「I have a bad feeling about this.」 2
「お疲れ様、匡貴」
「依織か」
防衛任務終了の時間になったため、真野隊は本部に帰着していた。
そこには同じように帰着した二宮隊もいて、依織さんは同じ隊長である二宮さんに声をかけていた。
2人が並ぶと非常に絵になる。何度見ても美男美女でお似合いだと思ってじっと見る。自分の尊敬できる2人だから尚更だ。
「何かトラブルがあったらしいな」
「そうなんだよね。今からそれで上層部に尚美と報告に行くところ」
「そうか」
二宮さんは依織さんに言われてチラリと私を見た。
「二宮さん!お疲れ様です!」
目があったので、つい二宮さんのところに駆け寄る。久しぶりに会えたのだから仕方ない。あまり迷惑をかけないように、とは思っているが、会えた嬉しさが勝ってしまった。
「ああ」
「二宮さんこの後空いてますか?報告が終わったら、」
二宮さんに久しぶりに会えたうれしさでつい前のめりになって話しかけたが、背後に人の気配を感じて、途中で黙り込んだ。
これは、嫌な予感がする。
「尚美チャン」
名前を呼ばれて体が飛び跳ねる。聞き覚えのあるこの声。恐る恐る後ろを振り向いた。
「あ、犬飼……くん……」
「おれと久しぶりに模擬戦しない?」
肩に手を乗せながら私に話しかけてきたのは、二宮さんと同じ二宮隊の犬飼くんである。
いつもの何を考えているかわからない笑顔でこちらを見てきた。
彼とは色々あって少し気まずいのだが、相手はそんなこと微塵も思っていないようで会うたびに声をかけてくる。
しかし模擬戦とは。私は今狙撃手として活動してるし、犬飼くんは銃手だ。無理があるだろう。
「あ、えっと……」
犬飼くんにさらっと誘われて、しどろもどろになる。なんと答えたら角が立たないのだろうか。まずい、非常にまずい。どうしようかと考えていると、二宮さんが犬飼くんに声をかけた。
「犬飼」
あ、二宮さんが助けてくれる。そう思って、ぱっと二宮さんを見た。流石私の元師匠。頼りになる。
「……あまりいじめてやるな」
「は〜い」
しかし私が期待したようなことを二宮さんは言ってはくれず、それだけ言うと依織さんとまた話始めた。
二宮さんの助けが得られない以上、一人でこの犬飼くんの相手をしなければならないことを悟る。
「辻君!やっほー!」
「あ、紫、さん、」
カンナは同い年の辻くんに声をかけていた。もちろん女性が苦手な辻くんのために距離は取って。
辻くんはカンナが少し苦手なようでかなり顔を赤くさせている。確かにカンナはぐいぐい来るし、女子らしいもんね。可愛いし。
「今日何体狩った?」
「おっ、俺は……5かな」
「私は4体!今日数少なかったよね」
「う、うん……そ…だね」
辻くんは汗をかきながらも一生懸命カンナの話に答えている。女性が苦手なりに頑張っているようだ。えらい。
「新之助、最近また強くなったんじゃない?鍛錬頑張ってるんだね」
そこに依織さんも会話に加わる。
「師匠として鼻が高いよ」
「……ありがとうございます」
辻くんは師匠の依織さんに褒められて嬉しそうにする。依織さんは女性が苦手な辻くんが普通に話せる数少ない相手でもある。
「ね、尚美チャンおれの話聞いてる?」
カンナたちの方を見て現実逃避をしていたら犬飼くんに顔を覗き込まれて現実に戻された。
いけない。話を全然聞いていなかった。どんな話をしていたのか。
「あっ、ごめん、なんだっけ?」
「だから模擬戦してそのあとご飯食べに行こうよ、って」
自分が気づかぬうちにもう一つお誘いが増えていることに驚いた。
「え、それは、その…」
ご飯だなんて、さらにハードルが高い。というか私を誘って何がしたいんだろうか。
有無を言わさないようにずいっと顔を近づけられて
「ん?なあに?」
なんて笑顔で言われて、あわてていると今度こそ助け舟が出された。
「犬飼、申し訳ないけど、今から尚美は依織さんと一緒に上層部に報告に行かなくちゃ行けないんだよ」
私の後ろから声をかけてくれたのは頼さんである。私はぱっと頼さんの方をみて、うんうんうなずく。
いざと言う時に頼りになる頼さんに感激した。そうだ、そういえばよかったんだ。
「それは残念。尚美チャンまた今度ね。元村さんも失礼します」
犬飼くんは驚くほどあっさりと二宮さん、辻君と共に作戦室の方へ向かっていった。おそらく今日の防衛任務の反省会でもするのだろう。
3人の姿が見えなくなったところで、私は漸く、ほっと一息ついた。
「頼さん、ありがとうございます」
私はようやく平静を取り戻し、頼さんにお礼を伝える。
「……尚美、あまり犬飼と距離を取っても可哀想だよ」
頼さんに苦笑いされてしまった。頭を優しく撫でられる。これは頼さんの癖みたいなものだ。
「……はい」
私も本当はわかっているのだ。距離をとっても無駄なことは。彼はすぐに距離を詰めてくる。
誰にだって距離感が近い彼だが、私にはことさら近いことを知っている。
色んなことに逃げてしまった私を優しく追いかけてくれているのだ。
その優しさに甘えてしまっているのも、そろそろなんとかしないといけないのも、私はわかってて気づいていないふりをしているが、そろそろ限界なのかもしれない。
「そうそう!尚美先輩、あれじゃ犬飼先輩が可哀想です!せっかく誘ってくれたのに」
カンナもいつの間にかこっちにやってきて、話に入る。なぜか怒り気味だ。
