「I have a bad feeling about this.」 エイプリルフール
「ね!どう?」
尚美は犬飼の様子がおかしいことに、すぐに気づいた。
様子というより、恰好なのだが……
「……」
二宮隊の隊服はブラックスーツだ。
尚美が敬愛する師匠、二宮がコスプレ感のないもの、という理由で選んだものだ。
動きやすさや機能性を求めてジャージのような形のものを選ぶことが多い他の隊とは異なり、よく服を買うときに店員に言われる「ちょっとしたパーティー」にでも行けるのでは?というようなフォーマルなものである。ボーダー内ではやや浮いていると言える格好もあの3人だから着こなしていたし、今となっては違和感もない。
犬飼も顔が良いだけあって似合っていると、本人には言わないものの、尚美は密かに思っていた。
しかし、目の前の犬飼はそれ以上に悪目立ちしていた。
「え?尚美チャン、無視?」
「……いや、それ、どうしたの?」
スーツが白いのだ。
黒ではなく。白なのだ。
「どうしたって、新しいうちの隊服だよ〜二宮さんが選んだんだよ」
嘘だろうと尚美は思った。
いくらなんでも白は無い。
目の前の犬飼は結婚する新郎か?と言わんばかりの白さだった。
しかし、よくみてみると真っ白ではなく上品なアイボリーで、ネクタイも白く、相変わらずベストは着ていない。
けして安っぽく無い上品な色合いと作りでこれは二宮が選びそうではあると尚美は冷静に分析した。
隊の中には衣替えをしたり、試合によって隊服を変えたりするところもあるから、まぁそんなところかと思い納得した。
犬飼は新しい隊服でどうかな?とくるっと回って見せた。この男は恥ずかしさも無いのだろうか。
「うん、まぁ、良いんじゃない?」
とりあえず犬飼の格好が悪目立ちしているので、当たり障りのないことを言ってこの場から逃げ出したかった。
「似合ってる?」
尚美の近くにきた犬飼の距離の近さに腰がひけた。
「うん、似合ってるんじゃない?」
「カッコいい?」
間髪入れずに聞かれる。
「……まぁ」
犬飼の明るい髪の色と合っていて、見慣れないことからくる違和感はあるものの、変ではなかった。
そう、たとえ悪目立ちする白いスーツでもイケメンが着れば似合うし、カッコいいのだ。
「ん?かっこいい?」
犬飼が答えを濁した尚美に再度聞いてくる。
「……かっこいいと思います」
何を言わせるんだこの男は。
とりあえず犬飼を満足させてさっさと退散しよう、自隊の作戦室に戻ろうと褒め言葉を口にする。
「おい、犬飼」
その時犬飼が呼ばれた。
「はい、なんですか、二宮さん」
「……!!!!」
そこには二宮がいたのだ。
普段と同じブラックスーツに身を包んだ二宮が。
「……え?二宮さん白じゃないんですか?」
思わず尚美は二宮に訊ねる。
「……お前本気で信じたのか?」
顔に手をやって、ため息をつかれた。
「え?え?」
尚美は事態が飲み込めなかった。
二宮に言われて慌てて犬飼をみると、笑いを耐えていた。
「っっ……尚美チャン、信じすぎだよ……」
「なっ……!!」
尚美は騙されていた事にようやく気づいた。
「まさか信じるとは思わなかったが……犬飼、あんまり宮木をいじめてやるなよ」
「はーい」
これは口振りからして二宮も一枚噛んでいるようだ。二宮はそれだけ犬飼に伝えて、すぐに立ち去っていった。
「ひどい!騙したの?」
尚美は師匠に裏切られた事にショックを受け、犬飼につかみかかる。
「だって今日エイプリルフールだよ?」
犬飼は悪びれもせず、あっけらかんと言ってのけた。
「エイプリル……フール……」
4月1日、嘘をついても良い日。
「そ。だから氷見ちゃんに頼んで白の隊服にしてみました〜!」
犬飼は楽しそうにネタばらしをした。
氷見も噛んでたのか。二宮隊、クールそうな見た目で案外こういうイベント事にみんな絡んでくるのか。どんな顔して準備していたのだろう。
「かっこいいって嘘だから!」
尚美は先程の自分の言葉を思い出して、慌てて言う。
「え〜そうなの?」
「そう!もう知らない!当分顔見たくない!」
尚美は騙された悔しさと、してやられた恥ずかしさに顔を背けて、立ち去ろうとする。
