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今日は高校の体育祭。天気にも恵まれて、少し暑いくらいの天候だ。
日焼けをしないように、日焼け止めはばっちり塗っている。澄くんのお姉ちゃんたちのおすすめを買って、ケチらずに塗ったので大丈夫なはずだ。
「日焼け止めは良いのを使った方がいい」
「そうよ、ケチると後で悔やむことになる」
「外に出るときは必ず日焼け止めを塗ること!」
「日焼けをした後のケアも大事だからね!」
とお姉ちゃんたちに熱弁されて、私は頷くしかなかった。美容に関してはお姉ちゃんたちの言うことを聞いておけば間違いない。いつだってきれいで、優しくて、自慢のお姉ちゃんたちだ。昨日犬飼家に遊びに行った時もそうだったけど、また澄くんは家にいなかった。昨日は防衛任務に二宮隊は入っていなかったはずだから、どこか出かけていたのかもしれない。他の女の子と遊びに行っているのかな、なんて頭の片隅によぎったけど、考えないことにする。私が彼女なんだし。私が1−Cで澄くんが3−D。縦割りの団分けなので、私が白、澄くんが黄色だ。一緒の団ではないのが少し残念だけど、同じ高校ってだけでこういう行事で澄くんを見れるんだから、それだけで幸せ。2歳違いだと今年しか一緒の学生生活は送れない。体育祭の澄くんを沢山写真に撮りたいと思っていた。今日はツインテールにして、ハチマキをヘアバンド代わりにリボン結びにしてみた。友達に可愛い〜って言われて自分でも満足だ。澄くんも可愛いって思ってくれているといいけど。午前中の競技が終わって、お昼の時間になった。お昼は運動場で各自自由に食べていいことになっている。仲のいい友達と4人でお弁当を食べて、まだ午後の一番の競技まで時間があったので、私は澄くんに会いに行くことにした。3−Dの場所は事前にリサーチ済みだ。

「澄くん!」
「あれ、どうしたの?」
澄くんを見つけて思わず声をかける。澄くんの周りには2人の女の先輩がいて、ハチマキの色からして澄くんと同じクラスの先輩たちだとわかる。1人が、澄くんの腕に触っているのが見えて、もやっとする。私の彼氏なのに。
「澄くんに会いに来たの」
「そっか。さっき100m走で転んでなかった?大丈夫?」
澄くんはけらけら笑って話しかけてくる。女の人に触られていても何とも思っていなさそうだ。
「え、見てたの!?ちょっと擦りむいただけだから大丈夫!」
かっこ悪い所を見られていたと知って恥ずかしくなって顔をうつむける。まさか見られていたとは。
「ちゃんと消毒してもらった?」
「うん、ありがとう」
頭をポンと撫でられる。昔から澄くんが私に良くする癖みたいなもの。すごく好きだけど、時々不満に思うこともある。いつまでも妹扱いされている気がして。もっと恋人らしいことしてほしい。なんて。
「犬飼、この子誰?」
「一年?」
先輩2人が澄くんに聞く。楽しく澄くんと話していたところに水を差されて面白くなかったのだろうか。こちらをみる目が少しきつい気がする。
「幼馴染なんだよ」
「彼女です!」
澄くんが説明した横でかぶせるように付け加える。私が、澄くんの彼女なんだよ。だからその手と目をやめて。ぎゅっとズボンを手で握りしめる。私はずっと前から澄くんが好きだったんだから。取ろうとしないで。
「犬飼今度はこの子が彼女?」
「年下に手を出したのか〜」
女の先輩達は澄くんにまた触れた。肩をたたく。肘で体をつく。それをなんで澄くんは許すんだろうか。私という彼女がいて。もやもやした気分でいると、澄くんがすっと私の前に立った。
「あんまりいうのやめてね。いこっか」
澄くんが私の手を引いて歩き出す。どこに行くのかはわからないけど、私はそのままついていく。澄くんの後ろ姿をみて少しうれしくなった。あの先輩たちより私を選んでくれた。それが自分の自信になる。

