「I have a bad feeling about this.」 26
会議から帰ってきた依織さんに、再び近界民の侵攻が予測されると伝えられてから数日。正隊員達は各自本部に待機することが多くなった。
侵攻に素早く、一般人には内密に対処できるようにするためだ。
2月19日、日中防衛任務をこなし、B級ランク戦ROUND 5 夜の部の上位チーム、影浦隊、弓場隊、東隊の対戦の解説を行うため、まことと一緒にランク戦室にきていた。
今日の解説のパートナーは加古隊の真衣ちゃんだ。珍しく女子ばかりなので、始まるまでの間、いつもより気が楽で楽しく話していた。
「尚美先輩、すっかり解説も慣れましたね」
まことにもわかるくらいのようだ。
「少し緊張はしなくなったかなぁ。今日は真衣ちゃんだからリラックスでき……!」
その瞬間ピリッと何かを感じた。
急に黙り込んだ私を見て、真衣ちゃんとまことは様子を伺う。
「尚美ちゃん、どうしたの?」
「……うん」
真衣ちゃんになんと言ったらいいのかと考える。この勘を人に説明するのは難しい。
「なんか嫌な予感がしてね……」
そうとしか言えなかった。この予感はどこから来るものだろう。
「尚美」
後ろから名前を呼ばれて振り返る。
「依織さん」
依織さんと頼さんがランク戦室の入り口にいた。こちらに向かって降りてくる。ランク戦を見にきたんだろうか、その前に嫌な予感がしている事を依織さんに伝えるべきだとは思い、先に声をかける。
「依織さん、あの」
「分かってる。解説代わるよ」
「え?!」
今まで何を言ってもやらされていた解説をあっさり代わると依織さんから言われて驚く。
「尚美は外で仕事。ほら、頼と行った行った」
依織さんに背中を押された。
「え、あの、私」
「今回だけは迅の指示だから代わるよ、よろしくね」
「は、はい!」
そう言われて、とりあえずまことと真衣ちゃんに手を振って挨拶し、そのままランク戦室を出て、歩き出す。
「ゲートの発生が確認されてて、レーダー上にはかなりの数の反応がある。迅が言うにはパターンA。本部防衛ね」
頼さんが歩きながら現在の詳しい話をしてくれた。
話を聞きながら、頼さんに倣ってバッグワームを起動させる。
「狙撃手は屋上でトリオン兵の迎撃指示がでてる。冬島さんのワープで一気に行くよ。カンナは下で銃手組に入ってる」
やはりさっきの嫌な予感は近々来ると言われていた近界民の計画的侵攻によるものだろうと結論付ける。
「ランク戦は予定通り実施予定。ランク戦に出る部隊と、解説者は防衛に参加しないよ。会場警備は風間隊がやってるけど、必要あれば出てくれるって」
自分より依織さんが行った方が実力も上だし良いような気がするが、依織さんにも何か考えがあってのことなのだろう。頼まれたからにはきっちり仕事をしなければ、と気を引き締める。
「レイジさん元村です。尚美と合流しました。今から向かいます、はい、了解」
頼さんの指示に従って、冬島隊のマークがついたワープポイントにつく。瞬時に屋上へ到着した。すでに他の狙撃手は位置についている様だ。
「私はレイジさんの方、尚美は当真の方に」
「了解」
走って当真君のいる方へ向かう。狙撃手18歳組はみんなこちらにいるみたいだ。
「お、宮木じゃねーの」
気づいた当真君が話しかけてきた。相変わらず飄々としてる。一部隊の隊長と言われてるのに緊張感はゼロのようだ。流石である。
「お前解説はどうした?今回はなかったのか?」
荒船君も話しかけてきた。
「依織さんが代わるって」
「お前が出るのか、真野さんじゃなくって」
「穂刈君……やっぱりそうだよね?依織さんがいいよね?」
「まぁ、攻撃手だからな真野さんは」
「解説ダルいっすから、代わって貰ってよかったんじゃないっすか?」
「半崎くん……まぁ否定はしない」
