あの後、2人は本当に勝負を挑んだらしい。他の新入生と土曜日に試合をする事になったと律儀に縁下が教えてくれた。問題児ペアには龍が入り、もう一方は主将が入るそうだ。
「……龍で大丈夫なの?」
「問題児を牛耳れるのは田中くらいだろ」
「確かにそうかも」
「あのさ、」
「ゴメン!ちょっと、飲み物買ってくる」
「…あ、ハイ。いってらっしゃい」
空になったペットボトルを捨て、外にある自販機に向かうとパスをしているようなボールの音が聞こえたきた。そっと、覗いて見る。すると、あの子が誰かと練習している。
「なぁ、日向。明日の朝から俺がトス上げたろーか?」
「ほ、ほんとにですかっ!?」
「俺これでも烏野の正セッターだぞ!スパイクの練習したいんだろ?」
「あっ、ハイ!おれ、スパイク大好きで!決まると気持ちいいし、何よりカッコイイ!」
ずっと一人で、友達やママさんにトスを上げてもらっていたらしい。高校で、楽しみだったのだろう。どんなセッターがいるのだろうって。
「…いや、でも、ここで菅原さんに上げてもらったら…なんか、負けた気がするっていうか…」
「ねえ。どうしてそんなに影山飛雄に張り合ってるの?」
「え?!春川さん?!」
「影山を倒せるくらい、強くなりたいんです。そうすれば、きっと色んな相手とも互角に戦えるし試合で簡単に負けたりしないと思う。おれ、もう負けたくないです!」
「じゃあ、君にとって影山飛雄は同年代で"最強"ってことだ」
「エ"ッ、いっ…んん〜っ」
どうしても『ハイ』って言いたくないらしく、ボールを持ちながら唸っている。その姿はとても高校生には見えなくて、幼い子どものようだ。
「 " 最強の敵 " だったならさ、」
「?」
「今度は " 最強の味方 " じゃん!」
「ん"〜〜ッ」
「あははっ!どうしても認めたくないの?」
「うぅ〜〜…」
「面白いのね、君。レシーブ練習してたんでしょ?教えてあげる」
「え!?」
「私ね、レシーブ得意なの」
「…もしかして春川さん、経験者だったり?」
「中学の時に」
「おお!良かったなー、日向!レシーブやるべ!」
「しゃス!」
少しコツを教えただけなのに、数分前までは上げられなかったボールが返ってくる。この運動センスの良さに加え、反応の速さ。これからの飛雄とのコンビネーションが本当に楽しみだ。
それから、昼休みは日向くんの練習に付き合うようにした。初歩的な事だけど、とても大切な基礎をしっかりと教え込む。飛雄の成長にも繋がる筈だと信じて。
そして、木曜日の朝。昼休みの練習の効果が出ているのか、影山達との朝練で今までは続かなかった対人パスが長い間続いていた。
「え、コレどのくらいやってんスか」
「俺が来てからは15分経ってる」
「連続スか?」
「うん」
「ゲッ」
「もうそのくらいで」
「まだボールッ、落としてない!!」
日向のその言葉に影山は思い切り後ろにボールを放つが、彼は壁にぶつかりながらも必死に上げたのだ。そして、上がったボールは影山の下に返る。
「えっ」
「ト、トス?!」
「影山がトスを上げた…!?」
フラフラでスパイクを打つ気力すら残っていない日向にフワッとしたトスが上がる。日向は立ち上がると、上げられたトスを見て笑みを浮かべスパイクを打ったのだった。