「I have a bad feeling about this.」 38
今日は東さんと頼さんが企画した茜ちゃんの送別会がボーダー本部基地内で行われていた。
A級B級の狙撃手が集められたその会は、茜ちゃんの人徳を示すように見事全員参加だった。
上層部が気にしてくれたのか、はたまたシフトを主に組んでいる諏訪さんや風間さんたち年長者のおかげなのか、この日の防衛任務は狙撃手を除いた混成部隊で行われているようだ。
依織さんとカンナ、まことも防衛任務に参加すると言っていた。
今日の会は午前中に訓練室で的当てビンゴなるゲームをした後に、ラウンジの一角を貸し切って立食形式の食事会が行われていた。
私は料理をつまみながら壁にもたれて茜ちゃんがフリーになるのを待っていた。
茜ちゃんの周りにはたくさんの隊員がいて楽しそうに話しかけている。
今は佐鳥君、半崎君が茜ちゃんと話しているようだ。二人は茜ちゃんと午前中のゲームでチームを組んでいて、大いに盛り上がっていた。
ちなみに私は外岡君と太一君だった。
結果は外岡君のお陰でなんとかビリは回避したが、大変だった。
周りを見渡すと頼さんは当真君と話していて、飲み物片手に頼さんは珍しく笑顔だった。
いつも真面目に訓練をしない当真君に頼さんは小言を言うことも多いのだが、今日は訓練外なので和やかなようだ。
当真君は背が高く、頼さんも身長170cmある美女なので、ああやって並んでいると絵になる。
当真君も真面目にしてたらイケメンなのだ。きりっとしてればイケメンなのだ。
普段がだらしなさすぎるのが難点だが。
「宮木お前もっと食え」
考え事をしながら食べていると、横に人が来ていることに気付かなかった。
話しかけられてあわてて顔を見る。
「荒船君……食べてるよ」
荒船君の隣には穂刈君もいて、皿に山盛りに料理を盛っていた。
「穂刈君…すごいねそれ」
「筋肉も衰える。食わねえと」
「そうですか…」
穂刈君は筋トレが趣味だけあって、いい身体をしている。
直接見たわけではない。荒船隊のオペの倫ちゃんがデッサンした絵を見たことがあるのだ。
作戦室で上半身裸になってもらって描いたらしいが、よくOKしたなと思う。
私の皿に無言で荒船君が料理を乗せていく。
肉肉肉。野菜が全然ない。
「荒船君、お肉ばっかりはさすがに食べれない」
「肉食え、肉はいいぞ」
入れてもらった以上は食べないと、と箸をつける。
皿が空になっていたのを気にしてくれたようだ。
食べながら話をする。
「お前、これも写真集用か?」
荒船君に差し出された携帯の画面をみて口に入れたお肉が飛び出そうになった。
「え、なにこれ!?」
それは玉狛の訓練室でしていた二宮隊の隊服を着た私の写真だった。
「何ってお前の写真だろ」
「それはそうだけど……」
何故その写真を荒船君が持っているかという事だ。
「犬飼が「これはおれじゃない」って言うから」
「当たり前でしょ…これ誰にもらったの?」
「……」
荒船君は急に皿の料理に夢中になり始めた。
「穂刈君」
「宮木、タンパク質だ。筋肉には」
穂刈君も皿に乗った鶏肉料理をすごい勢いで食べている。
「…穂刈君も持ってるでしょ?」
「言えないな、それは」
「持ってるんだね」
