ナリタ連山

「ロイドさん!」
「いやはや、どうしちゃったんだろうねスザク君は」

 ランスロットの暴走。ナリタ連山での作戦進行中の出来事だ。日本解放戦線を追い詰めていた矢先に黒の騎士団からの妨害にあっていた時だった。確実に黒の騎士団から何かされたと見て良い。

「結構被害が大きくなりそうだねぇ」
「周りの被害ですか? ランスロットの被害ですか?」
「勿論ランスロットのに決ま」
「ロイドさん?」
「どちらもデス」

 セシルさんの言う通りこの状況が続けば大変危険だ。約一時間エナジーフィラーが尽きるのを待つのは現実的ではない。……迷ってる暇は無さそうだ。

「どうしたのサラちゃん?」

 セシルさんの肩をつついてこちらに意識を向けさせる。そのまま自分の事を指差した。

「許可できないよサラ」

 私の言いたい事を理解したロイドが真剣な目付きでこちらを見据えた。

『私が直接ランスロットを止めに行く』

 その私の意志を一瞬で読み取ってロイドはそれを突っぱねたのだ。

「サラが行かずとも正式な訓練を受けた者がどうにかする、それまで待つんだ」

 でも、と私は思ってしまう。その思いを簡潔に文字にして端末の画面を見せた。

『ランスロットは特派の研究成果物 他の者に手を加えられるのは気に入らない』
「……キミも大概研究員気質になったよね」

 ロイドは、はぁ、と溜め息をついて端末に映し出されている文字をセシルさんにも見せる。それを読んだセシルさんは目を丸くしてこちらを見つめる。

「サラの場合下手に防護スーツを着るより身軽でいた方が良いだろう……怪我はしない事、良いね?」

 セシルさんが何か言おうとする所を遮ってロイドがそう言う。その言葉に大きく頭を縦に振った。さて、一時間後に私は生きているかな。


 ◆ ◆ ◆


 今私はスザク君の物とデザインが酷似しているスーツに身を包み、とあるナイトメアの肩の辺りに乗って運んでもらっている。そのパイロットがコーネリア皇女殿下の騎士であるギルフォード卿だったりするのはかなりおっかなびっくりだが。

「本気で生身で行くつもりか?」

 ギルフォード卿が眉をひそめて半信半疑で尋ねる様がありありと頭に浮かぶ。コクリと頷いて前方を見据えた。ランスロットが暴走している場所が見える所までやってきたのだ。

 予定ではギルフォード卿にギリギリまで近寄れる所に連れていってもらいそのまま私がランスロットに跳び移ると言う事になっている。その後緊急用のシャットダウンスイッチを押して一時的に動きを止め、スザク君がいるコックピットに入る。あとは私がディヴァイサーとなり、特派の所までそのまま移動。
 説明するのは簡単だがかなりの身体能力とナイトメアに対する専門的知識が必要だ。特にシャットダウンスイッチは10秒間長押ししなければならないしスイッチの場所も正しい手順でないと開けられないから特派の者でないと使えない。まあ使わない事を前提に設置しているのだけれど。

『サラちゃん、聞こえる?』

 無線から聞こえるのはセシルさんの声。マイクを一度指で叩く事でそれに答えた。

『良い? 身の危険を感じたらすぐ撤退すること』

 一度叩く。

『絶対に怪我しないこと』

 少し間を空けて一度叩く。

『……まあ良いわ。こちらでもできうる限りランスロットを止めようとはするけど期待しないで。遠隔操作は極力受け付けないようにしてるから』

 一度叩く。

『無事に帰ってくるのよ』

 一度叩く。その瞬間私はギルフォード卿のナイトメアから飛び退いた。ランスロットがこちらに向かって、偶然ではあるが攻撃をしたからだ。

「(まずはランスロットに取り付いてから)」

 左腕に装着してある機械を操作し、ワイヤーを飛ばす。取っ掛かりに引っ掛けて固定すれば外れる事はもう無い。ランスロットが何か行動を起こす前にワイヤーを一気に巻き上げる。
 足が浮かび上がるくらいに巻き上がった時、急にランスロットが方向転換をした。

「っ!」

 多分、脱臼。左肩を中心に激痛が走った。ロイドとセシルさん、怒るかなぁ……。
 痛みの中、なんとかスイッチがある所まで辿り着いた。振り落とされないようしがみつきながら手を伸ばす。



















