かき氷、たこ焼き、サイダー
今日は三門市の夏祭りの日。
一か月ほど前、今月の防衛任務のシフトが出た時に珍しく二人ともその日に防衛任務が入っていないことに気づいて「夏祭りに行こうよ」と彼氏である諏訪を誘っていた。
諏訪は「下の奴らにたかられるんだよな」とかぶつぶつ言いつつ私の願いを聞き入れてくれた。
私は夏祭りに行くと決まった時点でお気に入りの浴衣を着ていこうと思っていた。
母から譲り受けたもので、母は「この浴衣を着て若い頃お父さんと良くデートしてたのよ」と言っていた。
浴衣の柄は朝顔。
生成りの生地に大きな緑とオレンジの朝顔が描かれたものだ。
母から父との浴衣デートの話を聞くたびに自分もそんな素敵なデートが出来るお付き合いをしたいと夢見ていて、ついに浴衣デートが出来ると思ったらすごくうれしかった。
逸る気持ちで待ち合わせ場所につくと、すでに諏訪は来ていてタバコ片手に携帯をいじっていた。
贔屓目に見ても絵になるかっこよさだ。
ただ、少しヤンキーのように見える気がするので、逆ナンをするような猛者はいないようだ。
「ごめんお待たせ」
「おー似合ってんな」
「……ありがと、お母さんにもらったやつで私も大好きなんだ」
会ってすぐに浴衣を褒めてくれた。
照れ臭いけど、嬉しさが勝つ。
着てきて良かった。
諏訪にこの浴衣を見て欲しくてお祭りに誘ったようなものなので、私の夏祭りの目的はもう果たされたようなものだ。
「んじゃいくか」
「うん」
花火の開始時間が19時。
今は18時少し前。
花火が始まるまで屋台をぶらついて何か食べることにしたが、沢山の人ではぐれないようにと諏訪が何も言わずに手を握ってくれた。
普段は人目を気にしてなかなか手を握ってくれないので、驚いた。
しかし、その手はすぐに離される事になる。
「あ、諏訪さん!奢って〜」
「……お前ら、空気読め」
「あ、尚美さん、浴衣可愛い!似合ってる!」
「ほんとだ!尚美さん似合う似合う!」
「尚美さんかわいい……ってめっちゃ私らデート邪魔してるやん」
諏訪に声をかけてきたのは、諏訪隊のオペであるオサノちゃんと影浦隊の光ちゃん、それに生駒隊の真織ちゃんだ。
3人で夏祭りに来ていたのか、同い年で仲がいいのかもしれない。
お気に入りの浴衣をみんなに褒められて、諏訪に手を離されたのは少し残念だったけど、それが気にならなくなるくらい嬉しかった。
みんな可愛くて、大好きな後輩たちだ。
「オサノちゃんありがとう。なんかおごってあげる。諏訪が」
「わ〜〜ありがと!」
「二人も食べたいもの言って、諏訪がおごるから」
「ちょ、待て!」
諏訪があわてて止めに入るが、じろりと見る。
「浴衣姿の可愛い後輩3人におごってやらないの?」
そう3人とも浴衣を着ていてとても可愛いのだ。それぞれ雰囲気の違う浴衣を着ていて良く似合っている。
「諏訪さん良いね。可愛い彼女が隣で」
「諏訪にはもったいね〜〜!」
「仁礼、てめーにはおごんねぇ」
諏訪がオサノちゃんと光ちゃんと話していると横にいた真織ちゃんがぽつりと言う。
「諏訪さん、なんて言うか愛されてますよね」
「え?」
つい声が出てしまう。なんでそう思ったのか。いや確かに否定はしないけど。
「いや、だって浴衣…」
「真織ちゃん、ちょっと……」
「あ、だめでした?」
真織ちゃんが言いたいことがわかって、あわてて止める。
お花が好きな真織ちゃんだから気づいたんだろうけど、それは諏訪には内緒にしてほしい。
流石にここで知られたら私は恥ずかしすぎる。
真織ちゃんは私の考えを察してくれたようで、その後は言わないようにしてくれた。
3人は諏訪にかき氷をおねだりして、諏訪は黙って買い与えていた。
なんだが本当にお兄ちゃんのように見えてしまって微笑ましかった。
美味そうにかき氷を食べて、笑いながら手を振る3人を見送る。
「3人とも浴衣似合ってたね」
「馬子にも衣装ってやつだな」
「それ今度オサノちゃんに言うから」
「……勘弁してくれ」
