「I have a bad feeling about this.」
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「はぁ〜やっと最終日!やっと終わる!」
私は真野隊の作戦室のテーブルに突っ伏していた。

「お疲れ様です」
まことが私のすぐ横にお茶とお菓子を置いてくれる。

「ありがとう!」
「今日のお相手はどなたなんですか?」
今日はB級ランク戦最終日。夜の部の中位グループの解説を任されている。
ちなみにまことは昼の部の上位グループの実況をしていた。東隊、影浦隊、王子隊の実況で、観客も多くいたそうだ。


「村上君と奈良坂君。実況は遥ちゃんだよ」
「それなら安心ですね」
まことが頷きながら話す。


「そうなんだよ、みんな落ち着いてるからきっとフォローしてくれると思う」
遥ちゃんにいたっては3日目の時にも一緒にしているので心強い。

ちなみに裏の上位グループの解説は小南ちゃん、王子君、会長らしい。
会長はともかく小南ちゃんと王子君と一緒じゃなくて良かったと思っていた。


「あと、上位グループの方がギャラリー多いと思うし、やりやすい」
「それはどうですかね。今シーズンは中位も人気ですよ!」
「だよね〜」


やはり慣れないなと緊張していた。
それに今日は可愛い後輩の最後のランク戦なのだ。いい解説をして、送り出してあげたいと思う。







「皆様こんばんは、B級ランク戦最終日夜の部、本日実況を務めます、嵐山隊綾辻です!」
遥ちゃんの慣れた挨拶から始まる。


「混戦を極めたB級中位グループ。今回解説席には、攻撃手個人4位鈴鳴第一のエース村上隊員と」
「よろしく」
「今シーズン皆さんお馴染み真野隊の宮木隊員と」
「よろしくお願いします」
「本日試合を行なう那須隊長の従弟であり、日浦隊員の師匠でもある三輪隊の奈良坂隊員にお越しいただいてます」
「どうも」


順に紹介されてそれぞれ挨拶をする。

「最終戦、最後の試合の組み合わせは、暫定9位の香取隊、10位の諏訪隊、12位の那須隊です。昼の部の結果をもとに現在の順位を見ますと、この裏で行われている上位グループの結果にもよりますが、3チームとも上位入りの可能性は大いにあります。」

さすがオペレーター。現在の点数をさっとモニターに映して、上手く解説をしていく。

「香取隊は前回も上位グループだったので、生存点も取って、残留を狙いたいですね」

そんな村上君の所属する鈴鳴第一も30点で現在7位になっているので、上位に入れるか微妙なところである。


「那須隊は今まで上位入りした事がありません。初の上位入りなるか、と言うところですね」


那須隊の茜ちゃんは今日の試合で最後になる。有終の美を飾って欲しい。奈良坂君はそう思っているのであろう。


「諏訪隊は笹森隊員の今シーズンの成長が著しいです。上位入りなるか期待ですね」


毎回解説しているとそう言う変化にも気づきやすい。さっと話す。


「さて、今夜のマップは那須隊がすでに選択しています、「市街地C」です。どう見られますか、奈良坂隊員」
遥ちゃんがマップの説明に移る。


「高低差のあるマップなので、狙撃手に有利な地形と言えます。唯一狙撃手スナイパーがいる那須隊はそれを生かす作戦に出るようですね」
「今回の那須隊は日浦隊員に注目!と言うことでしょうか?」
「そうですね、期待しましょう」

奈良坂君は頷く。
今気づいたが、奈良坂君も村上君も普段あまりしゃべらない方だ。


これは頑張らないといけないのではないか。



「さて、まもなく転送に入ります」
遥ちゃんのその言葉に自分も心臓がドキドキしてきた。


『ここで、全チーム転送完了B級ランク戦最終日夜の部、戦闘開始です!』
仮想戦闘が開始されそれぞれが動き始める。



『ここで、転送位置を確認しましょう』
遥ちゃんが手早く操作してモニターにMAPが表示される。


『香取隊の香取隊長と若村隊員が高所にいますね。位置も近いのでそのまま合流を目指すと思います。諏訪隊も3人比較的近い位置に転送されました…那須隊は転送位置がやや悪いですね。唯一の狙撃手日浦隊員がまさかの1番低所です。これは高所を取るのは難しいかもしれません』
私がまず解説する。那須隊は高所を取りたかっただろうが、この位置では難しい。だが、こんな時の作戦も考えてきているだろう。


