「I have a bad feeling about this.」
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バブルバブルバブル



負けないと思っていた。正直舐めていた。



相手は銃手だし、いつも二宮さんのフォローに回って点を獲らせる手法が多いことは良く知っていた。

実際にランク戦で戦った時もそうだったはず。
私は二宮さんの弟子で今まで射手として自分でポイントをかなり取ってきた方だ。
そして、A級一位部隊である太刀川隊にいるプライドもあった。


それでも負けた。
4-6で負けた。
接戦だった。
それでも負けは負け。


「じゃあ、おれの勝ちだね。何聞いてもらおうかな〜〜」
「ずるい……」

「ずるい?なんで?ちゃんと最初に言ったよ、個人ランク戦10本して負けた方が勝った方の言うこと1つ聞くって」


ブースから出てきて、私の顔を見る犬飼くんはすごくうれしそうな顔をしていた。
うれしそうというか、にやにやしている。

これは何を言われるんだろうか。
1時間ほど前に安易に約束した自分を呪いたかった。

後悔先に立たず。


「決めた。一緒にお風呂入りたいな」
「へ!?」
「お風呂!明日泊まりに行くからその時にお風呂はいろ、ね?」
「え、無理だよ!」


とんでもないことを言われた。
お風呂だなんて、裸になる場所だ。
裸を見られるなんて無理だし、犬飼くんの裸を見るのだって無理だ。

恥ずかしさで多分卒倒する。

犬飼くんは私の話なんて聞いていないふりで、いろいろと決めていく。
まず泊まりに行くってなんだ。
私の部屋、今まで泊まったこともないだろう。

付き合って3か月ちょっと。
外でデートしたり、ご飯を二人で食べたりするくらいの付き合いしかしてこなかった。
そりゃ少しは恋人らしくキスもしたけど、それ以上の事はしていない。
一気にハードルが上がった気がする。


私の「無理」という言葉には一切リアクションをせず、明日私の部屋に泊まりに来ること、明日は昼間に防衛任務が入っているからそれが終わったらそのまま部屋に行くことだけを言って犬飼くんは二宮隊の作戦室へさっさと戻ってしまった。

私はというと、絶望してその場に立ち尽くしたままだった。










「ど、どうしたらいいと思う?」
数時間後焦った私は携帯を取り出し、いつものメンバーを召喚した。
頼れる同い年4人である。
今ちゃんはちょうど本部に来ていたようで、ラッキーだった。

そして犬飼くんと同じ隊の未来ちゃんは流石に呼べなかった。
きっと板挟みになっちゃうだろうから。



「ふぅ〜ん、ついにヤっちゃうか」
太刀川隊の作戦室で行われているこの緊急会議で、ホームということもあって一番くつろいでいるのは柚宇ちゃんだ。
私が急いでコンビニに行って買ってきたポテトチップス期間限定じゃがバター味をつまんでいる。
私の焦りを全くわかってない。

ヤっちゃうってなんだ。ヤっちゃうって!



