とんでもないものを見せてしまった件について



私はちょっとセクシーな下着が大好きだ。



人に見せるのではなく自分が好きだから、自分の気持ちを上げるために着る。
そもそも彼氏がいたことがなく、他人に自分の下着を見せる機会がないので、自己満足になるのかもしれない。

仕事で頑張らないといけない時、重要な案件を任されて取引先に行く時など、気合を入れたい時はとびきりセクシーなものを身につける。
サイドを紐で結ぶタイプのショーツとか、Tバックとかガーターベルトを身につけることもある。
セクシーなものを身につけていると、見えはしなくてもテンションが上がるし、少し自分が強くなれる気がするからだ。


そういう下着はお店で買うのは少し恥ずかしいからネットで注文することが多い。
ネットだと人目を気にせず自分の気に入ったものが買えるし、じっくり吟味できる。
黒の繊細なレースがあしらわれたネグリジェや、フリル沢山の白いベビードール、大事なところが全然隠せていない上下セットの下着など沢山の下着を購入してきた。

時々お風呂上りに部屋で下着を身につけて一人ファッションショーみたいなことをする時もある。
セクシーで可愛い下着を身につけている時の自分が一番好きだ。
変な趣味と思われるかもしれないが、これだけはやめられない。
服を脱ぐなんてこと早々無いから仕事中も気にせず身につけているけど、こんなに地味で根暗でパッとしない私がこんな派手な下着をつけているなんて誰も思うまい。
そう思って今日も新しいセクシーな下着を身につけてルンルンで出勤していた。


それがまさか年下の、職場の子に見られるなんて思ってもみなかった。






私はボーダーのメディア対策室に勤めている。
三門市立大在学中、4年生で就職活動中に見事にお祈りメールを食らいまくった私は心折れて、院に進学しようかなと考えていた。
その時たまたまボーダーの広報誌を読んで、後ろの方のページに「ボーダーで働きませんか?」の良くあるキャッチフレーズときらきら輝く嵐山隊の嵐山准君に身がくらんで、ダメ元で履歴書を送ったらまさかの採用。

しかもまさかのメディア対策室だった。
生嵐山准は雑誌で見るより数倍かっこよかった。
ファンになった。

職権を乱用してサインも貰ってしまった。
一人暮らしの部屋で額縁に入れて飾っている。我が家の家宝だ。



働き始めて3年になった。
仕事にもだいぶ慣れて、毎日楽しく過ごしている。
お給料もそれなりに良いので、貯金と趣味に存分に使わせていただいている。


今日は黒のレースが綺麗な下着を身につけていた。
ショーツとガーターベルトをセットで付けたら後ろ姿がとても綺麗でうっとりしてしまう逸品だ。
お尻はほぼ丸見えだが、機能性より、見た目重視で選んだ。
セットで10万はする一流下着ブランドのもので、悩みに悩んで買ったものなのだ。
ボーナスも出たし、と思い切って購入し、一昨日ようやく届いた。
昨夜初めて身に付けたのだが、付け心地も最高で、すごく感動したのだ。
やはり装着感はお値段に比例する。
スタイルも良くなった気がして、今日はいつものボーダーの制服も引き締まっているように思う。


今日は朝からメディア対策室では取引先との大事な会議が行われていて、それに自分も関わっていたため、会議を成功させるべく、数週間前から残業をしたりして取り組んでいた。
今日はその集大成とも言える日だったので、気合も入っていたので、勝負下着を身につけていた。

会議は無事に終わりほっとした矢先、取引先の方が会議室に携帯を忘れているのに気づいた。
少し前に会議室を出たから今追いかければ間に合うかと判断し、走って追いかけた。



「ありがとう、助かったよ」
「いえ、間に合ってよかったです。お気をつけてお帰りください」

タクシーが走り出したタイミングで私が外に出たのだが、幸運にもタクシーの運転手さんがすぐに気づいてくれて、止まって待っていてくれた。
雨が降っていたが、ジャケットに携帯を包んでタクシーまで行き、相手に携帯を返すことができた。

ヒールを履いた状態で走ったので少し靴ずれしてそうだ。
デスクに戻ったら確認してみよう。

少し外に出ただけでずぶ濡れになってしまった。
ジャケットを着ていたら体が逆に冷えそうだと思い、ジャケットを脱いでメディア対策室までの廊下を歩く。



仕事は上手くいったようだし、取引先の人にはお礼を言われたし、仕事のできるキャリアウーマンになったかのような気持ちになっていた。
ヒールの音が小気味良い。


おまけに明日は土曜日で休みだ。
きっと今日はチームで打ち上げになるに違いない。
少し自分でも気持ちが高揚していて、前をしっかり見ていなかった。


そのため、曲がり角で人と激しくぶつかってしまった。


「っわ!」
「あ」

相手の方が背も高いし、体格も良かったようで、私はぶつかった衝撃で後ろに倒れ、尻餅をついてしまった。
ジャケットを片手に持っていたために、上手く受け身も取れず、お尻に痛みが走る。

