「I have a bad feeling about this.」 花束の話
昔から私は花が好きだ。小さい頃は父に連れられて、よく花を買いに花屋に行っていた。何かお祝い事がある時にいつも父は花を買っていたのだ。
それに父が仕事帰りに母へのプレゼントとして花束をよく買って帰ってきていたのを覚えている。
玄関で出迎えた母に「綺麗だったから」と小さな花束を渡す父。
それを嬉しそうに受け取って、綺麗に花瓶に飾り付ける母を見て、子供ながらに憧れていた。
私も将来花を貰えるような素敵な恋愛がしたい。花が似合うような綺麗な大人になりたい、と。
ところがどうだ。高校2年生になった今、自分は花を愛でるような可憐な女性にはなっておらず、ボーダーとして街の平和を守っているのだ。可憐とは決して言えない。
スカウトされてボーダーに入隊したが、慣れない土地、慣れない一人暮らしに、しばらくは花屋に行く余裕は無く、半年してようやく一人暮らしにも慣れ、ボーダーでの活動にも慣れ、花屋も見つけることが出来た。
同い年で同じくスカウトで入った細井真織ちゃんは、花が好きという共通点もありすぐに仲良くなった。
真織ちゃんはすぐに辞めてしまったが、隊の作戦室に花を飾ってみたり、フラワーアレンジメントの体験教室に2人で行ってみたりして、三門市での生活も楽しめている。
ただ、花を貰うような素敵な恋愛は未だに出来ていなかった。
ボーダーに所属する男性隊員はみんなカッコいい人ばかりだとは思う。
自分の所属する隊は全員が女性だからあり得ないけど、真織ちゃんの所属する隊は真織ちゃん意外全員が男性で、真織ちゃんは「そんなことない!絶対ない!ありえへん!」って言うけど、ずっと一緒にいたら好きになったりとか、なられたりとかしないのかな、と思う。
生駒さんは強くて頼りになるし、水上先輩は頭がキレて落ち着いてるし、隠岐くんは見ての通りイケメンだし、海君は明るくて人気者だ。
誰をみても素敵な男性なわけで。
ただ「花を贈ってくれそうか」と言えば微妙かもしれない。
今日も暇な時間に自分の隊の作戦室に真織ちゃんを呼んで話しているときに、ボーダー内で花を贈ってくれそうな人は誰か、と言う話になった。
「ウチの隊はなー、ないない!絶対ないわ」
真織ちゃんはばっさりと言った。
「えーなんで?生駒さんとか薔薇の花束持って告白とかしてくれそうだよ?」
生駒さんは好きな人には誠実そうだし、きっとまっすぐな告白をしてくれるはず。
「それ、絶対笑い取りにきてるパターンやわ」
「……そう?」
真織ちゃんには違かったようだ。
その後いろんな人を想像して2人で話していると、横で本を読んでいた尚美先輩が話に入ってきた。
「まことは花束をくれるような人と付き合いたいんだもんね」
「はい!そこは譲れません!」
力強く頷く。
告白は無理かもしれないが、プロポーズのときは花束を是非用意して欲しい。
「尚美先輩はお花もらったことありますか?」
ふと思って聞いてみる。
「え、私??……うん……ある、かな」
尚美先輩は思い出して恥ずかしくなったのだろう、顔を赤くしながら教えてくれた。
このリアクションだと誰が尚美先輩にプレゼントしたのかはバレバレだ。
思わず真織ちゃんと顔を見合わせて、ニヤニヤしてしまう。
「あるんですね!いいないいな!」
「どんなお花ですか?!」
2人でつい盛り上がってしまう。
尚美先輩は歳が一つ上でも、恋愛では大先輩だ。長くお付き合いしている人がいるし、見ててすごく愛されてるとわかる。
「えっと、小さなヒマワリの花束をくれたよ」
尚美先輩はその時の花束をスマホで写真に撮っていたようで見せてくれた。