この子は本当に明け透けと物を言うタイプだと思った。荒船隊でのびのびやらせてもらっているのだろう。
「頼さんあっちか〜!」
師匠の頼さんが一緒にいないことに太一君は少し不安そうだった。居た堪れなくなって太一君に謝る。
「太一君、なんか……ごめんね……」
『司令部こちら木崎。狙撃班位置についた』
『こちら当真。同じく準備完了』
各班のリーダーが本部に通信を入れる。
『……!来ました!トリオン兵です!』
向こう側の古寺君がトリオン兵を捕捉して伝える。
『人型の……トリオン兵……?!』
茜ちゃんは驚いた様子だ。私もスコープを除いて確認する。初めて見るタイプのトリオン兵だ。
『面倒だな、的が小さくて』
『数も多くてダルいっすね』
穂刈君と半崎君が呟く。たしかにやりにくそうだ。それでも当ててしまうんだろうから、全員が全員精鋭だ。正隊員は伊達じゃない。
『射程圏内に接近』
木崎さんの声に全員が構える。私もスコープを覗いてトリオン兵を捕捉する。
『迎撃を開始する』
その声で一斉に攻撃を始めた。
「……!!」
『おぉ!?なんだぁ!?生意気にも盾重ねて防御しやがるぞ!』
『連携するトリオン兵か……!』
当真君と奈良坂君が言うように、3-4体のトリオン兵が固まって盾を張っており、攻撃が通らない。
『ととと止まんないっす!どどどどうします!?』
『太一、落ち着いて』
頼さんが太一君を宥める声が聞こえた。
『一体ずつ集中して倒しましょう!』
『OK!左端からいくか!』
古寺君と佐鳥君の会話に当真君が答える。
『じゃあ俺らは右端からだ』
『了解!』
息を合わせて攻撃を当てていく。私は置いていかれないように必死だ。下では銃手と攻撃手の班が攻撃を始めたようだ。向こうの敵の数は多いがこのまま確実に数を減らしていけばいけるはずだ。イーグレットで狙撃しながらそう考えた。
「……!?」
不意に何か来ることを察知して、慌てて上を見る。
『上!何かきます!』
内部通話で全員に聞こえるように叫んだ。
ヒュルルル
パパッ!
何かが上に打ち上げられ、屋上に降ってくる。棘のようなものが地面にささった。
バチバチバチッ
大規模侵攻で見た様な門が次々開く。
『門……!?』
『なんか出てきたあ!!』
門から犬の様なトリオン兵がかなりの数現れた。太一君は驚いて尻餅をついている。
これは距離が近すぎる。狙撃手には不利だ。
すぐにバッグワームを解除して、イーグレットも仕舞う。
トリオン兵は次々に口からビームのようなものを出して攻撃してきた。
「太一くん!下がって!」
シールドを出しながら太一君を背中にやる。こちらからも攻撃しなければやられっぱなしだ。
「当真君!シールドを任せていい?」
「了ー解」
当真君の了解が得られた所で、シールドを止めて、トリオンキューブを両手に出す。
「追尾弾!」
守りは捨てて、両攻撃する。次々に敵に向かって攻撃が飛んでいき、ぶつかる。
「流石じゃねーの」
「宮木先輩、本当に射手なんだ……」
トリオン兵数体を片付けるが、まだ数は多いし、次々と門が開いて出てくる。
これでは私だけでは捌き切れないが、こっちには荒船君もいる。一人ではない。
そう思って荒船君をみると、すでに弧月抜刀しトリオン兵を次々と倒していた。向こうでは木崎さんがトリオン兵を相手にしている。
「うおっ!武闘派狙撃手2トップ!」
「頼りになるぜ〜」
背後で太一君と当真君が言う。
「ほんとに、頼りになる……通常弾!」
「噛みつかねーだろなこいつら。俺は犬嫌いなんだ」
「荒船君、苦手な物意外とたくさんあるよね。追尾弾!」
攻撃を撃ちながら荒船君に話しかける。
『下の部隊は一旦退け!狙撃なしだと数に食われるぞ!』
木崎さんが下へ指示を送る。
そこで再び強い勘が働いた。
『なんか嫌な予感がします、気をつけて…!!』