「なんでそんなこと言うの!」
「でもさ、一緒にお風呂入るとかそういうことじゃない?」

柚宇ちゃんの隣でキャラメルを食べながら倫ちゃんが言う。


「倫ちゃんまで!やめてよ!」
「彼も3か月よく我慢したわ」

今ちゃんは抹茶味のシュークリームの袋を開けながらため息を吐く。
我慢って!なんであっちの肩を持つの。


「確かに、もっと早く手を出すと思ってた。見直したわ」

摩子ちゃんはチョコバナナクレープをほおばっている。
確かに私も犬飼くんはいろいろ手が早そうだと思っていた。

見ての通りのイケメンだし、当然彼女も今までに沢山いたことがあるだろうから、男女のあれこれの経験も十分にあることは想像できる。


「なんかいい案ない?」
お風呂に入るのは拒否できないとして、少しでも恥ずかしさを紛らわす何かを4人に考えてほしくて集まってもらったのだ。


「うーん、部屋の電気全部消しておくとか?暗くて見えないし」

「電気消しても完全に真っ暗にはならないから作戦としてはいまいちかもね」

「むしろそのままいいムードになってヤられるわ」

「水着着れば?」

「私水着持ってない」

「そもそも今の時期に水着売ってる?もう秋だよ」

「いっそのことトリオン体で入っちゃえ!」


倫ちゃん、今ちゃんと次々に案を出してくれたが、摩子ちゃんの案はふざけているのか?トリオン体って。


「トリオン体で入るってどういうこと?」

「隊服のまま入ったら萎えるかと思って」

太刀川隊のロングコートでお風呂に入っている自分を想像した。
確かに裸は見られないし、いいかもしれない。


「ドン引かれて振られないように気を付けなさい」
「それは嫌だ」

今ちゃんに言われて、この案も慌てて却下する。

「泡風呂したら〜?先に入って後に上がれば裸見られないでしょ?」
「!!」


柚宇ちゃんの案に私は目を見開いた。
それだ!泡で体が隠せるから恥ずかしさが緩和されて、用意もしやすい。
2人で健全に楽しくお風呂が入れそうだ。
完璧だ。


「泡風呂にする!そうする!」
「確かに泡風呂なら違和感もないし、良いかもね」
「ドラッグストアとかで簡単に手に入るし」
 
4人のおかげで何とかなりそうだった。
持つべきものは頼りになるオペの友人。
流石だ。



「あ、あとドラッグストアで一応ゴム買っときなよ〜」
「向こうが用意してると思うけどね」
「確かに、避妊はきちんとしなよ」
「あんた押し切られそうだから心配だわ」


なんで4人が4人ともヤること前提なのかわからない。
私は未知の領域過ぎて明日が来るのが恐ろしいと思った。

お風呂だけじゃないの?


 



「お邪魔しま〜す」
「お疲れさま。どうぞ」

防衛任務を終えた犬飼くんが我が家にやってきた。
本部基地内にある居住スペースの一角に私の部屋はある。

あの後一人でドラッグストアに行って、泡風呂が出来る入浴剤を数点買った。

そして4人に言われた通りゴムも買ってきた。
知り合いに見られたらどうしようかと思って、入浴剤で挟むように籠に入れてレジにすぐに並んだ。

思っていた以上に種類がたくさんあってどれにしたらいいかわからなかったから、とりあえず目についたものを買ってきた。
ちょうちょのやつ。
ベットの近くの引き出しにそっと入れておいたが、使うことがないことを祈る。

入浴剤はすぐに使えるように、お風呂場に置いてある。

お風呂はさっき念入りに洗ったし、バスタオルも着替えもちゃんとセット済み。

下着は実は新調したやつだ。自分の部屋に犬飼君がいるのがすごく不思議な感じがする。

というか、今から何が起こるんだろうかとドキドキしすぎてもう自分でも訳が分からなくなっていた。

落ち着け自分。
そんなすぐにはお風呂に入ろうとはならないはずだ。



「ねぇ、聞いてる?」
 
独りでぐるぐる考え事をしている間にどうやら犬飼くんに話しかけられていたらしい。

二人で部屋の廊下に立ちっぱなしだった。


「え、なに?」
「晩御飯買ってきたから、一緒に食べよって」


犬飼くんの片手には食べ物が入ったビニール袋があった。
 
「あっ、ありがとう」

ビニール袋ごと受け取ってキッチンに向かう。いい匂いがする。
お風呂の事で頭がいっぱいで晩御飯の事を考えるのを忘れていた。
彼女としてそれはどうなんだ。


「どうせ、用意してないだろうと思って」

犬飼くんに言われて少しショックを受けた。
料理期待されてなかったんだなぁ。
まぁ確かに私が忘れてて用意してなかったのが悪いんだけど、言い方ってものがあるだろう。


「…それはごめんね。私あまり料理上手じゃないから」

忘れていたとは言えずにいた。
お風呂の事で頭がいっぱいで忘れていたなんて恥ずかしくて言えなかった。


「料理の腕の事はそんなこと思ってないよ」
犬飼くんは優しい声色で私に聞かせた。


「お母さんに似て料理上手だと思うよ。調理実習でわかってるから。次はご飯作ってくれるとうれしい」
「……」
「きっと今日は別の事で頭がいっぱいで晩御飯の事忘れてるんじゃないかと思ったから」


ドキッとする。
ばれている。
この人にやはり隠し事は無理だ。


「そんなことないよ、食堂で二人で食べようかと思ってたから」
「ふーん?」

にやにやして見られる。

「も、とりあえず、部屋入って待ってて!」
「え〜?手伝わなくていい?」

「いいから!くつろいどいて!」


このままじゃまずいと思って、あわてて犬飼くんをキッチンから追い出した。






ご飯を食べ終えて二人でソファーに座ってテレビを見る。
ご飯の味は正直良くわからなかった。
犬飼くんはいつも通りあれこれと話かけてくれたけど、ちゃんと答えられていたか自信がない。
ちょうどバラエティ番組がやっていたからそれを見る。
テレビの内容はほとんど頭に入ってこなかったけど、部屋が静かになるよりましだった。

