02


他愛ないことを話していると、どうやら目的に着いたようだ。近くの駐車場に車を停め、そびえ立つ門の前に2人で立つ。………想像以上に立派な建物だ。

「こんな大きいの初めて見た……」
「さすがですね」

門の前にいた警備員さんに招待状を見せる。「代わりの安室です」 どうやら毛利さんの代わりにわたしたちが来ることは事前に伝えられていたようで、スムーズに入場できた。
安室さんの少し後ろを遅れないように着いていく。
門が開いたところでもう一度そびえ立つ豪邸を見上げた。すごい、お家もその前の庭もとても綺麗だ。

「見事なシンメトリーですね。伺っていた通りだ」
「え? ……うわぁ、ホントだ!」

どうやら森谷教授の特徴は見事なシンメトリーらしい。そのこだわりはとても強いらしい。安室さんに教えてもらい、改めて辺りを見る。…すごい!植木の位置まで、全部が左右対称だ!

「ようこそいらっしゃいました。私、森谷帝二と申します」

朗らかな笑顔でわたしたちに話しかけてきた。背の高い、髭が特徴の男性。どうやらこの方が森谷教授らしい。

「初めまして。安室透です。毛利先生は予定があったため僕が…。申し訳ございません」
「あぁ、あなたが毛利さんの一番弟子という安室さんですか。いえいえ、そんな滅相もない。来ていただきありがとうございます」

「そちらの女性は?」と聞かれて、背筋がピンと伸びる。「僕の恋人です」 安室さんの言葉に、しどろもどろになりながら答える。

「苗字名前と申します!えっと、お誘い、ありがとうございます…!」

やばい、ガチガチだ。深くお辞儀をすると、呆れたように笑う安室さんの様子が横から見えた。

「恋人ですか。いいですね。今日は楽しんでいってくださいね」

……いい人だ!優しく笑う森谷さんに「パーティー会場はあちらの中庭に」と案内される。高いヒールでなるべく遅れないように歩こうとすると、安室さんが「全く」と手を差し伸べてくれる。その手を取って、わたしたちは屋敷内に足を踏み入れた。





「……すごい!人も多いね」
「えぇ。音楽家にモデル、大企業の社長に評論家………芸能人もいますね。さすが有名建築士のガーデンパーティーですね」

案内された中庭も、それはそれは立派だった。テーブルの上には美味しそうな軽食やデザートが並んでいる。周りにいる人も、何だかとても格式が高い。

「名前?」

急に自分の今の格好がみすぼらしくなってしまう。安室さんの隣に相応しい女性になりたいのに、今着てる服は安いレンタル品だ。思わず俯いてしまう。
……すると左手に温かい温もりが広がった。思わず前を見る。安室さんがわたしの手を取り、優しく微笑んでいた。「大丈夫、綺麗ですよ」 そう言ってくれる彼に「本当?」と聞く。

「もちろんです」

力強く言い切られたその言葉に、わたしは肩の力が抜けるのが分かった。ありがとうと伝える。
安室さんは……正直嘘ばかりつく人だけれど、長い付き合いだ、この言葉が嘘ではないことは分かる。だからこそ、嬉しかった。

「仲がよろしいんですね」
「あっ!す、すいません!」

横にいた森谷教授を完璧に忘れていた。慌てて彼の手を払うと少しムッとしたのが分かった。半分零くんの顔になってしまっている。ごめんなさい、安室さん。

「大丈夫ですよ。では、午後のひと時をゆっくりお過ごしください」

気を取り直してわたしは森谷教授の手作りというクッキーを1つ食べた。………おいしい!まるでほっぺが落ちそうだ。
美食家なのかな? これだけの技術があるとは……。

「あら先生、料理なさるんですか?」

近くにいた女性が森谷教授に尋ねる。周りにいた人も、教授に注目している。

「こう見えても独身ですからな。ここに出ているものすべて、スコーンもサンドイッチもクッキーもみんな私の手作りです。何でも自分でやらないと気が済まないたちなんですよ」森谷教授がそう答える。美食家っていうのはちょっと違うのかもしれない。どちらかというと強めの拘りがあるっぽそう。でもなるほどなぁ。

「その精神がいくつもの美しい建築を生み出すんですね」
「私は美しくなければ建築とは認めません」*

わたしが思ったこととほぼ同じことを周りの参加者が言ってくれた。それをピシャリと遮る教授。ん?突然語気を強める森谷教授にわたしは目をぱちくりさせる。

「今の若い建築家の多くは美意識が欠けています。もっと自分の作品に責任を持たなければいけないのです!」

拳を握りそう言った教授。志が高い方なんだなぁとわたしが関心していると、安室さんが 「頑固ともとれるね」 と耳元でコソッと言ってきた。おどけた言い方に、ちょっと笑ってしまいそうになる。うんうん、確かに。

「ところで安室くん」

不意に教授が体をこちらに向ける。どうやら視線の先には安室さんがいるようだ。…今の会話、聞こえてたりしないよね?

「クイズを一つ出してもいいですか?」
「クイズ?」

キョトンとしてる安室さん。よかった、どうやらさっきまでのは関係ないっぽそう。安堵のため息をつくわたしの横で森谷教授は薄く笑みを浮かべ安室さんを見据えた。

「はい。三人の男が経営する会社のパソコンのキーワードを推理するもので…毛利さんのお弟子である安室さんならすぐにおわかりになると思うのですが」

「毛利ってあの有名な?」 「弟子なのかー」 と周りがざわざわし始める。少し挑発的な表情をする森谷教授に、安室さんは 「ははは……」 と頬を掻きながら苦笑いをする。「力が及ぶか分からないですか、いいでしょう」

「それでは、これが3人のデータです。パスワードは3人に共通することで、ひらがな5文字。制限時間は3分。さ、皆さんもご一緒にお考えください」

ポケットから1枚のメモ用紙を安室さんに渡す。わたしも横から一緒に見る。安室さんが、わたしも見やすいように少し紙を下げてくれた。


小山田 力(A型)
昭和31年10月生まれ
趣味 温泉巡り

空飛 佐助(B型)
昭和32年6月生まれ
趣味 ハンググライダー

此掘 二(O型)
昭和33年1月生まれ
趣味 散歩


「制限時間は3分間。それではスタートです!」



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