「I have a bad feeling about this.」
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合コンの話

注)未来軸捏造しています。



「宮木さん、一緒に夜ご飯行かない?」
そう言われて、尚美は喜んでOKをした。
大学の研究室に所属することになってから新しい友達が増えたが、その子達からのはじめてのご飯のお誘いに尚美は嬉しくなった。誘ってもらえたって事は、仲良くなりたいと思ってくれてるって事だよね、と。
普段ボーダーの仕事もある尚美は研究室を途中で抜けることも多い。その度に実験を周りの子にお願いする事になるのだが、少し肩身の狭い思いをしていた。ボーダーで仕方ないとは言え、まだあまり仲良く無い子にお願いするのは気が引けていたのだ。
他にも女の子がいる中で自分を誘ってくれたのだから、これを機にもっと仲良くなれたらいいなと思い是非とも参加したかった。
今日はボーダーの仕事は無いし、夜は空いている。尚美はボーダー本部基地の居住区に部屋があるため普段は晩御飯を同じ居住区に住んでいる依織やまことと食べることが多いので忘れずに2人に連絡をしておく。
――今日は晩御飯を外で食べてくるので2人で食べてください――
そしてもう1人連絡をする事にした。
――大学の女友達と飲み会に行ってくるね――
大学生になってからと言うもの、報連相をこまめに行うように犬飼にしつこく言われているのだ。
同じ大学生だが、学部が違うと高校生とは違い行動パターンも変わってくる。前より一緒にいる事は少なくなった。
向こうもボーダー関係では無い大学の友人が出来たようで時々その人達と一緒にいるのを見かける。犬飼は女性が比較的少ないとされる学部に進学したにも関わらず、女性数人と一緒にいることもあり、女性人気は健在のようだ。むしろ上がったのでは無いだろうか。
ちなみに尚美は一般的に女性が多いとされている学部に進学した。
犬飼からの返信が来ていて、見てみると
――あまり遅くならないようにね――
と書いてあった。
飲み会等を嫌がるタイプでは無いのでいつもこんな感じだ。ただし、男の人が参加していると少し嫌がる。
研究室が終わり、誘われた友達含め5人で居酒屋まで移動する。コース料理を予約していると言っていて、メニューはあらかじめチェック済み。美味しそうだと楽しみにしていた。
「宮木さん、普段はなかなか捕まらないから、今日来てくれて嬉しいな〜」
誘ってくれた女の子にそう言われる。
「こちらこそ誘ってくれてありがと」
「ボーダーに所属してるんだよね?」
そう聞く女の子はいつも隣の席の子だ。
「うん、そうなんだ。いつも途中で抜けたりしてごめんね。代わりにやってくれて本当に助かってる、ありがとう」
ここらへんはなあなあにせず、しっかり謝ってお礼を言っておく事にする。
「ううん!仕方ないじゃん、こちらこそいつも守ってくれてありがとうだよ〜。この大学、三門にあるから学費安くて親も大助かりだし」
隣の子は結構あっさりしてて感じのいい子だ。ボーダーで途中から研究室に来た時も笑顔で迎えてくれて、実験の途中経過もちゃんと教えてくれる。
ちなみに三門市立大学はボーダーのお金が入っていることもあり、学費が安いことで有名だ。
「一人暮らしするにしても部屋もすごい安いよね、三門市って」
そう話す子は県外から進学して来た子であまりボーダーのことは詳しくない。よくボーダーのことを聞いてくる。
「今日こそ彼氏つくるぞー!どこの学部だっけ?」
そう一番端で言う派手目な子に尚美は疑問を持った。
彼氏?学部?