普段二人でどうやって話していたっけ。
犬飼くんは普段と変わりないように見える。
彼女の部屋に行くのなんて慣れっこなんだろう。

すると、そっと右手が握られた。
ドキッとして犬飼くんを見ると、こちらを見ていた。


「なんか考え事?」

彼はいつも私の顔を見ると私の考えていることがわかるかのように聞いてくる。
私の右手を彼の左手がギュっと結んで、開いてを繰り返している。

するっと手の甲を撫でられた。

「お風呂、入る?」
耳元でそう言われてドキッとした。
ついに来た。


「え、あっ、そう、だね」
「うん。約束」

目が合うとにっこり笑って言われた。
なんかいつもと様子が違う。
さっきまでとも違う。
付き合って一か月くらいでキスをした時と同じ感じだ。


「お風呂お湯入れてくる」
慌ててソファを立って、犬飼くんの顔を見ずに浴室に向かう。

お湯張りをセットして、スタートのボタンを押す。
これで15分後にはお湯がたまっているはず。
考えないようにしていたが、やはり考えないようにするのは無理な話で。
お風呂にお湯がたまるまでこのまま浴室にいようかとも思った。

あの犬飼くんがいる部屋には戻れそうになかった。
いつもの社交性のある柔らかな雰囲気の犬飼くんと違う、2人きりの時に時々見せるあの表情と雰囲気。

こちらを追い詰めるような、逃げられないと錯覚させられるような、普段は人と一定の距離を保っているように見える犬飼くんがぐっと距離を詰めてくるかのような。
熱のこもった視線と……



「ね、お風呂湧くまでずっとここにいるつもり?」

後ろから声がかかり、びくっと体が揺れてしまった。
何故こんなに私の考えていることがばれてしまうんだろう。


「緊張してるの?」
「そりゃするよ!」

私は間髪入れずに答える。緊張していない犬飼くんがおかしい。
なんでそんな余裕があるんだ。
経験の差か!?


「泊まるのだって急だったし」
「ごめんごめん、でも前から考えてたんだよ」

そうなのか。
前から考えてたのか。
実は犬飼くんの考えていることが私にはさっぱりわからないんだ。
いまだになんで私と付き合ったのかもわからないし。
どこを好きだと思ってくれたのかもわからない。
キスされた時もされるほんのちょっと前までキスするとは全然わからなかった。



「お風呂私が先に入るね」
そうだ、これは言っておかないと、とあわてて伝える。
先に入れなければ私の今回の計画は狂ってしまう。


「ん、りょーかい」
よし、先を取ったらこっちのものだ。


「ボタンで呼ぶから、呼んだら来てね!」
「ははっ、りょーかい」

必死な私を見て犬飼くんは実に楽しそうだ。
犬飼くんをリビングの方に帰して、私は脱衣所で服を脱いで、浴室に入る。

そして、沸かしている途中のお風呂に泡風呂の入浴剤を投入した。

体を洗っている間にしっかりとした泡になってくれるだろう。
もうここまで来たら逃げられない。







身体を洗い終わって、ふわっふわの泡が詰まった泡風呂に入る。
初めて泡風呂に入ったが、なかなか良いものだ。

こんなときじゃなかったら一人ではしゃいでいた事だろう。
呼び出しボタンもさっき押した。
脱衣所にはすでに犬飼くんが来ていて、扉越しに衣服を脱ぐ音が聞こえる。
ドキドキしてきた。
裸の犬飼くんが扉の向こうにいる。

扉があいて、犬飼くんが入ってきたのがわかる。
思わず、顔をうつむかせてそっちを見ないようにした。


「うわ、何考えてるのかと思ったら泡風呂か」
そう声を掛けられた。
犬飼くんはちっとも恥ずかしくなさそうだ。


「うん。たまにはいいかなと思って」
「ふ〜ん。ね、シャンプーこれ?」

聞かれて、咄嗟にそちらを見る。


「うん……っ!!」

見て後悔した。
洗い場の椅子に座っている犬飼くんの上半身が見えてしまったのだ。
細身だけど、うっすら筋肉がついたきれいな体。
そりゃ堂々とお風呂に誘えるよね。
そんなにいい身体してたら文句なしだもん。
それに比べて、と自分の体をちらりと見る。
私なんてお腹も出てるし、肌もあまりきれいではない。
犬飼くんとの差に少し凹んだ。