諏訪は頭を掻きながら私にもかき氷を買ってくれた。きれいな黄色のレモン味。
次に香取隊の4人に会った。
仲がいいのか、ぎゃいぎゃい騒ぎながら声をかけてきた。
「諏訪さんおごって〜」
「ちょ、葉子空気読め!」
「何よ麓郎。別にいいじゃない」
「いや、どう見ても諏訪さんデート中だろ」
「何?自分が彼女いないからって僻んでんの?ダサっ」
「まぁまぁ、葉子ちゃん」
「ちげーよ、邪魔すんなってことだよ!」
「3人とも、周りの人に迷惑だわ。静かにして」
「「「……」」」
「あーなんだ、おごってやるから仲良くしろ」
「うん。別に邪魔でもないし、みんなと会えて嬉しいから」
諏訪は4人にたこ焼きをおごっていた。
同じポジションで良く見ているのであろう若村にはこっそりジュースもおごっていた。本当に諏訪は面倒見がいいらしい。
「諏訪さんおごって〜」
出水と米屋が焼きそば片手に話しかけてきて、隣で諏訪は少しため息をついた。
「今度はお前らかよ、くそっ」
「おつかれ〜っす」
「お疲れ様。二人ともお祭りしっかり楽しんでるね」
私にも挨拶してくれたので笑顔で答える。
男の子二人で夏祭りは楽しそうで良いな。高校のクラスも一緒らしいし、仲がいいようだ。
「去年は俺ら防衛任務入ってたんで、今年は去年の分も楽しむ予定なんすよ」
「諏訪さん良いな〜浴衣姿の可愛い彼女が隣にいて」
「な!諏訪さんやるな〜」
「うらやましいか、ガキども」
諏訪が否定しなかったので驚く。
普通思っていても謙遜するんじゃないの?
間接的に褒められた気がしてうれしいが、少し照れ臭い。
「俺らもう17ですよ!ガキじゃないです!」
「ガキじゃねえならおごらなくていいな?」
「だー!ずっりぃ!ガキでいいからおごって!」
「良いのかよ!?プライドねぇな!?」
結局諏訪は二人にも何かおごるようで近くの屋台に向かっていった。
「おい、これじゃキリがねぇ、行くぞ」
戻ってきた諏訪に手を取られる。人前だというのに、珍しくしっかり手を握られた。
「あ、諏訪さん!」
「逃げるんすか〜〜!」
「うるせーわ。お前ら邪魔すんなよ」
米屋と出水の声を背に諏訪はずかずかと歩き出した。
私があわてて2人に手を振るとにっこり笑って諏訪におごってもらったサイダーを持っていない方の手で振り返してくれた。
相変わらず可愛い子たちだ。
二人が見えなくなったところで、諏訪に話しかける。
「どこ行くの?」
「特等席」
諏訪はこっちを向いてにやりと笑ってそれだけ言うと、浴衣姿でいつもより歩き辛い私を気にして歩くペースを落としてくれた。
特等席として連れてこられたのは、まさかのボーダー本部基地。
しかも屋上。
「屋上から見るの?」
「おう、去年は夏祭りの日に夜、防衛任務入ってたんだよ、んでこっからみた」
「なるほど」
防衛任務中にここから見ていたのか。
任務中であれば堤や笹森と一緒に見ていたのだろうか。
私は家から花火の音だけ聞いていたような気がする。
一緒に見に行く人がいなかったから。
それが今年はとっておきの浴衣を着て、隣に諏訪がいる。
不思議なものだ。
しばらくすると花火が上がりだした。
本部基地はかなり高いので、花火が下に見える。
いつも上に見る花火が下に見えるなんて変な感じだし、花火を上から見るなんて初めてだ。
「きれいだね」
「だな、夏って感じだ」
屋上には私たちだけのようで、邪魔は入らない。
諏訪と二人で花火を見る。
なんて平和で幸せな時間なんだろう。
私たち二人が出会った場所が、今いる場所が、戦うための組織だと今だけは考えずに、幸せを噛み締められる。
来年も再来年もこうして二人で花火を隣で見ていたい。
横で花火を見る諏訪の横顔を見て距離を詰める。
転ばないように諏訪の肩に手を置いて、背伸びをしてほっぺたにキスをした。
朝顔は8月1日の誕生花。
それを知ってからますますこの浴衣が好きになった。
気づいてる?大好きだよ、諏訪。
そう思いながら私は自分より一回りは大きい手をきゅっと握った。