……1



キウゥン

 シャットダウンは完了した。しかしこれは一時的なもの。ぐずぐずはしていられない。手動でハッチを開いて中へ滑り込むように入った。
 一言で言えば酷い状態だった。スザク君が完全に錯乱している。体中が震えて息も荒い。叫びだしてもおかしくない。
 何もしない訳にはいかず、取り敢えず右手で彼の目を覆った。一瞬肩が大きく震えたが、それ以外の反応は無い。
 暫くそのままの姿勢で待っていると大分落ち着いて、震えながらも深呼吸ができる所まで回復した。ちょうどその時、ランスロットが再起動した。目を覆っていた右手を離して、スザク君にジェスチャーで座席から退くよう指示し再起動時の点検を始めた。いつもより手際が悪いのは見逃して欲しい。

『サラ、状況は想定内かい?』

 ロイドの声。ちょっと迷った後、一度だけマイクを叩いた。

『戻って来れそうかい?』

 即座に一度叩く。

『じゃあ帰ってきなさい』

 一度叩く。後ろにいるスザク君をチラリと見やれば、下を向いていて何を考えているか分からなかった。そのままランスロットを動かして帰路についた。


 ◆ ◆ ◆


 帰ってきたと同時に有無を言わさずどこかに連れて行かれる。言わずもがなロイドに。

「怪我はするなって、言ったよね?」

 ああ、やっぱり怒られた。

「スザク君が使えなくなったらもうディヴァイサー候補はキミしかいないんだよ? サラを正式なデヴァイサーにするつもりないけど」

 分かってるよ、ロイド。

「まったくもう、死んでなおウィル博士のつめたぁい目で睨まれる気分はごめんだよ……あんまりボクを心配させるんじゃない」

 ロイドが本当に心配してるって、解ってる。だから、心配かけてごめんなさい。


 ◆ ◆ ◆


「ただの脱臼ですね。これならすぐに治りますよ」

 医療班の言葉にホッとした。脱臼した後も何かと動かしていたので心配していたのだ。

「じゃあ骨の位置戻すんで力抜いて下さい」

 痛いんだろうな。これくらいで済んだのなら良い方だとは思うが。そう思っていたら後ろから扉の開く音がした。

「これはこれは、ギルフォード卿じゃあないですか」

 ロイドの声に驚いて振り向こうとした。それを知ってか知らずか、左肩に手を添えていた医療班の人が一気に力を込める。

「っ!!」

 油断していた所に痛みが来たため、思わず背筋が伸びた。てか、無茶苦茶痛い……!

「はい、では一週間ギブスは取らないで下さい。来週検査して完治していたらまた元のようにして構いません」

 しれっと言ってのけられた。なんだかしてやられた気がしてならない。

「それで、ギルフォード卿は如何されましたか?どこかお怪我でも?」

 てきぱきと私にギブスを付けながら騎士であるギルフォード卿に臆することなく聞く様は職業歴の長さを思わせた。

「いえ、用があるのは彼女です」

 す、と手のひらで指された。……なんでしょうか?

「あれほどの身体能力を持ちながら特派に所属というのに疑問を持ちましてね。少々質問を」

 質問というか、これはほぼ尋問ではないだろうか。納得できない返答であれば即軍事法廷というのも有り得る。特派の後ろ盾を考えれば大丈夫だとは思うが万が一という事も無きにしも非ず。

「どこであの身のこなしを?」

 ギルフォード卿の厳しい視線の中、ロイドが私の脱臼してない方の肩に手を置いた。

「私が一時的に軍の訓練を受けさせました」
「理由は?」
「ランスロット開発初期段階ではこの子をディヴァイサーにと思っていたので、体力作りと軍の統制を学ばせるために」
「枢木准尉は?」
「パーツは替えがあるに越したことはありませんからね」
「パーツ、ですか。噂通りの人ですね、ロイド・アスプルンド伯爵」
「ありがとうございまーす」

 見えない火花が散ってます。正直怖いです。チラリとロイドを見上げたら笑顔を返されて私にはどうしようもありません。

「単刀直入に言いましょう。貴女、コーネリア殿下の侍女になる気はありませんか?」

 ……え?
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