『今回は狙撃手の日浦隊員のみが、バッグワームを使用しています。お互いの位置がわかる各部隊はどう動くか…。
早くも香取隊長と若村隊員が高所を生かして攻撃を始めたようです。那須隊と諏訪隊は合流を阻まれる!』 


合流を阻まれた二部隊は動きが止まる。
香取隊はどちらを狙うのか。
そこで、香取隊に攻撃がやってきた。
2人はあわててシールドで対処する。攻撃の手が止まった。



『那須隊長の変化弾バイパーによる攻撃が香取隊の2人を襲う!障害物が盾となってさらに軌道が読みにくいぞ!」
遥ちゃんの言葉通りマップに高低差がある分、下から上への攻撃には障害物が多い。
玲ちゃんはそれを逆手にとって、しっかりオペレーターと連携して変化弾の軌道を引いてきている。
上手いとか言いようがない。


『那須隊員の変化弾はただでさえ避けにくい軌道を描くのに、さらに回避が難しいと思います。いつ見ても軌道が素晴らしい変化弾ですね。那須隊長だからできる作戦だと思います』
私は褒めることしかできなかった。出水君ももちろんすごいが、やはりボーダー1の変化弾使いは玲ちゃんだろう。


玲ちゃんが香取隊を攻撃している間にくまちゃんが玲ちゃんのもとに合流した。


『高所の香取隊、予想に反して押されている!これは那須隊が高所を奪うか?熊谷隊員の援護もある』
そしてくまちゃんが合流したということは諏訪隊も合流しているはずだ。


『ここで、諏訪隊が那須隊を襲う!3人合流しての横撃です!
熊谷隊員、那須隊長をフォローするが、熊谷隊員被弾。すかさず那須隊の2人は距離を取ります』


後退しようとする那須隊の2人を諏訪隊の3人が追いかける。
玲ちゃんが変化弾で地面を撃って目くらませをしたようだ。その隙に香取隊の三浦君は部隊に合流する。


『全部隊合流が完了、ここからどう動くか?』
しばらく戦いをモニターで見るが三つ巴のにらみ合いになっている。
三者とも攻撃はしているが決定打にかけている。
どのチームが均衡を破るのか。


『各部隊様子を伺っていますね。日浦の居場所が2部隊には把握できていませんから、特に慎重にならざるを得ません』
奈良坂君がそう分析する。


『ここで、笹森隊員バッグワームを起動しました。部隊の2人は別行動するのか?』
『何か仕掛ける気でしょうね、一気に状況が動くと思います』
村上君がモニターを注視する。


『笹森隊員カメレオンに切り替えた!レーダー上に表示される。那須隊かなり距離が近いぞ!これにはどのような意図があるんでしょうか?』
遥ちゃんが村上君に話を振る。
笹森君は攻撃手アタッカーなので、同じ攻撃手の村上君に話を振ったのだろう。



『カメレオンだと、近くでも姿が見えないのでギリギリまで近づくことが可能です。笹森隊員は攻撃手なので、自分の間合いまで近づきたい、と言うことでしょうね』
『バッグワームを使用すると、逆に目視では確認できますが、レーダー上はわかりません。近くに行くまでバッグワームだったのは那須隊長がレーダーをみて攻撃してくるのを防ぐ狙いだったのかもしれませんね』


私がおせっかいかなと思いつつ横から補足すると、村上君が横目でこちらをみて、ニコッと笑った。お礼のつもりだろうか。


『さぁ、レーダー上には近くに笹森隊員がいるのはわかるが姿が見えない。この近さだと那須隊長も変化弾を使いにくい』

那須隊を崩すにはどうしたらいいか、どちらを狙うか。
諏訪隊は中距離戦に強い。そうなると同じ中距離で戦う玲ちゃんを先に落とすのではないかと。
笹森君もその考えのようでカメレオンを解除した時は玲ちゃんのかなり近くにいた。
これは玲ちゃんにはつらい距離だ。近距離すぎる。
しかしくまちゃんも読んでいたようで、玲ちゃんの近くまでフォローをしに来ていた。


