はい!ユズル君が色々教えてくれて」
千佳ちゃんが答える。

3人は同い年だが、ユズル君が入隊が先なので教えてやっているようだ。ユズル君は年上と接することが多いので、気づかなかったが、意外と面倒見が良いのかもしれない。

「頼さ〜ん!」
そこに太一君が来る。太一君は頼さんの弟子だ。

「どうしたの太一?」
「オレ、また沢山撃たれました〜!」
太一君をみると、両ほっぺにマークがつけられて、なんともかわいい姿になっていた。


「あらら、ちょっと見てあげる」
頼さんは太一君を連れて再度訓練室に入っていった。



私は先ほどの3人と一緒に廊下を歩く。依織さんが会議から戻ってきたら作戦室でミーティングがあるが、作戦室で留守番をしているまことからはまだ作戦室に戻ってくるように連絡は来ていない。

「頼さん、面倒見良いっすね」
「太一君、頼さんの弟子なんだよ」
出穂ちゃんに教えてやる。


「そーなんすか!良いなぁ」
「……出穂ちゃん、師匠探してるの?」
「はい、上手くなりたいんっす!チカ子も師匠いるし」
「そっか」

千佳ちゃんは木崎さんが師匠だと頼さんから聞いている。

「尚美先輩には師匠いるんですか?」
「うん、射手シューターでも、狙撃手スナイパーでもいたよ」
「そっかー、やっぱりみんなそうやって上手くなるんすね!」

思わず過去形にしてしまったが、出穂ちゃんは納得したように頷く。なんとも思っていない様だ。
ただ、その様子をユズル君がじっと見ていた。


「ていうか、チカ子すごくない?100点越えで19位だよ?」
出穂ちゃんが千佳ちゃんを褒める。

「ふつうの的当てより実践形式の方が順位いいんだ。珍しいね」
「私とチカちゃん同じタイプだねぇ」
ユズル君と私も出穂ちゃんに続く。

「アタシは隠れるの全然だわー」
「先生に隠れ方教えてもらってるから狙撃手が隠れそうな所がわかるのかも」
先生とは木崎さんの事だろう。

「アタシもバッチリ見つけてくれたしね」
出穂ちゃんの頭に乗っていたネコを千佳ちゃんの頭にのせていた。

「わあ」
千佳ちゃんはネコを落とさない様に慎重になる。
「へぇ……」
ユズル君はそれを聞いて何か考えているようだった。

「あとはもうお師匠さんに人の撃ち方も習えばいいじゃん」
ユズル君が反応する。出穂ちゃんも知っていたのか。


「……夏目も知ってるんだ。雨取さんが苦手なこと……」
「そりゃ知ってるけど、なに?」
「いや……別に……」
ユズル君は誤魔化す。

「わたしの先生は……おまえがちゃんと訓練してる事は隊のみんなも俺もわかってる。あまり自分を責めるな。人が撃てないのはある意味正常なことだ。戦いたいなら少しずつ慣らしていくしかない……って……」

