忘れ物
大学の同じ学部の太刀川と付き合って三か月。
今日は彼が家に泊まりに来る予定で、私は一人家で待っていた。
太刀川はボーダーに所属していることもあり、日々忙しくしていて、同じ講義を取ってはいるが休みがちである。
私と知り合ったのも最初に太刀川に「この間のプリントコピーさせてくんね」と言われたことからだった。
他の講義ならボーダーに所属している友人に頼んでいたらしいが、この講義はボーダーの子はみんな取ってないようで、私を頼ってきたらしい。私もこの講義には友達がいなくていつも一人で受けていたので、話しかけやすかったのかもしれない。
その後からは講義に出れるときは太刀川と隣同士の席で受けるようになって、課題や試験対策を一緒にするようになった。
太刀川はどこか危なっかしくて、見ていてあげないと単位をするするっと落としそうで心配だったのだ。
週一回の講義を時々一緒に受けて半年くらいたった時に、講義プリントのお礼にと食事に誘われて、その時に告白された。
そのままお付き合いを初めて、今に至る。
我が家にはすでに何回か太刀川は泊まっていて、少しずつ太刀川の私物も増えてきたところだった。
それを少しうれしく思う自分もいる。
スマホには任務が終わってこちらに今から向かうと連絡が来ていて、私は楽しみに待っていた。
インターフォンがなって私は急いで玄関まで向かう。
「お疲れ様」
「おう」
扉を開けるといたのは待ちに待った太刀川で、思わず笑顔になる。
明日はお互い予定がないので今晩はのんびりできるはずだ。
「ごはんまだだよね。準備するから先にお風呂入っちゃいなよ」
連絡が入った時にすでにお風呂にお湯を入れ始めていたため、ちょうどいい頃合いのはず。
「さんきゅー」
太刀川はそのまま迷わず洗面所の方に向かう。
太刀川は荷物も何にもなく手ぶらでやってきたようだ。
男の人は荷物が少ないと聞くけど、太刀川はそれの上を行く。
大学にも手ぶらで来ることがあるのだ。
ボーダーの任務が終わってそのまま来ることもあるからだろうが、せめて筆記用具ぐらいは持っていてほしい。
お風呂から上がって全裸の太刀川が寝室にやってくる。
私は太刀川のために布団を用意していた。
そういえば、服を用意してあげるのを忘れていた。
まあ太刀川はお風呂上りはしばらく服を着ないし問題ないか。
「俺服置いてたよな〜?」
「うん、この間Tシャツとスウェット置いてたはずだよ?」
「そうだよなぁ」
太刀川はごそごそとクローゼットの中の衣装ケースを漁る。
私の服もまとめていれているのでやや不安だが、私は晩御飯の用意をするために部屋を出て、キッチンに向かう。
後で衣装ケースは確認しよう。
ぐちゃぐちゃになっているかもしれない。
キッチンであらかじめ作っておいたご飯を火にかけて温めている間に2人分箸を用意して、テーブルに置いていると、太刀川が寝室から出てきた。
服は見つかったようだ。
もう少し太刀川の服が多くなるようであれば専用の衣装ケースを用意するのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら太刀川をちらりと見たところ、私はあることに気が付いた。
その服、元彼の服やん、と。
思わず関西人でもないのに関西人になってしまった。
この間太刀川が置いていった服は黒のシャツとスウェットだったはず。
しかし今着ている服は上下ネイビーのスウェットだ。
胸にスポーツブランドのロゴが入っており、それが1年前まで付き合っていた元彼の私物だと今思い出した。
元彼の二股が発覚して即座に別れを切り出した時に元彼の私物は全部燃えるごみに捨ててやったが、衣装ケースの奥底に入っていたスウェットを忘れていたようだ。
そして、そんなやばい服私残しておいたのかと驚く、太刀川はどんな気持ちで今それを着てるのだろうか。窺うような気持で太刀川を見る。
「腹減った。夕飯何作ってんだ?」
「え、今日はビーフシチュー」
「お、いいな、美味そう」
そういって、テーブルに着く。
見るからにいつも通りな太刀川だ。
怒っていないのだろうか。
よく友達同士の会話で、元カノにもらった時計を付けていて怒られただの、元カノが使っていた化粧落としを見つけただのみんな不満そうに言っているが、太刀川はそういうのを気にしない性質なのだろうか。
しかしサイズぴったりだな。
元彼とそんなに体格差ないみたいだ。
気にしていないのならこちらから言う必要はないなと判断し、そのまま二人でご飯を食べ始めた。
ご飯を食べて、後片付けをしていると、キッチンに太刀川が入ってきた。
暇を持て余したみたいだ。
「まだ?」
「もう少し。コンロも掃除しておきたい」
「良くやるな〜」
汚れは早めにきれいにしておかないとなかなか汚れが取れなくなる。思い立った時に何事もやっておきたい方だ。
後ろから抱きしめられても掃除の手は止めない。
「はやくしろよ〜」
そういいながら、太刀川の手が服の裾から入ってくる、手つきが不穏だ。
「ちょっと、やめて」
「むり、もう待てない」
そういいながら私の腰に固いものが当たっていた。
元気すぎる。
こうなっては掃除は中断だ。
この状態の太刀川をなだめるのは骨が折れる。
「やべ、ゴム忘れた」
「……寝室にあったかも」
思い出すのは引き出しの奥。
元彼が置いていったコンドーム。
流石にそれは嫌がるかなと思ったが、買いに行くのも待てないだろうから言ってみる。
「俺置いてたっけ?流石だな〜俺」
わははと笑いながら言う太刀川を見て気づく。
どうやら元彼の持ち物という考えが端からないみたいだ。
黙っておけばわからないのであれば言う必要はない。
そのまま二人で寝室へと向かった。
「これ、ちいせぇわ、ゴムはいんねぇ」
いざ、というタイミングで太刀川が首をかしげるが、内心体格は一緒でもこっちのサイズは違うんだと思ったのは内緒。