玲ちゃんをかばうようにくまちゃんが笹森君の目の前に立ち、お互いが急所を貫き、切り裂いた。


『熊谷隊員よく気付いたが、笹森隊員と相打ち!熊谷隊員、笹森隊員緊急脱出ベイルアウト!最初の得点は那須隊と諏訪隊にそれぞれ一点ずつ。ここで、那須隊は熊谷隊員が抜けて、那須隊長が1人になった。それをすかさず香取隊と諏訪隊が狙う!』


玲ちゃんを落としておくのは良い考えだと思う。このマップでは玲ちゃんの変化弾は脅威だ。
しかし、瞬時に何かが違うと思った。諏訪さんならもっと先を見据えるはず。
玲ちゃんが落とされたら、今度は無傷の香取隊を相手にすることになる。
やはり諏訪さんもそのことを考えていたようで、標的を香取隊に向けていた。


諏訪さんと堤さんのショットガンが香取隊を襲った。不意を突かれた香取隊は攻撃をもろに食らってしまう。
香取ちゃんが一番前に出ていたので、香取ちゃんに集中砲火が来る。
先にエースを落としておこうという作戦のようだ。
それをさせまいと、三浦君がとっさに香取ちゃんの前に出る。
しかし、三浦君の張ったシールドもすぐに破られてしまう。
諏訪隊の爆発力にはかなわなかったようだ。



『ここで、三浦隊員緊急脱出!諏訪隊にさらに一点が追加されます。全部隊2名ずつになりました。ここで、今度こそ那須隊長に2部隊が襲いかかる!おっと、ここで日浦隊員、ライトニングで狙撃だ。初めての攻撃になる』


玲ちゃんがうまく射線の通るところに2部隊を誘導したのだろう。
あわてて、2部隊が身を隠す。


『狙撃の隙に、那須隊長の攻撃の間合いになりましたね。ここで、2部隊が日浦隊員を対処するには難しいですね、部隊を分けて1人になると那須隊長に落とされる可能性がある。ここは先に那須隊長を落としてから、日浦隊員に行った方がいい』
村上君がそう判断する。


『諏訪隊・香取隊が距離を詰める!那須隊長を射程に捉える時間が増えてきた!対する那須隊は…日浦隊員がライトニングで敵部隊を足止めする!』
遥ちゃんが実況している間に、ランク戦室が少しざわついた。



『……と、ここで上位の会場から流れてきた人がいるみたいなのでここまでの流れをおさらいしましょう!』
どうやら上位の試合が終わったようだ。
少しドキッとする。
二宮隊や玉狛第二はどうだったんだろうか。


『ちなみに今回の解説は、攻撃手個人4位鈴鳴第一のエース村上隊員と』
『よろしく』
『今シーズン皆さんお馴染み真野隊の宮木隊員と』
『よろしくお願いします』
『那須隊長の従弟で、日浦隊員の師匠でもある三輪隊の奈良坂隊員です!』
『どうも』


『さて那須隊が今回選んだMAPは市街地C!階段状に高低差のある地形が特徴。狙撃手がいる有利を活かそうという狙いか。…しかし転送は那須隊に不利に働き序盤は香取隊が高所に陣取る展開!このまま香取隊が高所の強みを押し付けていくかに見えましたが……那須隊長の変化弾が障害物をものともせず香取隊へ襲来!部隊の射程の差もあり上をとった香取隊が逆に押される形になります!』

『那須隊長の射撃は変化弾の真の性能を引き出している感じがしますね。本来射程武器の邪魔になるはずの障害物が那須隊長にはむしろ有利に働いている』
『オペレーターと連携してMAPをかなり研究した動きですね』
『那須隊長ももちろんすごいですが、それを支えるオペレーターの志岐隊員も素晴らしいと思います』
奈良坂君の言葉に付け加える。