千佳ちゃんの言葉を聞いて、木崎さんが言いそうな事だと嬉しくなった。


「へーいいなー大事にされてるって感じ」
「そうだね」
弟子と師匠、本当にいい関係だと思う。

「……でも早く何とかしなきゃって思う。……このままじゃ部隊の役に立てないから……」

役に立てない。そう思っているのか。
未来ちゃんが人が撃てないから遠征メンバーを外された。それを私に伝えにきた時のことを思い出してしまった。


「……雨取さん」
「……?」
ユズル君が声をかける。

「……ちょっと付き合ってくれる?……力になれるかもしれない」
そう言って、影浦隊の作戦室にみんなを連れて行った。




「どうぞ」

ユズル君がキーを打ち込んで部屋を開ける。

私はなかなか影浦隊の作戦室に行く機会はない。来ると怒られるからだ。


「へぇー作戦室ってこんな感じになってんだ」
「おじゃまします……」
「作戦室の雰囲気は隊によって違うよ、今度うちにも遊びにきてね」

私は3人に声をかける。真野隊にはお客さんも多い。

「へー!尚美先輩のとこはどんな感じですか?」
「……うーん、普通の家みたいかな?」

出穂ちゃんに聞かれて答える。あそこは依織さんの考えでアットホームな感じになってるから真野隊のメンバーは暇な時はずっと作戦室にいる事が多い。


「……んお?」
隣の部屋から声が聞こえる。
「ユズルかぁ〜?……のぁ!?」
オペの光ちゃんの声だ。
光ちゃんは私たち女子3人を見ると驚いて立ち上がった。

「女子じゃんか!ユズルが女子連れてきた!あー尚美も!」
「光ちゃん、久しぶり……」
光ちゃんに手を挙げて挨拶する。


「おじゃましてます」
「どもっす」
千佳ちゃんと出穂ちゃんは光ちゃんの勢いに圧倒されているようだ。


「お客が来るなら言えよ〜〜!ゾエとカゲも呼ぶか?尚美はカゲに用事?」
「いいよ呼ばなくて」
ユズル君はそっけなく返す。

「ううん、私は今日はユズル君についてきただけだから」
慌てて光ちゃんを止める。

「コタツ入ってみかん食う?」
「かまわなくっていいってば。トレーニングルーム使いたいだけだから」
「光ちゃん……こたつの周り片付けなよ」
ユズル君と二人で光ちゃんを押さえる。

「……さっきチカ子のこと助けるみたいに言ってたけど、なにすんの?チカ子の弱点直せるってこと?」
出穂ちゃんがユズル君に訊く。

「……いやそれは俺には無理だよ……でも試してほしいトリガーがあるんだ」
「「試してほしい」……?」
「……!」
ピンときた。ユズル君はあれを試してみようとしてるのではないか、と。




ユズル君がトレーニングルームを画面で設定し始める。

「雨取さんが訓練だとふつうに当てられるのにランク戦だと人に攻撃を当てられない。ランク戦もある意味訓練だし、生身を撃つわけじゃないのになんでできないのか。オレの推測だけどひとつのポイントは……撃った相手が吹っ飛ぶか吹っ飛ばないか……の差だと思う」
「「吹っ飛ぶかどうか」……?」

出穂ちゃんが聞き返す。

「そう。トリオン体でも戦えないって人は結構いてそういう人たちは「相手がもし生身だったらどうしよう」っていう考えが頭から離れないらしい」
「……!」
千佳ちゃんは言葉にならないようだ。

「実際はボーダーの弾トリガーは流れ弾防止の安全処理がしてあって生身に当たっても痛みと衝撃で気絶するだけなんだけど、やっぱり生身を傷つけることには抵抗があって、オペレーターやエンジニアに転属する人がけっこういる」
「痛みで気絶ってそりゃ充分やばいわ」

出穂ちゃんの感想に、この間生身で黒トリガーの攻撃をくらって痛みで気絶した私は頷く。自分もよくトラウマにならなかったものだ。

「雨取さんが訓練なら普通に撃てるのは、相手を傷つけないってわかってるからじゃないかな。だからこの場合……えっと……」
ユズル君の操作していた手が止まる。

『ヒカリ、これ武器の設定どうやって変えんの?……はいはいわかったから』
どうやら光ちゃんにお願いしたようだ。

千佳ちゃんの手に黒いライトニングが現れる。
それを見てやはりと思った。

「黒いライトニング……?」
千佳ちゃんが驚く。
「雨取さん、それで的を撃ってみて」
「うん、わかった」
ユズル君の指示で千佳ちゃんは的に向かって撃つ。


ガキン!