「澄くん、どこ行くの?」
澄くんたち黄団の集団を抜けて、私がいる白団の場所も通り過ぎた。
「ん〜ちょっと激励にね」
振り向かずに手を繋いだままそう答えてくれたけど、まだまだ歩くのをやめない。そうして連れてきてくれた場所は紫団の場所だった。私には特に知り合いがいないので、戸惑うが、澄くんは迷うことなく歩いていく。そして、社交性が高い澄くんだ。たくさんの先輩たちから声を掛けられていた。主に女の先輩なのがやきもちを焼きたくなるけど、やっぱりモテるんだよなぁ。
「荒船〜きたよ〜」
「ん?」
「わぁ!」
澄くんは荒船先輩に会おうとしていたらしい。午後一番の競技は各団対抗の応援合戦で、それの準備を荒船先輩がしていたようだ。ハチマキがすごく似合っているし、衣装として学ランを着るみたいで、暑い中さらっと着こなしている。
「犬飼なんで来たんだよ」
「え〜荒船が副団長って聞いたから。一高の奴らに写真でも送ってやろうかと」
「やめろ」
そういいながらも、澄くんがスマホで写真を撮るのを荒船先輩は止めはしなかった。けらけら笑いながら澄くんは荒船先輩の写真を撮ってこっちに戻ってくる。
「澄くん、荒船先輩すごい似合うね!かっこいい!」
澄くんの体操服の裾をひっぱって私は伝える。こんなにかっこいいなんて。隣に澄くんがいるのもお構いなしに私は興奮して何度もかっこいいと言ってしまう。だって本当にかっこいいんだもん。紫団の副団長を荒船先輩がやるとは聞いていたけど、こんなにかっこいいだなんて。流石正統派イケメン。こんなかっこいい姿を見てしまったらきっとファンが増えるだろう。今でも私のクラスで時々荒船先輩がかっこいいと言っている子を見かけるのに。何人の女の子の心を打ち抜いてしまうんだろう。マスター級は伊達じゃない。あ、澄くんもマスター級だった。
「そーだね、かっこいいねー」
澄くんも同意してくれたけど、私と温度差がかなりあった気がする。けど、本当にかっこいい!澄くんも応援団やったらよかったのに。なんて少し思った。うちの高校はブレザーだけど、学ランを着ているところも見たかったなぁ。
「おうかっこいいだろ」
「ハイ!」
「荒船ウザー」
私に気づいた荒船先輩がにやっと笑って答えてくれた。その笑顔も素敵で。うううかっこいい。今日から私もファンクラブに入ろうかな。あるかはわからないけど。
「荒船先輩、写真一緒に撮ってください!」
つい言ってしまった。だってこんな荒船先輩見れるの今日の今だけだと思ったら我慢できなかった。みんなに自慢したい!
「え?マジで言ってる?」
それに反応したのは何故か澄くんだった。
「うん、だって荒船先輩かっこいいんだもん」
「お前の彼氏は俺でしょ?」
「それとこれとは別だよ」
にっこり笑って答える。澄くんごめん。私も女子だからイケメンには弱いんだ。彼氏とは別なの。けど、ちょっぴりやきもち妬いてくれたのかもしれないと思ってうれしくなる。
「あああもう!あとでおれのハチマキあげるからそれで我慢して!」
「え?いいの?私のと交換してくれる?」
思わぬ澄くんからの提案に喜ぶ。だってハチマキの交換だなんて、恋人同士がよくやることで私もあこがれていたからだ。澄くん言っても嫌がりそうで、してもらえるとは思っていなかった。ハチマキを交換してもらえるなら荒船先輩とのツーショットも諦めれる。
「おい、仲良くしろよ〜」
「荒船うるさい!ほら行くよ」
今度は澄くんに恋人つなぎで手を握られて、元来た道を行く。荒船先輩のおかげで澄くんと恋人らしいこと沢山出来た。荒船先輩、やっぱりファンクラブ入ります。内心そう思いながら。笑顔で澄くんと歩くのだった。

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