そして、なんだが、前が冷たい。


「すんません、前良く見てなくて」
「こちらこそすみません」

相手に先に謝られて、こちらも慌てて謝る。
ぶつかった相手は戦闘員としてボーダーに所属している生駒隊の隠岐君だった。


目の前に立っていて、尻餅をついたのは私だけのようだ。
さすが男性。体幹が違うのだろうか。日々鍛えているに違いない。いや若さか。
こちらをじっと見て申し訳なさそうにしている。




「んで、服汚してもうてすんません」
「これくらい大丈夫。制服だし洗ったらなんとかなるでしょ」

どうやら前が冷たいのは隠岐君が持っていた飲み物がぶつかった拍子に盛大に私にかかった事によるようだ。

制服はボーダーから支給されたものだし、まだあと2着ある。
ロッカーに予備の服も置いているので戻ったらそれに着替えようと考えて、起きあがろうとしたが、何故か相手に制された。


「透けてますよ、下着」
「へっ!?うわっ、やだっ」

言われて慌てて手を前にして隠す。
転んだ拍子にスカートの中もひょっとして見えていたかもしれない。


見られた?あのとんでもない下着を見られた??
いや、シャツ越しだからシルエットだけでわからないかも……
スカートもタイトスカートだからそこまで中は見えていないはず。
普通女性のスカートの中をまじまじとは見ないだろう。



「顔に似合わずえっろいのつけてますねぇ」

隠岐君はそんな私の考えを嘲笑うかのように、とんでもないことを言ってくれた。

見られてた!!!

顔面が蒼白になった自覚はある。
どうしよう。変態だと思われたかもしれない。明日からどんな顔して仕事すればいいんだろう。
もしかして他の人に私の下着の趣味をバラされたら恥ずかしさのあまりボーダーにはいられなくなる。

相手の話している内容よりも、自分の下着の趣味がバレたことに焦ってしまって、あまり相手のことを気にしていなかった。
どうしよう、どうしようと焦るばかりで、相手の表情にも気づかないでいた。


私が尻餅をついているのに合わせるようにしゃがんできた彼は、トンっと私の胸元に人差し指を当てて
「こんなギャップ反則とちゃいます?」
そう言ってきた。

人差し指が示すところはインナーも濡れてさらに下に着ていた黒い下着が透けて見えている。
私がうっとりと見ていたレースの柄がそれはもう綺麗に見えていた。


「え……」
「こんなん見せられて、そのままほいさよなら〜ってできると思います?」
隠岐君の顔を見上げると、首をこてんと傾げて可愛らしくこちらを見ている。

「えっと、その……」
話が全く読めなくて、相手の出方を伺う。

「思春期真っ盛りの男子高校生には刺激が強すぎやねんなぁ」
隠岐君は自分の着ていた生駒隊の隊服を脱いで、私の肩にかけてくれた。

「はい、腕通して?」
言われるがままに行動する。
腕を通すと、最後にチャックを上まで上げてくれた。

「あ、ありがとう」
思わぬ優しさに驚く。見えないように隠してくれたようだ。
紳士的な行動に感動する。

さすがイケメン隠岐君。行動もイケメンだった。
最近の高校生はこんなにも大人びた行動が出来るのか。見直した。

他の子におもしろおかしく吹聴するんじゃないかと考えてしまった自分を恥じた。
こんな紳士的な隠岐君がそんなことするわけないじゃないか。

どうやら私の下着の趣味については触れないでいてくれるようだと判断してほっと一息ついたのだが。
それは間違いだった。



「こ〜んな素敵なもん隠しとった理由はあとでこれ返して貰う時にゆっくり聞かせてもらいますね?」

にっこり笑う隠岐君が言う「これ」とは今私が着ている生駒隊の隊服のことだろう。
借りてそのままにするつもりはなかったし、もちろん生駒隊の作戦室にでもお礼の品を持って出向こうと思っていたが、ゆっくり聞くとは、何を聞くつもりなのか。
まさかやっぱり、もしかすると、この話の流れからすると私の下着について聞かれるのか。
拒否権はないのだろうか。

「お姉さんの秘密、黙っておいて欲しいなら、おれのお願い、聞いてくれますよね?」
さっきのハプニングは無かった事にはならないようだ。
こう言われてしまっては、言うことを聞くしかない。
「わかりました…」


「おれ、ますますお姉さんのこと気に入ってしまったわぁ」

目を細めてこちらを見てくる隠岐君は、トレードマークである泣きぼくろが一層魅力的に見えた。




とんでもない人に知られてしまったようだ。