「I have a bad feeling about this.」
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今から4年ほど前、ここ三門市に異世界からの門が開いた。

異世界からの侵略者、近界民。

その近界民によって三門市は瞬く間に恐怖に包まれた。
それは後に第一次近界民侵攻と呼ばれる。
三門市は近界民によって壊滅するかと思われたが、突如現れた謎の一団がその近界民を撃退した。
その一団とは近界民の技術を独自に研究し、「こちら側」の世界を守るため戦う組織。

界境防衛機関「ボーダー」
そこに私、真野隊の宮木尚美は所属している。


私は今日もいつも通り防衛任務に入っていた。
真野隊はボーダー本部所属のA級の部隊であり、有事の際のボーダー本部基地の防衛を主に担っている。
今日は本部屋上に待機していて、隊長の依織さんと2人三門市を見渡しながら雑談をしていた。

「今日も平和だね〜」
「そうですね、静かです」

昼過ぎで天気も良いため街が綺麗によく見えた。
今日は珍しく門の発生が少なく、暇を持て余していたのだ。思わず雑談も増える。

「尚美、イーグレットのポイント今どれくらい?」
「んー7000ちょいくらいですね」

依織さんに訊かれて答える。今年の夏から狙撃手に転向してそれから少しずつポイントを稼いできた。

「それなら来年にはマスター級行けそうだね」
「行けたらいいんですけど、どうですかね」

依織さんはそう言うが、なんせ真野隊はランク戦には出ない。
こうやって防衛任務か狙撃手の合同訓練ぐらいでしかポイントは稼げないのだ。

『まこと、今日どこと一緒だっけ?』

依織さんがオペレーターのまことに内部通話で声をかけていた。

『木崎さんと三輪隊、那須隊、二宮隊とうちですね』

まことは素早く答えた。さすが有能である。しかしまことの話の中に二宮隊の名前が出てきたことにピクリと私は反応してしまった。
二宮隊と任務が一緒になるのは久しぶりだった。担当地区は離れているだろうから会うことはないだろうけど、本部基地で鉢合わせするかもしれない。二宮さんと少し話したいな、でも迷惑かな、どうしようかな。

「……」
『そっかー、任務が終わったらレイジを呑みにでも誘おうかな』

依織さんは呑気にこの後のことを考えながら、腰に挿してある弧月を手で撫でている。
今日の防衛任務ではそういえばまだ一度も抜いていなかった。依織さんの太刀筋はすごく綺麗で、いつだってほれぼれする。
凛としていて、迷いがなく、それでいて強い。

『またですか〜ほどほどにしておいてくださいよ』
『レイジに内部通話したら怒るかな』
『そんな私用で使ってるのがばれたら忍田さんに怒られます!』
『そりゃそーだ、やめとこ』

まことと依織さんは楽しそうに話している。依織さんは戦闘時とそれ以外とでだいぶ印象が変わる。
剣を抜いていない時は穏やかでいつも笑っている。その笑顔が私は大好きだ。
どうやら依織さんは私が二宮隊の名前に反応したことには気づかなかったようだ。
そのことに安心していると、後ろから銃手のカンナが話しかけてきた。

「何何?尚美先輩デート?」
「え!?なんで!?」
「だって〜二宮隊って聞いたら先輩なんかそわそわしてるから」

テンション高めに、高い声で元気いっぱいにこちらにやってくるカンナ。
どうやら暇で持ち場からこちらへやってきたようだ。

「ん?尚美そうなの?」

依織さんもまことと話すのをやめて、横で楽しそうに聞いてくる。

「……違います」

2人にからかわれるように言われて、素っ気なく返す。彼とはそんな関係ではないし。

「ふーん、珍しく会うのかと思った」

後ろから狙撃手の頼さんもやってきていた。
今日は私と依織さん、カンナと頼さんでペアを組んでいるのだが、2人ともこちらへやってきたようだ。

「そんな予定……」

慌てて否定しようとそこまで言ったところで、何かを感じとった。

「どうかした?」

頼さんは私の異変に気づいたようで、様子を伺ってくる。

「……なんか少し嫌な予感がします」
「尚美がそう言うってことは、なんかあるんだろうね」

依織さんがふむ、と真面目に考え込む。

「尚美の勘は当たるから」
『近界民出現!地点送ります。』

そこに本部通信室からの通信が入った。

『この地点だと1番近いのは三輪隊だね。尚美の事もあるし、私たちも行こうか』

依織さんが近界民が出現した地点を見て、まことに伝える。

『真野隊、三輪隊のサポートに入るよ』
『了解』

4人揃って、本部の屋上から飛び降りた。
この予感は何を意味するのだろう。




白煙の上がっている場所目指してしばらく4人で駆ける。白煙が上がっているということはすでに戦闘は始まっているということだ。
カンナを先頭に、依織さん、私、頼さんの順番で走る。