「ん?それも嘘だよね?」
「嘘じゃない!」
「えー、かっこいい彼氏のかっこいい姿見れてよかったでしょ?」
犬飼は自信満々に言う。
「……」
「え、何その顔」
「いや、よく自分でかっこいいって言えるなと」
尚美は白い目でみる。
「そりゃ、尚美チャンが好きって言ってくれてますから」
「言ってない!」
「えー好きでしょ?」
犬飼が顔を近づけた。
「ね?」
距離の近さに尚美は赤面する。周りに人がいるし、余計に恥ずかしい。
「……好きです」
「ん」
圧に負けて思わず言ってしまう。犬飼は満足したようににっこり笑って少し距離を戻した。
「今のもエイプリルフールだから」
尚美は気恥ずかしさでつい天邪鬼な事をぽつりと言ってしまう。
「うん、そう言う事にしておくね」
犬飼はその尚美の無駄な足掻きに気づいているのだろう。手をひらひら振って楽しそうに歩いて行った。
尚美は犬飼がいなくなったその場で思う。
あの格好、写真撮っとけばよかったな、なんて。
「ね、二宮さん!明日エイプリルフールだから何かしましょうよ!」
事の発端は犬飼のこの一言だった。
「……なんだ」
二宮は何をくだらない事を言ってるんだと言わんばかりの視線を犬飼に送る。
「え〜せっかく年に一度の嘘をついても良い日ですよ?せっかくだから何かしたくないですか?」
そんな二宮の視線に気付いているのかいないのか、犬飼は話を続ける。
「ほら、真野さんとか騙してみたくないですか?」
犬飼に言われて二宮は彼女の事を思った。いつも笑顔で表情をあまり変える事がない、落ち着いた女性だ。
「後を考えると面倒だからやめておく」
「……ですよね〜」
二宮は依織が悪ノリが大好きと言うことを十二分に理解している。変に刺激を与えて面倒な事になりたくなかった。
「じゃあ、尚美先輩に仕掛けるって事ですか?」
話を聞いていた氷見が言う。氷見と辻は作戦室の掃除をしていたのだ。氷見が箒を持って、辻がちりとりを持ってこちらをみている。掃除をしながら話は聞いていたようだった。
「ん〜そうだね!」
「宮木先輩はすぐに騙されそうですね」
「……」
辻が割と失礼な事を言うが、誰も否定は出来なかった。
「多目にみるが、あまりハメを外しすぎるなよ」
二宮がため息をついて、一応許可する。
自分の可愛い愛弟子の事を思うと多少かわいそうではあるが、犬飼を止める方が骨が折れると考えたからだ。
それにエイプリルフールだからいくら尚美でもすぐに嘘をついているとわかるだろうと二宮は考えた。
「やった!ありがとうございます。氷見ちゃん!ちょっと手伝って」
「はいはい」
犬飼が氷見を連れて部屋を出ていく。氷見のデスクで何やらするようだ。
「……辻、何かあったら知らせてくれ」
「了解です」
「ひどくないですか!どう思います?!」
真野隊の作戦室に戻ってから、尚美は顔を赤くしながら先ほど犬飼にされた事を話す。
ちょうど真野隊の全員が揃っていた。
「……まず何で信じたの?」
ため息をつきながら頼が訊ねる。
「二宮さんならやりかねないかな、と思って」
「……まぁ、そうか」
そう言われてみると頼も何も言えなかった。フォーマルが好きな男だ。やや天然と混じっている男の事を考えると否定できない。
「その犬飼先輩の写真ないんですか?」
カンナが目を輝かせる。
「ないよ!」
「残念見てみたかったな」
「それは……そうだけど」
「うち、今日もう何にも予定ないよね?」
依織がまことに訊ねる
「はい、ないですよ」
早朝に防衛任務が終わってそのままミーティングをして後は各自訓練に行くなり何なりする予定だったのだ。
頼と尚美は狙撃手合同訓練に行く予定にしてある。
「じゃあやろうかな。エイプリルフール」
依織のいつもの無茶振り、悪ノリが始まった。
「え!やっちゃいます?」
「良いですね!誰騙します?」
カンナとまことがすでに前のめりで話を聞く。
「……私たちこれから訓練なんですけど」
「うん、とりあえず私たちで準備しておくから、終わったらここに戻ってきてね」
「……了解」
この部隊の良心、頼と尚美は2人とも居られないことに、若干の不安を覚えながらも、訓練室へと向かうのだった。