『……しかしそこへ遅れて合流した諏訪隊が那須隊を横撃!防御に入った熊谷隊員がダメージを負います!ここから試合はしばらくの間三つ巴のにらみ合い。距離をおいての牽制が続く膠着状態に!均衡を破ったのは諏訪隊。笹森隊員がバッグワームとカメレオンを切り替えつつ那須隊への奇襲!それを察知した熊谷隊員が迎え撃ちますが、相討ちになります。崩れた那須隊へ攻めかかる2部隊!……と見せかけて諏訪隊のショットガンが香取隊の側面へ炸裂!
味方の盾になった三浦隊員が大ダメージを負い、トリオン漏出で緊急脱出!』

『あれは諏訪さんらしいフェイントでしたね……完全に那須隊を狙うと思った』
『3部隊とも1枚ずつ駒を失って、現在諏訪隊が2点獲ってリード!諏訪隊長の試合運びがハマったと言っていいでしょう!さて、上位の試合が終わったということで、総合得点を見てみると…」

遥ちゃんが再びモニターに得点が記載された順位表を映し出す。
『現在暫定7位の弓場隊が30点なので上位入りのボーダーラインは31点ということになります!』


横で村上君が椅子の背に持たれ、上を見上げる。
村上君の所属する鈴鳴第一は中位残留のようだ。


『ここまでの得点を加えた各部隊の総得点は諏訪隊が28点、香取隊・那須隊が27点。どの部隊も上位グループに入るには「生存点を獲れるかどうか」がかなり大きいといったところ。さぁ試合は再び三つ巴の削り合い。しかし部隊の盾はもういない!ここからは一気に試合が決まる可能性が…あっ』


遥ちゃんがおもわず声を上げた。
モニター上で茜ちゃんが下から諏訪さんを狙って狙撃をした。先ほどからよく見る攻撃パターンだ。


『再び日浦隊員の狙撃!武器を切り替えて相手のシールドを割っていく!』
『この日浦隊員の狙撃があるので、他の部隊は両攻撃フルアタックを使いにくいですね』
村上君の言うとおり、2部隊はそのせいで攻めかねているようだ。


『防御に手と意識を使わせることで特に諏訪隊の爆発力を封じている。この地形で下から射線を通すとなると
どうしても上から見つかりやすくなってしまうので、今の日浦はいつもとは逆に「狙撃手の存在をアピールする」戦い方をしていますね』
『「転送位置が悪かった場合」の戦術も用意していたわけですね!』
奈良坂君の話に遥ちゃんが頷きながら話す。


『こうなると諏訪隊と香取隊は狙撃の射線を切れるルートを通りたくなりますが……』
『そのルートには那須隊長の「鳥籠」が待っている』
奈良坂君と村上君が話したように、玲ちゃん
が変化弾を巧みに使って敵部隊を攻撃する。
玲ちゃんは姿を隠しながらも攻撃できるので、かなり有利だ。
茜ちゃんと玲ちゃんのコンビネーションはかなりいい。


『気になるのは香取隊の香取隊長ですね、今日は試合開始からいつものキレがないように思います』
私はそう話す。香取隊がなかなか得点を挙げれていないのはこのためだろう。
いつもなら単身攻め込んでいくこともあるのに、若村君が隣にいる状態が続いている。


『アウトレンジの戦いに徹する那須隊長を西へ押していく諏訪隊と香取隊!諏訪隊はやや南から回り込む動きか?』
『香取隊を警戒してるのかもしれないですね』
村上も香取の強さは良く知っている。今から攻撃を仕掛けてくる可能性もあるとみているのだろう。
玲ちゃんの変化弾が香取隊を襲う。
香取ちゃんと若村君はシールドを張って防御するが、その後ろで大きな爆発が行った。


