11


「何だ?! 今のは!」
「どこかで爆発があったようです!」

現場は混乱を極めていた。クソ、これも犯人によるものなのか! ここに来てこの爆弾……もしかしたら犯人は、僕たちをまとめて葬ろうとしているのかもしれない。「宍戸さんを守れ!」目暮警部の言葉に白鳥刑事が彼の近くに寄る。揺れが収まり、電気が復活する。安心できたのは、本当に一瞬だけだった。

―――ドォォン

「こ、これは?!」
「何だ?!」

今度は僕たちのすぐ目の前――レストラン内の水槽が爆発した。水槽や壁が次々と壊れ、一斉に海水が流れ込む。その速く急な流れに、僕たちはあっという間に呑み込まれていった。

「……おいみんな! 大丈夫か!」

しばらく波に呑まれていたが、何とか自力で水から顔を出す。カナヅチだという仁科さんや、まだ傷が塞ぎきっていない目暮警部をそれぞれ毛利先生や白鳥刑事が介抱する。体の小さなコナンくんも、蘭さんが支えていた。

(名前はどこだ……?!)

しかし、水面に浮かぶ人の中、ただ一人、…名前だけが見当たらなかった。まさか、まだ海水の中にいるのか……?! 「安室さん!名前さんは!?」コナンくんの怒号が聞こえてきたが、それに答える暇もない。近くに浮いていたペットボトルに咄嗟に空気を入れて、水が入らないように指で入口を押さえる。それを片手に、もう一度海水の中を潜った。

(どこだ……いた!)

水中に潜り辺りを探すと、すぐに何か人影らしきものが揺らめいているのが見えた。目を凝らすとそれは名前で、どうやら展示されていたフェラーリに足が挟まり抜け出せない様子だった。必死で身を動かそうとしているが、もちろんそれは動く様子がない。すぐに息が持たなくなったようで、ガバリと水を肺に入れてしまう。そのまま意識を失ったように海水の中で揺らめいた。まずい………! 急いで彼女の元に泳ぎ、彼女の後頭部を支えながら先ほど拾ったペットボトルの口を、名前の口元に持っていく。空気を送り込んだことで、名前はもう一度目を開けた。

――零くん。

彼女の口が、驚いたようにゆっくりそう動く。もう大丈夫だ、そう言うように俺も微笑みながらゆっくりと頷いた。もう少し頑張ってくれ。車体に手をかけて持ち上げようとするが、さすがに重くて持ち上がらない。何とか持ち上げようともう1回試みようとした時、自分の体の異変に気がつく。

(零くん………?!)
(クソ、足が!)

運が悪いことに俺の左足がタイヤとボディーの間に引っかかってしまう。焦って抜こうとするが、なかなか抜けずに時間だけが経っていく。いくら他の奴よりは潜水に関しての知識がある俺でも、時間が経つと体を駆け巡る空気はなくなっていく。クソ、こんな時に………! 目の前で驚いたように目を丸くする名前を見ながら意識はドンドンと薄れていく。クソ、名前…………。

……零くん。
…………お願い、生きて…。

ふわふわと意識が舞っていたのはほんの一瞬だった。ふと意識を取り戻し、目を開ける。完全になくなったと思っていた空気が、俺の体の中に再び巡っていたのだ。その理由はすぐに分かった。頬に感じる手の感触。小さくて頼りないそれは、目の前――本当に目の前にいる、名前のものだ。そして、唇に感じる感触に、彼女がしたことを察した。

(……名前、)

思考回路が戻って、彼女を驚いたように見た。そのまま唇を静かに離した名前が、一瞬微笑むように俺に笑いかける。その唇が、静かに動く。

(――っ!)

その内容が分かったとき、すでに名前はもう一度意識を手放していた。皮肉にもそうして再び動けるようになった俺は、もう一度力を込めて挟まった足を抜く。次はすぐに抜け、そのままもう一度ボディーの下に手をかけた。ふざけんな、バカ女。俺より弱くて、俺より力もないのに、なんてことを言うんだ。

「やっと零くんを守れた」

バカ野郎。俺を守るって言うなら、その前に自分を守れ。俺が唯一この世で失うのが怖いと思った存在なんだから。無鉄砲、後先考えないバカ女、言いたいことは山ほどある。だけどそれは、名前を連れて海水から脱出した後に取っておく。絶対助けるから。俺が、降谷零が、必ず助けるから。ぐっとありったけの力を両手に込めた。水の浮力も働き、何とかフェラーリが少しだけ浮く。その隙間からふわりと浮き、流されそうになる名前をしっかりと抱きかかえ、俺は再び水面に向かって泳ぎだした。

「ゴホッ、…名前! おい! しっかりしろ!」
「名前さん!」

すぐにコナンくんと蘭さんが、心配そうに駆け寄ってくる。腕の中の名前は、何度か激しく咳き込むとゆっくりと目を開けた。

「………あ、むろ、さん」
「……よかった」

ぼんやりと意識は定まってなさそうだったが、俺の顔を見てそうしっかりと答えた。体の疲弊は大きそうだが、とりあえずは平気だろう。ようやく一息をつき、安心したように眉毛を下げる。「心配させやがって」そう言うと、たどたどしい口調で「ありがとう」と呟いた。ありがとうだなんて、そんなの、俺の台詞だ。

「うぅ……」
「警部、どうしたんですか?!」
「どうやら傷口が開いてしまったようだ……」

目暮警部が苦しそうに呻いた。昨日の朝塗ったばかりの傷は、そう簡単には塞がらない。

「あれを見てください!」

突然叫んだ沢木さんの言葉通り、そちらを見る。そこには5枚のカードが浮いていた。六から二まで全ての数字が書かれた、スペードのトランプ。
ここで皆殺しにするということか…!
腕の中で疲れ切ったように目を閉じる名前を抱き締める手に、ギュッと力を込める。そんなこと、僕が……俺が、させやしない。



戻る