隠岐が狙撃手合同訓練を終えて、自分の所属する隊の作戦室に向かっている所だった。
廊下で自分の隊の3人が何やらこそこそと話しているのを見かけたのだ。
「どうしたんすか?なんや3人でこそこそして」
話しかけると3人が3人とも体を揺らして驚いた。
「なっ、なんや隠岐か」
「はい、隠岐ですけど?」
水上が隠岐を見て慌てた顔をする。
「こんなとこで何してん」
「いや、それこっちのセリフですって。何やっとんですか、こんな道の真ん中で」
次は生駒を見ると、すっと視線を逸らされた。
「イコさん?」
「や、オレは何も知らん。何も見てへん」
頑なに目を合わせようとしなかった。
「……海、何があったん?」
こういう時は1番下に聞くに限る。
「オレっすか?」
「そう、オレやオレ。なんなん?3人して」
「それがさっきラウンジ……」
「いや、何も無いで!はよ作戦室行こか!」
海が何か言いそうなところで、水上が海の口を手で覆った。
「……」
ラウンジ。
隠岐はさっとラウンジへ行く道へ足を進める。
「あ、隠岐あかん!」
「あかんよ、隠岐!そっち行ったらあかん」
水上と生駒が慌てて止めるが、隠岐はそのままラウンジを目指す。
またしょーもない事考えてるんやろか。と隠岐は考えながら歩く。
3人は後ろで
「どーする?やばない?」
「え、俺知らんで」
「まぁなんとかなるっしょ!」
と話していたが気づかないフリをした。
ラウンジにつくとすぐに理由がわかった。
「カンナ可愛いじゃん!」
「どう?これウチの新しい隊服なんだよ!」
「良いやん!良いやん!」
紫カンナと同い年で仲のいい仁礼光と自分の隊のオペの細井真織がいた。
そこで話題に上がってるのはカンナの服装だ。
白い隊服なのは変わりないがその露出度がとんでもなかった。
普段ならパーカーのようなダボっとした体の線も出ない、露出の少ないタイプなのだが、今の格好はパーカーはパーカーでもノースリーブで、しかも胸元はかなり開いており、これは屈むと見えそうなギリギリのラインだ。
パンツは普段であれば長ズボンだが、ショートパンツになっており、足がかなり出ている。
隠岐は立ち止まって、現状を確認していて思った。
え、やばない?
何故か生駒の口癖が移った。
「へー、誰のデザイン?」
「もちろんウチの隊長に決まってるじゃん!」
諏訪隊の小佐野もきて、珍しくラウンジの一角が華やかだ。
え、隊長?あの人が?嘘やろ?
二宮さん許可したん?絶対許可出さんやろ。
隊服って事はチームみんな多少なり違うけどそれ着るんやろ?
隠岐の脳内がとんでもなく回転し続ける間に、新しい人たちがラウンジに現れ、周りがざわつく。
カンナの隊の面々だ。オペの子はともかく、他の3人は予想していた通り、カンナと大差ない露出の服を着ている。
え、犬飼先輩も許可出したん?まだ見てへんの?絶対怒られるやろ。
4人が揃って新しい隊服でいるところを見て、隠岐はなんとも言えない気持ちになった。
たしかに、可愛いんやけどな……
周りの隊員たちがちらちらと見て話している。ケータイで写真を撮ってる者もいた。
何か面白くない。これじゃいつもと逆だ。
「あれ、隠岐君?」
カンナのところの隊長に気づかれた。
「あ、オッキー」
カンナも気づいたようでこっちにくる。
「どう?これ」
カンナは楽しそうに、隠岐の目の前でくるりと回った。
本人はこの隊服を気に入っているようだ。
「……衣替えはまだ早いんとちゃう?」
「え?別に寒くないよ」
湾曲して伝えたが、上手く伝わらなかった。
カンナは少し、いやかなり察しが悪い。
「それはちょっと許されへん、元に戻してもらって」
「……!」
今度はストレートに伝えた。
カンナは黙ってこちらを見つめる。
「ちょっと露出高すぎ。あかんよそれは」
ゆっくり言い聞かせる。
「似合っとるんやけど、それを普段着るんはあかん」
カンナはそう言われると思わなかったのか、俯いた。
「よその男に見せるんはあかん、許されん」
肌が出ている肩に手をやって覗き込む。
近くで見ると、肌色がなんというか。
なんとも言えない気分になるのを誤魔化して、何とかしてやめさせようと話していると。
「……オッキー、引っかかったね!」
「は?」
今何言うた?