写真に写っていた花束を見て2人でますます盛り上がる。
「わー!ひまわりや!それもオレンジ入っとる!」
「9本だよ!9本!」
真織ちゃんは花の種類で興奮したし、私は本数で興奮した。
「え、何?なんかあるの?」
尚美先輩はどうやらこの貰った花束の意味を分かってなくって、戸惑っているようだ。
「尚美先輩、ヒマワリの花言葉は「あなただけを見つめてる」って意味なんですよ〜」
真織ちゃんが花言葉を教えてあげた。
「え、あ、そうなの?全然知らなかった。……夏だったから選んだのかと思った」
尚美先輩は少し嬉しそうにしている。
「本数にも意味があって、9本は「いつまでも一緒にいて欲しい」って意味なんです。これいつ貰ったんですか?」
ついつい色々聞きたくなってしまう。
「……付き合って1年の記念日に貰ったんだよ」
ますます憧れる!記念日に花束を貰えるなんて!理想。
ちなみに言わなかったが、オレンジのヒマワリの花言葉は「未来を見つめて」だ。
先輩、このままお付き合い続けてそのうち結婚とかしちゃうのかな。素敵すぎる。
自分にも花束を贈ってくれるような素敵な相手が現れると良いなぁと思う。
「先輩キザやなぁ、まぁ似合うけど」
真織ちゃんも羨ましそうにしている。
「早く私たちも彼氏作ろうね!」
「欲しいけど相手がおらんしなぁ」
私もそう言っては見たが真織ちゃんの言う通り、好きな相手がいないのだ。
彼氏という存在に憧れるが、どうしたら彼氏は出来るのか、そもそも自分の事を好きになってもらえるのか。
恋愛経験が未熟すぎて想像ができなかった。
「尚美先輩〜どうやったら彼氏出来るんですか〜!」
「ウチも素敵な恋したい!!」
「え、そんなこと聞かれても……」
2人で先輩に泣きついても、いい答えは帰って来なかった。
「じゃあどうやって付き合ったんですか?!」
めげずに聞いてみる。尚美先輩は押せばポロッと話してくれるから。
「やっぱあっちから?アタックされたんですか?」
真織ちゃんも尚美先輩の性格はよく知っているので、前のめりで聞いている。
「え……うん、向こうから……かな……」
「ん?なんか賑やかだね」
作戦室の入り口の方から声がした。
今の今まで話題に出ていた人で3人とも驚いてマジマジと見てしまう。
「……え?何々?どうしたの?入ったらまずかった?」
苦笑いしながらこちらにやってくるのは犬飼先輩で、後ろには辻くんも来ていて犬飼先輩の背中越しにこちらを伺っている。
「そっ、そんな事ないよ!」
尚美先輩は慌てて否定するけど、側からみたら何かあったことはバレバレである。
「え〜何話してたの?おれに言えないこと?」
案の定犬飼先輩はニヤニヤしながら尚美先輩に近づいていっている。もちろん犬飼先輩も尚美先輩は押せばなんとかなると思ってるクチだ。
尚美先輩は先程の花束の事もあり、顔を合わせるのが恥ずかしいようで、すこし俯いてる。
「や、別に……そ、そうだ!辻君どうしたの?依織さんに用事?」
尚美先輩は犬飼先輩には勝てないと踏んで、辻君に声をかける。
「はい、今日は稽古つけてもらう約束だったので」
辻くんは尚美先輩には普通に話せる。
ちなみに私はそこそこ。いつも逃げられるか、頑張って顔を真っ赤にさせながら話そうとしてくれる。話せることは話せるけど、いつも顔が赤いのでこちらが申し訳なくなってくるので、あまり話しかけないようにしている。
「依織さんならそのうち来ると思うけど、待つ?」
尚美先輩がそう提案する。
「え、えっと」
辻くんはちらりとこちらを見ながら迷っているようだった。
やっぱり苦手な女の人がいると気まずいのかな?