的に鉛弾レッドバレットが当たった。

「おお!」
出穂ちゃんは初めて見るのだろう。
弾速は見た感じ問題なさそうだ。流石のトリオン量。


「「鉛弾」重石で相手を動けなくするトリガーだよ。これなら相手が生身でも傷つけないから雨取さんでも撃てるんじゃないかと思う」
「マジで!?そんなのあんの!?」

ユズルくんの言葉に出穂ちゃんが驚く。

「シールドで防げないタイプの弾だから当てやすいし」
「えー!?最強じゃん!なんでみんなこれ使わないわけ?」

出穂ちゃんはいい点だけ聞いてそう思ったらしい。

「そんな都合のいいもんじゃないよ。欠点の一つはバックワームと一緒に使えないこと。「鉛弾」で狙撃するときはレーダーで居場所がバレる。でも狙撃を外したらどっちにしろ見つかるわけだし、当てられない弾撃つよりはリターンあると思う」
「一つ当てると大体重さは100kgくらい。簡単には動けなくなるよ」

私は以前三輪君にくらって全然動けなかった。

「もう一つの欠点は弾速の問題。「鉛弾」は重くする効果にトリオンをごっそり使ってるから、射程と弾速がかなり落ちる。狙撃手用のトリガーは銃本体の構造で射程は保証されてるけど、結局のところ断速が遅いと当たんない……でも雨取さんには桁外れのトリオンがある。三つの狙撃用ライフルはトリオン量に合わせて決まった性能が伸びるようになってるから……雨取さんのライトニングと「鉛弾」の組み合わせなら実戦で使える弾速になるかもって思ったんだ。正解だったね」
「……ユズルあんたスゴイわ!超詳しいじゃん!」
「元々はオレが考えたんじゃないよ。オレの師匠が考えたんだ」
「鳩原先輩……」
千佳ちゃんが気づいたようだ。

「師匠のトリオンだと弾速が足りなくて、結局ボツになってたけどね」
未来ちゃんの事を思い出す。鉛弾を考えた時は一緒にいた。3人でいろんなアイディアを出し合った。


「……ユズルくん、もうちょっと撃ってみていい?」
「どうぞ」



千佳ちゃんが撃っている様子を後ろから3人で見る。

「アンタっていいやつだね〜チカ子はB級のライバルなのに師匠のワザを……さてはチカ子に惚れたか?」

出穂ちゃんが小声でユズル君に聞く

「え!ユズル君そうなの?!」
思わずユズル君を見てしまう。

「……そんなんじゃないよ」
ユズル君は照れた顔で否定した。

私も本当はわかっている。
千佳ちゃんが未来ちゃんの様になってほしくないんだろう。



「よし いっちょアタシのこと撃ってみ?」
「ええ〜〜!」
出穂ちゃんが的を買って出た。
それなら私も思うところがある。
「千佳ちゃんまだトリガー空きあるよね?」
「……はっ、はい」
「私も一ついい考えがあるの」
今度は二宮隊、いや、犬飼くんをギャフンと言わせてほしい。