「今日は社学!友達と同じサークルの子に紹介してもらったんだよ」
尚美を誘ってくれた子がそう答える。
それを聞いて尚美はもしやと思ったが、もう店の前まで来ており、他の子はさっさと店に入ってしまった。
聞くタイミングを逃した尚美はこれはやばいやつではと思いながら結局店に入ってしまう。
「お待たせ〜」
そう言って入っていく子達の後ろをついて通された部屋に入ると、すでに見知らぬ男の人が5人。自分たちもちょうど5人。そうなるとやはりこれは
「合コン……」
「あれ?宮木さん知らなかったの?」
隣の席の子にそう言われる
「うん、今知ったかな……」
どうやら他の4人は知っていたらしい。
しかし合コンとなるとまずかった。犬飼に知られたらタダでは済まない。
せっかく誘ってもらってなんだが、断って帰ろうと思い、最初に誘ってくれた子に声をかける。
「ね、ごめん。私合コンはちょっと……」
「宮木さん合コン苦手なタイプ?!ごめん知らなかった!」
苦手でもあるけど、参加してるのがバレたら彼氏が怖いんですとは言えず言葉を濁す。
「けど、人数減ると向こうも困るだろうし、今回だけ!ね!お願い!」
手を合わて頼まれる。そうなると断りにくい。今後の研究室での付き合いもある。
「う、うん、じゃあ今回だけ」
自分の押しの弱さに嫌になりながらも、まあバレなかったら大丈夫だろうと考える。
その考えが甘かったと思うのはすべて終わった後である。

「じゃあかんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
始まった合コン。向かいに座る男の子たちはみんなまぁかっこいい部類に入るのだろう。
社会学部は華やかな学部と噂に聞いていたが、確かにみんな社交的で明るそうな男のばかりだ。確かボーダーでは王子がそこの学部だったはず。
次々に自己紹介をしてもらったが、尚美は一人も名前を覚えられずにいた。前のめりにあれやこれやと話してくれているが、なんか尚美とはズレを感じていた。
正直いつもボーダーで頼りになる、頭も切れる、戦闘能力も高い、尚且つイケメンな隊員達を見ていると、なんだかな〜と思うのだ。
「宮木尚美です。よろしくお願いします」
尚美はそれだけ言って自己紹介を終えようとした。
「あっ、この子ボーダーの子だよ!」
幹事であろう尚美を誘った女の子が横から付け加える。
「え!ボーダーなの!?」
「すごいね〜何しているの?綾辻さんみたいにオペレーター?」
「今日は任務入ってないの?」
男の子達にいろいろ聞かれる。やはり大学でも嵐山隊の知名度は抜群だ。
「今日は任務はないよ、まぁそんな感じ」
詳しく言ってもあれなので、笑ってごまかす。これ以上聞いてくれるな。
その後席替えをして、尚美は1番端の席に座ることが出来たが、隣の男の人が厄介だった。
「宮木さん、よろしくね」
「よろしくお願いします」
距離がなんとなく近いのだ。パーソナルスペースに入って来そうな勢いに尚美は少し引いてしまう。
「ボーダーに所属してるんだって?すごいね」
「そうかな?ありがとう」
何がすごいのかわからないけど、イメージが大事なので笑ってお礼を言う。
「ボーダーに所属してて、大学生もしてて尊敬するよ。流石にサークルは入ってないの?」
「う、うん、そんな暇がなくって。講義終わったらすぐに基地に行くし」
サークルに入るという考えがそもそもなかった。高校でも部活には入っていなかったし。
それに犬飼にきつく言われていたのだ。
「過去問につられて訳の分からないサークルにだけは入らないで。誘われてもついていかない、断る。困ったらおれに必ず連絡して」と