『あーーーーっと!若村隊員緊急脱出!これは……炸裂弾メテオラでしょうか!?』
『退がりながら仕掛けていた。置き弾の炸裂弾ですね』
奈良坂君が答える。

『置き弾はある程度距離が離れてしまうと操作や発射が出来なくなりますが、他の弾丸やワイヤーを使えば離れていても起爆が可能です』
私が続けて説明する。


『日浦隊員の細かい狙撃は置き弾から意識を逸らす狙いもあったわけですね』
村上君の話になるほど、と横でうなずく。


『さあ若村隊員が落とされて残るは5人の最終戦!諏訪隊はかたまって2人。那須隊は離れて2人の位置取りをキープ!独りになった香取隊長は突破口を見つけられるか!?』

『香取隊長と那須隊長、諏訪隊がどっちを狙うかで展開が変わって来そうですね』
村上君が考えながら話す。


『諏訪隊の動きとしては先に狙撃手を押さえに行くという手も考えられますが……』

『日浦隊員がかなり低い位置にいるので今回は手を出しづらいですね。諏訪隊が低い位置に下りすぎると、那須隊長に射撃で上を取られる形になります』

遥ちゃんの振りに村上君が答える。


『日浦隊員はそれも読んだ上で今回はあえて上には行かずに一番低い位置のままいるんだと思います。中途半端だとすぐに取りに来られますから』
私も続けて話す。


『なるほど』

『諏訪隊としては数の有利を活かして上を手早く片付けたいところでしょう。日浦だけが残る形になれば障害物を使って近づける分、上にいる人間がかなり有利になります』
奈良坂君が冷静に分析する。


『諏訪隊が動いた!狙いは香取隊長!香取隊長が正面から迎え撃つ』
香取ちゃんは建物の上から諏訪隊に向かっていく、香取ちゃんが何かを目の前に放ったと思ったら、ワイヤーが起動した。


『!?これは…!?』


解説の3人はじっとモニターを見る。
香取ちゃんはスパイダーを使って身軽に動いていく。
それを見て、確か前に見た記録で玉狛第二と対戦した香取ちゃんが三雲君の張ったワイヤーを使って動いていたことがあったことを思い出した。
不意を突かれた諏訪さんは香取ちゃんに胸をスコーピオンでひと突きされる。
諏訪さんはやられたが、諏訪さんは堤さんにつながっていたワイヤーを切り離していて、堤さんが香取ちゃんに向かって銃弾を放つ。香取ちゃんは足が削られた。


『香取隊長がスパイダー!?諏訪隊長がここで緊急脱出!香取隊長はそのまま那須隊長の方へ。堤隊員もそれを追う。那須隊長は狙撃の援護がもらえる地点で迎え撃つ動きか!?』


玲ちゃんは香取ちゃんに向かって変化弾を放ったが、香取ちゃんはそれをよけて見せて、玲ちゃんへブレードを向ける。
しかし避けたと思っても戻ってくるのが玲ちゃんの変化弾だ。香取ちゃんは後ろからの攻撃に対応する。
香取ちゃんが防御に入ったので玲ちゃんがすかさず次の攻撃を仕掛けようとトリオンキューブを出した時だった。
玲ちゃんの動きが止まる。先ほど見せた香取ちゃんのスパイダーだ。不意を突かれた玲ちゃんを香取ちゃんが切りつけた。
玲ちゃんは緊急脱出する。
そして香取ちゃんに追いついた堤さんが香取ちゃんに向かって攻撃を放った。
香取ちゃんはグラスホッパーを使ってよけようとするが、堤さんの巧みな攻めで被弾する。


『那須隊長に続いて香取隊長も緊急脱出!』
あっという間の戦闘だ。一気に状況が変化していく。
残りは堤さんと茜ちゃんになった。
そして、ここは玲ちゃんが狙撃の援護がもらえるとして選んだ場所だ。
茜ちゃんの狙撃が来るはずだ。堤さんには隠れる時間がない。
それに堤さんには先ほど玲ちゃんが放った変化弾が向かってきていた。
これをどうやってしのぐか。
そう考えていると、堤さんの隣に玲ちゃんが残したであろう置き弾の炸裂弾が目に入った。
玲ちゃんは自分が落ちても大丈夫なように考えていたのだろう。
さて、堤さんはどう対処するか、自分でも結論が出ていないまま画面を見ていると、堤さんはとっさに固定シールドを張った。
確かに、固定シールドと集中シールドで守りに徹すれば致命傷は防げるだろう。
堤さんもベテランだ。とっさの対応力が素晴らしい。
茜ちゃんが狙撃するとともに、堤さんは爆撃によって生じた白煙に包まれる。