彼女はそう言って喜色満面でこちらを見ていた。
隠岐は彼女が発した言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
「隠岐!お前!」
「あかんやろ!いくらカンナちゃん可愛いからって引っかかったら」
「隠岐先輩〜今日なんの日か知ってます?」
うしろから生駒隊の3人が、やいやい言ってきた。
今日……なんの……日……
隠岐は考えた。
4月1日……エイプリルフールや……
それに気づいて、隠岐は床に崩れ落ちそうな気分だった。
「オッキー!嬉しい〜!上手くいくとは思わなかった!」
「俺らの作戦勝ちやな!」
「いや〜隠岐なら気づくかなぁ思ててんけどなぁ」
「やりましたね!カンナ先輩!」
「イコさん、水上先輩、海君ありがとう!これでいつもの仕返しができた〜」
「良かったなぁ、カンナちゃん、隠岐絶対やきもち焼いてたで!」
4人でわいわい楽しそうにしている。
仲良しか。チームメイト裏切ってなにやってるんや、アンタらは。
隠岐は3人をジト目で見る。
「アンタ……ほんまに引っかかったな」
真織もやってきた。
こいつもグルやったか、と気づく。
隣にいた仁礼は
「え?エイプリルフール?気づかなかった!ハハ!」と笑っていた。
ハメられた。
え?そんならカンナの隊のメンバーもグルなん?凝りすぎちゃう?
と隠岐はちらりと向こうを見た。
「あ、みんなはみんなで騙す相手がいるんだよ〜」
カンナが隠岐の考えてる事を言い当てる。
「なるほど、降参やわ……」
隠岐は手をあげてそう言ったのだった。
あとで、生駒隊のメンバーは覚えとけよ、と思いながら。
二宮隊でミーティングをした後に久しぶりにラウンジでみんなで昼ごはんを食べる事になり、犬飼はラウンジに向かっていた。
ラウンジまでの道はいつもより人が多く、学生は春休みだからみんな来てるんだと考えた。
犬飼は朝一に自分がしたエイプリルフールに引っかかってくれた彼女のことを思い出して内心機嫌良く歩いていた。
先ほどから携帯が何度も鳴っており、あまりにも回数が多いので携帯を取り出す。
電話ではないからグループチャットの方かと見てみると、同い年の男達でつくったトーク画面が次々と動いていた。
犬飼は何だろうと文面を読む。
――真野隊隊服変わったな――
――良いよな、あの露出の多さ――
――さっき見たよ、みんな可愛いね――
――春だな――
――光が写真送ってきた――
――ゾエさんもみたよ〜可愛いよね――
――俺はさっき太一に見せてもらった――
――おいおい、これはダメなんじゃないの〜?犬飼見たか?――
――1人既読ついてないから見てないんじゃない?――
――これ見たらやばくねぇか?――
――とりあえず写真あげとくわ――
――水上お前、すげえな――
――犬飼、待ち受けにしたらええわ――
珍しく全員が参加してるようで、一人会話に入っていない犬飼は水上が送ってきた写真を見て目を剥いた。
これは、なに?
そこにはいつもの隊服ではない、似たデザインだが、かなりの露出のある服をきた自分の彼女が写っていた。
――え、なにこれ、合成?――
犬飼は冷静に訊ねる。
――んなわけないやろ!本物や!――
――いくらエイプリルフールだからって俺らがそんなことするわけないだろ――
水上と荒船に言われて、さらに混乱した。
――え、これ本物なの?――
そう返すと、村上と影浦から写真が送られてきた。
――太一から――
――吠え面かきやがれ――
際ほどの水上のものとは異なる写真だが、どれも自分の彼女が写っており、それぞれ彼女の隊の他のメンバーも写っていて、みんな同じような格好で写っていた。
「二宮さーん」
犬飼は迷わず二宮に話しかける。
「なんだ」
「これ見てくださいよ」
二宮に先ほどから送られてくる画像の一つを見せた。
「……」
それを見た二宮は黙ったままだが、不機嫌さを隠せていなかった。
「お前、何やらかした」
「えー、おれですか?」
犬飼は心外だなぁと笑う。
「……朝イチのあれの仕返しじゃないのか?」
「それで、みんなでこうなります?」
「依織の悪ノリだろう」
「なるほど」
流石二宮さん彼女の事よくわかってる。犬飼はそう思いながら携帯を見る。
「どーします?ラウンジにいるらしいですよ」
そう言いながら、ちょうどラウンジに着いたところだ。やはり人が多い。
「……あそこだな」