「おれ、バスケサークルなんだけど、どう?」
「どう、とは?」
「せっかくだからサークル入らない?」
尚美は運動がほぼできない。バスケなんて学校の体育以外でしたことがない。
ザキさんやくまちゃんがやっているのを見たことはあるが。
「いや、入っても参加できないし」
「そんな子たくさんいるよ、行けるときだけでいいし楽だよ」
「うーん、、、」
何故サークルの勧誘をされているのか。
尚美はどうしようかと困る。何とかして断りたい。
すると尚美の携帯がメッセージを受信した。ちらっとみると犬飼からだ。
――防衛任務終わったよ。何時ごろになる?迎えに行くよ――
尚美は冷や汗が出た。
流石に店に来られたら合コンだということがばれる。これは良くない。
――お疲れ様。お迎えは良いよ何時になるか分からないから――
尚美は素早く返信する。
「どうしたの?友達?」
隣の男の人が携帯を覗くように聞いてくる。
「まぁそんなところ」
携帯を隠すようにしながらなんとなく彼氏とは言いづらくてごまかす。彼氏がいるのに合コンにいるのもどうかと思ったのだ。
すぐに携帯が揺れる。
――まさかとは思うけど、飲み会男はいないよね?――
そのまさかです、とは言えず。返信に戸惑う。既読になっていることは相手にばれているので、早く返さないと。
「サークルの事考えてくれる?返事は今度でいいから。とりあえず連絡先交換しよ?」
隣の男の人にそういわれて混乱する。今犬飼への返信を考えるのに忙しい。少し待っていてほしい。
「えっ、いや、その」
どっちつかずになってしまい、あわてているとまた携帯が震えた。
――男いるんだね。すぐに迎えに行くから、場所教えて――
ばれている。何故ばれた。
尚美は冷や汗をかいた。
そして画面を開きっぱなしなので既読をつけてしまっている。何か返信しないと。
――本当に迎えは要らないです――
お店さえ教えなければ大丈夫だ。きっぱり断って携帯を置く。
「ね、連絡先教えてくれる?」
隣の男の人に聞かれて思い出す。そういえばそんな事言われていた。
「あ、えっと」
わからないとは思うが、合コンに行ってしかも男の人と連絡先を交換したことが犬飼にバレたら終わる。何かがとは言わないが終わる。尚美はそう思った。
「宮木さんともう少しお近づきになりたいな〜」
そう言って尚美の手を取ってきた。本当に距離が近い。
振り払うのも感じ悪くなるし、どうしようか。
そう思ったら今度は電話が鳴った。
助かった。
「ごめん、電話出るね」
手をさりげなく解いて携帯を取る。誰かはわからないが電話ありがとう。そう思って電話を取る。
このまま急用ができたと言って帰ってしまうのも良いかもしれない。
「はいもしもし」
――ねぇ、本当に男いないの?――
犬飼だ。
画面を見ずに取ったことを後悔した。まさか電話までかけてくるとは。
「えっと……」
嘘はつけないので誤魔化す。
「もう帰るから、本当に大丈夫……」
「え?もう帰っちゃうの?」
隣の男の人が尚美にそう声をかけた。
「……」
――…………ふぅん……――
これは犬飼に聞かれてしまった。
尚美は焦る。バレてしまった。終わった。
「えっ、あのね、これは……」
――場所――
「……」
――このまま黙ったままだと、後で酷い目にあうよ。先に言っておくね。おれ何するかわかんないよ〜――
「大学の南にある、チェーン店です」
尚美は大人しく伝える事にする。
犬飼からの電話が切れて、尚美はため息をつく。
「友達?おれ悪いことしちゃった?」
隣の男がヘラッと笑ったのを見て尚美は少し腹が立った。
あなたが!電話中に!しゃべるから!