その様子を見ながら祈るような気持ちになった。どちらがもちろん勝ってもいい。
けど茜ちゃんは最後なのだ。最後の戦いが悔いのないように終わってほしい。
両手を思わず力強く握ってしまう。



『那須隊長の置き弾が爆発!堤隊員は…!?』
煙が消えて堤さんが見えるようになると、
堤さんの腹部に大きな穴が開いていた。



『堤隊員緊急脱出!ここで試合終了!そして…那須隊に生存点が加算されます!ということは……』
遥ちゃんが話しながらモニターに得点表を表示させる。
そして、B級ランク戦の順位表が出る。



『那須隊は総合7位!初の上位入りが確定しました!』
遥ちゃんの言葉に私は涙が思わずこぼれてしまった。


手元の画面には泣いている茜ちゃんの姿が映ったからだ。
那須隊は茜ちゃんが今シーズンでボーダーをやめると聞いてからずっと頑張ってきた。
それをずっと解説で、訓練室で見てきた。


今も解説をしていて一部隊に肩入れしてはいけないこともわかっている。
わかっているが涙が止まらなかった。
ハンカチを持っていないので、膝の上で握った手に涙が落ちる。
隣の遥ちゃんは私が泣いていることに気付いたようだ。
そっとポケットからハンカチを出してくれた。
マイクに声が入らないように押さえて話しかけてくれる。



「尚美先輩大丈夫ですか?」
「あっ、うん、ごめんね、大丈夫だから……」
気が付けば村上君も奈良坂君もこちらを見ている。
2人とも表情は優しかった。


「ごめん、大丈夫だから」
いまさら泣いていることに恥ずかしくなった。


「いいよ、ゆっくりで」
村上君もマイクを押さえてそういってくれた。
ランク戦が始まる前に4人で雑談したときに、村上君にも今日が茜ちゃんの最後の試合だということを奈良坂君が教えていたので、私の急な涙の理由がわかったのだろう。


「日浦のために泣いてくれてありがとうございます」
奈良坂君にはお礼を言われてしまった。


「奈良坂君の方がさみしい気持ちなのに、ごめん。私は大丈夫だから、遥ちゃん続けて」
弟子の一人がいなくなるさみしさはどれほどだろう。
場が止まってしまっていることに気が付いて、遥ちゃんに続きを促す。


『……というわけで今期の試合がすべて終了しました!解説のお三方はこの試合いかがでしたか?』
『いやいい試合でしたね』
私が答えなくてもいいように、先に村上君が話し始める。



『那須隊のMAPを使った戦術というと個人的にROUND3の「橋と暴風雨」が思い浮かびますが、今回の戦術はROUND3よりはマイルドでその分、柔軟な戦い方を準備してきたのが窺えましたね。最後の堤隊員の防御は2枚のシールドで3つの攻撃を防ぐ、満点の回答だと思ったんですが…』
『堤さんが固定シールドを使って的が動かなくなったことで逆に日浦は急所狙いからトリオン漏出狙いに切り替える余裕が生まれましたね』
奈良坂君が村上君に続いて話す。



『日浦隊員の冷静な判断が最後の最後で勝負を決めたということですね』
『そうですね……よくやったと思います』
奈良坂君のその言葉に私はまた涙が出る思いだった。
この師弟のやり取りはずっと見てきた。
奈良坂君はあまり言葉が多いほうではないので、褒めることも少なかったはずだ。
それでも茜ちゃんはがんばってついて行った。
言葉少なくとも奈良坂君がやさしいことはわかっていただろうし、助けられたことも多かったはずだ。
その奈良坂君が最後にわかりづらいがこうやって人前で茜ちゃんを褒めているのだ、泣かないわけがない。


「っ……」
「えっ……宮木!?」

私がまた泣き出したことに隣の村上君がぎょっとした。
あわてて遥ちゃんが締めにかかる
『……といったところでB級中位ROUND8は終了になります!みなさん最後までお疲れ様でした!』
流石できるオペレーターだ。
助かった、と思いながらハンカチで顔を隠した。

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