03
紙に書かれた3人の情報に、わたしは首を傾げる。共通点もなさそう。……全然分からない。
斜め上の安室さんを伺うと、彼は顎に手を添えて熟考している様子だった。…安室さんでも、分からなかったりするのかな? 周りの方もわたしと同じように次々とリタイアをしていく。周りの安室さんへの期待が高まっていくのが分かった。
「分かる?」
「ん、あぁ、何となくはね」
何気なくわたしが聞くと平然と返されるから驚いた。……意外とあっさりと分かったのかもしれない。あんな短い時間で、分かるものなのだろうか。
不意に甘い匂いがして振り向くと、森谷教授がパイプに火をつけて吸っていた。おしゃれだなぁ。
「分かりましたよ、「ももたろう」ですね」
そんな森谷教授に安室さんは少し得意げな表情で答えを言った。
ももたろう?不思議に思うと、安室さんが詳しく解説をしてくれた。どうやら3人の生まれ年が連続していて、その干支が、申年、酉年、戌年であるらしい。つまり、ももたろうの家来たち。だから答えはそれから関係してももたろう。なるほど!
「正解です。さすがですね!」
森谷教授や周りの人、全員がパチパチと拍手をする。さすが安室さんだ、かっこいい!わたしも拍手を送る。
「ご褒美と言ってはなんですが、私のギャラリーにご招待しましょう!」
すごい!特別招待だ!
森谷教授に笑顔で「ありがとうございます」と伝える安室さん。
有名な建築家のギャラリー、しかも自宅の中のそれなんて中々お目にかかれないだろう。
しかし予想に反して安室さんは
困ったように「うーん」と言う。その瞳がチラリとわたしを捉えた。ん?わたし?…あぁそっか!
「わたしは気にしないで、見に行ってくればいいよ!せっかくだもん」
「え、いや……」
なぜか渋る安室さんにもう一度「いいよいいよ!」と伝えようとすると、森谷教授が「苗字さんもぜひ」と誘ってくれた。それはとても有難いけれど。何でそんなに渋ったのかな?
「初めての場所にあなた一人置いていくのは心許なくて………」
「すぐフラフラどっか行くだろう?」 むむむ。その言葉は少し聞き捨てならない!
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「さぁ、ご自由にご覧下さい!」
案内された部屋に飾ってある写真は、徹底されたシンメトリーのものばかり。綺麗だなぁ。単純にそう思う。安室さんをふと見ると、ある一枚の写真の前で何やら考え事をしているみたいだった。
「このお家がどうしたの?」
「ん? ……あぁ、ここの家主がね」
「そういえば黒川さん、殺されたんですねぇ…」
安室さんとほぼ同時に森谷教授がそう言う。……殺された?! 「えぇ」と安室さんが答える。どうやらその家の家政婦さんが犯人のようですぐに解決したみたいだ。……こんなに綺麗でも、曰く付きの物件になってしまうのかな。
「こちらは私が独立して間もない作品でしてね?この先のものはみんな30代の頃のものですよ!若い頃はまだ未熟でねぇ…。あまり見ないでくれ」
照れくさそうに笑う森谷教授。そうなんだ、駆け出しの頃の作品も、綺麗だと思うけどなぁ。素人目では。
「橋も設計されてるんですね」 安室さんがそう言うのでわたしも彼の横に並ぶ。すごい、家だけじゃないんだ。
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安室さんがお手洗いに席を外す。森谷教授と二人きりになったところで、「ところで」と切り出された。
「苗字さんは安室さんの恋人でしたよね?」
「そうです。長年の付き合いで……」
「ほう。いいですねぇ」
「探偵なので、忙しい方なんですけれどね。でも今度、……三日後の火曜日、一緒にレイトショーに行くことになってるんです!」
今日出来たばかりの予定を思い出し顔を綻ばせる。わたしの言葉に「おや」と森谷教授。
「レイトショーなんですか?」
「はい、ちょっと日付が変わってからが重要なので……お昼にプレゼントも買おうかなって」
誤魔化すようにしどろもどろに言うと、「プレゼントはどうされるんですか?」と聞かれる。まだ何にも決めてないんだよなぁ……これが。森谷教授にそう言い、「でも」と続ける。
「今月の彼のラッキーナンバーが青色なんです。だから、何か青色のものでもどうかなぁって」
「それは素敵なプレゼントですね。きっと安室さんも喜んでくれるでしょう」
森谷教授が朗らかに笑う。いい人だなぁ、本当に。わたしはもう一度壁に飾られた絵を見て「あ!」と言う。
「これ、米花シティビルですよね?」
「えぇ」
「わたしたち、ここの映画館に行くんです!レイトショーが始まる前にロビーで集まって!」
映画に行くことが決まったあと、行き先も二人で決めていた。まさか、森谷教授の建築された所だったとは!偶然ってすごいなぁ。
「そうですか!ここは私の自信作でしてね、若いカップルの特別な日を迎えるにはこれ以上の場所はありませんよ!」
そう言った森谷教授に苦笑する。わたしも成人はしているし、……安室さんなんて、もう三十路前だけどね。
「名前、お待たせしました」
「安室さん!」
ちょうど戻ってきた安室さん。わたしは「見て見て!」と彼を引っ張る。
「今度行く映画の!森谷教授が設計されたんだって!」
「あぁ、米花シティビルですか」
「すごい偶然だよね!」
わたしの言葉に「そうですね」と彼は笑う。森谷教授も「いいところですよ」と言ってくれた。
「安室さん、時間なんだけれど、夜の11時に待ち合わせでも大丈夫?」
「はい大丈夫ですよ。……次も洋服、楽しみにしていますからね」
突然耳元でこっそり伝えられ、ゾクゾクと背筋が震える。堪えたように笑う安室さんを少し睨む。……もう!絶対確信犯だ!
「……って、あれ。もしかしてドレスコードのほうがいい?」
「どうでしょうね?」
ニコリと笑う安室さん。米花シティホテル………。考えてみたらそれなりに格式が高い場所だ。お金、ない……。しょんぼりしていると、安室さんは堪えきれないようにはははと笑った。「畏まる必要はないでしょう」
「名前の好きな服装でいいよ。ただ僕が可愛いの着てくれたら嬉しいなぁって思っただけだから」
……優しく目を細めた安室さんにドキッとする。だけどしばらくして気がつく。
これ、ハードル挙げられたなぁ……。
「善処します……」
くそう。
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