夏休みの予定
校舎の屋上でビリビリと紙を破く。
これは今ここで
証拠隠滅を図るべきものだ。
誰かに知られたらとんでもないことになる。
冷静に頭の中では考えながらも手はやや震えていた。だってこれは⋯
「なんやこれ、お前ひどすぎん?27点って赤」
「ぎゃー!見ないで!」
風に吹かれて舞う紙の一つを掴んで見ている水上が
いた。
何故びりびりに破いた複数の紙の中で点数が書いてある紙を引き当てるのか。
一番見られてはいけない人に見られてしまった。
そう、私はこの間の期末考査の数学のテストでとんでもない点数を叩き出してしまったのだ。
「夏休みの補習参加決定やな、ドンマイ」
「⋯⋯⋯」
うちの学校では40点以下は全員もれなく夏休みの特別授業に参加しなくてはいけない。
「ま、きっとうちの奴らも何人か参加するやろ」
うちの奴ら、そう言われていつもの顔馴染みの補習
メンバーを頭に浮かべる。
当真と影浦と国近ちゃん⋯
「はぁ⋯」
今ちゃんの努力は水の泡となったか。
柵に身を預けてため息をつく。
「なんでそんな凹んでるん?」
「折角七夕の時にお願いしたのに」
ぽつりとつぶやく。
やっぱり神頼みはだめだったか。
「お前のお願い今年も「巨乳になりますように」ちゃうん?」
水上のまさかの言葉に身を起こす。
「なんでそれを知ってるの?!」
たしかに去年はそのお願いをした。
誰にもバレないように、ショッピングモールに飾られてる笹の、目につかないようなところに飾ったはずなのに。
水上恐るべし。
「だいたいお前の考えとることはわかるわ」
こつんと頭を小突かれた。
不思議と痛くない。
今年は「夏休みの補修を受けなくていいようになりますように」というお願い事をした。
だって
「水上と、夏祭りも行きたいし、海も行きたいし、山いろんなところ行きたかった」
「そんなには無理やな。俺やってシフトアホほど入っとるし」
水上は夏休みといえどボーダー関係の任務で沢山予
定が埋まっている。
だから、せめて水上の予定がない日は会えるように、私は予定をすべて空けときたかった。
私が補修になれば、二人の予定が合う日はかなり
少なくなるだろう。
「結構頑張ったのになぁ」
「せやな、毎日遅くまで図書館で頑張っとったみたいやな」
どうしてそれを知ってるんだろう。
一人で図書館で勉強して、わからないところがあったら職員室で先生に教えてもらっての繰り返しをテスト前一ヶ月してたことを。
「お前のことはだいたいわかるわ、つかなんで俺を頼らへんねん」
「え?」
水上の横顔を見る。
「お前の苦手な数学、俺の得意科目やん」
確かに、確かに。
そういえばそうだ。
いつもほぼ満点だった気がする。
けど、まさか水上が私に時間を割いてくれるとは思っていなかったのだ。
そういうタイプではないだろう。
「俺と一緒にいるために頑張るんやったらそこも一緒におったらいいやろ」
意外と優しい言葉に感動する。
いつも馬鹿にされてばっかりなのに。
「ま、今回は補修がんばれや。冬の期末は面倒見たる」
頭をポンとされて水上は屋上を後にする。
冬の期末ということは、冬も一緒にいてくれるということだ。
その事実に気が付いて私はにやけた。
先の約束はこんなにもうれしい。