love fighter



彼が私の事を好きという噂を最初に聞いたときは、いやそんなまさかと思った。
だって私は彼と一度も話したことがない。
歳も違えば、学校も違う。
ボーダーの隊も違ければ、防衛任務の混成部隊でも一緒になったことはない。
むしろ顔を合わせたことすらあっただろうか。
それすら謎である。
ボーダー内でその噂を周りから聞くたびに
「いやいや、ないない」
「ただの噂でしょ」
「私、話したことすらないよ」
と噂の火消しをしていた。

けど、その噂は収まることもなく、日を重ねる毎にむしろ広がるばかりだった。
この間、個人ランク戦をしたあとに自販機でジュースを飲んでいたら、荒船に 「あいつ、お前の事好きらしいな。何したんだ?」
と言われた。

何をしたのかこっちが知りたい。
昨日は王子と蔵内に
「年下を落とすなんてなかなかやるね」
「ちゃんと気持ちに答えてやれよ」
と言われた。
落とした覚えもないし、答える気持ちも貰っていない。

何故だ。
噂ばかりを聞く彼の事を私は一応知ってはいた。

二宮隊所属の攻撃手でマスタークラス。
黒髪のイケメン。
六頴館高等学校の2年生。
女性が苦手。

そう、その相手とは辻新之助くんである。

「ね、どう思う?」
「どう思うって、本人に聞いてみたらいいじゃない」

高校の教室でクラスメイトでボーダーでも仲のいい国近と今ちゃんと話しているときに話題に出してみた。
この二人も噂については知っているようで、すんなり話は進む。

「いやいや、聞ける?辻くんだよ。しかもなんて聞くの?私の事好きなのって?恥ずかしすぎるでしょ」

ランク戦中に涼しい顔で旋空弧月を放っている彼のイメージしかないので、もしあの綺麗な顔で、
「は?なんですかそれ」
とか言われたらもう私は恥ずかしさでボーダーにいられない。
辻くんのキャラこれであってる?
話したことがないからわかんないんだけど。

「辻くんきっと逃げ出すか、固まって失神するだろうね」

今ちゃんの言うとおり、噂に聞くように女性が苦手であればそうなのだろう。
私は会ったこともないからわかんないけど。

「私たちだって滅多にしゃべることないし、なんならひゃみちゃんに聞いてみたら?」

「二宮隊はみんな六頴館だから聞ける相手いないね〜」

国近は今日提出の宿題をやりながらのんびり話す。
今は昼休憩中で、次の5限が提出のそれを前にずいぶんのんびりしている。

「二人は誰に聞いたの?」
「ん、出水だよ」

国近の答えに考える。
出水は辻くんと同い年だ。
仲もいいんだろうか。

「私は鈴鳴で聞いたわ。最初に言ってたのは鋼君か、太一だったかしら……」

鈴鳴だったら辻くんと同い年も高校一緒もいない。
謎だ。
噂はどこから回っているのだろうか。
そこでチャイムが鳴ったので席に戻ることにする。
国近は結局その日宿題は提出していなかったように見えた。
後で今ちゃんに怒られるに違いない。

 

「おい、お前、辻とはどうなってる」
「は…?」

本部基地内でのんびり歩いていると後ろから二宮さんに不意に声を掛けられたが、話の内容がさっぱりつかめなかったので、かなり失礼な返事をしてしまった。

「どうなっているとは…?」

腕組みをして見下ろしてくる二宮さんに改めて訊ねてみる。
今むしろ何て言った?辻くん??

「辻とはどうなっていると聞いたんだ」
「どうも何も、辻くんとは話したことすらないですけど、私何かしましたか?」

辻くんの所属する隊の二宮さんが言うくらいだ。
ひょっとして私が知らないうちにとんでもないことをしでかしているのかもしれない。
質問を質問で返すのは失礼とはわかっているが、答えるのに必要な質問だ。
許してほしい。

「何かしたもなにも…」

二宮さんが何か言う前に大きな声でかき消される。

「二宮さんっっ!」

2人で声のした方を振り向くと辻くんがこちらへ走ってくるのが見えた。
辻くん生で初めて見たかもしれない、なんて呑気な事を考えていた。

「辻、どうした」
「いえ、その、あの、ちょっと」

二宮さんが辻くんに訊ねると、辻くんは私の事をちらっとみて、言いにくそうにした。
その様子をみてピンときた。

「隊の事かな?お邪魔みたいなので私失礼しますね」

空気を読んで素早くその場を立ち去ることにした。

「そうなのか?辻」
「え、あっ、いや、あの」

辻君は目の前に立つと意外と背が高くてすらっとしているな、髪の毛サラサラで噂通りイケメンだったなと思った。
こんなイケメンと噂が立つのもある意味名誉なことなのかもしれない。

二宮さんと辻くんは放っておいてしばらく歩いていると、今度は犬飼に声を掛けられた。

 
「二宮さんと辻ちゃんに会わなかった?」

そう聞くということは、二人を探しているわけで、やはり隊で何か話すことがあるんだろう。

「二人、もう少し言ったところにいると思うよ」

自分が今来た道を差して教える。
ひょっとしたらもう二人は移動しているかもしれないが。

「うん、それは何となくわかるんだけど……辻ちゃんと話せた?」

犬飼が伺う様に聞いてきた。

「え?話してないけど」

特に辻くんと話す予定も、用事もない。
何故そんなことを聞くのだろうか。

「マジか、二宮さんのおせっかいが役に立つかなと思ったけど、だめだったか」

あちゃーと言って頭を掻く犬飼の言っていることがよくわからない。
おせっかいってなんだ。

「何それ」
「辻ちゃん、宮木ちゃんに片思いしてんの」
「犬飼までその噂言うの?」

辻くんと間違いなくよく一緒にいる犬飼にまで言われるとは。
少しその噂にも疲れてきた。

「噂じゃないよ、マジ」
「…マジなの?それにしては全然話しかけてこないけど」

まさか本当だったのか。
いや、犬飼の場合はふざけている場合もあるから慎重に確かめないと。

「辻ちゃん女の子苦手なのは流石に知ってんでしょ?ずっとしゃべりかけたいって言ってるんだけどね、なかなか行動に移せないの、大目に見てやって」

「それが本当だとして、そんなこと私に言っちゃっていいの?」

女の子が苦手で私になかなか話しかけられなかったということが本当だとしても犬飼が言ってしまっては意味がないのではないだろうか。
恋心が筒抜けである。

「しばらくは本人に任せてみようと思って見守ってたんだけど、もう3か月近く話しかけもせずにいるから流石にね」

「3か月…!」

思った以上に長い期間に驚く。
そんなに機会をうかがってたのか。
それは周りはやきもきしたかもしれない。
なるほど、犬飼は辻くんが心配でこうやっておせっかいを焼いているのか、見た目に反して自分の隊の事が大事なんだろう。
意外といいやつ。
じゃあさっきの二宮さんも辻くんを思っておせっかい焼きに来たのか、あの人は本当にわかりにくい。

「それにしても話したこともない私をなんで辻くんは好きになったの?」

犬飼なら知ってるかと思って聞いてみる。
すると犬飼はにやりと笑って答えてくれた。


「それはおれからは言えないな。それなら辻ちゃんに聞いてみてよ、私のどこが好きなの?って」



後日それを聞いて顔を真っ赤にしてあたふたする辻くんに「あ、可愛い」と思ってしまうなんて予想できなかった。