ため息をつく。
犯人は確実にあの時あそこにいた誰かだとわかるのだが、いつの間に写真を撮られたのか分からなかった。
烏丸君は陽太郎君に「隠し撮り!」と言われながら堂々と撮られていたが、私を撮る様子はなかった。
「尚美、そろそろ茜のところに行こう」
当真君と話していた頼さんがこちらに来る。当真君も一緒に来ていた。
頼さんに誘われてしまった手前、これ以上写真の事を聞くことはできず、頼さんと一緒に茜ちゃんのところへ向かう。
当真君はそのまま荒船君と穂刈君と一緒に話し始めた。
荒船君と穂刈君が写真を持っている以上当真君も怪しいが、あとで聞くことにする。
「茜、来たよ」
頼さんが茜ちゃんに手を広げながら近づく。
「女性狙撃手は少ないから、なおさら寂しいね」
頼さんが茜ちゃんをぎゅっと抱きしめる。
身長差もあるので茜ちゃんは見事に胸に溺れていた。
「頼さん、くるしっ、くるしいです」
そう言いながらも茜ちゃんはどこか嬉しそうだ。
頼さんは茜ちゃんも含めて千佳ちゃん、出穂ちゃんの3人を妹のようにかわいがっていたのだ。
もちろん私も3人のことを可愛がっているつもりだ。
「那須隊最後上位入りできて良かったね」
頼さんが抱きしめたまま頭を撫でている。
そろそろ茜ちゃんは窒息死しそうだ。
「ほんとほんと、最後の茜ちゃんの狙撃最高だった!」
あの時のことを思い出すと今でも少し泣きそうになる。
「奈良坂君も褒めてたし、ほんとすごかった!」
涙を誤魔化すように頼さんに代わって茜ちゃんを撫で回す。
「そうだ、尚美先輩最終戦の時に泣いてたって」
茜ちゃんが楽しそうに話す。
「……それ誰に聞いたの?」
「今さっき奈良坂先輩に聞きました〜〜」
それを聞いて奈良坂君を探してじっと見る。
よくも言ったな、という思いを乗せて。
視線に気づいたのか奈良坂君がこちらへやってきた。奈良坂君と同い年の隠岐君も一緒だ。
「なんですか?宮木先輩」
「奈良坂君、茜ちゃんに言ったでしょ?」
「何をですか?」
奈良坂君はとぼけるようだ。意外と真面目そうな顔をして冗談もいける性格なのである。
「何をってこの間の最終戦の時!」
隣に隠岐君がいるので濁して説明する。
「ああ、先輩が感極まって解説の最後で泣いたやつですね」
奈良坂君は包み隠さず全部言ってしまった。
「こら!」
あわてて奈良坂君の口を押さえようとするが、いかんせん奈良坂君は背が高いので簡単には届かない。
身長差があるので手を伸ばして対抗する。
「ちょ、やめてくださいよ」
「なんでみんなの前で言っちゃうの!」
狙撃手はほとんどが後輩だ。後輩の前では私だっていい恰好がしたい。
たとえ実力は負けていても。
「いや、宮木先輩みんな知ってますから」
隠岐君がにっこり笑う。
なんかこれ前も言われた気がする。
「え?」
「だいたいみんな知ってますよ〜先輩が解説中に泣いたん」
「なんで知ってる!?」
奈良坂君を再び見る。まさかみんなに言ったんではないだろうか。
「……はぁ、俺じゃないです」
「じゃあ誰!?」
隣の頼さんは苦笑している。おそらく頼さんも知っているんだろう。
「ん〜俺は水上先輩に聞きましたよ」
そこで考える。
まさか安パイだと思っていた村上君だろうか?