それから4人でさまざまな組み合わせで鉛弾を撃ってみた。
鉛弾+アイビスは弾速がかなり遅かったが当たるとまず動きはとれない。実戦では厳しい。

「千佳ちゃん、射手用のトリガー使ってみよう」
「射手ですか?」
「うん、見てあげるから、とりあえずやってみよう。まずは通常弾アステロイド……」

モニターで設定を変える。
メインに通常弾+サブに鉛弾

「やってみて!前に三雲君と一緒に通常弾は撃ってたよね?」
「はっはい!……通常弾!」
黒く大きいキューブが出てくる。

「そこから、好きにトリオン分割してみて、とりあえず16分割かな?」
千佳ちゃんはゆっくりトリオンを調節していく。

「うん、いいね。じゃあ的に撃って」
「はい!」

30m先の的まで弾速も問題なく飛んでいった。的に沢山の鉛弾が当たる。

「うん、速さも良さそうだね。これも防御出来ないのが辛いけど、近づかれた時に不意はつけると思う」

「はい!」
「お〜チカ子すげ〜」
「じゃあ次は……追尾弾ハウンド。使った事は?」

再度設定をいじる。

「無いです」
「視線で飛ばすタイプだから変化弾バイパーよりやりやすいと思うよ。私もよく使うから、はい、やってみよう」
「はい……追尾弾!」

再び黒い大きなキューブが出る。

「そこから分割して、適度に散らすの。散らさなかったらさっきの通常弾と同じ感じになるよ」
「ええっと……」

私の説明に千佳ちゃんは戸惑う。

「……尚美先輩説明下手すぎ」
「あ、そうだよね、ごめん、私人に教えるの下手くそで……」

ユズル君に言われて慌てて謝る。


「えっと、簡単に言うと追尾弾は割ったキューブそれぞれに追尾性能があって、それの強弱を調節するの。強いものはほぼ一直線に目的物に向かっていくし、弱いものは曲がってゆっくり向かっていくの。
だから、追尾弾は毎回その調整をしないといけないから通常弾より少しややこしいかな。けど、その分相手も避けづらいよ」
「……わかりました。やってみます」

千佳ちゃんは私の辿々しい説明でも理解してくれた様だ。
「追尾弾!」

千佳ちゃんのトリオンキューブがゆっくり割られて、的に向かってさまざまな動きで向かっていく。
通常弾よりは弾速が遅いが、充分使えそうだ。

「いいね!練習すればもっと上手になるよ」
「はい、ありがとうございます」




「なんだかんだでやっぱりライトニングが1番実用的っぼいね。結局ユズルの師匠が正しかったわけかー」


「そうだね」
出穂ちゃんにユズル君も同意する。

「でもさ、アステロイドとかもけっこう使えそうだったじゃん?ねぇ尚美先輩」
「うん、そうだね。もう少し練習は必要だけど」

出穂ちゃんに訊かれて頷く。


「どうかな……30mぐらいまでは射程と弾速両立出来てたけど、ノーガードで撃ち合うと考えるときついよ」
ユズル君は実戦経験が多いこともあり、シビアだ。

「相手が攻撃手だったらいけるっぼくない?」
出穂ちゃんは千佳ちゃんに話を振る。

「それなら追尾弾のほうがいいかもね。射程と弾速は落ちるけど」
実際千佳ちゃんは使ってみて追尾弾の方がよかったようだ。

「初見ならまず防げないと思うよ、ここぞと言うときに使うべきだね」
アドバイスする。次こそは犬飼くんをぎゃふんと言わせてほしい。


「……それだわ!どしたのチカ子ニヤニヤして」
出穂ちゃんが嬉しそうな千佳ちゃんの様子に気づいた。

「えっ、こういうの楽しいなって思って……出穂ちゃんとユズルくんは同い年だし、尚美先輩もお姉ちゃんみたいで……みんなでわいわい考えるの楽しい」
「まったくなに言ってるの」
出穂ちゃんはそう言われてうれしそうだ。顔がにやけている。

「まだまだ楽しいことたくさんあるよ!」
私も千佳ちゃんにお姉ちゃんみたいと言われて嬉しくなった。お姉ちゃんか。

「メガネ先輩やおちび先輩だって手伝ってくれるっしょ」
三雲君と空閑君の事だ。
「うんそれはそうだと思うけど……修くんたちがやることの邪魔したくないから……」
「ふーんそういうもん?」
「……」
出穂ちゃんに訊かれて千佳ちゃんははっきりと答えられないようだ。


「ま、アタシはどフリーだからいいけど」
「オレも……基本的にヒマだから……」
「おっ、ユズルいいねいいね〜」
「なんだよ別にそういうのじゃ……」
「仲良いのは良いことだね。私も嬉しいな〜!私も言ってくれれば教えるからね。三雲くんの方もあるけど」
3人が微笑ましく思えたのだった。


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