「ううん、大丈夫〜」
本音は言えず、へらりと笑う。
本部基地からここまで普通に歩いて30分くらいかかる。10分前になったら店の前にいとけばいいかと尚美は算段して、最悪のパターンを回避しようとする。
しかしそれが間違いだった。
「尚美チャーン、ここにいるんでしょ〜」
なんと犬飼は5分できた。
しかも、見慣れたスーツ姿で。
換装して屋根伝いに来たのだろう。
尚美は瞬時に理解した。
隣の男の人も急に現れたスーツの男にびっくりしていた。
「えっと、宮木さんの事だよね……??」
「はい……」
ああ、もうどうにでもなれ。
「あ、いたいた〜尚美チャン。帰るよ」
犬飼はすぐに尚美を見つけると腕を引っ張り上げて立たせる。
「は、早かったね……」
「連絡した時、まだ終わったばっかりで担当地区にいたんだ。二宮さんには了解もらってるよ」
「なるほど……」
それで早かったのか。
「今からボーダーの仕事?大変だね」
会話の内容からそう考えたんだろう。隣の男の人が尚美に声をかける。
「う、うん」
「そんなわけないじゃん、今から連れて帰んの。聞かないでもらえる?」
尚美の答えを遮る様に、犬飼の冷たい声がした。
「宮木さん彼氏いたんだね」
そこで、幹事の女の子に声をかけられる。
犬飼の登場にみんながこちらを見ていたのだ。犬飼は良くも悪くも人目を引く。顔もいいし、今はかっちり決まったスーツだ。イケメン度が上がって見えるに違いない。
「あ、尚美チャンの友達?初めまして。彼氏の犬飼です」
持ち前の人当たりの良さで女の子にはにこりと笑って挨拶する。
「あ、初めまして……ごめんなさい。宮木さんに彼氏いるとは知らなくって」
そう尚美のフォローをしてくれた。
非常に助かる。この一言でこの先の尚美の運命が変わると言っても過言ではない。
「そうなんだ。今度からはこういうお誘いはやめてもらえると嬉しいかな〜」
そう言いながら犬飼は尚美の肩を抱く。見せつけているかの様だ。
「あっ、はい……」
幹事の子は少し頬を赤らめた。
「そういうわけだから、諦めて」
犬飼は恐ろしいほど低い声で男の人に牽制した。切り替えの速さに我が彼氏ながら怖い。
「それじゃ、彼女がお世話になりました〜」
女の子達にはにっこり笑顔で手を振る犬飼。
「あ、ごめんね、また研究室でね!」
尚美は犬飼に連れられて歩いてる途中で友達に声をかける。いつも隣の席の女の子には手を合わせてごめんね、のポーズを取られた。どうやら彼女は状況が読めたらしい。
「嘘ついて誘ってごめんね!」
そう言う彼女が天使に見えた。これで犬飼も少しは考えてくれるはず。

犬飼と二人、お店を出て歩く。犬飼はスーツから換装を解いて私服になっている。
これから基地に送って行ってくれるのだろうか。犬飼は実家暮らしだ。連れて帰ると先ほど言ったのは咄嗟についた嘘なのだろう。隣を歩く犬飼の表情が読めず聞けずにいた。
チラチラと尚美が様子を伺っているのは気づいているはずなのに、犬飼は前だけ見て歩く。尚美のことはお構いなしだ。ただ、肩だけは抱いたまま。

尚美は犬飼の様子を伺う事に気を取られて、気がつけばとんでもない場所に入り込んでいる事になかなか気がつけなかった。
大通りを少し外れた道に来ていて、ふと犬飼が立ち止まった。
少しおしゃれなアパートのような作りの建物だが、看板が見える。
休憩90分4070円〜
ラブホテルというやつである。
「え……」
尚美が戸惑うより早く犬飼は中に入っていく。
フロントには誰も人はおらず、犬飼は慣れた手つきで部屋を選択しようとする。
「ちょっと待って」
尚美はとっさにボタンを押す前の手をつかんで止める。
「なに?」
ようやく犬飼は言葉を発した。
「何って……帰らないの?」
「このまま帰すと思った?」
横からようやく表情が見えたが、見て後悔した。
とてつもなく怒っているのがわかったからである。
いつものへらっとした笑いはない。ただ怖い。
「まさか彼氏がいるのに合コンに行くとはね」
犬飼は尚美の肩を抱きながら部屋のボタンを押す。
「どうせ、押し切られて参加したんだろうけどさ」
鍵が出てきて片手でそれを取る。尚美は見ているだけだった。
「研究室の子に彼氏がいるとも言っていなかったんだ?」
肩を抱かれてエレベーターの前まで歩く。
「尚美はさ、押しに弱いんだから気を付けないと」
エレベーターのボタンを押すとすぐに扉が開かれた。
中に入り、犬飼は3階のボタンを押す。
「あのままおれが来なかったらどうなってたかわからないよ?」
エレベーターが3階に到着して扉が開く。
「当分飲み会は禁止」
部屋の鍵を開け、扉を開けた。
「今から尚美がどれだけ反省しているか見せてもらおうかな?」
「はい……すみませんでした」
尚美はそれだけ言って部屋に入るのである。

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