「かなり派手にやってるみたいですね?」
「どうだろう、さすがにここからじゃうまく見えないね」

カンナが依織さんに話しかける。依織さんは目がいいが、それでもその場の様子は見えないようだ。白煙が上がるということは、弾トリガーを使っているのだろうか。

『三輪隊が現場に到着した様子』
まことからの内部通話が入る。

『え、今?』
カンナのツッコミに私も驚く。そうなるとあの白煙はなんだ?出現した近界民が暴れてああなったのか。
「とりあえず私たちも現場にいこう」
「了解」


そして、白煙の元に行くと、紫の隊服が見えた。三輪隊だ。
『真野隊現着。三輪隊と合流します』
カンナがそう本部に伝える。

「あらー派手にやったね、秀次」
先に着いていた三輪隊の三輪君と米屋君を見て依織さんが言う。近界民はすでにやられており、かなり派手に地面が抉れていた。

「何故ここにきたんですか真野さん」

三輪君が依織さんを見て言う。あんた達は本部にいたんじゃないのかと言いたげだ。
三輪君はあまり真野隊をよく思ってはいない。主に依織さんとカンナのせいであるが。

「んー、普通なら来ないんだけどね」
「尚美先輩が言うから私達も来たんだよ」

依織さんの隣に立つカンナが続ける。

「へー宮木先輩が、そりゃ気になるな」

米屋君は同い年で気安いカンナに手をあげて挨拶する。

「俺たち真野さんか宮木先輩がこれやったのかとも思ったんだけどなぁ」
「違うよ、私達今来たところだもん」

私は近界民と抉れた地面を見ながら否定する。こんなにひどい破壊を自分ができると思われていることに少しショックを受けた。自分ならもう少しきれいに近界民は破壊できる。それに今は射手としてはほぼ活動していない。この半年ほど狙撃手として腕を磨いてきた。

「これ誰がやったんでしょうね〜〜」

隣に来たカンナが聞いてくる。

「うーん、炸裂弾使ったのかな?」

他の防衛任務中の隊を考えると、二宮隊か那須隊が可能だ。しかしそれならここにいないのはおかしい。そもそも二つの隊はそれぞれ担当地区の防衛についているはず。滅多なことで他の隊の担当地区には行かないだろう。今日ここは三輪隊の担当地区である。

「俺たちがついた時にはこうなっていましたが、1番先にここに着いたのはうちだとオペレーターが言っています」

三輪君が依織さんに説明する。蓮さんが言うんなら間違いないだろう。

「だとすると、誰だろうね。トリガーの反応的にボーダー隊員じゃなさそうだし」

依織さんは近界民の残骸をみて三輪君に言う。

「これは調査する必要があると思います」
「そうだね、流石秀次」
「……いつまでも子供扱いしないでください」
三輪君の意見にうなずきながら依織さんは答えたが、嫌そうな顔で三輪君は依織さんを見る。
たしかに眼差しとか、話し方が弟にするような親しさと言うか暖かさがある。三輪君にはそれが不満なんだろう。

「そんなこと思ってないよ、頼りになる同胞」
「………」

依織さんは嬉しそうに笑っていた。これもあって三輪君はなかなか冷たくも出来ないんだろう。根は優しい子だろうし。

「尚美!」
依織さんに急に呼びかけられた。

「はい」
「尚美、後で一緒に報告に行くよ、よろしくね」
「……宮木了解」

私も一緒に上層部に報告しに行かないといけないのかと思うとすこし憂鬱な気分になる。
あまり上層部にはいい思い出がない。けど、依織さんに言われたなら仕方がない。私の勘はよく当たるのだ。
先ほどから嫌な予感がおさまらないのだ。この先何か起こるのか、その始まりに思えてならなかった。



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