真織ちゃんもそう思ったようで、立ち上がって帰る準備をしている。
「ほんならウチ、そろそろミーティングあるから帰るわ」
「うん、また話そうね」
ひらひら手を振って見送る。そんな予定は聞いていなかったが、いちいち言うのはマナー違反だ。
「真織ちゃん、また来てね」
尚美先輩も声をかける。
「はい、また」
そう言って、真織ちゃんは作戦室から出て行ってしまった。
「あらら〜気を使わせちゃったかな?」
犬飼先輩は空気を読むのがうまいので真織ちゃんのついた嘘に気がついているのだろう。
「犬飼先輩、辻くん、お茶淹れましょうか」
犬飼先輩はともかく、辻くんは依織さんが待たせているのであれば、おもてなししなければならない。
今日は忍田本部長にもらった羊羹が置いてあるからそれを切って出そう。さっき真織ちゃんにも出したやつだ。
「あ、おれはいいよ〜すぐに行くから」
「そうなんですか?」
犬飼先輩にそう言われて驚く。
大体尚美先輩がいる時は作戦室にしばらくいてあれやこれやと話すことが多いのに。
「うん、尚美チャンちょっと……」
「え、私?え?」
犬飼先輩は尚美先輩の腕を掴むとそのまま作戦室を出て行ってしまった。
尚美先輩は聞かされていなかったようで最後まで抵抗してたけど。
2人がバタバタと出て行ってしまって、作戦室には辻くんと2人きりになってしまった。
辻くんは少し居心地が悪そうに椅子に座っている。
「お茶入れてくるね」
「えっ、あっ、ありがとう……」
辻くんを落ち着かせる意味もあって、お茶を入れに席を立つ。
お茶を入れている時に思い出した。
ここにくる前にコンビニでシュークリームを買っていて冷蔵庫に入っている事を。
確か辻くんはシュークリーム好きだったよなぁと思って、それを出してあげることにする。
「辻くんお待たせ、はいどうぞ〜」
「あ、ありが……と……」
辻くんの前にそっとシュークリームとお茶を出せば、おずおずとお礼を言われる。
姿勢良く座った姿は凛々しいものだけどシュークリームを見て、目が輝いた気がした。
「いただきます」
小声だがこちらにも聞こえるように手を合わせている姿を見て、私も先ほどまで座っていた席に戻る。
自分のデスクに行った方が良いかもと思っていたけど、少し話してみたくなったのだ。
「美味しい?」
口には出さないが、自分が食べようと思って買ったシュークリームだ。味が気になる。
「うん……おいし……よ」
こくんとうなづきながら答えてくれる。
シュークリームを前に先ほどまでの慌てぶりもだいぶ落ち着いてきたようだ。
「そっか、それは良かった」
じっと辻くんが食べてる様子を見る。
食べ方綺麗だよね、所作っていうのかな?それが綺麗だからお父さんお母さんにしっかり躾けられたんだろうなぁ。
そうだ。辻くんに似合う花、なんだろう。
凛々しいから寒色系の花かなぁ。
あ、紫陽花?良いかも。
それとも清廉な白の百合?うーん、やりすぎか。
「あの……さ」
辻くんに話しかけられて、意識をそちらに戻す。
あ、ほっぺにクリームついてる。
「ん?ごめんなに?」
思わずくすくす笑ってしまう。
綺麗な顔立ちなのに、一気にあどけなくなった。これが母性本能をくすぐられるってやつなんだろうか。
「こっ……こっち……みてた?」
「うん、見てたよ。クリーム顔についてる」
トントンとついてるところがわかるように自分の頬で場所を示した。
「え?!……どっどこ?!」
辻くんは慌てて手に顔をやる。
「あっ、待って」
そのまま手をやれば辻くんの手が汚れてしまうと思って、ティッシュを持って立ち上がる。テーブルの向かい側に座っている辻くんのほっぺをそっと拭いてやった。
「……?!?!?!?」
なんの気無しにやった事だが、辻くんの表情を見てしまった、と思った。
距離感を間違えてしまった。辻くんは他の子とは違うのに。
「あ、ごめん!」
真っ赤になった辻くんを見て自分も赤くなる。
同い年の男の子になんてことを!しかも相手は辻くん!何を私は調子に乗って!せっかく慣れてきて貰えてるところだったのに。
「ほんとごめんね……」
申し訳なくて、もう一度謝る。
「や……う……ん、こ、こちらこそ……」
辻くんと2人顔を俯かせてしまった。
「あれ、新之助もうきてたの?」
そこに良いタイミングで依織さんがきてくれた。
「あ、はい!」
辻くんは師匠の登場にばっと顔を上げて答える。
「……なんか邪魔したね、ごめん」
依織さんは私たちの様子を見て何故か謝ってきた。
「なんでですか?!そんなことないです!」
つい勢いよく否定してしまう。こちらは来てくれて助かった思いだ。
「遅くなってごめんね、稽古行こうか」
「はい!」
辻くんは依織さんに言われて嬉しそうに尻尾を振るかのように、行ってしまった。
クリームほっぺについてたの、少し可愛かったな。
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