出会いは突然に
ボーダー本部基地内をいつものように歩いていると、目の前に見慣れない隊服の新入隊員と思わしき人がキョロキョロしているのが目に入った。
ここの廊下は同じような作りの場所が多いので迷う人も多い。
目の前の人もそうなのかと思って、思わず声をかける。
性格上、そのまま通り過ぎることはできなかったのだ、周りには世話焼きとよく言われる。
「あの、もしかして迷ってますか?」
「……」
振り向いた相手は日本人ではなさそうな顔立ちの男の子で、顔に見覚えはなかったので、やはり新入隊員で間違いないだろう。
こちらをじっと見ているだけで、何も答えてくれないので、え、言葉通じてるよね。
というか今私はトリオン体だから英語圏の人でも伝わってるよね大丈夫だよね?と心配になる。
「あの、勘違いでしたか?」
「入隊式が行われる場所はどこだ?」
初対面のはずの自分に対して、敬語も使わず不遜な態度で話す彼は見た感じ自分より年下のように見えるが、見た目だけでは判断してはいけない。
それに海外出身の場合敬語に慣れていないだけかもしれないと思い、特に気にせずに答える。
「入隊式の会場であればこの1つ上のフロアですよ」
「そうか」
彼は一歩もそこから動かない。
もしや1つ上のフロアに行くエレベーターか階段の場所がわからないのか?そう思い「エレベーターならこっちです」と右手を差す。
「そうか」
彼は私が指さした方をみてうなずいた。
が、なんとなく不安になった。
このまま見送ってしまったらまた道に迷いそうに思えたのだ。
上のフロアに行ったは良いが、会場にたどり着けないのではないか。
この人、困っていても人になかなか聞けないタイプではないか。
「良かったら、入隊式の会場まで案内しましょうか?」
見たところここのフロアには入隊式を担当している嵐山隊のメンバーもいないみたいだし。
説明するより連れて行く方が早いと思い、そう提案した。
おせっかいだったかもしれないと思い、相手の様子を窺うと「そうか、助かる」とこちらをみて返事をした。
相手の同意も得られたので、自分が先導して会場に向かうことにする。
私はもともと自分の隊の作戦室に戻るだけだったし、この後は作戦室の掃除をしようと思っていただけなので問題ない。
ついでに、今年の新入隊員をちらっとみて有望そうな子はいないか見るのもいいかもしれないと思った。
隣で歩く彼をちらっと横目で見る。
黒いユニフォーム。
ふつうは新入隊員は白いユニフォームだったはずだが、彼はなんで黒なんだろう。
そして、肩についているエンブレムをみて気が付く。
彼、玉狛所属だ。
今玉狛は何かと話題だ。
今シーズンからデビューした玉狛第二が怒涛の勢いでB級ランク戦を勝ち上がっている。
隊長の三雲君に、エースの空閑君、トリオン怪獣と呼ばれる雨取さん。
オペは私と同い年の栞だ。
今ちょうど試合中ではないだろうか。
エレベーター前まで来て、ボタンを押す。
エレベーターは比較的すぐ来た。
エレベーターから降りて、私は迷うことなく入隊式の会場を目指す。
彼は特にあちこち見るわけではなく、前だけ見ている。
これ帰り大丈夫だろうか、といらない心配をしてしまう。
道を覚える気はなさそうだ。
「つきましたよ。受付があるので、そこで名前を言えば大丈夫ですから」
「……」
「受付こっちです」
結局受付まで案内することにした。
だって、今不安そうな顔をした気がしたんだもの。
顔を正面からみるとなかなかのイケメンだった。
「お名前お願いします」
受付をしている一般職員の女性が声をかける。
「ヒュースだ。ヒュース・クローニン」
彼が名前を言うのを横で聞く。
クローニンって、玉狛のエンジニアのクローニン班長と同じ名字だ。
家族なのかな。
とりあえず受付を済ませれば後はここで待っていれば大丈夫のはず。
私の役目も終わりだ。
「あとはここで始まるのを待っていれば大丈夫ですよ、私はこれで失礼しますね」
そういって立ち去ろうとすると後ろから声を掛けられた。
「お前名前は?」
「え?」
まさか名前を聞かれるとは思っておらず、驚いたが、聞かれて困るわけでもないので、自分の名前を伝える。
「宮木尚美です」
「そうか、助かった」
それだけ言って、彼は会場の奥の方へと進んでいった。
最後のはお礼なのだろうか。
とりあえずそう思って、会場を後にした。
今後会うことも話すこともないだろうと思っていた彼だが、後日私の所属する隊の作戦室にわざわざ彼が所属することになったらしい玉狛第二の隊長である三雲君が菓子折りを持ってお礼に来てくれたし、たびたび廊下で迷子になっているのを発見したり、自販機の前で立ち尽くす彼を助けたりすることになるとは思ってもみなかった。
そして何故か私の事を下の名前でごく当たり前に呼ぶので、さすが外国人!と震えたのだった。