二宮はつかつか一人で歩いて行った。
それを3人で追いかける。
どうやら二宮はスルーせずに動く事にしたらしい。自分の彼女の事になると途端に感情で動くタイプだ。
「何があったんですか?」
辻に聞かれる。
「まぁ、見に行ったらわかるよ」
辻ちゃんには刺激強いかもしれないけど。と犬飼は内心思うが口に出さない事にした。
二宮について歩いていくと、ラウンジの一角に視線が集中しているところがあった。そこを目指していくと、犬飼の探していた人物はいた。
真野隊の5人が揃ってテーブルに座っており、談笑している。
普段は作戦室にいるのに珍しい。
たとえコレが自分への仕返しだとしても、釣りだとしても、何とかしたかった。
「なんだこれは」
二宮が依織に声をかける。その声がいつも以上に冷たく感じられた。真野隊の視線が二宮に行く。
「あ、匡貴。どうしたの?」
「どうしたのじゃない、なんて格好してる」
依織はいつものように余裕そうに返す。
二宮の絶対零度の表情なんてびくともしてなさそうだ。
「なんて格好だなんて失礼な。うちの新しい隊服だよ」
「お前は、もう少し年相応の格好を……」
「……」
「うわー、二宮さんそれ言っちゃダメなやつ」
女性の地雷を踏み抜く言い方だ。
現に依織は黙って二宮を見ている。
「ん?私が似合ってない?」
「ああ、似合ってないな」
二宮がキッパリという。
「すぐに元に戻せ」
「そもそもうちの可愛い子をいじめるからこうなったんだよ?」
「それとこれとは話は別だ。お前がその格好をする理由にはならない」
「私がどんな格好をしようと私の自由だと思うけど?」
二宮と依織は口論を始めてしまった。こうなると長くなる。
「まぁまぁ、2人とも落ち着いて」
そこに頼が止めにはいる。
犬飼は隊長2人は頼に任せる事にして、自分の彼女の方に行くことにした。
「尚美チャン」
「はっはい!」
犬飼に呼ばれて尚美はびくっと肩を揺らす。
「可愛いね〜それどうしたの?」
「えっと、真野隊の新しいユニフォームです……」
尚美は隣の席にいるカンナとまことに背中を押されるようにそう話した。
「みんなすごく素敵だけど、おれは前のが良かったかな〜」
犬飼は尚美をじっと見つめて、むき出しになった肩をするっと撫でた。
「……!!」
近くにあった椅子を適当に掴み、目の前に持ってきて座る。膝同士が触れる距離だ。
尚美の顔は真っ赤になっている。元々こんな露出を好むタイプではない。隊のみんなに押されて同じ格好をしたんだろうが、恥ずかしさがあったようだ。
「尚美先輩負けちゃダメです!」
「ギャフンと言わせるんじゃないんですか?!」
尚美の横でまこととカンナが小声で言うが、尚美は既に戦意喪失しかかっている。
「私がどんな格好しようと、犬飼君には関係ない」
尚美はキッと犬飼を見つめてそう言う。
本人は勇気を振り絞って言ったようだが、犬飼には逆効果だった。
「……!!」
「こういうことされても文句言えないけど、いいの?」
犬飼はあらわになっている尚美の太ももを手の甲で撫でた。内腿に沿わせるようにすれば、尚美は限界だったのだろう。立ち上がった。
「もっ!無理!!!」
それだけ言うと、走ってラウンジから出て行ってしまった。
「あらら〜行っちゃったね。おれも追いかけるから行くね」
犬飼はそうカンナとまことに言って、笑いながら尚美の後を歩いて行くことにする。
このままでは終わらせないし、逃す気もなかった。
自分のしたことは棚に上げて、今日のお仕置きをしなければならないからだ。
「犬飼先輩恐ろしい……」
「すごい顔してたね」
カンナとまことは顔を見合わせる。
「尚美先輩あれには勝てないわ……」
「無理無理」
「というか、今から大丈夫かな」
まことは尚美が部屋に戻って立て篭もるつもりでも犬飼にゴリ押しされて最終的には部屋に入れてしまうところまで先が読めてしまった。
「先輩……明日来るの無理じゃない?」
「……無理だわ」
犬飼のあの表情を見てしまってはカンナも何も言えなかった。
普段は人当たりの良さそうな顔だけしている犬飼が見せた、男の顔。
こちらまでドキドキしてしまった。
とりあえず尚美が明日無事であることを祈るだけである。
しかし、翌日尚美の部屋の扉が開くことは夕方までなかった。
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