「私は二宮さんを誘いたかったんだよ。宿題教えて欲しかったのに……」
せっかく二宮さんに会えたのに、邪魔されたことに私は少し不満があった。
そもそも、犬飼くんはいつも二宮さんに話しかけようとすると邪魔してくるのだ。自分はいつも二宮さん一緒にいるくせに。
少しその時間を分けてほしいくらいだ。前も勉強を教えてもらったと言っていた。ずるい。私だって教えてもらいたい。
「尚美先輩はなんでそーなんですか!それなら模擬戦じゃなくて、宿題を犬飼先輩と一緒にやったらいいじゃないですか!」
「そっそうなんだけど、それは」
カンナに言い負かされながら通路を歩く。そもそも勝てるとは思っていないのだが。カンナは圧がすごい。
犬飼くん二人で勉強なんて、そんな距離が近いのは恥ずかしくて自分には無理だ。
そう思ったが、みんなには到底言えそうになかった。今更?と言われそうで。
「じゃ、私達は作戦室に行きます」
頼さんとカンナは作戦室の方へ戻る。
「オッケー、また後で行くよ」
依織さんは私を連れて会議室へと向かった。
人通りの少ない長い廊下を2人で歩く。2人の足音だけが響いた。
「毎度よくわからない勘で、すみません」
「そんなことないよ、それで私達は助かってるんだから」
申し訳なく思って、依織さんに話す。この勘もムラがあるのだ。今までこれが便利だと思ったことは正直ない。
もっと迅さんみたいにはっきりわかったら良いのに。
依織さんは全く気にしていないようで、私を優しい目で見て穏やかに話す。いつも私の事を信じてくれて、この力を必要だと言ってくれる。
「ただ、もう少し犬飼の事も察しが良いといいんだけどね?」
「依織さんまで?!」
本気か冗談かよくわからないトーンで言われて戸惑う。依織さんは悪ノリが大好きなのだ。
「冗談、冗談」
依織さんはけらけらと笑う。
「もーからかわないで下さいよ」
努めて明るくなるように話してくれる依織さんのことが私は大好きだ。
この人にずっとついていきたいと思うし、力になりたい。
この人の背中を追いかけていきたい、前からずっとそう思っている。
隊に誘ってくれた時から。私に居場所をくれた時から。
会議室について、依織さんがノックをする。
「真野隊真野です」
「宮木です」
「入れ」
忍田さんの声だ。二人で入るとそこは忍田さんしかいなかった。
依織さんがあらかじめ人払いをお願いしていたのだろう。
「防衛任務ご苦労だったな」
「はい、ありがとうございます」
「先ほど報告にあった事だが……」
忍田さんと依織さんで話を進めていく。私は聞かれたら答えれば良いだけだ。黙って依織さんの隣で話を聞く。
「おそらく、近界民のものと思われるトリガー反応を確認しました」
「ふむ」
忍田さんが考えるように、手を顎に当てる。
「三輪隊も確認していますが、おそらく城戸司令にはまだ報告していないかと」
「そうか、その方がいいな」
「我々の知らない間に近界民が侵入していると思われます」
依織さんが自分の考えを伝える。私もそう思っていたのでそのまま黙っておく。
「……特に被害はまだ上がってないな」
「そうですね。ですが、時間の問題かもしれません。尚美が嫌な予感がすると言ってますから」
「そうか、宮木もご苦労だったな」
そこで初めて私に話が振られる。
「いえ」
「何か感じることはあるか?」
忍田さんも私の勘の事は良く知っている。それを肯定的にいつも受け止めてくれるありがたい人だ。
「……大きな、嫌な感じがするだけです。それも4年前の時のような」
この事は今、初めて言った。できることなら感じたくなかった事だ。
あの時は自分のこの力については上手くわかっていなかった。ただただ怖くて、家族に言いようのない不安を訴えていただけだった。
「そうか……」
忍田さんはその言葉に疑うこともせず、考え込む。
この三門市を守らなければならない、4年前の二の舞にしてはいけない。みんなが思うことは一緒だ。
「こう言う時の尚美の勘は当たりますから」
力強く依織さんが忍田さんに言う。
その信頼が私には少しくすぐったくもあり、誇らしくもある。
「そうだな、迅にも確認してみよう」
「はい、よろしくお願いします」
依織さんが頭を下げた。
迅さんの副反応を使うようだ。私のよりよっぽど正確で役に立つだろう。
「それと、先ほど報告があったのだが、警戒区域外に近界民が現れたそうだ」
話が変わる。これは私も依織さんも知らない話だ。
「イレギュラーな門と言うことですか?」
依織さんが珍しく驚いた顔をする。普段笑顔がベースなのに表情を崩すのは珍しい。しかしそれほど大きな事なのだ。イレギュラー門なんて私が入隊して3年、聞いたことがない。
「そうだろうな、これも関係してるのかもしれない。今技術者達が原因調査中だ」
「わかりました」
普通であれば、誘導装置のおかげで本部基地周辺の警戒区域内にしか門は出現しないはず。
区域外に門が出現するとなると、一般人に被害が生じるかもしれない。この異常事態は早めに対処しなければならない。
依織さんの声もいつもよりずっと厳しい。
「誘導装置の故障ではない、何かが起こってる事は確かだ。気を緩めるなよ」
「「了解」」
忍田さんに言われて、しっかりと返事をした。
真野隊は忍田さんの懐刀だ。その信頼を損ねてはならない。
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