焼肉奉行


私には好きなものがある。
家族とボーダーの仲間たちとそれから焼肉だ。


私は焼肉大好きな父親の影響で毎月家族で父親の給料日に焼肉屋さんに行っていた。
食べ放題なんかではなく、ちょっといい焼肉屋さんに小さなころから通っていた私は焼肉が大好きになったし、焼き方にもこだわる。
自分が食べるものは絶対自分で焼きたいし、人が適当に焼いているのを見るともやもやすることがある。
そんな私が今日一緒に焼肉に行っている相手はこの人である。


「ちょっと二宮!焼く順番考えて?それじゃお肉味わえないよね」
「好きにさせろ。各々が好きなように焼くのが一番だろう」
「ちーがーう!おいしく食べてほしいの、私は!!」

同じく好きなものを聞かれたら「焼肉」と答える二宮隊の隊長二宮だ。
彼は隊の部下をよく焼肉に連れて行っているらしく、私が焼肉が好きと知った犬飼が「それなら一緒にどうですか?ねぇ二宮さん」と誘ってくれたのだ。
部外者がいると嫌がるかと思っていたら、二宮は意外にも「別にいいが、遅刻するなよ」と許可してくれた。
二宮隊にお邪魔するのは少し気が引けたが大好きな焼肉に行けると聞いてウキウキする気持ちの方が強かった。
いざ来てみれば二宮隊のみんなはのんびり自分の食べたいものを自由に注文して焼いている感じだった。
せっかくお邪魔させてもらっているのだからとつい焼肉奉行の血が騒いでしまった。


「ひゃみちゃん、はい!」
「わ!ありがとうございます」
「辻!ハラミ!」
「うっ、えっ、あ、ます…」
「犬飼さっきから焼いてばっかりでしょ、食べな」
「わ〜い、いただきます」

二宮の可愛い部下たちにせっせといい感じに焼けたお肉を献上する、普段二宮が迷惑をかけているのであろうから、二宮のお金でお肉をたらふく食べるがいい。
焼くのは私がしてあげるから。
トングを決して離さない。
後輩に焼かせるわけにはいかないのだ。


「お前も世話ばっかりしてないで自分のを食べろ、好きなんだろ?」
「大丈夫!食べてる食べてる、ほら二宮も!」

二宮に言われて、食べごろのお肉をお皿に入れてやった。私が手塩にかけて育てたロースだ。
中はほんのり赤色で柔らかく、良い塩梅のはずだ。
それを二宮は無言で口の中にいれた。
もう一枚皿に入れてあげるとすぐに口へ運んだ。
私の焼き方の完璧さにぐうの音も出ないようだ。
焼肉歴20年を舐めないでいただきたい。

「あ、飲み物空だね、追加で頼むよ、ジンジャーエールでいい?」
「!!…ああ、頼む」

その後も二宮隊のみんなのお肉を焼き、飲み物の注文をとり、私も自分が満足するまで焼肉を楽しんだ。
辻くんはテンパりながらも私と会話をしようと努力してくれたし、犬飼君は社交性がもともとあるので話が弾んだし、ひゃみちゃんとは連絡先を交換できた。
楽しい時間、おいしいお肉に大満足だったのだが、お会計の時になって私も二宮と同い年だしお金を出そうとしたら二宮に制された。


「いい、ここは俺が出す」
「え、でも…」

流石に二宮一人に出させるわけにはいかない。
私は自分の分は出そうと思って注文も遠慮なく食べたいものを頼んだのだ。
高いお肉もあるし、結構な金額に違いない。

「焼いてもらったからな、その礼だ」

二宮は私が出したお金は受け取らず伝票だけ持ってレジに行ってしまった。
そんなこんなで借りが出来てしまった。


「また次も来てくださいね」
「え、いいの?」

ひゃみちゃんに言われて驚く、部外者がそう何度も参加したらまずいだろう。

「もちろんです。二宮さん今日は良く笑ってましたし」
「来てくれたら二宮さんもおいしいお肉食べれるし、良いんじゃないですか」

犬飼も話に入ってくる。
私の焼いたお肉、確かにおいしく食べてくれていたな。
そう言われると悪い気はしない。

「そ、そう?」

それならお言葉に甘えて参加しちゃおうかな。
そう思ってそれから何度も二宮隊の焼肉会に参加していたら、気づいたら二宮とサシで焼肉に行くようになっていたし、気づいたら二宮の一人暮らしの家でご飯を作っていた。

お金は全部二宮持ちなのに、餌付けに成功していたようだ。