同い年の18歳男子は無駄に仲がよく、頻繁にグループチャットが動いているのも知っている。
先ほどの写真の事と言い、本当に油断ならない。
何とかしてそのグループチャットを覗くか、解散させたいほどだ。
ここにいる同い年は荒船君、穂刈君、当真君だが、3人はまだ集まって話している。本当に仲がいい。
「私はすごく嬉しかったですよ!ありがとうございます!最後の試合、奈良坂先輩と尚美先輩に解説してもらえるなんてラッキーでした!」
茜ちゃんはにっこり笑うが、顔の半分は頼さんの胸に埋もれている。
そろそろ助けてやるべきかもしれない。
「まぁ、噂の出どころはおいおい聞いていくとして、茜ちゃんご飯食べてる?さっきから全然食べれてないよね?」
茜ちゃんに訊ねる。
「あ、タイミング逃しちゃって……」
「やっぱり!みんな食べる量すごいから、うかうかしてるとなくなるよ」
先ほどの荒船君、穂刈君の量を見ているともう遅いかもしれない。
「それはいけない。茜行こう」
頼さんは抱きしめるのをやめて茜ちゃんをご飯が置いてあるところに連れ出す。
料理が置いてあるところには隊員が群がっていた。
「ほら主役優先!どいてどいて」
頼さんが群がる男性達を蹴散らしていく。実に鮮やかな動きだ。
「すっ、すいません〜!すいません!」
茜ちゃんは自分がほぼ一番下なだけあって慌てながら中に入っていく。
覗いてみるとすでに食べ物はほとんど空になっていて、一足遅かったようだった。
「もうほぼないね〜どうします?」
頼さんに聞くと、横から声がかかる。
「日浦さんこっちこっち」
古寺君が茜ちゃんを手招きしていた。
頼さんと二人つられてそちらに行くと、古寺君が茜ちゃんに皿を手渡す。
皿にはきれいに料理がよそってあった。
「きっと食べれてないだろうと思って、日浦さんの分避けておいたんだ」
流石気遣いのできる古寺君である。
「わ!古寺先輩ありがとうございます〜うれしいです!」
茜ちゃんはにっこり笑って受け取り、食べ始める。
お互い奈良坂君の弟子としてやってきて、仲良くしていたのだろう。
「章平は本当によく気がつくよね、感心するよ」
頼さんは古寺君をぎゅっと後ろから抱きしめる。
「えっ、あっ、元村せんぱ……」
古寺君は顔が赤くなってわたわたしている。
頼さんはつい狙撃手の後輩にはスキンシップが多くなってしまうのだ。
男性隊員にこうやってするのは珍しいが。
「頼さ〜ん、古寺君死んじゃうから程々に……」
横でそっと声をかける。
「ん、ごめんね、つい」
頼さんはぱっと手を離して謝る。
「いえ、大丈夫です……」
古寺君はそれだけ言ってよろよろとどこかへ行ってしまった。
顔が赤かった。おそらく顔の熱を冷ましに行くのだろう。
頼さんのハグは攻撃力が高いのだ。
「美味しいです〜」
茜ちゃんは古寺君のことは気にせずご飯を美味しそうに食べている。
「それは良かった……」
やはりボーダーの女性隊員は普通の人とはどこか違う。
「あ、千佳と出穂だ」
頼さんは2人を見つけるとさっとそっちの方に行ってしまった。
そして、二人と一緒にいたユズル君を思いっきり正面から抱きしめている。
ユズル君は恥ずかしがって抜けだそうとしているが、身長差もあり難しいようだ。
頼さんの抱きつき癖は知っていたが、男の後輩にすることは滅多にない。
そうなると一つの可能性を考えだした。
まさか、酔っているのではないかと。
「ごめんね、茜ちゃんちょっと席外すね」
「大丈夫ですよ〜私も千佳ちゃん達のところに行ってきます」
この場にいる成人済みの隊員は東さんと木崎さん、頼さんの3人だけなので、アルコールは用意していないはずだが、どこかで間違って提供されているのではないか。
だとしたら未成年の子達が飲むのはまずいと思い、東さんのところに行くことにする。
「東さん東さん」
「ん?どうした宮木」
東さんは木崎さんと2人で席に座ってのんびり話しているところだった。ちょうどいい。
「あの、ひょっとするとなんですが、頼さん酔ってません?」
「……今日は酒は用意してなかったはずだけどな?」