「あ〜この匂いか。いつもしてるの」

頭を洗いながら声をかけてくる。

匂いって何、いつもって何。


自分の匂いを知られているのが恥ずかしくなる。

そんなに近くにいたっけ?
汗臭いとか無いように今後は気を付けないと、とかぐるぐるいろいろ考えていたら、犬飼くんも体を洗い終えたらしく、湯船に入ってこようとしていて声を掛けられた。


「ね、正面に入った方がいい?それとも後ろ?」

聞かれて考える。
正面だとずっと顔を見られることになるし、私の視界にも犬飼くんが入るだろう。
後ろに入ってもらったら少なくとも私は犬飼くんの体は見なくていいはずだ。


「じゃあ、後ろで」
咄嗟にそう答えた。

「オッケー、ちょっと前に詰めて」
言われるがままに前に詰めた。

「んじゃ、失礼しま〜す」
後ろにざばっと犬飼くんが入る。
お湯の量が一気に増える。
そして、いきなり自分の体が浮いた。
抱きかかえられている。


「よいしょっと」
犬飼くんの足の間に入る形になった。

「え、あ、なんで?近い!
「だって、二人で入るならこうしないと狭いでしょ?」


犬飼くんが私の肩越しに話しかけてくる。
異常に近い距離に驚く、私の肩に顎を置いている!
これはもしや選択を間違えたかと考える。


「は〜〜気持ちいい〜」
そういいながら、犬飼くんは私の事をぎゅっと抱きしめた。
お互い裸同士だ。
今までに感じたことのない、直接肌にふれる感じが、もう私にはキャパオーバーであるが、犬飼くんは至っていつも通りだ。


「泡風呂だと全然見えないね」
犬飼くんは片手で泡を掬ってふっと息を掛ける。
泡がきれいに前にとんだ。
私も同じようにやってみる。

内心「見えないってなんだ。何を見たがっていたんだ変態め」と言いたかったが、口には出さないことにした。
変なことを言って犬飼くんに返り討ちにされるのは嫌だ。
口では勝てないことは以前からわかっていた。




「ね〜。そういえば、今日の防衛任務でさ、辻ちゃんがね」
「うん。どうしたの?」

犬飼くんが話し出したことにより、普通の会話が始まった。

私はできるだけ冷静に、無心になれるように気を付けて、相槌を打つことにした。
背中に意識を向けないように、何か腰のあたりに当たっている気がするのも気のせいだと思い込むようにした。





話し上手の犬飼くんのおかげでしばらく楽しく話していたが、どうやら犬飼くんは長風呂派らしい。

私はもう限界が近かった。
先に上がるとも言えず耐えていたが、それに犬飼くんは気づいたらしい。


「え、のぼせてない?大丈夫?もう風呂でよっか」
「いい、犬飼くん先に出て」

「いや、のぼせて倒れられたら困るから、もう一緒に出るよ、恥ずかしがってる場合じゃないから」


後ろからそういわれて、恥ずかしがっていることはやはりばれていたらしい。いつもより長時間湯船につかっていて少しぼーっとする。緊張していて寝不足なこともあり、くらくらしてきた。けど、一緒に上がったら裸を見られちゃうわけで、それは嫌だった。


「けど」
「〜〜もう!」

私が拒否すると、後ろで犬飼くんがざばっとお風呂から上がって、脱衣所に行くのが見えた。よかった。これで後から出れば大丈夫。


「ほらっ、出るよ。」

しかし犬飼くんはすぐに戻ってきた。
手にはタオルを持っている。

「もう一人じゃ出れないでしょ。意地張ってないでゆっくり出ておいで」
「大丈夫だから、一人で出れるよ」
「ほんと意地っ張りだなぁ」


犬飼くんが両手を湯船に入れてきて、何をするつもりかと思っていたら、私の両脇に手を入れてきて、持ち上げようとしていた。


「え、何するの!」
「何ってもう強制的に出そうかと」


慌てて犬飼くんの方を見ると、上半身裸で、下はかろうじてボクサーパンツを履いていた。
初めてみる姿を直視してしまって、恥ずかしさのあまり思わず立ち上がってしまった。


「いい!自分で上がっ」
そこで視界が白くなった。立ちくらみだ。

「あ、こら、急に立ち上がったら……」

犬飼くんがあわてて支えてくれるが、私は本当に限界だったようだ。
犬飼くんが持っていたタオルに包まれて、そのまま意識がフェードアウトした。


「ごめん、まだ早かったか」
のぼせてぼやける意識のなか、犬飼くんがそういったのが聞こえた。


泡風呂作戦は果たして成功だったのか。



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