自分でも言っていてよくわからない事を通話で話す。なんとかしないと、と焦る。
『トリオン兵侵入!人型近界民です!』
司令部の沢村さんの声が響く。今の攻撃できていなかった間を利用して侵入されたのだろう。相手が一枚上手だった。してやられた。中で待機している隊員も数多くいるから大丈夫だろうが、嫌な予感が止まらない。
しかし、今自分のやるべきことはなんだ、と考える。
数多くいるトリオン兵を片付けること。
このトリオン兵が本部基地を攻撃するのを防ぐこと。
そう考えて目の前の敵に集中する。
カンナは下にいるらしいが大丈夫だろうか。
このままでは狙撃班が機能しない。押し負けてしまう。援護が欲しいところだ。次々とトリオン兵が送り込まれており、強さは大したことはないが数が多いので3人で捌くのもキツくなってきた。
そう思っているときに、2人屋上に飛び込んできた。2人は軽い動きで降り立ち、次々にトリオン兵を斬り伏せる。動きが鮮やかで舞ってるようだった。
「おっ辻ちゃんじゃねーの」
当真君がそう言うと、私の前に辻君が立った。
誰かのグラスホッパーを借りて外から登ってきたのだろうか、軽い身のこなしだ。
「宮木先輩、お待たせしました」
「辻君ありがとう。助かったよ」
向こう側をみると駿君がきていた。駿君がいるならあちらも大丈夫そうだと安心する。頼さんも無傷でいることは確認できた。
『「犬型」は俺と荒船、宮木、攻撃手で受け持つ!あとの全員は下を狙え!』
木崎さんの指示が飛ぶ。狙撃班はそれぞれ先程の狙撃位置に付き直し、銃を構えて打ち始める。私も辻君と荒船君、2人と並ぶ。
狙撃手に攻撃が行かないようにしっかり守らねばならない。この2人と組むのは初めてだがなんとかなるだろう。なんせマスター級の攻撃手だ。実力が他とは違う。むしろ足を引っ張らないようにしなければ。
『両攻撃するので、お二人、危ないときはシールドお願いしてもいいですか?』
『いいぜ』
『了解です』
2人の了解が得られたので、左右からトリオンキューブを出す。射手は味方の援護が主だ。相手のシールドを破って味方が攻撃しやすくする。
「追尾弾!」
辺り一面に追尾弾の雨を降らす。トリオン兵もシールドを張るが、これには敵うまい。シールドが削られたものから2人が次々にトリオン兵を狩っていく。それを何回か繰り返すと大方片付いて、新しいトリオン兵も出て来なくなった。
狙撃班が機能し始めたことで、下の部隊も押し返し始めた様だ。ここで内部通話が入った。
『狙撃班、敵トリオン兵が射程外に退いた。先を考えてなるべく数を減らしておきたい。狙撃手を半分下にくれ。地上で追撃する』
『了解だ』
下の部隊にいる二宮さんからの通信を木崎さんが代表して答える。下は二宮さんが指揮を取っているのだろうか。トリオン兵の攻撃が止んでいるので、この隙に狙撃班が中央に全員集まる。
「俺は下に降りる。当真、上の指揮を任せるぞ」
「了〜解」
「荒船隊の3人と、頼、佐鳥、一緒に下に来い」
木崎さんが隊員の配置を素早く決めていく。
判断が早いのは経験の差か迷うことなく行動していく。
「了解」
「了解っす」
「レイジさん……私もですか?」
各自木崎さんの指示に応えていくが、珍しく頼さんが渋った。
「お前もだ。あきらめろ」
木崎さんは有無を言わさず連れていくつもりだ。きっと頼さんが渋る理由もわかっているのだろう。
「それと宮木お前も下に来い、二宮の御指名だぞ」
二宮という言葉に目を輝かせた。二宮さんと一緒に戦える事がうれしく、元気よく返事をする。
「にっ、二宮さんが?!行きます!」
「辻、お前も下に降りろ、揃って戦った方がいいだろう」
「了解」
「緑川お前は残って狙撃班のフォローを引き続き頼む」
「了解〜」
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