東さんはちらっと頼さんを見る。
頼さんは太一君を捕まえて抱きしめているところだった。やはり何かおかしい。
「……酔ってるな?」
「酔ってますね」
東さんの隣にいた木崎さんも同意する。
「どうしましょうか……」
こうなると私には手がつけられない。
頼さんの師匠の東さんに頼るしかなくなる。
「うーんどうして酔ったのかは疑問だが、あれはどうにかしないといけないかな。頼めるか?」
東さんは隣の木崎さんに話を振る。
「わかりました」
木崎はさん立ち上がるとそのまま頼さんの方に向かっていった。
私もあわてて後を追う。
「元村お前それくらいにしておけ」
「あ、レイジさんどうしたんですか〜!」
頼さんは顔色こそ変わっていないが、目元が緩んでおり、いつものクールな印象が消え去っている。
「レイジさんも、はい」
太一君を開放し、今度は木崎さんに抱きつこうとする。
太一君は酸欠でへたり込んだ。かわいそうに。
「それはさすがに悪いからやめておけ。お前は水を飲め、こっちこい」
木崎さんは片腕で頼さんを止めると、そのまま頼さんを連れてラウンジを出て行った。
「太一君大丈夫?」
へたり込んでいる太一君のもとに駆け寄る。
「大丈夫じゃないす〜」
「そうだよね、びっくりしたよね」
太一君の背中をさする。圧死するところだったのだろう。
「久しぶりにやられました」
はははと笑いながら太一君は立ち上がる。
太一君を近くにいた佐鳥君と半崎君に任せて私は当真君のもとに向かう。
「当真君!」
「お〜宮木どした?」
当真君はまだ荒船君と穂刈君と一緒にいた。
何やらにやにやしている。
「頼さんにお酒飲ませたでしょ?」
確信をもって訊く。
「おっ、なんだもう気づいたか!」
当真君はあっさり認めた。気づかれることを見越していたのか。
「もー!なんでそんなことするの!」
「元村さん酔うとおもしれーもん」
けらけら笑って当真君は悪びれもしない。
「一歩間違えば犯罪だよ…もう」
頼さんはお酒が弱い。おそらく飲ませたのは少量だろう。
「安心しろって、酒はそれだけしかないから」
安心していいのか悪いのか。
「当真お前そんなことしてたのか」
どうやら後の2人は知らなかったらしい。咎めるような視線で荒船君が当真君を見る
「冬島さんが忘れてったチューハイ1本残ってたからさ」
まさか冬島さんは作戦室で飲んでいるのだろうか。理佐ちゃんが許すのだろうか。
「気づかず飲んだのか、元村さんは」
気づくだろ、普通。と穂刈君が目を丸くする。
「普段お世話になってる礼にな〜〜」
「とりあえず、後で理佐ちゃんに報告しとくから」
睨むように伝える。
「おいおい、それは勘弁」
当真君の隊のオペレーターである理佐ちゃんの名前を出した途端あわてだす。
「どうしようかな〜〜交換条件出そうかな」
ちょうど聞きたいことがあったのだ。
「おっ、何何?」
「写真の入手ルート教えて」
「……」
そう言うと、当真君は荒船君と穂刈君をちらっと見る。
「言えないなら、グループチャット見せてくれてもいいよ」
出せ、と手を出す。
「それは勘弁してくれ」
「さすがにそれはだめだ」
荒船君も話に入ってくる。
見せられないほどやばい内容があるのだろうか。
まぁ、男子高校生が集まるとそうなるのだろう。
「ちなみに写真って2枚ともね」
「……2枚って言うと?」
当真君がとぼけたように言うのを聞いて気づく。
「まさか……2枚以上あるの?」
「……」
当真君が黙ったことで当たりだと確信する。
「嘘でしょ!?まだあるの!」
「あーあ、俺たちはしらねーぞ」
「言ってないからな、二宮隊の隊服以外は、俺たち」
荒船君と穂刈君は責めるように当真君に言う。知っていて黙っていたのかこの二人は。確信犯だ。
その後当真君の写真フォルダにC級隊服の写真、二宮隊隊服の写真の他に
この間のランク戦の時の泣き顔の写真があることを発見して悲鳴をあげた。
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